第24話 敗北
そうして、その階段を下り終えるとそこには一つの大部屋があった。
「……明らかに罠っぽいね」
「物も何もないし、もし罠じゃないとしたら何のために作った部屋なんだって感じだな」
その部屋には家具と呼べるようなものは一切なく、ただただ、だだっ広い部屋が広がっているだけだ。
「特段、術式とかは仕掛けられてなさそう。あるとしたら、機械的なトラップになるけど」
「祈にも分からないのか?」
「流石の私といえど、霊力を抑えた状態じゃ判断つかないなぁ。使って探知されるのが危険な気もするし」
「俺だけで入って確認するか?俺のほうが祈よりは身体能力は高いから偵察には向いてるだろ」
「確かに、それがベストかな。死なないように気を付けて」
「死にそうになったら助けてくれよ?」
「それは任せて~。先輩として、君のことはしっかり守るぜ」
「……」
若干不安を覚えるが、祈という少女はこういう場面でポンコツを発揮するタイプじゃない。おそらく、大丈夫だろう。そう信じて、俺は一人でその空間に入る。
「……特に何かが起きる様子はないと」
軽くあたりを歩き回ってみるが、特に何かが起こるということはなかった。本当に何もない部屋ということだろうか。
そんなことを考えながら、祈のもとへ戻る。
「特に何もないか~。なら一応の警戒をしながら進むってことでいい?」
俺の様子を見て、祈も何もないと判断したようでそんな提案を口にする。
「いいんじゃねえか?何かあったらその都度対応するってことで」
「それしかないよな~。じゃあ、進むかぁ」
そうして、俺たちは合流して、再度その部屋の中へ進んでいく。
その瞬間、通ってきた入り口にガタンと勢いよくシャッターが下りた。
「あ、まずい?」
「やっぱり、そうだよな……」
となると、全員が入るまで発動しない罠が設置されていた。もしくは……。
「この屋敷に何の用だ?こんなところまで来て」
目の前からそんな声が響く。その声のもとに目を向けると、一人の男が立っていた。祈の術が突破されてるじゃないかと言いたいが、想定よりも相手が上手だったということだろう。そして、この罠は俺たちの姿を見たうえで起動させたということだろう。
「道に迷いました……じゃ無理かぁ~」
祈はそんな言葉を口にするわけだが、そんな言い訳が通用するはずもなく、その男は片手をこちらへと向ける。
瞬間、俺は祈の前に出てそいつにより意識を向ける。そうして、男の手から現れ飛来する炎に向けてナイフを振るう。
「なるほど、核を切ったか。だが、ダメージはあるだろ?」
「あいにく、慣れさせられちまってな」
ナイフを持つ手を軽く振るいながら、俺はそう口にする。
その間に、祈は俺とその男から距離をとる。そうして、札を取り出し男のほうへ向けて投げつける。
「そんな術式で俺に届くと思うなよ?」
男は祈の飛ばした札に向けて軽く腕を一振りする。それだけで、札はただの紙切れに変わる。
「そんなあっさり……」
「……やばっ!」
瞬間、駆け出す男に反応して俺は、祈の前に再度移動して、男の繰り出す攻撃をはじく。
「なるほど、君は厄介だな」
まずいな。理由はわからないが、いつもより祈の調子が悪い。となると、俺がメインで戦闘を行う必要があるな。
「サポートは任せるぞ!」
俺は祈にそれだけ伝えて、その男に向かって拳を繰り出す。
「そこまでくると、スピード、パワーも脅威になるな」
「だったら、降参でもしてくれたらいいんだけどな?」
正直、勝てるビジョンは見えない。こんな会話をしている中でも、男は俺の繰り出す拳や蹴り、ナイフすべてをひらひらと回避しているのだ。スピードもパワーも俺のほうが上だが、その差を技術力で埋められている。加えて、ちょくちょく祈に向けて術を飛ばしているのでその対処にも追われてしまう。
「私への攻撃は大丈夫!君は攻撃に集中して!」
「分かった!」
祈からそう声が聞こえ、俺は意識を切り替え、その男の動きだけに集中する。
「いいのか?陰陽師としての腕ならあの少女よりも俺のほうが上だぞ?」
「はっ!どうだか?そう簡単にやられる奴じゃ」
言葉を口にしようとした瞬間、バチンと何かがはじけるような音がして意識が薄れていく。
「君も、俺の武器が術と肉弾戦だけだと思ってはいけなかったな」
男は片手にスタンガンを掲げながらそう口にする。そんな光景を最後に俺の意識は落ちるのだった。
side祈
失敗した。私のせいだ。自分でもいつも通りに動けていないことを自覚していた。
「どうした?あきらめたのか?」
「……なわけないでしょ?」
男の煽りに私は乗っかって、再度札を飛ばす。
が、その札は男の腕の一振りで効果を失う。圧倒的に格上。未来と肉弾戦をこなせていたことから、物理面でも私に勝機はない。
……距離をとって戦うしかないか。逃げようにも入り口はふさがれてしまった。未来の意識がまだあったら、シャッターを壊してもらうという選択肢もあったが、今それは使えない。そもそも、ふさがれていなかったとしても、未来を抱えて逃げ出すことを許してはくれないだろう。
男からさらに距離をとって、私は再度牽制に札を投げつける。そうして、戦いが始まった。
終始、一方的なものだった。私の繰り出す術はすべて無効化され、だんだんと距離を詰められる。遠距離でも私を仕留められただろうに、それをしないのはよほどこちらを舐めてかかっているということだろうが、それを利用できないほどには私たちの実力者は大きかった。
男は無傷なのに対し、私の体はボロボロ。あちこちから血が流れだし、意識も朦朧とする。
「そうなってまででも続けるか?」
「……」
当然、と返そうとするが口がうまく動かない。ああ……終わりかぁ。自業自得なんだけどね。
今更、そんなことを思う。
そうして、私の視界は完全に暗転する。




