第23話 書庫
「……誰にも気づかれないな」
「術かけたからねー。一般人にはまず見つからないよー」
人の間を駆け抜けつつ、俺たちはそんな会話を交わしていた。
「にしても、何かの屋敷か?ここ」
「みたいだね。あのシャンデリアとか高そー」
「陰陽師がいるようには見えないな」
「それに関しては何とも言えないなー。昔から、金持ちの家には専属の陰陽師がいる場合があるからねー」
「確かに、風水の指導とかしてるイメージだな」
「あったらしいね。今も政府についてるらしいし」
「奏者がつけてるのか?」
「……いや、違うと思うけど。私たちの組織に入ってる陰陽師って私だけだから」
「……なるほど」
若干、気まずそうにそう口にした祈。詳しく聞きたいところだが、祈の表情的に話したくはないのだろう。
「さ、あの部屋に入ろ!」
「分かった」
話をずらすようにそう口にする祈。
とはいえ、その部屋がこの屋敷の突き当りのようで、言ってることは正しいだろう。俺たちはその部屋に飛び込む。
「場所まではばれてないみたいだからね。端の部屋のほうが見つかりにくいでしょ」
「それで、ここまで来たのか」
侵入した洞窟から最も遠いであろう部屋に飛び込んだ後、祈がそう説明する。俺は、特に何も考えずに指示に従っていたな……。
そのことに若干の後悔をしつつ、俺は部屋を見渡す。
「……ここは書物庫か」
所狭しと並べられた本を見ながら俺はそう呟く。
「うん。どんな本なんだろ?」
そう言って祈は本に手を伸ばす。
「……ん?」
あたりを見渡し、俺も祈と同様に本に手を伸ばす。いくつかの本を手に取り、ぱらぱらと流し見る。
「これは、歴史本みたいだねー」
祈のそんなつぶやきを聞いて、俺は祈のほうへ近づく。
「おっと?」
そんな声を上げる祈を無視して、彼女のほうへ手を伸ばす。
「なになに!?」
そうして、俺は祈の手に取った本の周りの本を手に取って、同様に流し見る。
「……ビビったぁ~。急に無言で近づかないでよ~」
「ああ、それは悪かった。だが、これはレシピ本に、園芸の本。あまりに統一性がないと思わないか?」
先ほど流し見ていた時も思ったが、本のジャンルがあまりにもばらばらだった。かといって、タイトルや作者が五十音順に並んでいるというわけでもない。
「ん?確かに……。となると、本の内容はタイトル通りみたいだし……」
「本ではなく、本棚側に何かの仕掛けがある可能性もあるな。適当に並べただけの可能性もあるが」
「多分、それはないと思う。これくらいの規模になると、専門の家政婦くらい雇ってるだろうし。もし、入るなと厳命してるにしても何かがあるってことだし」
「それは探るべきか?」
「うん。もし、陰陽術にかかわりのあるものだったら、対処できなくなる可能性がある」
「単純に裏帳簿的なものかもしれないぞ?」
「商家じゃないだろうから裏帳簿じゃないと思うけど、まあこっちにはかかわりのない可能性もあるね。まあ、それならそれで組織のほうに情報を渡せば、いろんなコネでどうにかなるだろうから大丈夫」
政府にもものを卸してるって話だったな。そこのつながりなのだろう。
「とはいえ、どうしたらいいのか。ここからどう手を付けたらいいのか、さっぱりだな~」
「しらみつぶしに探すしかないだろうな。相当時間はかかるだろうが」
「探知用の道具でも持ってきたらよかったかな?しろが以前作ったものがあったし」
しかけを探知なんてできる気がしないのだが、どういう原理だ?
「……いや、いっそ壊しちゃっても問題ないかも。部屋のつくり的にも崩れることはなさそうだし」
「壊すにしても、どこを壊すんだ?隠し通路や隠し部屋があるって確定してるわけじゃねえだろ?」
「そこは、どこかしらに空洞がないか探してみてから決めるかな?一切の手がかりのない状態から探すよりはましでしょ?」
「分かった。ならまずは手分けしてこの部屋を調べるか」
「りょーかいですぜ」
そうして、俺たちは部屋をさらに詳しく調べる。
ただ、一つ思うのがもしこの部屋が重要なものだとして、一切の人がいないのはやはり納得がいかないということだ。入ることを禁止しているにしても、入った人間がいることを検知するシステムがないことも疑問だった。
「ん?ここみたい」
俺がそんなことを考えていたとき、祈がそんな声を上げる。
「未来、ここ壊せる?」
「壁だぞ?やれるか分からんが」
「もしだめなら、術でも使って壊すからだいじょーぶ。陰陽師がいる場合、術を感知される可能性があるし、できれば避けたいってだけ」
それって、大丈夫っていうのか?
そんなことを思いつつ、祈の示した場所に手を当ててみる。壁を壊したことはないので分からないが、俺にもよく分からない力が眠っているとしたら十二分に可能性はあるだろう。
「はっ!」
拳を握り、腕を引き、一気に壁に向けて放つ。
「これは想像以上かも……?」
「やれって言った側が引くなよ」
ドン引きしたような表情を浮かべる祈に、俺はそんな小言をつぶやきつつ、ガラガラと崩れ落ちる壁の奥に視線を飛ばす。
「また階段か」
「何かを隠すってわけじゃなさそうだね~。よっぽど大きいものなら別だけど、物を隠すだけなら、わざわざ地下に作るんじゃなくて隠し部屋で十分だろうから」
だとすると、本当に陰陽師にかかわりがあるってことか。
「こういうことをする相手と行動に心当たりはないのか?陰陽師のつながりで」
「……分かればいいんだけどね。私はあんまり陰陽師回りには詳しいわけじゃないから」
「そうか。だったら、行ってみるしかないか」
そうして、俺たちは地下へと再度足を進めるのだった。




