第18話 強くなっても大丈夫でしょ?
「なあ、俺たち居なくてもよかったんじゃないか?」
「私もそう思うけどねー。まあ、何が居るかは分からなかったわけだし」
いやまあ、そうなんだけど、完全にしろに頼りきりになっていたわけで。
「じゃ、特訓もしていかないとね~。私たちの力不足だったわけだし」
「ああ……」
分かっている。だが、これ以上強くなる必要があるのだろうか。いや、あるのだろう。
「ねえ?少し私と戦わない?」
突然、祈からそんな提案をされた。
「確かに、実践のほうが得るものは多い、か」
「それは、まあ、うん、そういうことでいいよ」
なんだか煮え切らない言い方だったが、ともかく、戦闘訓練を積むことになったのだった。
「熱っ!」
後ろから飛来していた炎を避けきれずに被弾してしまう。
「まだまだ!」
続けて、俺を囲うように炎が展開される。
「人に炎は向けるもんじゃないだろが!」
俺は腕を横なぎに振るい、その炎を消し去る。
「相っ変わらずとんでもない力だね」
祈は腕を振り上げ、その周囲に炎、氷、風と様々なものを発生させる。
「さて、どうする?」
それらは一斉に俺に向けて飛来する。
「その程度でどうにかなるとでも?」
俺は飛来するそれらを殴り蹴り、蹴散らす。
「なんで簡単に触れられるんだろね?」
「なんでって言われてもな!」
俺にもよく分からない。そもそも、やってみるまでできるとは知らなかった。
「次は俺から」
そして、俺は祈の方に向かって地を蹴る。
「確かにすごいパワーだけどね、甘いよ!」
祈が手を上げた瞬間、俺の体は宙を舞う。そして、俺と同様に祈は地を蹴る。
「これで詰みだよ」
俺の首にナイフを添えて、祈は宣言する。
「……」
負け、か。このナイフが突き立てられたら俺は死ぬ。
「どう?強くなっても大丈夫でしょ?」
「は?」
「残念ながら君は最強でも何でもない。強くなることに怯える必要はないでしょ」
「……ああ、そうだな」
その通りだ。俺は強くなることが怖かったのだろう。だって、強くなりすぎると普通じゃなくなってしまうから。
「……なら、つぎはぎじゅつをみがいてもらう」
俺と祈がそんなやり取りをしていた時、後ろからそんな声がかけられた。
「いい感じの空気に水を差すなよ、し……ろ?」
俺が振り返ると、しろが立っていた。頭に幼女を乗せて。
「……おもい。そろそろおりて」
そりゃそうだろうな。しろと同じくらいか少し高い身長の少女が上に乗っているのだ。そもそも、しろの身長で彼女を支えるほどの筋力があるようには見えないのだが、まあ超能力のある世界なのだ。変というわけでもないのだろうか。
「いや~、私は降りない~」
「なんか、いのりみたい」
「なにを~!」
しろの失言に祈がとびかかる。
「おもい!おりろ!ふたりはのれない!」
しろの頭の上に祈、そして幼女の二人が乗っている。さすがのしろといえど、支えるのは難しいのだろう。
「そこ!みてないで、たすけろ!」
うわ、俺に振られた。そう言いたくなる気持ちは分かるけども。
それからしばらくして、解放されたしろと少女は俺たちの前で並んでいた。
「……で、その子は?」
「私はアリス!」
「わたしとあのふたりでありすをたすけた」
「ん。ありがと!」
「えっと、どういたしまして」
「あ、ああ。どういたしまして」
ってことは、あの屋敷にいた少女か。ちゃんと髪も整えられて、ぼろぼろの服からきれいな服に変わって、見た目が大きく変わっている。
「すごっ!めちゃくちゃ可愛いじゃん!」
「ふふん」
祈に褒められた少女はどや顔を披露している。これくらい小さくて純粋な子だと可愛いな。フィーネ、しろは置いておいて。
「すごいしつれいなことおもったでしょ?」
「あんまり気にすんなって」
察しのいい幼女はかわいげがないな。
「つっこみいれたあともつづけないで」
「いや、察してもそこはスルーしろよ」
「むー、楽しそう!」
俺としろが雑談していると、アリスがそれにやきもちを焼いて突撃する。
「はぁ、しかたないか」
「おー、しろって子供になつかれやすいんだね!」
「子供じゃない!」
しろに突撃をかました直後に、その標的を祈に変更する。
「さわがしい」
「そんなもんだろ」
祈、しろは子供に好かれやすそうだもんな。祈は性格的に、しろは見た目的に。
「ねえ、おんなじつっこみはしたくない」
こんな性格じゃ、子供には好かれないよな、やっぱり。
「ふぃー、疲れた~」
散々、祈と遊んだあとアリスはしろに駆け寄ってくる。
「えぇ……」
そして、アリスはしろの頭の上に乗りかかる。さも、そこが定位置であるように。
「……しかたない、このまませつめいをはじめる」
「それでいいんだ」
甘いな。ものすごく。これは子供に好かれるかもしれない。
「とりあえず、さっきのもぎせんをみてた」
「あ、見られてたんだ」
「そう。で、いのりはまあ、いいかんじ。もんだいはみらい」
「はい!なんでしょうか!」
じろりと、俺を睨みつけるしろ。
「たんじゅんにぎじゅつぶそくすぎる」
「そうでしょ?油断も多いし、経験不足もあると思う」
「ん。それもある」
「ま、どれもこれもまだ入りたてだからって言えばそうじゃない?」
「ん。わたしもそこまではもとめるつもりはない。なかった」
「なかった?」
「たぶん、みらいのきょうかはゆうせんじこう。だから、いろいろおしえる」
「……なるほどね。それがリーダーの意志ってことね」
「そう。だから、いきなりにんむなんてやらせた」
「俺は活躍できなかったけどな」
「ん。それでいいの。わたしたちのかつどうないようをりかいしてもらうことがだいじだったんだとおもう」
「というわけで、強化計画を実施するのです!」
そんなこんなで、俺の特訓が開始されるのだった。