第15話 心霊スポットの正体
「……幽霊屋敷?」
「かなり傷んでるねぇ」
西洋風の屋敷が俺たちの目の前にあった。綺麗であったならば、とんでもないお金持ちが住んでいたとしてもおかしくないほど大きな屋敷に俺たちは圧倒されていた。しろを除いて。
「じゃ、このくすりのんで」
そう言って、しろはいつもと変わらないペースで俺たちに薬を手渡す。以前言っていたように、この屋敷に入ると気絶させられてしまう。だからそれを防止する薬を飲まなければならなかった。
「気絶させるってことは何らかの力を持った人間の仕業ってこと?」
「わからない。けど、そのかのうせいのほうがたかそう」
「気絶させる能力ってこと?だとしたら、限定的すぎない?」
確かに、相手の意識を失わさせる能力だとしたらあまりに特化しすぎているだろう。
「それはそう。ちからのいちぶ、もしくはめいんではないかのうせいのほうがたかそう」
なるほど。何らかの能力の結果として気絶しているほうがありえるか。
「うーん。なら、意識に関わる系とかだとまずくない?」
「ん。まずい。だから、いしきじょうたいがおかしかったられんらくがいくようにしてる」
「連絡ってどこに、というかどうやって?」
「ばしょは、けんきゅーぶに、やりかたはわたしのせいしんじょうたいをみてるそうちをつくってきたからそれで」
「え?埋め込んでるの?」
「いや、これでみれる」
そう言って、しろはポケットからスマホよりも小さい機械を取り出して俺たちに見せる。それには小さい画面がついていて、そこには何らかのシグナル的なものが表示されている。脳波か何かだろう。
だとしても、電極も介さずに脳波のようなものを測定できているのもおかしいよな?
「せいしんかんおうせいそざいてきなのがあったから」
「それって危険じゃないのか?」
「ちょくせつふれたらいしきのっとられるよ?」
「今持ってるよな!?」
危険物質を気軽にポケットに入れてるしろに驚きつつ、俺は彼女から距離をとる。いや、触っただけで乗っ取られるって即刻廃棄するべきなものだろうに……。
「こんなのでも利用しないとやっていけないんだよ。まあ、しろくらいにしか扱えないけど」
「だいじょぶ、みんなにわたすのはかんぜんにあんぜんなやつ」
「それを安全にできるのもすごいな!?」
「でしょ~」
この世界ってやっぱり、思っていた以上に危険だよな……。
そんなことを思う今日この頃なのだった。
〈sideしろ〉
「さて、じゃ入りますか」
祈がそんなことを言いながら、その屋敷に近づいていく。
「普通に玄関から入るんだな?」
「周辺を探って相手に見つかったら面倒だしね。さっさと入れるなら入ったほうがいいと思うよ~」
未来くんの言うことも一理あるのだが、今回は肝試しスポットとしても有名な場所で入る人間は多い。わざわざ、隠れながら入る必要もないだろう。
そうして、私たちはその屋敷の中に足を踏み入れる。
「――っ!」
瞬間、全身を激痛が襲う。
「かっ!はぁ……」
思わず吐いてしまいそうなほどの激痛。それを無理やり理性で抑え込み、かばんから薬を取り出す。痛み止め、市販のものとは比べ物にならないくらいの効力で常用しようものならたちまち人間としての感性を失ってしまうくらいの強力なものだが、今は仕方ないだろう。一応のため、人数分持ってきてはいる。
「これ、のんで」
なんとか、痛みをこらえつつ、私は祈と未来くんにその薬を手渡す。
二人とも、すぐにその薬を飲みこみ、すぐに薬は効力を発揮し、その顔色ももとに戻る。
おそらく、例の気絶事件はこの痛みに襲われたショックによるものだろう。全身の骨が神経が痛む、折れているのではないかと錯覚するほどに。私は多少の訓練を積んでいることと侵入前に飲んだ気絶防止薬が効いているのもあって大丈夫だけど、一般人にはとてもではないが耐えられるようなものではない。
だから、私も痛み止めを口に含もうとする。
『この件をしろに解決してほしい』
その言葉を思い出し、私はその手を止める。
間違いなくこの件には超能力者が関わっているだろう。だとすると何のために?この場所に何かあるとも思えない。つまり……。
だから私は、その薬を箱に戻す。これは今飲むべきじゃない。
「……私は隠れてるから、気にせず進んで。ついていく」
「しろは飲まなくていいのか?」
「そうそう、あれは相当しんどいでしょ?」
「大丈夫。慣れてるから」
嘘だ。今にも叫びだしたいくらいには全身が痛みに襲われている。歩くことすら億劫だ。だけど、私の推測が正しければ、あの薬は飲んじゃいけないし、追加を組織まで取りに戻るわけにもいかない。
「能力使って、隠れるけど、近くにはいるから。大丈夫」
そう言って、私は自身の能力を発動させる。『反転』あらゆるものを反転させる力。方向を反転させるだけの力ではあるが、いくらでも応用は効く便利な力だ。まあ、戦闘能力に直結するようなものでもないのだけど。その力で私の存在感を反転させ、世界から消える。
「え!?消えた?」
「しろの能力は初めて見たな~」
私がこの能力を使うことは少ない。隠しているというわけではないが、使う機会がないのだ。日常生活でものを反転させたいなんて考えることはそうそうない。研究の時に時折使うが、その程度である。
私は、この痛みも反転できるその力で自身の存在を消して、二人の後を追うのだった。