第13話 武器
「あぶないものもあるから、かってにさわらないで」
「あ、ああ」
俺はそう答えた。俺は。
「わー!これ何?」
そう言って、何かを手に取る祈。今触るなって言われたばかりだろうが!
「ちょ、すぐてをはなして!」
しろが珍しく声を荒げる。
祈が持っているのは一見、何の変哲もないネックレス。しかし、祈の手元から黒い靄が現れ、彼女を取り込もうとする。
「なに?遊びたいの?」
そんな靄に対して祈はそんな風な声をかける。
そいつあなたを取り込もうとしてるって!?見えてないのか!?
「ふつう、さわっただけでいしきうしなうはずなんだけど」
「元気そうだな」
祈は黒い靄と戯れている。あれ、さっきまで祈に襲い掛かってたよね?
「しんわせいがたかいってかんじ?にんげんばなれしてるほど」
「これってどうしたらいいの?」
のんきにそんなことを口にする祈。しろは若干呆れ気味に、懐からカプセルを一つ取り出す。すると、黒い靄がそのカプセルの中に吸い込まれていき、すべての靄が吸い込まれたというタイミングでカプセルを閉じる。
「これでよし。……これはいのりにあげる」
そう言って、しろはカプセルを祈に渡す。
「処理してくれるなら都合がいい」
ぼそりとそんなことをつぶやきながら。
「よーし!この子を使いこなせるになるぞ!」
そんな意気込みを口にする祈。なんだろう、このコメディー感は……。
俺は少女たちを見ながらそんなことを思うのだった。
「じゃあ、まじめにみらいのぶきをさがす」
「ちなみに大丈夫なものか?」
「さあ?まあ、しにはしない。そういういみではだいじょぶ」
「それ大丈夫じゃないからな!」
この価値観には一生慣れるような気がしない。
「だいじょぶ、なれる」
今、慣れないだろうなって思ったばかりなんだが!?
「……いや、無理だよ。しろとかがおかしいだけ。痛いものは痛いし、つらいのはつらいよ。何も変わらない」
祈がそんなことを呟く。……祈は汚染されてはいなかったのか!
以前に彼女が、死ぬ以外はかすり傷と言っていたことを忘れて俺の味方がいたことに安堵する。
「とりあえず、これは?」
そう言って、しろは刀を俺に手渡す。いわゆる妖刀的なものじゃないかと疑いを抱いてしまうが、そんなことを思ったところで仕方がない。むしろ、強そうだとそう思うことにする。
「――っ!」
持った瞬間、その重さに驚く。特に体に異常はないだろう。しかし、刀というものはこんなに重たいのか……。俺の素の身体能力は確かに人間を超えていると言ってもいい。持つことも振り回すことも可能だ。しかし、振り回すとなるとその遠心力を感じないわけでもない。全く扱い慣れていない人間が簡単に使えるような武器でもないだろう。
「……なるほど。かたなだとちからにたえきれずおれそう」
「折れるか?」
いくら刀の刃は薄いとはいえ、ある程度の厚みはある。そんな金属の塊が簡単に折れるようには見えなかったのだが。
「もうすこし、じぶんのちからをりかいしたほうがいい。でんちゅうくらいのちゅうじつのてつぼうでもたぶんみらいがなぐればおれる」
「……」
そこまでなのだろうか?
しかし実際、今までどの程度の力が出せるのか試したことはない。試してみれば折ることは可能なのかもしれない。というか、折ることができないというビジョンは見えない。そうなると本当に俺は人間をやめてるんだな。圧倒的な力、こんなものを人間が持っていいはずがない。やはり、俺という人間は、化け物に近い存在なのだろう。
「となると、しんぷるにないふ?」
そう呟いて、しろは次に俺にいくつかのナイフの入った袋の取り付けられたバックルを手渡す。その中からいくつかナイフを持って構えてみる。
「おー様になってるよー」
祈は茶化すようにそんなことを口に出す。
「……なげないふはむかなそう」
俺がナイフを持っている姿を見て、しろはそんなことをぼそりと呟く。彼女の言う通り、今手に持っているナイフを投げたところで命中させることができるような気は全くしなかった。
「とりあえず、ひとつきれあじじゅうしのないふはもっておいてもよさそう」
「それくらいなら振れそうだな」
刀は使えるようになるまで相当慣れが必要そうであるし、それならナイフのほうがいいだろう。
「あと、こういうのはどう?」
そう言って、しろは俺に小手のようなものを渡す。たしかナックルだっただろうか。拳の打撃を強化する武器だ。
「一番使いやすいだろうが、素手と変わらなくないか?」
「かわらないかもしれないけど、ちょくせつなぐらずにすむなっくるをつくることもできる」
「……オーダーメイドになるってことか?そこまでしなくても」
「べつにきぞんぶひんのくみあわせ、あんまりふたんにはならない」
それならいいのか?
「いちおう、ほかにもためしてもらう」
その後も俺は様々な武器を試すことになったのだが、結局武器を扱った経験のない俺に合う武器は見つけられなかったのだった。