第10話 しろの年齢
「なんで、あんなキャラ付けしてるんだ?」
「このきゃら?うーん、かわいくない?」
「可愛いっちゃ可愛いけども」
「私がもっと背が高ければしない。けど、これくらいならあの口調のほうがお得」
「お得って……」
まあ、幼女と思われて可愛がられるだろうけど。
「しろっていくつなんだ?」
「れでぃーにきいちゃだめなやつだよ?まあ、いいけど、いわゆる、高三ってやつ」
「高三かぁ~。高三!?年上!?」
流石に、見た目通りではないとは思っていたけど、上なの!?
「そう。おねえさん。うやまえ、あがめたてまつれ」
「その口調で言われても……」
年上として敬ってほしいのか、幼女として甘やかしてほしいのかさっぱりわからないのだが……。
「中身的には納得なんだけども……」
フィーネのように年齢と中身が釣り合っていないというわけではなかった。なかったのだが、この容姿で女子高生くらいの年齢ってことかぁ。
「まあ、私は高校には行ってないんだけど。学ぶこともないし」
「そうなんだ……」
高校数学で躓いている俺っていったい……?しろは本当に天才ってやつなんだろう。彼女からすれば、高校でする勉強なんて常識レベルなんだろうな。
「なにか、分からないことあれば聞いたら答える。祈は知らないけど」
……あぁ。そもそも、話を聞かなそうだもんなぁ。
いない場で、どんどん株を下げられる祈である。
「地頭はいいっぽいから、赤点はぎり回避できてるらしいけど」
「赤点は回避できるんだ……」
いや、なんでだろう。赤点をとってる姿しか想像できない。
「先生がとても頑張って基礎を教えた可能性もある」
「そうなんだ……」
「未来ってどれくらいなの?」
「赤点は基本ないくらいだけど」
「ならまあ、祈よりはまし。多分」
しろにここまで言われるって……。割と優しく教えてくれそうだけど。
「人体実験をするって、脅したら聞いたりして」
冗談のつもりでそう口にする。すると、しろは少し考えこんで……。
「……ありかも。流石に、やってくれるかも」
「え?そこまでしなきゃ駄目なの!?」
「未来も次のテスト前になったら分かる。流石に私でもしんどい」
「そう、なんだ」
テスト前に絡まれる可能性は大いにあるし、今から恐怖なんだけど。
「テスト前だけ、別の人に祈の担当を任せようって話もある」
「バイトじゃないんだから……」
テスト前は休みますってそんなことできるような組織じゃないだろうに……。
「十分すぎるくらいに給料はあるから、中卒でも問題ないしそういう制度は入れてない」
「そいえば、給料とかの話って聞いてなかったな」
「そう?リーダー忘れてた?まあ、一年働けば、サラリーマン?の生涯年収くらいはもらえる」
「生涯年収?」
「命かけてるから。見合うようにって、リーダーが言ってた」
なんか、もう想像のつかないような金額なんだな。
「祈みたいに戦闘系なら、一日で稼げる。私なら一時間あればいける」
とんでもないところに俺は来てしまったのかもしれない。そんなことを思った。
「何かきっかけに心当たりってある?」
「いや、突然」
あれから、しろの研究室に案内されカウンセリング的なものを受けていた。しろの研究室は彼女の自室のように扱われているらしく、ベッドなどの家具も用意されている。
女の子の部屋なわけだが、殺風景なもので可愛いものやおしゃれを気取ったものは全く見当たらない。実用性に重きを置いているといった感じだ。匂いとかも薬剤の匂いがするくらい、というかそんな匂いしかしない。
立てかけられている瓶は倒すと、炎上したり、部屋が瞬間移動したり?するらしく、気を付けてと言われた。……そんなわけで、別の意味で緊張している俺なのだった。
「そう……。外部的な要因なら多分分かるけど、内部からだと分からない。未来が持ってる力なのか、それとも、何か別の原因があるのかは」
「なるほど」
「私たちの力っていうのは何が原因なのか分かってない。人類の神秘、奇跡ともいえるかも」
「そういう力は全員が持ってるのか?」
「持ってる可能性が高い。けど、実際に認識できるまで大きな力は少ない。……例えるなら、引き寄せの法則、あれは近いものだと思ってる」
「引き寄せの法則?」
「オカルト的によく語られる都市伝説みたいなの。こうしたいって強く思えばその願いは必ず叶うって話。現実的に考えるなら、意識がその願いに向くから無意識的にそれを叶えようって動くって話もあるけど、運や才能、そういうのが絡むときに叶うのは違和感がある。だから、少数の人類がそういう願いを叶える弱い力を持っている、そう考えるほうが合理的」
「なんか、想像がつかないな」
「昔から、現実が本当に現実なのかは語られてた。だから、「我思うゆえに我有り」なんて言葉が生まれる。自分以外は幻で思うがままになる、何でもできる、そう思ってたほうが気楽」
こんな組織があって、あんな化け物がいるんだ。今更超能力が出てきたとしても、受け入れてしまえばいいってことか。
「とりあえず、それは置いておいて、体、調べてみる」
そう言って、俺に近寄って体を触りだす。こんな姿だし恥ずかしいとは思わない。
そして、いろんな装置を取り出し、調べ始めるのだった。