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あなたさえ美しいと言ってくれるのなら

作者: 特になし

傷物ものに挑戦しました。

 フィオナ・ローレンツは、幼い頃より、大人でもはっとさせられるほどの美貌の持ち主だった。彼女の美貌は評判を呼び、いつしか彼女は、王国の宝石とうたわれるようになっていた。


 侯爵の娘であるフィオナは、数いる同年代の令嬢たちをよそに、見事王太子レイヴンとの婚約を決定させた。まだ十二だったフィオナに、十四のレイヴンは完全に一目ぼれしたのだ。


 だが、悲劇が起きた。突然の事件。その日、フィオナの美貌は失われた。そして彼女は、傷物令嬢と呼ばれるようになったのだった。



「今回のお話というのはなんでしょう」


 ローレンツ領にある邸宅。その一室で、フィオナは使者と向かい合っていた。


 あの日——事件の日から、四年がたとうとしていた。事件から程なくして、フィオナは王都を離れた。王都にいると、嫌でも人目に触れる機会が多くなる。その度に心無い言葉をかけられることを嫌がった父親は、フィオナを領地の屋敷に住まわせることに決めたのだ。


 あれから、フィオナはレイヴンと顔を合わせていない。そのため、レイヴンの側近であるエランは、使者として、王都とローレンツ領を頻繫に行き来していた。


「王太子殿下が、あなたに王都に来るように、とおっしゃっています」


 そう話す間も、エランはフィオナの顔を見ようとしない。だが、それが一般的な人間の、フィオナへの対応なのだ。


 フィオナの左目から左ほおにかけては、深く傷跡が刻まれている。その左目はもう見えてはいない。あまりの痛ましさに、彼女と会う者は、大抵すぐに顔をそむけてしまう。


 それでも、フィオナは顔を上げ、まっすぐにエランを見据えていた。


「殿下が十八、私が十六になったら、正式に婚姻することとなっていましたものね。分かりました。伺いましょう」



 傷物令嬢フィオナ・ローレンツが王都に戻る。その噂は、貴族たちの間に瞬く間に広まった。彼女がどれだけ醜いのか、人々はそれを見てやろうと、興味津々で待ち構えていた。


「人前にお出になる必要はありません。王太子殿下にお時間をいただき、内密にお会いになるのがよろしいかと」


 エランは貴族たちの悪趣味を察知して、予めフィオナにそう言っていた。


 しかしフィオナは、

「いいえ、わざわざお手を煩わせは致しません。人々にどう見られようが、私は何とも思いませんから」

と、夜会会場に堂々と現れたのだった。


 髪の毛や仮面で顔を隠すどころか、うつむきもせず、まっすぐに前を見据えて。


「傷物令嬢が来た……」

「まあ、本当にひどいこと」

「見るに堪えないな」


 ばっと目を逸らす者、逆に食い入るように見入る者……人々の反応は様々だ。しかし、彼らの視線の中には、かわいそうな傷物、という蔑みが必ず含まれていた。


「お久しゅうございます。この度、お呼び寄せくださったこと、感謝いたします」


 会場の最奥にいたレイヴンの前に進み出ると、フィオナは美しくお辞儀をした。


「来たか、フィオナ」


 レイヴンは言う。


「君を呼んだ理由は他でもない。僕は君との婚約を破棄することにした。それを直接伝えたかったんだ」


「今、何とおっしゃったのです!?」


 そう叫んだのは、フィオナでなく、エランだった。どうやら、このことを彼は知らなかったらしい。


「前々から考えていたことだ。しかし、今、フィオナの顔を見て決心した。その顔ではとても愛することなどできそうにはない」


 レイヴンはフィオナから顔をそむける。その顔は、まるで嫌なものを見た、とでも言いたげに、ひどく歪んでいる。


「愛することができない……」


 フィオナが呟いたその時、

「これ以上殿下を苦しめるのはやめてください!」

と、レイヴンの前に一人の令嬢が飛び出した。


 彼女は、コレット・ノイシュバン公爵令嬢。かつて、フィオナに婚約者の座を奪われたと激昂していた彼女は、フィオナのいぬ間に、すっかりレイヴンと親密になっていた。


「フィオナ様はいい加減に、ご自分にレイヴン様と結ばれる資格がないとお気付きになるべきです。その醜い顔では、殿下だけでなく、世の殿方たち全員、あなたを愛することなど不可能。国母どころか、女として終わっているあなたが、なぜそれほど堂々としているのです? 恥ずかしくはないのですか? 私があなただったら、自殺しています」


「コレット様! そのようなおっしゃい方は……」


 エランが制止しようとするが、

「あなただって、本当はそう思っているのでしょう? 本当のことを言って何が悪いのです?」

と、コレットはなおも言う。


「殿下も……そう思われるのでしょうか」


 フィオナは静かにレイヴンのことを見た。


「あの時、傷を負った私のことを、美しいと、そう言ってくださったのは……。あれは、噓だったのですか?」


 今までいかなる時も冷静だったフィオナに、わずかな揺らぎが見えた瞬間だった。


「君が……美しいだって? まさか。いったい何を言っているんだ?」


 ふん、と鼻で笑うレイヴンに、フィオナの中で、何かが壊れた。


 本当は、今まで何度も心砕けそうになった。こんな顔になってしまったのなら、いっそ死んでしまった方が楽だったとも思った。それでも、あの日のあなたの言葉だけを信じて、今日この日まで生きてきたのに……。


 四年前のあの日。フィオナはレイヴンと共に、郊外まで馬車で出かけていた。しかし、そんな時、いきなり一行は賊に襲われたのだ。その中で、フィオナは顔を負傷してしまう。そしてまた、レイヴンも傷を負った。フィオナを身を挺してかばったためだった。


 薄れゆく意識の中、フィオナは自分を抱きしめる人の温もりを感じていた。そしてその人間は、血を流すフィオナをまっすぐに見つめ、美しいと、そう言ったのだった。


 それからのフィオナは、その言葉だけを信じて生きることにした。たとえ醜いと、傷物と罵られても構わない。あなたさえ美しいと言ってくれるのなら、私はそれでいい。


 殿下は心から自分を愛してくれている。見た目が変わってしまっても、その心は変わらない。ずっとそう思っていた。それなのに……。


 あろうことか、殿下はあの言葉すら覚えていなかった。殿下にとって、あれは忘れてしまうようなことだったんだわ。その場限りの口から出まかせ。馬鹿ね。そんなものを信じて、ずっとすがって……。


 フィオナは震える拳を握りしめる。どこかに力を入れていなければ、自分は倒れてしまうと、そう思った。


「……婚約破棄を謹んでお受けいたします」


 フィオナは顔を隠すように、深々と頭を下げた。


「それでな、フィオナ」


 うつむいたままのフィオナに、レイヴンはさらに言葉を続ける。


「エランに君を下賜することにしたんだ。コレットの提案さ。君では新しい夫を探すのは無理だろうから、せめて僕から世話をしてあげてくれ、ってね。ほら、よく君のところにエランをやってただろ? エランなら、その……君の顔にも多少慣れているはずだ。それと、王都にいると、色々噂もたつだろう。だから、エラン、お前の側近の任をとく。代わりに、ガラム領をお前にやるから、フィオナと二人、そこで暮らすといい」


 コレットからすれば、レイヴンを諌めるエランの存在は邪魔なのだろう。フィオナと共に体よく処分してしまおうというわけだ。ガラム領は取り立てた特徴もない田舎。これは完全なる左遷だった。


「なんということを! 殿下、どうかお考え直しくださいませ! それだけは、決してあってはならないことでございます!」


 エランはレイヴンに迫るが、レイヴンは既に聞く耳を持たない。


「あんなに必死になっちゃって。余程あなたとの結婚が嫌なんでしょうね。まあ、当然でしょうけど」


 コレットがフィオナの耳元でくすっと笑う。しかし、もはやフィオナには何も聞こえていなかった。フィオナの中はもう空っぽだった。



 その後、フィオナはローレンツ領には戻らず、王都からそのままガラム領へと向かうことになった。


 あれから、フィオナはずっとうつむいていた。誰かが近づくと、怯えたように傷跡を隠す。


「申し訳ございませんでした。あなたのことを……お守りできなかった」


 馬車の中で、向かいに座ったエランは深々と頭を下げる。


 きっと彼は、自分との婚約を続けるよう、殿下に進言し続けてくれたのだわ。長い間、間を取り次がせ続け、本当に迷惑をかけてしまって。それなのに、ノイシュバン家の不興を買い、彼が身を亡ぼす結末に繋がってしまうなんて……。私はとんだ疫病神ね。フィオナは思う。


「もう……良いのです。全てはもう終わったことなのですから」


 いいえ、本当はもっと昔、この傷を負った時に終わっていたんだわ。


「殿下の命令ですから、もはや結婚は避けられません。けれど、私は妻として扱っていただこうなどとは思っておりません。側室でも愛人でもお迎えになって、お子はそちらで儲けてくださいませ。私は決して邪魔いたしません」


「そのようなことは……」


「では、エラン様は私を愛せると? こんなにも醜い私を? 何の価値もない私を?」


 昔、フィオナの周りにはたくさんの人がいた。だが、散々に彼女を王国の宝石だの褒め称えていた人々は、あっという間に離れていってしまった。かつてのフィオナは気付いていなかったのだ。自分の周りにいた人々は、ただ美しい見た目だけが目的だったのだと。


 私にはもう何も残っていない。なぜ、中途半端に生き延びてしまったのかしら。生き地獄だと知っていたのなら、あの時死んでいたものを。


 その時、馬車が勢い良く停止した。


「大変です! 賊の襲撃が!」


 馬車の外では怒声が響き渡っている。あの時と同じ——。フィオナはふらふらと馬車の外にさまよい出た。


「フィオナ様!」


 フィオナに賊の凶刃が迫ってくる。ああ、今度こそ、きれいさっぱり終わらせて——。フィオナは目をつぶる。


 だが、フィオナを襲ったのは、懐かしい感覚だった。誰かに強く抱きしめられている、そんな感覚だ。


「エラン……様……?」


 目を開けると、そこにはエランがいた。


 なぜだろう。目の前の光景が、エランの姿が、過去の一場面に重なっていく。そして何より、抱きしめられたこの温もりが告げている。だけど、そんなことがあり得るはずがない。浮かんだ予感を、フィオナは否定する。


 フィオナがエランに抱きしめられているうち、賊は鎮圧された。死者はなく、負傷者が数名。そしてそれには——


「エラン様! 今すぐ手当を!」


 従者たちが集まってきて、エランの上半身の衣服を脱がされる。その背中あったのは、たった今できた傷だけではない。剣で切り付けられたような、大きな古傷。フィオナはそれを見た。予感が確信に変わった瞬間だった。


「あなただったのですね……」


 あの時、私を助けたのは、目の前のこの人だったんだわ……。フィオナは震えた。


「今まで隠していて、申し訳ございません。こうなったら、全てを正直にお話しいたします」



 四年前、王太子の婚約者がフィオナに決定した。それに不満だったのが、娘のコレットを据えようとしていたノイシュバン公爵だった。


 なんとかしてフィオナを王太子から遠ざけたい。しかし、レイヴンはフィオナの美しさに夢中。また、絶世の美姫であるフィオナへの人々の支持も厚い。そこで、ノイシュバン公爵は秘密裏にフィオナを殺害する計画を立てた。


 フィオナが王太子と郊外に出かける際、賊に偽装した配下たちに、フィオナを殺させる。それが公爵の計画だった。しかし、計画のために、王太子を危険にさらすわけにはいかない。万が一のことがあれば、計画が水泡に帰すというものだ。


 そこで公爵は、エランに目を付けた。エランはレイヴンと同い年で、当時は背格好もよく似ていた。しかも、側近という立場なら、さりげなくレイヴンを誘導することができる。公爵はエランに、道中でレイヴンと入れ替わること命令した。エランがフィオナと同じ馬車に乗り、彼女がしっかり死ぬよう取り計らえ、と。


 エランの生家は、由緒正しい家柄であるもの、近年一気に力を失っていた。公爵ににらまれれば、取り潰されるのは時間の問題だ。エランに断る選択肢はなかった。


「殿下、急遽、私と入れ替わってくださいませ。これは不確実なのですが、殿下を狙う賊がいるやもしれません。どこに敵が潜んでいるか、分かりません故、これは私たちだけの秘密でございます」


 当日、道半ばの小休憩の時間を見計らい、エランはレイヴンを呼び出した。


「ええー、これからはフィオナと一緒じゃないのか?」


「申し訳ございません。ですが、殿下のお身体は特別。決して間違いがあってはなりません」


「まあ、それはそうか。で、僕がお前になればいいんだな」


 こうしてエランは、まんまとレイヴンと入れ替わった。


「お帰りなさいませ」


 エランが馬車に乗ると、中で待っていた少女が微笑んだ。


 確かに、王国の宝石と呼ばれるのも頷ける、美しい少女だ。だが、その美しさが災いしたのだ。見た目の美しさだけで王太子妃が決まってしまえば、世の理は乱れる。傾国は即座に排除しなければ。それが、この国のため、我が主のためなのだ。


 そして、予想外の——エランにとっては予想通りの——敵襲が起こった。だが、それはエランの予想以上に激しい戦いだった。飛び道具が飛び交い、兵士が次々地に倒れる。


 そんな中、エランはフィオナを馬車から出す。彼女を戦場の真ん中に置き去り、自分はさっさと逃げる。そのつもりだった。


 しかし、そんな暇はなかった。そもそも公爵配下は、エランを味方などとは認識していなかった。目の前に、容赦なく敵が迫りくる。ああ、自分もここで死ぬのだ。そう思った。公爵にとって、自分は捨て駒でしかなかったのだ。


「殿下! 危ない!」


 その時、目の前に何かが飛び出した。あっ——。そう思った瞬間、少女が倒れる。その顔から真っ赤な血が噴き出している。


「フィオナ!」


「お逃げください、殿下……」


 血まみれになりながら、フィオナは言う。それを前にして、エランの頭の中はぐちゃぐちゃになった。分からない。自分がすべきこと。やらなければならないこと。その全てが。


 もはや何も考えられなかった。エランは勢いのままフィオナの身体を背負い、とにかく戦場から遠ざかるよう、逃げに逃げた。その背後から、敵が襲い掛かる。まっすぐ、フィオナに剣を振り下ろす。


 気付けば、エランはフィオナをかばっていた。切られた背中が、燃えるように熱い。もう一回切られたら、本当に死ぬ——。そう思ったが、もう一撃を振り上げた男は、次の瞬間には、味方の矢に撃ち抜かれて絶命した。どうやら、難は逃れたらしい。


「すまない。君の顔が……」


 背中の痛みに耐えながら、エランはフィオナの顔を布で抑える。だめだ。出血が止まらない。それに、きっとこの子の左目はもう——。


「いいえ、大丈夫です。それに、殿下の傷もきっと大丈夫ですよ。安心してください。すぐに助けがきます」


 この状況下、恐怖と不安で一杯なはずだ。それなのに、フィオナは微笑んだ。自分を安心させるために。


「ああ、あなたは美しいな……」


 言葉とともに、思わず涙がこぼれた。自分はまるで気が付いていなかった。彼女の美しい容貌の下にあった、真の美しさに。その心の気高さに、勇敢さに、優しさに、まるで気が付いていなかった。


 自分は何ということをしてしまったのだろう。全て自分のせいだ。駆け付けた兵士に引きはがされるまで、エランはもはや気を失ったフィオナを抱きしめ、泣き続けた。


 こうして、フィオナの暗殺は失敗に終わった。しかし、ノイシュバン公爵は、彼女の顔に傷がついたことを満足し、エランを咎めはしなかった。


 王太子だけ運よく難を逃れたとなれば、心証が悪い上、ローレンツ家が黙っていない。フィオナと馬車に乗っていたのはレイヴンということにする。公爵に言われた通り、エランはレイヴンに告げた。そして、入れ替わりは闇に葬り去られ、レイヴンはフィオナを守った勇敢な男と持ち上げられ、事件は幕を閉じた。


 だが、エランの中では何も終わっていなかった。自分は一生かかってでも、フィオナに贖罪をしなければならない。フィオナの王太子妃という地位を守る。それが、自分にできる唯一のことだ。彼はそう思った。


 フィオナが領地に戻ってからも、エランはレイヴンの心をフィオナにつなぎ留めるよう尽力した。散々レイヴンに進言し、手紙のやり取りや、贈り物、それらを取りまとめた。しかしレイヴンは、どこまでも表面的なものしか見えない人間だった。媚態を浮かべて近づいてくるコレットに、彼は一瞬で夢中になった。かつてフィオナに恋したことなど、きれいさっぱり忘れ去って。


 もはや手の打ちようはなかった。レイヴンはフィオナを見放し、ついには婚約を破棄した。結局、自分は何もできなかった。もはや贖罪の道も断たれ、それなのに何の皮肉か、そんな自分がフィオナの夫になる。自分の罪深さに、エランはおののいた。



「全て私のせいなのです。私が、あなたを傷つけてしまった……。そんな私があなたの夫になるなど、到底許されることではありません」


 手当を済ませた馬車の中で、エランはフィオナに頭を下げる。エランがフィオナの顔を見ないのは、醜いからではなかった。その顔を見るたび、あの日の記憶がよみがえり、泣き出したい衝動に駆られるからだった。


「こうして真実を打ち明けたところで、許してもらおうなどとは思っておりません。ただ、謝りたいのです。あなたを傷つけてしまったこと。守れなかったこと。その全てを」


 フィオナはその全てを静かに聞いていたが、

「いいえ、守ってもらいましたよ。ずっと、あなたの言葉に」

と、優しく微笑んだ。

 

「人々にどのように罵られようが、あなたの言葉のおかげで、私は前を向いて生きていられた。私にとっては、あの言葉が全てなのです。だから、もう一度、言ってくれませんか。これからも前を向けるよう」


 エランは四年越しに、フィオナの顔をまっすぐに見つめた。その顔は、この世界の何より美しく、エランの瞳にうつった。


「本当に、あなたは美しいな……。昔も今も、ずっと変わらずに」

 


 それから二人はめでたく結婚した。人々はエランのことを、傷物を押し付けられた上、左遷された、哀れな男と言ったものだった。醜い傷物を愛せるものか、とも。


 しかし、人々の冷やかしをよそに、二人は幸福に生活していた。フィオナは一年もたたないうち身ごもり、無事に出産した。権力とは無縁の田舎暮らし。穏やかで、そして美しい時間が、彼らの周りには流れていた。


 さて、一方のレイヴンとコレットも結婚し、同じく子を儲けていた。しかし、話はそこで終わらない。レイヴンいわく、コレットは子供を生んでから醜くなったらしい。それに不満を持ったレイヴンは、別の娘に手を出した。


 フィオナの婚約破棄の一件で、いいように勘違いしたのだろう。見た目を理由にすれば、どのような裏切りも許されると。もちろん、コレット、そしてノイシュバン公爵は烈火のごとく怒り狂った。


 しかし、考えてみれば、これは以前コレットのしたことを、そのままし返されただけだ。見た目を理由に奪った相手を、自分も同じ理由で奪われる。因果応報というのは、こういうものだろうか。


 そのことを、エランは王都からの客人づてに聞いたが、フィオナには伝えなかった。美しい妻の耳に、そのような醜い話が入る必要はないだろう。そう思ったのだ。


「どうかされましたか?」


 ぼんやりしていたエランに、フィオナが微笑む。


「いいえ、あなたに見とれていただけですよ」


 エランはその顔を見つめ、そして左頬に唇を落とした。

最後までお読みくださりありがとうございました! まだまだ勉強中ですので、アドバイスなどいただけると幸いです。

追記を失礼します。2月6日に「旦那様がクールな顔して中二な妄想にふけってます! 」という心が読めるものを投稿しました。まだあまり読んでいただけていないので、よろしければ、こちらも読んでいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
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