俺、生まれ変わったら【テーマパーク】になれていたのだけれども…
……俺は、テーマパーク。
敷地面積約5ヘクタール、年間入園者数80万人、産業をアピールするためにテーマパーク化された、小規模遊園地施設だ。
昔、俺は人間だった。
名前は忘れたが、陰キャだった。
何らかの事故で命を落としたとき、俺は願った。
「生まれ変わったら、遊園地になりたい」
そう願ったのには、理由がある。
俺は冷え切った家庭に生まれた上に友達がいなくて…遊園地を楽しむ機会がなかったのだ。
小学五年生の時に遠足で行ったひからたパーク、中学三年の修学旅行で行ったUJS、高校三年の時に研修旅行で行ったハテスウンボス、大学入学オリエンテーションで行った富士野呂イーエランド…どこも楽しくてたまらなかった。
暗い性格が災いして喜びを出し切れなかった事と、誰かに誘ってもらえなければ乗り物に乗れなかった自分の積極性のなさを嘆いた事だけが、いつまでも心に残っていた。
願いが叶ったのだと喜んだ瞬間は、確かにあった。
だが、しかし。
―――ええわええわ!全部切り倒そ!!
俺を運営している企業のトップは、ワンマンな考えなしの権力者だった。
俺は願った。
「一刻も早く、生まれ変わりたい」
そう願ってしまうのは、当然である。
先を読めないセンスの悪すぎるトップは、ノリと勢いと思いつきで園内を気軽にリニューアルし、改悪を繰り返したのだ。
せっかく育った桜並木をすべて切り倒してジムを建て、広大な芝生広場を掘って無駄に大きな足湯コーナーを作り、子どもの喜ぶ遊具を敷地内の奥に狭苦しく寄せあつめ…地獄でしかない。
願ってしまった後悔と、願いが叶っても不満があふれる現状が、いつまでも心をえぐり続けている。
……願いが叶って、もう…どれくらい、たっただろう?
―――全然売れんな!!やめだ、やめやめ!!別の業者を入れろ!!
もともと一辺倒な考え方しか出来ないトップは、加齢によりますます頑固さを増し、手が付けられなくなった。
初動の黒字金額ばかり注目し、金にならないと判断したら即手を切り、自社のベテラン経営陣を己の権力でねじ伏せ…調子のいいことを言う実績を持たないプレゼン上手の新しい業者を積極的に招きいれた。
俺は願った。
「老いては子に従えと言う言葉がある、次代に任せて隠居してくれ!!」
そう願ったのには、理由があった。
トップには優秀な息子が三人もいて、俺を活かす為のすばらしいアイデアが日々練られていたからだ。
どんどん泥沼にはまっていく中、息子たちは、古参の社員たちは…頑張っていた。
トップが創業当時に熱く語った「未来に投資するために子ども達が喜ぶ場所を作る!それが老いていく俺の使命だ」という言葉を忘れられなかったのだ。
……子どもの笑顔は宝だと、楽しい思い出をたっぷり胸に焼き付けろよと、大人になった時に思いっきり笑った事を思い出してくれればそれでいいのだと…余裕があったら金をたんまり使ってくれよなと…日に焼けた顔で豪快に語っていた事を思い出してくれ!!
―――どうせ少子化は止まらんのだ!子供なんか喜ばせても無駄だ!これからは年寄り向け一択だな!!
自己判断で自社を他企業に売り飛ばしたトップのもとから続々と離れていく…社員、家族、知人、取引先。
去り行く人々に罵声を浴びせ、嘲け笑う、一人の…老人。
俺の願いも…むなしく。
子供たちが喜んで乗っていたサビだらけの乗り物は撤去され、遊具は取り壊され、プールは埋め立てられ、花畑はつぶされ、最後に残されたトレードマークのモニュメントアーチが取り外され…真っ黒いアスファルトが俺を覆った。
子ども達の笑顔が溢れたこの場所には、無表情の年寄りたちが溢れるようになり…、そこに、自分の名前もしてきたこともすべて忘れた、一人の老人が混じった。
ああ、次に・・・生まれ変わったならば。
おれは・・・
・・・