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第68話 エンターテイナーとは

「おいお前ら、ちょっとええか」

「皆さんちょっといいですか」


 配信者とは、エンターテイナーでいた方がいい。


 つまるところ、持ちかけられた話が嘘であったとしても、乗った方が面白いと思えば乗ってしまいたくなる生き物なのである。


 だからと言って、その真偽、真意を事前に知るのはつまらないし、何より知った上で行動を変えてしまうのは反感を買い易い。


 故に配信者は、こういうスト鯖という環境内ではリスナーのコメントは出来る限り見ないでプレイする。


『おいおいおじき……負けまくってついにおかしくなったか?』

「いやいやちゃうんやって、実はな――」


『うーん……アオちゃんの言う事なら聞きたいけど……でも』


「このままだと一生貧乏借金苦生活まっしぐらなんですよ! けどぼくの話に乗ってくれたら人生がやり直せます! 救いの道はあるんです!」


『う……あ、アオちゃん……!』


 ならばそこを利用する、と言うと聞こえは良くないが、その真理を使ってヒデオンさん達は観客でもある配信者達にこう嘘をついた。


「どうもGissy君とケイが、とある配信者をリエルランキングで1位にする為に談合試合をしようとしてるらしいんや」


「だからぎしーさんの勝ちに全賭けすれば100%勝てますよ!」


 俺とKeyさんが結託して出来レースをしようとしているという噂を流せば、怪しい話だとしても配信者は強い興味を持つ。


 無論勝つことだけに拘る配信者は上辺だけで取り合わないだろうが――それでもこの話に乗る配信者の方が多いだろう。


(何せこの案は、どちらに転んでも面白く終れるのが大きい)


 俺が勝てば当然皆得をするし、負けてもこの大ホラ吹き野郎! とヒデオンさんを犠牲にして血祭りに出来てしまうのだ。


 つまりこれでKeyさんの目的(かは断定出来た訳じゃないが)である、ラボさんの闘技場を破滅させる取っ掛かりは生まれた。


 余談だが勝手にKeyさんの名前を使って嘘をついてしまっているので、作戦後は3人で土下座する予定なので悪しからず。


(とはいえ、ヒデオンさんがいない状態でこんなことをやったら、間違いなく炎上しているだろうな……)


 ヒデオンさんとKeyさんに深い関係値があり、尚且つそれをリスナーが理解しているからこそ為せる業。


 ぽっと出の俺なんかが、独断で出来る芸当では到底ない。


(そう思うと、無名の立ち振舞は本当に難しいよな……)


 メタいことを言えば、配信者は一人で生きていける世界ではない。

 世渡り上手である方が、人気者になってしまえるのだ。

 まあ、俺はただ運が良かっただけだが。


「おっしゃ、取り敢えず上手い話があると言うて誘ってきたわ」

「ぼくも一通り話はつけてきました」


 そんなことを考えながら俺は待機所で待っていると、ヒデオンさんとアオちゃんが話を終えて声をかけてくる。


「お疲れ様です。すいません損な役回りをさせてしまって」


「実際に戦うんはGissy君やねんからしゃあないやろ。第一これをやろうと言い出したんは俺なんやしな」


「反応はどんな感じでしたか?」


「まあ全員は無理やと思うが結構乗ってくれそうではある。大体こんな所におるのはランキングを意識してない連中ばっかりやしな」


「ぼくも感触は悪くなかったですね。何だかんだぎしーさんは1回負けてるお陰でオッズも悪くないので、Keyさんに乗るよりいいですし」


 余談、というのもアレだが、俺は準決勝でKeyさんに負けた後、ルーザーズの準決勝を既に2-1で勝利している。


 無論それには二人共賭けに乗って貰ったのだが、俺の倍率は2倍しかなかった為ヒデオンさんのマイナスはまだ15万リエルも残っている。


 しかも決勝の倍率も恐らくあって2倍後半、正直仮に決勝でKeyさんに勝っても、ヒデオンさんの借金は解消出来ないのだが――


「いや~せやけど、こうなったら是が非でも勝ってくれへんとな」

「ヒデオンさんの悪知恵には感心を超えて呆れますよ……」


「そら思った以上にラボが渋い采配しよったのが悪い。それに有益情報を流すならそれ相応の報酬を貰うんは当たり前のことやしなぁ~」


 そう。


 本当はマイナスが解消出来ないのであれば俺から補填するつもりだったのだが、ヒデオンさんはこの嘘の情報の見返りとして、当たったら配当の1割を貰うという約束を取り付けていたのである。


 確かに観客の人数を考えれば1割を貰うだけで恐らく取り返せるだろうが……当然ながら俺がKeyさんに勝つことが大前提の話。


 そもそも嘘を本当にしなければ、報酬も糞もないのだ。

 負けても笑いになるとは言ったが、負けていい訳ではないのに……。


「正直プレッシャーは半端じゃないですよ……」


「まあまあまあ、だからこそ策を用意したんやから、Gissy君はあんまり気負わずいつも通りやればええんやで」


 そう言って不敵な笑みを浮かべるヒデオンさんだったが、はっきり言って嫌な予感しかない。


(一体水咲を使って何をしようと言うのか……)


 何故か俺はヒデオンさんの案の詳細を全く聞かされていない(寧ろ隠された)のだが、一応水咲は了承はしてはいるらしい。


 まあ別に嫌な思いをさせる訳でもないし、ヒデオンさんがそんなことをする人間とは微塵も思っていないが――


 ただそうなれば、炎上してまで勝つような策を取ることは出来ない。


(しかもEDGEがほぼ未経験の水咲に出来ることなど――)


 そう思っている内にいよいよ決勝の時間となった俺は、M41を収納箱から取り出し装備するとスタートラインへと向かう。


「決勝が普通のARアサルトライフルで良かった」


 AOBの時からそうだが、結局火力とか弾速よりも、こういうエイムをし易い武器が一番性に合っている。


 まあそれはKeyさんも同じ考えだろうから、大したアドバンテージは無さそうだが……それでもSRスナイパーライフルよりはマシだろう。


「得意武器で、BO5で、元プロとの1v1――」


 出来ることなら、もっと公式な場でやりたかったが。


 しかし今はそんな我儘は無用だと、俺は気持ちを入れ替れ、熊本ゆあはの合図と共にいざ決勝のフィールドへと飛び出す。


「取り敢えず、精神的に押されたら駄目だ。慌てず、DM杯の時のように冷静にやれば準決勝の時のようには――」


「お兄様~~~~!!!! 頑張って下さ~~~~い!!!!!!」


「…………え?」


 しかしそんな俺の集中を遮るかのように、上空から聞こえてきた我が妹の声に一瞬視線が逸れると、その姿に驚愕する。


 顔こそ水咲の面影が絶妙に出過ぎていない、可愛らしいキャラメイクされているが、問題はそこではなく服装。


「おい、園児コスプレはエグいって……」


 どう見てもヒデオンさんの悪趣味が詰まっているとしか思えない格好をした水咲が、一際目立つ声で俺を応援しているではないか。


 まあ当人は楽しそうにしているのでとやかく言うつもりはないが……しかしこれの一体何処がKeyさんに勝つ為の策なんだ……?


「何ならちょっと俺にデバフがかかっているまであるんだが」


 確かに俺が52キルを達成した時は水咲が側で応援してくれていた経緯はあるものの、それとこれとでは状況が全く違――




「お兄様~~~!!!! もしお兄様が勝ったら、私Vtuberになれるらしいですよ~~~~!!!!!」


「……は?」


 え? ど、どどど、どういうこと……?

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