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第64話 乱高下

前半3人称視点です

「てことで~、第1試合はGissyの勝利―!」


「やっぱりぎしーさんしか勝たんのですよ!」

「は~……素性も分からん相手にやらしいことしよんなぁ」


 1回戦は元プロではないものの、スタペではダイヤランク、アンビ(AMB1TION)では最高ランクを踏み、カジュアル大会の出場経験もある配信者であった。


 故にGissyが想定していた通り、相手はFPSの基本を理解している。


 だらこそ正攻法ではない動きをしたことが綺麗に刺さった形となり、混乱した相手はそのまま2戦目もヘッドショットで沈むこととなった。


「ぎしーさんはヘッドラインを合わせるのが本当に綺麗です! くわえてあの吸い付くようなエイムはもう……たまらないですね」


「ふうむ……もしかしたらDM杯を経験して一層強なったんかもしれへんな、あんだけ頭外さんと相手も顔出すのが嫌なるやろ」


「確かに、2戦目は相手も相当警戒しちゃってましたね」

「そうやな――しっかし、ホンマに読みが鋭いな」


 刄田いつきはDM杯の時点で確信を得ていたが、ヒデオンもまたその頃から薄々感じ始めていたのだった。


 Gissyの立ち回りや戦術理解度は、控えめに言ってスタペが上手いと言われる配信者にはまだ及んでいない。


 だがその欠点を全てメタ読み、人読みでカバーしていることを。


(こういうセンスは、やろうと思って培えるもんやない)


 それこそ勝手な思い込みとなってしまえば、最悪トロールになってしまう危険性も孕む思考と言える。


 だがGissyは読みを殆ど外さない。

 ヒデオンの目から見ても、それは恐るべき才能だった。


「ん? ――……わっ! ちょ、ちょっとヒデオンさん! 見て下さい! 金額が凄いことになってますよ!」


「なんやて!? おいおいおいおいこれは……!」


 すると、発表された配当金を見て青山アオが声を上げた為、すっかりそのことを忘れていたヒデオンは慌てて確認すると、金額が2.5倍に増えている。


 ヒデオンが賭けた額は、手持ち全ての1万リエル。

 つまりこの1回で残金は2万5000リエルになっていた。


「デカい……! 一回でこれはデカ過ぎるで!」

「え? でもまだたったの1万5000リエルですよね」

「ん……? 因みにアオちゃんはいくら儲かったんや?」

「全額4万いったので、プラス6万リエルです」

「…………えぇ?」


 下手に欲をかかず、己が信じるものだけに全てを託す。


 それが正しいやり方か定かではないが、しかしそういう者の方がこういった場では結果を残せる、とも言えるのかもしれない。


「ですけど、ヒデオンさん的には大分巻き返せたということですよね? それならぎしーさんを信じていれば確実に借金を0に出来ますよ」


「……それはどうやろな」

「?」

「何せ……俺の残りマイナスは17万5000リエルやからな!」

「…………何で19万リエルも負けとんねんこのハゲぇ!」


「ちょ――! アオちゃんAKMはアカンて! 死んでもうたら次のGissy君の賭けに間に合わへんくなるから!」


 と、叩けば叩くほどヒデオンの愚行の数々が溢れ返るのだったが――彼の懸念はそれだけでないことも事実ではあった。


(確かにGissy君が優勝する可能性は高い。そこを疑うつもりは一切ないし、最悪捲れんくてもそれで文句を言う程人として終わってはおらん)


 せやけどそんな都合良く、ホンマに物事が進んでくれるんか? と。


       ◯


「……正直、今のは上手く噛み合っただけだな」


 実際初戦だからトリッキーな真似はしないという思考の裏をかけただけに過ぎず、相手が油断していなかったらもっと厳しい試合になっていたに違いない。


「まあ良い滑り出しが出来て一安心ではあるが、問題は――」


 この試合を次の対戦相手は当然見ているということ。

 となれば、今使った小細工は当たり前だが通用しない。


 まあ無論俺もまた相手の試合を見ることが出来るので、そこはお互い様という話ではあるのだが――


「取り敢えず相手の試合はしっかり見て対策を――!?」


 そう口にしながら俺はフィールドから引き上げようとすると――

 目の前で待機していた配信者に変な声を上げそうになる。


(け、Key……さん……?)


 金髪のマッシュ気味な髪型をした、30代とは思えない若々しい顔。


 まあこの姿は自動生成でキャラクリされたものなので当然若いし、例えるなら2.5次元的な調整が施されているのだが――


「…………」


 しかしそんな驚きとは裏腹に、至極真剣な表情のKeyさんは俺を一瞥することなくそのままフィールド前のスタート地点に立ってしまう。


(……今から世界大会でも始まるのかってぐらいの気迫だな)


 だが、この場所にKeyさんがいるというのは――


「ぎ、ぎしーさん……! な、ナイスファイトでしたよ!」

「ナイスやGissy君、儲けさせてもろたわ」

「え? あ、ああ……こ、こちらこそ」


 そんなこと思っていると、観客席からアオちゃんとヒデオンさんが顔だけをひょっこりと覗かせ、俺のことを労ってくれる。


「で、ですが、今はそれより――」

「行方知れずやったケイくんがこんな所で姿を現しよったな」

「ヒデオンさん、知ってたんですか?」


「流石にあんだけ炎上したら知らん方が無理やろ。せやけどその後の動きまでは知らんで、鳩も禁止しとるしな」


「今何か会話は?」

「いや、声は掛けたんやがシカトこかれたわ」

「そうですか――」


 しかしあのKeyさんが、何の意図もなくこの地下闘技場に、しかもプレイヤーとして遊びに来たとはどうにも考えられない。


 つまり、この場所にKeyさんが求めているモノがあるのか――?


「じゃあ第2試合始めるよぉ、よ~い、スタート!」


 だがそれが一体何なのかを考えている内に試合は始まってしまい、銃声が鳴ったと同時にKeyさんはフィールド内へと飛び出して行ってしまう。


「え?」

「おいおい、幾ら何でも突っ込みすぎやろ」

「これは大分まずくないですか……?」


 しかもKeyさんは、何故か全くクリアリングをせずに一気に中央付近、何なら相手の陣地内までぐんぐんと突っ込んでいく。


 とても元プロと思えない強引な動き出しに、俺とアオちゃんのみならず、ヒデオンさんまで疑問の声を上げてしまった。


 何だ……? 一体どうするつもりなんだと見ていると、案の定足音で位置を特定した相手が遮蔽物からピークし先手を取ってしまう。


 いや、そりゃそうなって当然だと言うしかない展開に、流石にこれは負けたかと、そう思ったのだったが。


「っ――! は、はっや……」

「うそ、い、今の勝ったんですか……?」

「…………これは」


 基本や作戦など全く以て必要ない、フィジカルこそが正義なのだと言わんばかりの圧倒的反応速度。


 しかも最初から相手の位置をプリエイムしていたかのように綺麗に頭を撃ち抜いてしまうと、そのまま1-0にしてしまうのであった。




(おいおい……これは俺が噛ませってレベルじゃねえぞ……)

C◯カップ ヴ◯ロラントが始りましたね

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