第60話 彼女が想うこと
「――――いつき、おーい、いつき」
「……え? あ、ごめん、聞いてなかった」
あたし達のクランは現状くるちゃんこと伊地知くるるを含む4人で動いていて、主にボス攻略を主軸に活動をしていた。
理由はまあ何というか……特にない。
用意されたものがあるなら取り敢えずやってみようという感じに過ぎず、クランもたまたま近くにいた知り合い同士が組んだだけ。
後は他の配信者とも交流したりで――まあそれでリスナーも概ね楽しんでいる様子だったから、これでいいかと思いながらプレイする日々を送っていた。
「何か最近えらいぼんやりとしてるね、もしかしてEDGE飽きてきた?」
「いや、全然そんなことはないんだけど……」
「ほな恋煩いか」
「ちょっ! 何で急にそんな話になるの」
VC入ってるのに何をふざけてと言いそうになったけど、今はお互い配信外でのんびりファームをしているだけなので一旦良しとする。
周囲も開けていて、人の気配は無さそうだし。
まあ言ってることは全然良しではないけど。
「いやだって、いつきの様子がおかしなったんって【ビーストベアー】の二回目のボス挑戦行った時からやん」
「二回目……? 別に何もおかしくなんて――」
「んな訳あらへんよ、Gissy君と会った瞬間上の空なっとったのに」
「!! べ、べ別にそんなことないんだけど」
「お? もしかして図星で苦しくなってきたんとちゃうの? 何ならホンマはGissy君をクランに入れたかったんとちゃうのー?」
「んぐぐ……」
完全には否定しきれない物言いに、あたしは思わず歯ぎしりをしてしまう。
前にも話した気がするけど、相変わらずくるちゃんはそういう色恋になりそうな部分を、擦りたいが為に目ざとく見ている……。
あぁ……あたしがその犠牲になるつもりはなかったのに――
「しかも話によると、ボス討伐の優先権を賭けたミニゲームをした時にGissy君のことを撃てへんかったとか言うてたみたいやし?」
「はっ!? な、何でそのことまで――!」
「お、つまり私の優秀なバード達の言うてたことはホンマやったと」
「こ、この女……」
要するにくるちゃんはリスナーの密告を信じてはいなかったけど、事実なら面白いから確かめる為に嵌めたということ。
こうなるとくるちゃんは真実を聞くまで逃すつもりはない……そう悟ったあたしは仕方なくこう口を開いた。
「……実を言うとSCLの現地観戦した時に偶然Gissyさんと会って、それでまあ……顔を知ってたんだよね」
「え、ちょっと! 何でそれ私に言わんかったん!?」
「言ったら勝手に妄想繰り広げて適当言うからに決まってるじゃん」
「そ、そんなことせえへんよ! へ~! それにしても言うてたことがホンマに……そりゃ頭を撃ち抜くなんて出来へんわなぁ~」
「いやまあ別に……誰であっても知り合いなら撃ち辛いけど」
「またそんなこと言っちゃって~。で、ちゃんと話はしたん?」
「まあ……するにはしたけど――」
この結果は見えてきっていたとはいえ、嬉々と質問攻めをしてくるくるちゃんにあたしは若干鬱陶しく感じ始めてくる。
何で皆こう、色恋みたいなのが好きなんだろうな……。
「でもGissyさんに自分が刄田いつきだとは伝えてないから、ちょっと雑談をして、それで終わっただけ」
「え? 伝えてへんの?」
「してないしてない。Gissyさんのことを信用してない訳じゃないけど、やっぱりその辺は安易に言うべきじゃないと思ってるから」
「んー……それはそうか。でも何かモヤモヤするなぁ~……」
「勝手にモヤモヤされてもさ……」
「まあとはいえ、それはしゃあない、それはしゃあないけど、でも実際に会ってこう何ていうの? 思う所はあったんやろ? 好きとか好きとかさ、やっぱ好きやねんってなったから撃てへんかったんとちゃうの? ん?」
「人の話全然聞いてなくない?」
最早何があろうともそっちに持っていきたいと今のくるちゃんなら容易にヘッドショットが出来ると思ったけど、何とかそれは抑える。
(まあでも……)
Gissyさんは、異性として格好いいとは思っている。
それは顔というより、いやまあ顔も実際に見たらいいと思ったけど、どちらかと言えば内面的な部分として。
(DM杯はストリーマーが本気で頑張る大会ではあるけど、5番手に入る初心者枠はいくらセンスがあっても限界がある)
だから元来5番手はキャリーされる側になりがち……でも別にそれは悪いことじゃなくて仕方がないこと。
だからあのDM杯でも、あたしはGissyさんが活躍すると本気で信じていたけど、仮にそうならなかったとしても当然とは思っていた。
(でも結果的にGissyさんキャリーされるどころか、する側になっていた)
そういった力強い真っ直ぐな芯がありながらも、嫌味ではない謙虚さもあって、且ついつも人の良い所を見ている――
そんな彼に魅力を感じないと言えば嘘になるし――何ならこれは正直どういう感情と捉えたらいいか分かんないんだけど……。
(そんな人に、もっと自分を見て欲しい気持ちはある)
まあ見られたら見られたで、また良く分かんない気分になるけど。
そんな状態では、撃てるものも撃てないという話。
まあそれだけは、口が裂けても彼女には言わないけど――と思っていると。
「あ、そろそろリエルランキングの1回目の発表があるみたいやね」
いいタイミングで、くるちゃんの興味が別に逸れてくれる。
というか彼女の色恋話から解放されようと思ったら本人が眠くなるか、興味が別に移る以外にないからほっと一安心なんだけど……。
「リエルランキングって今日から毎日発表なんだっけ?」
「だった筈よ。初日と2日目じゃそんなに差もないって理由で今日から上位3名まで、最終日前日だけ名前を伏せて発表やったと思う」
「ふうん……現状の上位ってどれぐらい持ってるんだろ」
「うーん。今私らがいつきの金庫に入れてるお金って20万ぐらいはあるやろ? 無駄遣いもしてへんし、割と真面目にボス周回とファームしてこれやから、客観的に見ても全然上位やと思うけどね」
「なるほど――」
そういう風に言われると、そんなに期待していなかったリエルランキングにも少し興味が湧き始めてくる。
やっぱりあたしってこういう勝負事は好きなのかも……と思いつつ、ファームをしながら発表の時間が来るのを待っていると――
【現時点のリエルランキングを発表致します】
【第3位 Itsuki_hata 215700LEL】
運営のアナウンスが流れ、まず最初にあたしの名前が出てきた。
「あ、3位だって」
「おお、やっぱり載ったんや。んーでも、3位なんか」
「確かに、もっとボス周回してるチームがいるのかな」
「んーどうやろ、そんな被ってた気もしないねんけど……は?」
「? ――――え」
不眠不休の配信はしてないとはいえ、次のボス討伐の為に割と効率的に回していたあたし達が3位は若干意外ではある。
とはいっても、あたし達も全てのお金を金庫に入れている訳じゃないから、恐らく僅差で負けてるのかなと思っていたら。
その後に出てきた金額に、あたし達は唖然とするのだった。
【第2位 AceLab 500000LEL】
【第1位 Shio~ri 512330LEL】
【以上となります、引き続き頑張って下さい】




