第56話 エンタメ潰しの真意
更新優先としている為
タイトルが無い場合は更新後に推敲している場合があります
申し訳ありません
「茨の道に、自ら進んで行くのか――」
いや、寧ろ神保さんはその道を進むことだけを考えて、今までずっと行動をし続けてきたのであろう。
契約社員でコールセンターという定時で帰りやすい職業を選んだのも、自分の未来への時間を作る為――
『まあ今すぐ、という結論にはなりませんでしたけど、場合によっては今年中には、私はこの会社にはいないです』
そうなればより沢山案件を受けられるようになりますし、配信時間も確保出来るようになるのでと、神保さんはそう言っていた。
『そうか――社員の皆は悲しむだろうな』
『私は1つも悲しいとは思っていませんけどね』
『こんな会社に未練などないってことか?』
『虚像を作って生活するのも楽じゃないんですよ』
『あー……そういうことか』
『――因みにですケド』
『ん?』
『崎山さんはどうですか?』
『俺?』
『崎山さんは、寂しく思ったりしませんか?』
『――……今みたいに遊んで貰えるなら、別に寂しくはないよ』
『……それもそうですか』
そこからはそんな意味のない話をダラダラと、本題を話すのも忘れてしてしまっていたが――休憩が終わる前に、彼女はこう俺に言い残していた。
『後――私は崎山さんが望むのであればいつでも手は貸しますよ』
『ん? 配信者として……か?』
『ええ、それは勿論』
『……そりゃ有り難いが……何でまた』
『私にとって崎山さんは良きライバルでもあるので、常に高め合える存在がいると有り難い――それだけの勝手な理由です』
それが今日の昼先にした、主な会話の内容。
「無論神保さんには是非とも頑張って欲しいし、応援もしたい所だが――しかしまさか彼女にまでそんなことを言われてしまうか」
はぁ~俺ってそんなに配信者としての腕を買われているのかぁ~、こりゃもう配信者一本で食っていくとするかな!
などと調子に乗る気は微塵もないが――とはいえ、配信者の道を進むことを晴れやかな表情で言う彼女に、思う所が無かったと言えば嘘になる。
(正直に言って、神保さんが凄く遠くにいるように見えた)
というよりは、皆が高台からプールに飛び込んで行く中、自分は怖がって飛び込めないと例えるべきだろうか。
「俺なんかは、常に何処か理由を付けて自分を守ろうとしてしまう」
年を取ると、無駄に処世術ばかり身につけてしまうのだ。
要はリスクのない道を選ぶことにばかり、視線を向けたがる。
まあそれはそれで、決して間違っている訳ではないのだろうが――と思いつつ俺はパソコンを立ち上げ配信の準備を始めていると。
「ん、神――じゃなくて、まりんさんとシオリさん?」
Wave内にある、とあるグループチャットに二人から誘いを受けていることに気づいた俺は、配信をつける前にチャット内へと入った。
「――……と、まりんさん、シオリさんもお疲れ」
「あ、Gissyさんお疲れ様です」
「ギシーンさんお疲れ様ですー」
「確認ですけど配信はまだ始めてないですよね?」
「ああそれは勿論だが――何かあったのか?」
わざわざそれを訊いてくるということは、普通に考えて配信上には乗せたくない話があるということ。
とはいえお互い暗黙の了解があったのか、配信外でも同僚という雰囲気は一切見せずに話をしていたのだが――菅沼まりんはこう切り出した。
「いや、実はオフラインレイドの件で運営から回答があったんですけど、やはり私達の予想が当たっていた感じでしたね」
「……そうか、やはりアカウントは乗っ取られていたのか」
「ええ。ただそれも運営が参加者のキャラクターを全て確認し、その上でウタくんへの聞き取りを行い、恐らくオフラインレイドを仕掛けられた時間ウタくんはずっとレコーディングをしていたから乗っ取りだ、というものでした」
「運営は開発じゃないから正確には分からないしねえ、神視点はあってもずっと監視してる訳でもないだろうしー」
「成程……信用だけでどうにか解決させたってことか」
「それで一応パスワードは変えられていなかったらしいので、どうやら変更することで対応はしたみたいなんですけど」
「ふうむ……というか、それが分かったなら物資も取り返すことが出来たんじゃないのか? それともまさか捨てられて――」
「そのまさかですよ。少なくともウタくんの家にそれらしき物資は無かったようなので、捨てられたという線が濃厚みたいです」
「マジか……相当悪質だな」
「だから運営さんもその悪質性を見て補填はしたらしいですよー」
「ん? 良かったじゃないか。それなら問題は全て解決のでは?」
パスワードも変更し、失われた物資も全て元に戻った。
これで完全にスト鯖に安寧が戻り、ここからまた各々がやりたいように過ごす時間が始まったと、俺はそう思ったのだが――
菅沼まりんは小さく溜息をつくと、ここからは本題なのだと言わんばかりに、こう口を開いた。
「私もそう言いたい所なんですけど、実は配信者づてに聞いた所、どうもKeyさんがソロボス攻略を再開していないみたいなんですよね」
「……? じゃあやっぱり戦争を――」
だが犯人が誰なのか分かっていない以上、戦争もクソもない。
それにも関わらずボス攻略を再開していないというのはどういうことなのかと思っていると、淡路シオリがこう続けた。
「直接確認した訳じゃないから分からないけど、多分ケイさんはスト鯖の中に犯人がいると思ってるんじゃないかって話してたんだよねー」
「つまりもしそうなのだとしたら、まだこれで終わらない可能性がある。だから一旦配信外で話をしようということになったんです」
「とはいえ、わたしがオフラインレイドに備えてEDGEにログインだけはしてるので、そこはご心配なくー」
「それで事前に――」
「全く最悪でしかないです。恐らく私の家を襲ったのも同一人物でしょうし……もしかして前回炎上した人が逆恨みでスト鯖内にいる誰かと結託して――」
確かにまだこの一件が続くのだとしたら、相当このスト鯖に対して憎しみを持っている者がやっているとしか思えない。
となれば、本当に前回炎上した人が、何らかの理由で配信者と手を組んでこの凶行に及んでいる可能性も――
「……いや、待てよ」
「? どうしたんですかー?」
「いや……さ、今の所襲われたのがはっきりしているのって、まりんさんとKeyさん以外にいないよな?」
「ええまあ……多分そうだと思いますケド――」
「これって……」
無論、まだ確定ではない。
何なら俺達もこれを調べていく必要があるどころか、解決に導いていく必要があるかもしれないと言ってもいいだろう。
何故ならそれは――
「もしかしたらなんだが……この犯人が襲っている配信者って、リエルのランキングで1位を狙える可能性がある人だったりしないか?」