第55話 進むということ
【スト鯖EDGE楽しんでたのにクソ萎えたわ】
【というかそもそもオフラインレイド禁止にしろよ】
【前回から何も反省してない無能運営】
【いや流石にスト鯖で2回連続起こると思わんだろ】
【つうか人選も前よりは相当注意してやってる筈】
【大体ここまで悪質だと禁止にしてもやってるわ】
【Keyの家襲った奴マジでキモ過ぎる】
【やったのウタくんってマジ? 失望したんだが】
【ウタくんじゃねえよボケ、配信見ずに語るな】
【ウタくんサイドは否定してる、運営は確認中だってよ】
【ウタくんじゃないなら誰なん? 早く公表しろよ】
【でもいくらKeyでもこっからボス攻略は無理そうだな】
【元から無理そうだったけどな、終盤のボス結構強いらしいし】
【やって無理とやれないで無理は違うだろ】
【けど代わりに戦争してくれるんだろ? マジで楽しみだわw】
【そういう意味ではKey襲った奴には感謝だなwww】
【正直スト鯖は仲良しこよし過ぎるからこれぐらいあっていい】
【は? Keyさんも別にやりたくてやる訳じゃないだろ】
【寧ろKeyさんの優しさだろこんなもん、ふざけんな】
【でもほぼスタートに戻ったKeyに勝ち目なんてなくね】
【そもそも誰がやったか分かんねえのに戦争もクソもないけどな】
「……やっぱりそうなるよな」
スト鯖EDGE開始3日目。
相変わらず配信者は今日も今日とてEDGEをあくせくプレイしている様子だったが、外野の空気は心底悪くなっていた。
まあトップストリーマーであるKeyさんの家にオフラインレイドをしたとなれば、当然とは言える話ではあるのだが――
(Keyさんのプレイングに水を差したのが一番良くなかった)
実はKeyさんは今回ソロプレイをしており、しかもソロでボス攻略をしようというかなり難しいことをしていたのである。
やはりいくら自由といってもボス討伐はスト鯖の中でも醍醐味の1つ、しかもソロで成し遂げようという姿勢は多くの視聴者を集めた。
噂によれば俺達よりも先に【ビーストベアー】を倒し、何なら2体目のボスである【ウインドガイ】も攻略目前だったとか。
だがその道が絶たれたことで、SNSは大炎上の大爆発。
けども一体誰がそんなことをしたのか分からないせいで怒りのやり場がなく、醜い対立煽りや運営批判が乱立してしまうのだった。
「……どうしたらいいんだろうな、これ」
「どうしようもないですよ」
そう俺は思わずスマホを眺めながら呟いてしまっていると、1人の女性社員が喫煙所の扉を開け中へと入ってくる。
言い忘れていたが今日は全社会人が絶望する月曜日である為、残念ながら出勤をしなければならない。
だからこそ、この傍観するしかない状態は妙に歯痒くあったのだが――
「神保さん」
「…………あ」
そういえばあの日以来神保さん、もとい菅沼まりんとはネットの世界以外で面と向かって話をしていなかった。
だが恐らく彼女も俺と同じような、このどうしようもない状態に如何ともし難い気持ちを抱えてしまっていたのだろう。
ただ喫煙所に入った所で彼女も全く話していなかったことを思い出したらしく、視線が合った俺達の間に妙に気まずい雰囲気が流れる。
(まあ俺は一切気にしてなどおらんのだが……)
とはいえ、こうなってしまった以上どう話すのがベストか迷っていると――すっと頭を下げた彼女はこう言うのだった。
「あの時は生意気言ってすいませんでした、でも後悔はしてないです」
「……それはまた」
「あの時も言いましたが、兎に角負けたくなかったんです。理不尽過ぎる程に強い崎山さん――Gissyさんに」
「まあ、DM杯で優勝すれば名が売れる。実際こんな無名の俺ですら多少は売れたんだから必死になるのも理解してるさ」
人気になるというのは、壮絶なまでにシビアなものだ。
それはもう幾度となく言ってきたことなので今更言及するつもりもないが、だからこそ配信外で啖呵を切られたぐらいどうとも思わないのである。
何なら、売れる為ならあの何十倍もエグいことをするなんて話もあるぐらいなのだから、可愛らしいとさえ言えるだろう。
だが、彼女は首を横に振るとこう言うのだった。
「それも無いと言えば嘘になりますけど――どちらかと言えばもっとシンプルに、スタペの勝負で負けたくなかったからですよ」
「ん――ああ、確かにそうか」
「Gissyさんもご存知とは思いますが、私は超がつく程の負けず嫌いです。昔から兄妹に挟まれてゲームをしてきたせいか自分が勝つまでゲームを止めないので、それで親に激昂されてハードウェアを捨てられた程です」
「それはとんでもねえな……」
「それに私達【無敵ゲーミング】は非常に雰囲気も良かったので――だからチームの為に勝ちたいという気持ちが暴走した側面もあります」
「――そうか、なら仕方ないんじゃないか。そもそも俺がそんなことで本気でキレていたら何かと理由を付けてクランなんて組んでいないだろうし、もっと言えばその程度でやられるメンタルじゃ決勝で負けていただろうしな」
「それはまあ――ただ流石にサボり野郎は言い過ぎたので」
「この会社からしたら有給はサボりみたいなもんだよ」
「……酷い会社ですねえ」
「ああ本当に酷い――」
そう言った所で、ようやく張り詰めた空気が弛緩したような気がする。
うむ。これなら話を元に戻せそうかと思い、俺は気を取り直すと本題であるスト鯖の状況について話を戻そうとしたのだが――
俺が話そうとしたことを察知したのか、神保さんはパッと手のひらを俺に見せると、こんなことを言い出すのだった。
「あの――別に後でもいいっちゃいいんですケド、一応スト鯖の話をする前に崎山さんに伝えたいことがありまして」
「ん? 伝えたいこと?」
「はい。覚えてると思いますが、私DM杯の次の日に休みましたよね」
「そうだな、休んでたな」
あの時俺はつのださんとのやり取りの後にその事実に気づいていたが、正直そこまで気に留めてはいなかった。
後々人伝に有給を取っていたと知り、まあそりゃDM杯の後だしな、ぐらいにしか思っていなかったのだが――
「実はあの日、恐らくそうなるだろうということで、事務所と話し合いの場を設ける為に休んでいたんです」
「話し合いの場……?」
はて、そんな大会の直後で仰々しい話をすることがあるのだろうかと、俺はそこまで深く考えずに話を聞いていると。
彼女は窓の外にある景色に一度視線送ってから、こう言うのだった。
「はい。私の夢である、配信者一本でやっていくことについての、です」




