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第54話 意外な火種

「ウタくんがオフラインレイドの犯人だなんて絶っっっっっっっっっっっっっっっっっ対にあり得ないです!!」


 変に疑われてもアレだと言うことで俺達は一旦家まで戻ると、一息つくなり菅沼まりんが咆哮した。


「Gissyさん分かっていますか!? ウタくんは今や日本を代表する超有名アーティストなんですよ!? 若者の心を打つ繊細な歌声と歌詞――作曲も名だたる著名アーティストが楽曲提供をしている次元なんです! 一度新曲を出せばランキング1位はほぼ確、Buetubeの再生回数も1000万から時には1億超えも! それでいて人気に胡座をかかないあの姿勢が――」


「落ち着け、誰もウタくんが犯人とは言ってないだろ」


 いつしか何処かで見た饒舌菅沼まりん――いや神保陽毬の発作を俺は宥めると、家の中にあった椅子に腰を下ろす。


 にしてもまさかここまでガチファンガだったとはな……なれば目の前であった現実を受け入れたく無いのも理解出来るが。


「――取り敢えずリスナーは絶対に鳩はするなよ。あの不確定な一場面だけを切り取って色々言うのはあまりにナンセンス過ぎる」


「そうだよー、わたしのファンは賢いから分かるよねー?」

「鳩なんてふざけた真似したらガチで許さないから」


▼まあ俺はしないけど

▼する人ってそんな忠告関係ないからな

▼炎上狙いでやる人もいれば、感情的にやる人もいるし


 まあ言う通りこれで情報の流出が止まるとは思っちゃいないが、牽制をすることで多少の被害を抑えることは出来るはず。


 つまり今の内にあらゆる可能性について話をしておくべきである。


「そもそも、EDGEにおけるキャラクリは画像さえあれば自動で生成してくれる。つまり操作しているのがウタくんじゃなくてもウタくんになるのは容易だ」


「その通りですね。それに私達が声を掛けた時に何も喋らず去った時点で、本人でない可能性の方が高いいまであります」


「でもー、だとしたら配信者の誰かがウタくんになりすましてることになるけど、そんなことするメリットはないよねー」


「それはまあ……そうですけど」


 配信者が自分のアカウントでそんなことをしたら、当然悪ふざけだとしても即刻炎上してしまうだろう。


 おまけにそれ以外にもデメリットが多過ぎるし――大体全くの無名が1人もいないこのサーバーでやる意味は皆無と言ってもいい。


「なら複垢を使ったという説はどうですか?」


「ううん……どうなんだろうな。もし複垢を使って運営にバレるリスクがあるならやるのは危険な気もするが」


「随分コソコソとオフラインレイドを繰り返しているのに、そのリスクを無視してるとはわたしも思えないかなー」


 そう。


 仮にウタくんになりすました上で、用心深くオフラインレイドを仕掛けているだとしたら、周到に動いているのは間違いない。


 何なら俺達に現場を見つかるなんて相当おかしいまである。

 もしかして、わざと姿を晒したのか――?


「――……もしかしたらアカウント自体は本人のもので、中身が違うという可能性が一番高いかもしれないな」


「アカウントを乗っ取られてる……それは妥当かも」


「まあ何れにせよ運営に報告するのが一番良いかもしれないねえ、乗っ取られているなら運営がそれ相応の対応を取ってくれると思うしー」


「俺達がどうこうするよりは運営経由でウタくんに問い合わせた方が、変に波風も立たないでいいだろうしな」


「私もそれでいいと思います――とはいえ、ウタくんアンチの仕業か知らないけど、正直滅茶苦茶ムカつきますけどね……!」


 まあ俺もアンチの線が濃厚だとは思うが――しかしよくIDとパスワードを盗むことが出来たな、と思わなくもない。


 正直あまりにも都合よく物事が出来過ぎているというか……。

 何なら、ウタくんのアカウントを盗んだ犯人はもっと身近に――


【コンコンコン】


「あ」


 そんなことを、俺は少し深く考えてしまっていると。

 唐突に家の玄関をノックされる音に、淡路シオリが声を上げる。


「「「…………」」」


 それはどう考えても、あまりに都合が良過ぎるタイミング。


 恐らく全員がそう思っただろう。実際俺達は顔を見合わせ、示し合わせたように息を潜めると、ゆっくりと視線を玄関へ送る。


【コンコンコン】


 そして再度鳴らされるノック音。


 まさか俺達の配信を見て仕掛けてきたのか……? と、何ならここで暴れるつもりかと、俺達はAKMを構え臨戦態勢に入ろうとしたのだが――


「――――あのー、誰かいませんか……」

「? あれ? この声って――」

「まさか」


 咄嗟に菅沼まりんが玄関に向かって走り出し扉を開けると――そこには何とも言えない切ない表情を浮かべたKeyさんがいるのだった。


「け、Keyさんどうしたんですか!?」


「あの……35時間プレイして4時間寝て起きたら家の物資が全部盗まれてて……このままだと空腹で死にそうなので何かお恵みを……」


「え? まさかあの家って――」


 変に疑われても困ると思い入らなかったが、あのウタくんになりすました犯人はよりにもよってKeyさんの家を襲ったのか……?


 しかも、恐らくソロで35時間プレイし集めた物資を――


(おいおい……これは炎上なんてもので済む事態じゃないぞ)


 実際Keyさんも状況を飲み込みたくないのか、菅沼まりんから焼いた肉と水を貰って回復をしても、まだ茫然自失といった顔をしていた。


「まさかあの家がケイさんのモノだったとは思いませんでしたねー」

「? もしかして俺の家がオフラインレイドされた瞬間を見たのかい?」

「いや、見てはいないんですけど――」


 と、流石に伝えない訳にはいかないだろうということで、俺達は自分の意見も交えて目の前であった出来事に関して全てKeyさんに伝える。


 すると憔悴しきっていた表情だったKeyさんの顔が少し真剣になると、ややあってこう言うのだった。


「……まあ流石にウタくんではないだろうね。あの子はそういったことを好む性格じゃないと俺も思うし」


「やっぱりそうですよね!」

「とはいえ――」


 と、Keyさんのお墨付きに歓喜の声をあげる菅沼まりんだったが、それを静止するかのような声で彼はこう続ける。


「これは前回もだったけど、スト鯖は性質上レイドをするメリットがないだけで、やってはいけないと明記されていないことは忘れちゃいけない」


 だから誰であろうと、悪いのは家を頑丈にしなかった俺の落ち度であって、変に周りが騒ぐのは違うから注意してくれと、Keyさんは釘を刺した。


「Keyさん――」


 自分に影響力があると分かっているからこそ、まずは周囲のことを考える。


 普通なら35時間が全て無に帰ったことに、憤りを超えて猛り狂ってもおかしくない所だというのに――


 この冷静さこそ、トップストリーマーたる所以なのか。


「ただ」


 が。


 その直後にKeyさんが不敵な笑みと共に発した言葉は。

 それもまたストリーマーらしいと思ったと同時に。


 何となく、このスト鯖EDGEの行く末を予見させるのであった。




「わざわざ喧嘩を売ってきたからには、やり返される覚悟があってのものだとも俺は思っているけどね」

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