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第52話 フィジカル部門担当の読み

「ヤバいヤバい! 来てる来てる来てる!」

「右! 右からも来てるからカバー入って下さい!」

「あつあつあつ……熱っつい!」

「奥にいるトラは全部落としましたよー」


 そこから先は、まあ言うまでもなくてんやわんやである。


 そもそもボスの行動範囲は屋敷内、もしくは敷地内であり、外まで出てくるとしたらそれはプレイヤーに反応して引き寄せられた以外にない。


 つまり誰かが敷地内へと入り、それを俺達の元へ持ってきたということしか普通は考えられないのだが――


「ちょっ……! 痛い痛い! 何でまた俺の所に来る!」

「ギシーンさんわたしが倒したのでお肉で回復して下さいねー」


「もっと距離を取ってクロスボウとAKMでトラから狩って下さい! 後【ビーストベアー】のFB(ファイヤボール)範囲内には入らないように!」


 しかしそんなことを熟慮する暇もなく訪れたボスの強襲に、俺達は慌てながらも刄田いつきの指示に従い必死に討伐に挑む。


「いや……思った以上にキツくないですかこれ……」

「でもこれで大分トラの量は減ってきたんちゃう?」

「そろそろ一気にボスを落としに行ってもいいかもねー」


「でもトラのリスポーンは約10分ぐらいらしいので、あと数分もしたら復活しちゃいますし、ミスは出来ませんよ」


「残弾的には余裕を持って倒せるとは思うけど……確かにFBにやられて時間を食ったらワンチャン負けもあるかも……」


「んーじゃーここはタンクが必要かもねー」

「タンク……?」


 タンクとは超簡易的に言えば味方の盾になることだが、当然防御力や耐久値が高いことが前提である。


 だが、この面子にそこまでの人は1人もいない。


 だのに淡路シオリは一体何を言っているのだと思っていると――何やら菅沼まりんがチラチラと俺のことを見てくる。


 その瞬間、何を言いたいのか何となく察してしまった。


「――……おい、それはタンクじゃなくてベイト()だろ」


「い、いやまあ、それはそうなんですけど……何故かGissyさんだけが雑魚(トラ)とかボスに愛され過ぎてますし……」


「ギシーンさんにヘイトを買わせて、その間にわたし達で【ビーストベアー】を倒すのが一番合理的な気はしますよねー」


「そ、それは……そうだな」


「何ならボスが屋敷から飛び出してきたのも、Gissyさんが原因なのではないかと正直疑っちゃいますよ」


 それはねーだろと言いたい所ではあったが、前例を作りまくっている以上その可能性は0と言えないのが辛い話ではある。


 それ程までに俺の運が悪過ぎるのか、はたまた運営の陰謀に俺はハメられてしまっているのか……。


 とはいえそんなことを考えても何か変わる訳でもないので、俺はAKMのマガジンを入れ替えると、ふうと小さく息をつく。


「何れにせよ……もう時間はなんだし、やるしかないだろ」

「あ――Gissyさん、すいません、損な役回りをさせて」


 別に押し付けられた所で文句も糞もないのだが――ただのスト鯖でさえこうやって律儀に頭を下げる所は刄田いつきらしくはある。


 まあ、そう言われたら頑張らない男はいないと言うものだ。

 何せ、男は基本的に単純な生き物だから。


「いや、全然気にしなくていい、取り敢えず死ななきゃいいんだろ?」


 それぐらいスタペと比べたら温いもんだと、俺はチア姿であることも忘れて格好をつけると、AKMを構えボスの前へと飛び出していく。


『! グルルル……』


「オラァ! 今度こそ先手必勝じゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああい!!!!」


 そして相変わらず威勢だけは一丁前な所を見せると、ボスの気が俺に向いた瞬間、AKMの弾を頭部に向けて数発撃ち込んでいく。


『……グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』


 すると完全にターゲットを俺に絞った【ビーストベアー】はFBをお見舞いしてきた為、俺は逃げつつそれを上手く躱していく。


 いや――正確にはFBの躱し方が分かったと言うべきか。


(一見アトランダムに攻撃しているように見えるが、案外そうでもない)


 実はこのボスのFBを使った攻撃は3パターンに別れており、それを順番に攻撃しているだけなのである。


 加えてFBをし終わった後に対象に向けて距離を詰めてくるのだが、その移動距離もどうやら大体決まっている。


(つまりFBさえ全て回避出来れば、距離を詰められることはない)


「撃って撃って撃っちまくって下さい!」

「おっしゃー! くたばれ熊ちゃんよぉ!」

「どりゃりゃりゃー」


 更に言えば、ボスがターゲットを変えるタイミングはFBを撃ち終わった後停止する数秒で、その間に攻撃をした最後のプレイヤー。


「――! ストップストップ! 一旦撃つをの止めて下さい!」

「っ! 皆さんGissyさんの言う通り止めて下さい!」


 なればそのタイミングだけ撃つのをストップさせ、俺だけがボス撃ち続ければまたヘイトは俺へと向いてくれる。


「これ繰り返せばお前は終わりなんだよ」


 イキったことを言わせて貰えば、悪いが俺も優秀過ぎるVtuber達に、いつまでもおんぶに抱っこのつもりはない。


(まあこの立ち回りを狙っていた訳でもないし、所詮は偶然気づいただけで、推測の粋を出なかったのだが――)


 だがこの認識はやはり間違ってはいないようであり、同じことを数回繰り返してもボスは動きを変える様子がない。


 故にその嵌め方が4回目に差し掛かった時だった。


「まだ死なないか――……! いや、逃げたぞ!」

「多分もう少しで倒せる筈です! 皆畳み掛けて下さい!」


 ぐらりとヨロけ、攻撃を止め逃げ出したボスを確認した途端、刄田いつきの号令で俺達は容赦なく銃弾と矢の雨を降らせる。


 まるで親の仇と言わんばかりのその猛攻に、結果的に逃げて十歩も走らない内にビーストベアーはその場で力尽きてしまうのだった。


「おおー! ナイスナイスやんー!」

「ふう…………想像以上に手強かったですね、でも――」

「というかGissyさん……一発も当たってなくなかった……?」

「ふうん……ギシーンさん、やっぱり面白いなぁ」


「はぁ……これで少しは役に立てただろう……」


 刄田いつきに力の差を見せつけられ、一時はどうなるかと思ったが。


 無事【シオーリカンパニー】フィジカル部門担当としての職務を果たせたことにホッとしていると、燃え盛る平原の中、刄田いつきが近づいてくる。


 その表情は、最初にかち合った時の怪訝そうなものではない。


「Gissyさんありがとうございました――やっぱり流石ですね」

「ああいや――もしかして、いつきさんも法則に気づいていたのか?」


「まあ7割ぐらいはって感じですね。前にボスと戦った時は屋敷内だったので――ただGissyさんの動きを見て確信に変わりました」


「成程な。こっちこそすぐにフォローしてくれて助かったよ」

「いえそんな――それと……さっきはすいませんでした」


 すると急に申し訳なさそうな表情を見せた刄田いつきが、急にそんなことを言って頭を下げてくる。


「……ベイト()のことか? それなら別に一切気にしてな――」

「いえ、それではなくミニゲームのことです」

「? ミニゲーム……?」


 はて、ボスの強襲をいち早く察知してくれたことに、感謝はあっても謝られるようなことはない筈だが――


「実はさっきの勝負、勿論真剣にやったつもりだったのですが」

「そりゃあの動きをみればな、でもボスがいたから――」

「違います。ボスは()()()()()いることに気づいたんです」

「???」


 言っている意味が全く分からず、俺は思わず首を傾げてしまっていると――彼女は妙に困ったような笑みを見せるとこう続けるのだった。




「要するに、撃てませんでした、Gissyさんのこと」

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