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第50話 カワイイ、変態、カワイイ

「うーん、ボスを倒したいけど……誰か一緒に挑んでくれないかな……」

「でもファームもしたいしー、欲を言えば強い人とやりたいなー」


「そんなお悩みの貴方! 我らが【シオーリカンパニー】にお任せあれ!」


「第五回DM杯で最強のフィジカルを見せた優勝&MVPのギシーンさんとー、準優勝のぬまりんという優秀社員が皆さんをお助けしますよー」


「加えて第三回DM杯で優勝経験のある淡路シオリもいるんですねー! なのでエイムは是非ともお任せあ――あの、ぬまりんは止めて下さい」


「いや……恥ず過ぎて死にそうなんやが」


 俺と菅沼まりん、そして淡路シオリの3人は平原エリアにある道路沿いを、ショップで購入した拡声器片手に練り歩いていた。


 目的は内容からも分かる通り、ボス戦に挑むことが出来ないプレイヤー向けに傭兵をしますよという宣伝的なもの。


 因みに何故この道路沿いの平原を選んだかと言えば、この周辺に多くの配信者が家を建てているから。


 やはり雪山や砂漠のエリアはいるだけでダメージを食らう為、その分必要な食料や物資が増えるのはあまり効率的とは言えない。


 おまけにこのエリアはボスまでの導線が最短な場所が多く、加えてショップが近くにあるのが住み着く要因というのが菅沼まりん談であった。


『なんだなんだ?』

『シオーリカンパニー?』

『お助け……要するに傭兵ってことかな?』

『いや、こ、これは――』


 実際自宅の周辺で交流をしたり、ファームをしていた配信者が何事かと俺達の方へ視線を向けてくれる。


 ただ本来宣伝をするだけなら、俺も緊張こそすれど恥ずかしいという思いにまではなったりはしない。


 では何故俺がそんな心情になったのかと言えば、時間は破壊と略奪を受けた菅沼まりんの家を見た時間まで遡る。


       ◯


「――何れにせよぬまりんさんは1日無駄にしてしまったとー」

「そういうことになりますね。はぁ……もう最悪……」


「だが――序盤で失った物資量ならまだ俺達でファームをすれば何とか取り返せるんじゃないのか?」


「と言いますかー、取り敢えずわたし達の分のAKMを作って傭兵を始めてしまえば初日以上の成果を上げれるんじゃないかとー」


「――え? しおりちゃんさんAKMの設計図を手に入れたんですか!?」

「わたしじゃなくてギシーンさんが一本釣りしたんだよー」

「は、はぁ……? 引きつっよ……」


 明らかに異常だと言わんばかりの表情が菅沼まりんから飛んでくるが、俺も十分異常だと思っているので何も言えることがない。


「そういうことだから俺達もまずはファームから始めようという話にはなっている。素材がないと傭兵以前の問題だからな」


「まあそれは……ただ、いざ始めるにしても適当に声を掛けるというのはあまりオススメはしませんよ」


「? 何でなんだ?」

「そりゃ律儀に1人1人に提案しても効率が悪いからですよ」

「ああ……それはそうか」


「やるなら大袈裟に、大々的な方がいいです。その方が印象が付きますし、今は無理でも後々お願いされる可能性があるので」


「それにその方が泥棒をした犯人を捕まえられるかもしれないしねー」

「えっ? そこまでは考えてなかったですけど……出来るんですか?」


 かなり(現状運営からアナウンスがないことを考えると相当)周到に悪事を働いた犯人を捕まえるのは容易ではない。


 だのにしれっとそんなことを言う淡路シオリに菅沼まりんのみならず俺も驚いてしまったのだが――彼女はこう言うのだった。


「そりゃーAKMを持って傭兵なんてしたらお金があることぐらい丸わかりだからー、鴨が葱を背負って来てるようなもんですよー」


「言われてみれば序盤でその裕福さを体現出来れば、また狙ってくる可能性は十分考えられるな……」


「となれば、やはり派手な宣伝でアピールをした方がいいですね。取り敢えず拡声器はショップで購入するとして後は――」


「それなんですけどー、実はわたしこういう物を釣り上げましてー」

「?」


 と、淡路シオリはそう言って俺達に何やら服を手渡してくる。


 基本的にEDGEはヘルメットやベストといった防具を身につけるものだが、それとは別に服というか衣装も存在している。


 単純にお洒落的なことも出来たり、クランなら皆同じ服を着て士気を上げるなど、楽しみ方は色々あるのだが――


「……ん? こ、これは――!」


       ◯


▼うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

▼チアしおーり最高や……

▼いや、まりんちゃんも中々に素晴らしいど……

▼Gissyよ、お前は十分に仕事をした、もう逝っていいぞ


 恐らくMODで作られたであろうヘソ出しタイプの、しかもしっかりミニスカまで履いているチアガール菅沼まりんと淡路シオリ。


 そして何故かそれに追随してチアボーイと化した俺。


 いくらVRといえその恥ずかしさは尋常なものではなく、故に俺はチョコチョコ歩くことしか出来なかったのだが――


「皆さんどうもこんにちはー! 【シオーリカンパニー】でーす!」

「ボス討伐にお困りの方はいませんかー?」


 だがそんな俺に比べ一縷の恥を見せることなく、何なら健気に踊ったりもしながら大声で宣伝を続ける二人。


 これが配信者なのだと言わんばかりの堂々とした振る舞いに、俺は衝撃と羞恥が交互に訪れる複雑な感情に見舞われるのだった。


(ただこれでもし誰も来なかったらとんだピエロになるぞ……)


 流石にそれだけは勘弁願いたいと、若干の不安が頭を過ぎらせながら俺も俺で何とか必死に宣伝を続けていると。


『すいませーん、お話聞かせて貰ってもいいっすかー?』

『俺もボス攻略困ってたから普通に助かる!』

『私もお願いしたいですけど、報酬の配分ってどんな感じですか?』

『というかAKM持ってね!?』

『え、エグ過ぎない!? これ絶対お願いした方がいいって!』


 そんなものは杞憂だと言わんばかりに、興味を持った配信者達が続々と俺達の元へと詰め掛けてくる。


「えっ? あっ、え、えーと」

「はいはい皆さん落ち着いて下さーい!」


「こちらに並んで下さいねー、あとスカートの中は覗いたらBANですよー」


『えっ……じゃあGissyさんでいいか』

「なんでやねん」


 だがそんな一斉に集まり混乱極める状況でも、2人は淡々と捌いていく。


(おいおい……)


 正直腐っても社会人の俺が何をしとると言われてもおかしくない話ではあったが、これが配信者としての立ち振舞をしっかり理解している差なのか。


 あっという間に話を取り付けてしまうと、依頼者第1号である2名のクランとボス戦を挑むことになる俺達シオーリカンパニー。


 しかも顧客まだ10組はいるという、とんでもない事態になっていた。


「まりんさんもシオリさんも凄すぎないか……?」


「いやいやー、それだけギシーンさんが思っている以上にわたし達の戦力に価値があるというだけの話ですよー」


「あ、因みにですが戦闘はこのチア姿のままして貰うので」

「は? じょ、冗談だろ……」


「宣伝をするなら徹底的にですよ。闘うチアことシオーリカンパニーとして名を轟かせれば必ず次への足掛かりへとなりますし」


「商魂たくまし過ぎる……」


 菅沼まりんこと神保陽毬の普段の勤務が、本当にコールセンターなのかと言わんばかりのバリバリのプロデュース力。


 当然その根源は好きと野心なのだろうが――

 この猪突猛進な感じは、また何か起きそうで心配だな……と思っていると。


「お、着きましたよー」


 俺達はマップで見て南西側にある、古びた屋敷へと辿り着く。


「――ここがボスのいる屋敷か」

「一応マップ上に点在するボスの中では一番弱いですねー」


『私達も一旦どれぐらい強いのか試してみたんですが、これが思った以上に強くて2人じゃ全く歯が立たなくて……』


『ボス名は【ビーストベアー】。近くにいると物理攻撃を仕掛けてきて、距離を取ると口からファイヤーボールのようなものを吐いて火炎瓶相当のダメージを与えて来る感じです、体力も弓やクロスボウだと中々減らないです』


『一応遮蔽物はあるので距離を取って戦えば勝てると思ったんですが、そうなると今度は取り巻きのトラが襲ってくるんですよ……』


「トラ……」


 そのワードを聞くと軽いトラウマが引き起こされそうになったが、その心情をぶった切らんと言わんばかりの声を菅沼まりんが上げる。


「ご安心下さい! 我らが【シオーリカンパニー】は安心と信頼と実績でやらせて頂いておりますので、このチアの名に賭けて必ず討伐して差し上げます!」


「AKMでちょちょいのちょいですよー」


「……何だかその勢いは心配ではあるが、依頼を完遂しない訳にいかないので、取り敢えずやると致しましょうか」


 そう口にすると、俺達はチア姿のままAKMを構え屋敷に向け一歩足を進める。


「――――よし、行くぞ!」

「はい! 行きましょう!」

「おおーーーーー!!! ――……ん?」

「……え?」


 しかしそんな掛け声に真っ先に呼応したのは、何処で効いたことはあるものの、間違いなくこの場にはいない筈の声。


 はて、これは一体どういうことかと俺は視線を右に向けると――




「…………セーラー刄田いつき?」

「…………へ、変態?」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] RUST元ネタやろうけどこれ皆普段活動してるアバターそっくりになってるの? 各々そんな物入れてたらサーバーくそ重そう
[一言] まぁ来るよね笑
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