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第49話 兆しの先の不穏

「――……あれ、しおちゃんさんじゃないですか」

「おー、ぬまりんさんじゃーん」

「いやだから、その呼び名は止めて下さいとあれほど」


 土曜日、スト鯖2日目。


 初日は残業&トラに追い回され出遅れを極めたものの、最終的に淡路シオリと出会い、加えて最強武器AKMの設計図を手に入れることとなった。


 つまり誰よりも時代を先取りしてしまった訳なのだが――では他の人はどうなのかと言えば案外遅いとも言えない。


 噂によればボス攻略は既に始まっているらしく、何ならまだ寝ずにEDGEをプレイしている人猛者もいるのだとか。


 やはり時間はかければ掛ける程絶望的な差を生み出す。うかうかしていたらあっという間に追いつかれてしまうだろう。


「? 菅沼さん、淡路さんと知り合いだったのか?」


「んー――……それよりまずGissyさん、名字で呼ぶの止めにしません? 今時Vtuberをずっと名字で呼ぶ人あんまりいないですし」


「わたしのこともシオリでいいですよー」

「え、ああ……分かりました」


 確かに言われてみると配信者、リスナー問わずVtuberを呼ぶ時は皆下の名前で呼ぶ事が多いような気がしないでもない。


 無論その方が親しみやすいからだとは思うが、こういう呼び方を切り替えるタイミングって今一つ分からないから結構困るんだよな……。


 ましてや配信者となると、馴れ馴れしくなるのも嫌だし。

 ただまあ、『シオリちゃんさん』は流石にどうかと思うが。


「シオリちゃんさんはDM杯が終わった後にくるる先輩――同じVGの伊地知くるる先輩に繋いで頂いて一緒にゲームをしたんですよ」


「アンビのランクを一緒に回したんですよねー」

「成程それで――」


 ちなみにアンビとは【AMBT1ON】というスタペの少し後にサービスを開始したバトロワ系のFPSである。


 AOBと同じバトロワ系の為システムは似ているが、単純な撃ち合いだけではない要素色々があり面白いと、スタペに違わぬ人気のゲーム。


「あの節はどうもありがとうございました」


「いやいやー、わたしもぬまりんさんとはゲームをしたかったので、楽しい時間を過ごせて良かったよー」


 とはいえ、彼女と淡路シオリに交流があったのは有り難い話である。


 何故ならこれからしていく話は、やはり知り合い同士でなかったら断りづらい話になってしまうだろうから。


「――……」

「ん? な、何だ?」


 だがそんなことを思っている俺に対し、何やら菅沼まりんが腕組みをしてジロリと鋭い視線を向けてくる。


「それで? Gissyさんは私の提案を断って、シオリちゃんさんとクランを作ることをわざわざ報告しに来てくれたんですか?」


「は!? いや、そんな趣味の悪いことする訳ないだろう。大体俺とシオリさんはまだクランを作っちゃいない」


「でも作る予定ではあると」

「それはまあ……そうですけども」


 トラに襲われて中途半端に話が終わったとはいえ、菅沼まりんの提案を断ってしまったのは紛れもない事実。


 元からそのつもりではあったものの、本題に入る前にはと俺はサッと頭を下げようとしたのだったが。


 それよりも先に、淡路シオリが俺達の間に割って入るのだった。


「ぬまりんさんって意外と可愛い所があったんだねー」

「えっ?」

「まあムッとしちゃう気持ちは分かるけどー」

「いや別にムッとしてなんか――きゃっ!」


 すると菅沼まりんの背後にくるりと回った淡路シオリは、意地の悪そうな表情を浮かべながら彼女の頬をぐにぐにと引っ張り始める。


 だからといって別に感覚がある訳ではない筈だが――菅沼まりんはやけにむず痒そうな反応を見せ出した。


「ちょ、ちょっと……シオリちゃんさん!」


「でもギシーンさんも反省してるからわざわざ探しに来たんだよー? 勿論わたしが言った訳じゃなくて自主的にねー」


「そ、そうかもしれませんけど……」


「それにクランを結成しようとしてるのは事実だけど提案したのはわたしだからー、あんまり怒らないであげて欲しいかなーって」


「ぬぬ……わ、分かりました! 分かりましたから一旦離れて下さい!」


 どうやらアバターであっても妙な気持ち悪さがあるのだろう。ウガーと両手を上げ咆哮した彼女を見てようやく淡路シオリは彼女から離れる。


▼いいっすね~

▼しおーりはこういうの上手いよなー

▼てぇということで宜しいか?


「はー……もう、よりにもよってシオリちゃんさんと出会うなんて……」

「ぬまりん~?」

「いえ、何でもないです。後ぬまりんは止めて下さい」


「いや……でも厚意を無下にする感じになって申し訳なかった。正直俺もちょっと変に迷い過ぎてしまって――」


「――謝られても困りますよ、実際誰も悪くないですし」

「…………」


「何れにせよ、大凡の話から察するに、私とGissyさん、そしてシオリちゃんさんの3人でクランを結成したいということでいいんですよね?」


「ああ。ただ俺の時間がどれだけ取れるか保証は出来ないんだが」


「いや、それは元から考えがあるので大丈夫なんですが――ただその、実は私にものっぴきならない問題が起こってしまいまして」


「?」


 淡路シオリの有難過ぎるアシストもあり、これで無事クランを結成、後はお互いの思惑について話せる段階に入ったと思ったのだが。


 神妙な顔になった菅沼まりんが、こんなことを言い出すのだった。


「というのも私、泥棒に入られてしまいまして」

「ど、泥棒!?」

「勿論リアルの話じゃないですよ」


 すると彼女は昨日俺が死を遂げた家の、裏側へ来るよう手招きをしてくる。

 故に俺達はその後を付いていくと――


「……これは」

「見事に壊されてますねー」


 そこにあったのは、まるでこの家はハリボテだったのかと思わせる程の壁に空いた大きな穴だった。


「んー多分だけど、これは火炎瓶かなー」

「序盤なら比較的手に入り易い設計図なので私もそうだと思います」

「中にあった物は?」

「……手持ちも、収納箱の中も全部盗まれましたね」

「ということはまさか――」


 だが、あれ程の炎上の引き金となったオフラインレイドを、スト鯖開始2日目で仕掛けた人、いやクランがいたのか……?


「でもー、流石にこれは鳩が飛んで来ると思うけどなぁ」

「それは私も思いましたが――実際飛んできてないんですよね」

「なら――仕掛けた配信者は配信外で行ったと?」


「それかそもそもレイドではなく、誰かがイタズラでやったかですね。所詮は木の家で、しかも序盤なので、笑い話で済むと言えば済みますし」


 そう言って小さく笑う菅沼まりんであったが、恐らく自分の計画が崩れたせいだろう、あまり元気があるようには見えない。


「…………」


 ……それに流石にここまで落ち込んでいるとなると、菅沼まりんのファンが黙っているとは思えない。


 実際俺から見てもあまり気分良いとは言えないし……となれば、ただのイタズラなら当然謝罪があってもおかしくはない。


 つまり、これは配信外で悪意を持ってやっている――




(じゃあ一体誰がこんなことを――?)

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[良い点] てぇの気配、私の大好物です。 どういう関係性に発展していくのか楽しみです [気になる点] VRで普段ゲームしている身として、50万もする専用機器なのにコントローラー無しのキーマウな部分に激…
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