第48話 ワクワクする方へ
突然ではあるが、簡単にEDGEにおける武器のティア表を紹介しようと思う。
●ティアS
・AKM(AR系)
・M249(LMG系)
●ティアA
・Kar(SR系)
・M41(AR系)
・ロケットランチャー
●ティアB
・トンプソン(SMG系)
・セミオートピストル(ハンドガン系)
●ティアC
・リボルバー(ハンドガン系)
・ポンプ式ショットガン(SG系)
・ダブルバレル(SG系)
●ティアD
・弓(クロスボウを含む)
因みにこれはあくまで銃火器系に絞ったティア表である。
投擲武器や近接武器などを入れるともっと増えるのであるが、銃火器が主要武器となるEDGEでは大体これが基本となっている。
つまりこのことからも分かる通り、俺は最強に位置する2つの武器の内の一つを一本釣りしてしまったということ。
「凄いですよー! 噂ではスト鯖期間中に手に入れられるのは1人か2人と言われてる確率の設計図なので、間違いなく市場を独占出来ますよ~!」
「マジか……ということは――」
「一攫千金、億万長者も夢ではないですねー!」
まさかトラに追い回された先にあったのが、こんなプレイヤーの中核を担うほどの最強武器の設計図とは――
一歩先どころか千歩先に、薄すぎる確率をぶち抜いたことで到達してしまった事実に軽く目眩を起こしそうになる。
「ただそうですねー……問題はAKMを沢山作るだけの素材を、まだ作ることが出来ないということですかねえ」
「あ――それはそうか。しかも売るにしても相手もお金が……」
「おまけにAKMだけじゃ意味がないので5.56mmの銃弾の設計図も必要なんですよねー、ただこれは比較的手に入りやすいみたいですけど」
「つまりこいつが本領を発揮するのは中盤からですか――」
「そういうことになりますねー。ただやりようによっては全然序盤から力発揮することは出来ると思いますよ」
「? と言いますと?」
「まず弾の設計図を見つけるのもいいですけど、それより設計図を持っている人を探した方が早いのでー、そこで同盟を結ぶかクランを作ってしまう訳ですねえ」
「成程、それなら量産体制に入れなくても自前の分は十分に作れる」
「そこから2つのパターンに分かれるんですがー、一つは傭兵ですね」
「傭兵……つまりボスを倒しに行くクランを手伝うと」
「ボスのレベルにはよると思いますけど、多分序盤は皆さん弓とかリボルバーで挑む筈なので苦戦すると思うんですよー」
クランの最大人数は5人までなので、攻略組として動くクランは多分勝てるとは思うんですけどー、と淡路シオリは言う。
「となるとそれ以下の、数の力で押せないクランや1人でボスに挑めない人の所に行くのが一番良さそうですね」
「それでボス戦が終わった後は報酬を分ける、という話ですねえ」
確かにスト鯖内で最強となる武器なら、序盤のボスぐらいは弾数が少なくても十分過ぎる戦力となってくれる筈。
弱きを助けるというのはアレだが、結果そうなるのも悪い話ではない。
「それは良い稼ぎ方になりそうですね」
「ただー、これは正直稼ぐ手段としては多分ショボいですよ」
「? 何でですか?」
「やってみないと分からないですけど、AKMの火力なら多分弱いボスは1人か2人で周回できると思うのでー」
「あー――……ということは」
そもそも傭兵などせず、自分達でやった方が旨味は強い。
「もっとエグいことを言えばー、フルのクランで3名はファーム、2人は序盤のボスを周回させればボスの独占も不可能ではないんですよねー」
「それは、要するにボスを倒したければ金を出せ……と」
「お金だけのことを考えればー、という話ですけど」
ほんわかとした雰囲気を醸し出しながらしれっと恐ろしいことを言う彼女に、俺は若干引きそうになる。
とはいえ、この発想がスッと出来る辺り、やっぱり淡路シオリのゲームセンスというのは並ではないのであろう。
「中々容赦のないことを思いつくんですね……」
「まー出来るというだけでオススメはしませんけどねえ」
流石に彼女もここがスト鯖であるということを理解した上で、一応提言はさせて貰ったという感じなのだろう。
そう思うと、やはり有名になったストリーマーは皆発言や行動を気にし過ぎるほど気にしているんだなと思ってしまう。
「まあ、その中で言えば同盟かクランを組んで楽にボス戦に挑むか、傭兵として協力するかが現実的な話でしょう」
「ですねー、わたしもそれがいいと思いますー」
「ただ――」
「?」
「いえ、その、何故それだけ発想力があるのに、あまり効率が良いとは言え無さそうな釣りをしていたのかなと思いまして――」
知識面は分からないが、正直彼女の程の気づきがあるならそれこそクランを組んでボス攻略をした方がいいまである気がする。
幾らマイペースとはいえ、彼女なら上手く――と思っていると、喋りながら釣りを続ける彼女はこんなことを言うのだった。
「んー何と言いますか。基本的にワクワクしないと、わたしは何事もやりたいと思わないんですよねー」
「ワクワク――?」
「何でもいいんですよー? お金を集めることでも、ボスを攻略することでも、過程でもいいのでワクワクすればやるんですけど、例えいい事を思いついてもワクワクしないならやらないんですよねー」
「ということは……淡路さんにとっては釣りがワクワクしたと」
「その通りですよー。何事もワクワクするならやるべき、仮にそれが失敗しても非効率でも、やらないで後悔するよりはいいと思いますしー」
「! ――……」
まあ勿論それで炎上したらダメですけどー、と言いながら彼女はヒョイと竿を引き上げると鮎を釣り上げる。
(……確かに、やらずに後悔というのが一番いけないかもしれない)
そもそも何かをやるにしたって、自分の状況を予め伝えた上で参加するということは出来る筈なのだ。
それで良いなら誰にも迷惑を掛ける訳じゃないし、駄目だと言うならそれは仕方ないとして物別れするだけのこと――
やる前から足手まといだの何だの言っていても、何も得られないどころか失うものの方が多いに決まっている。
(相反する心情を解消したいのであれば、心の赴く方へ突っ込むしかない)
それが結果として、誰かを喜ばせられるのであれば尚更――
「でもー、わたしは今釣り以上にワクワクすることが出来たんですよねー」
「?」
そう思ったことで自分の中で一つの整理がつき、迷いが消え始めていると、淡路シオリは釣り竿をしまいその場からゆっくりと立ち上がる。
一体なんだろうかと思い、俺はつられるように立ち上がると――手を差し伸べてきた彼女ははにかんだ笑みを見せこう続けるのだった。
「ギシーンさんは非常にワクワクさせてくれそうなのでー、良かったらわたしと組んでくれませんかー?」