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第45話 私のライバルは

▼うおおおおおおおおおおおおおお!!!

▼DM杯最強のストライカーが早くもwww

▼スト鯖でも最強のエイム見せていきますか……


 これは果たして幸と言うべきか不幸と言うべきなのか。


 リスナーはまるで奇跡の対面だと言わんばかりの盛り上がりを見せていたが、俺と菅沼まりんは完全に硬直してしまっていた。


「…………」

「…………」


 当然言葉はない、何なら虚無にも似た時間が刻々と過ぎていく。


 いや……これは流石に駄目だろうと、そう思った瞬間、ふいに俺の視界が徐々に赤く染まり始めていた。


「あっ、痛い痛い、すいませんこれ逝って失礼させて頂きま――」


 菅沼まりんとトラに挟まれた状態では最早逃げるもクソもない為、俺は精一杯恐縮そうな声を上げて素直に逝こうとすると。


「…………」


 突如彼女はすっと背中かからダブルバレルを取り出し構えたかと思うと、銃口を綺麗に俺の頭に合わせてくる。


「あっ、一思いにやってくださると。それはありがとうございま――」

「何言ってんですか」


 刹那、炸裂する銃声、悲鳴をあげるトラ。


 そして華麗にリロードをすると更に3発4発と、菅沼まりんはトラの頭に銃弾を打ち込んでみせると、そのまま倒してしまうのだった。


「おお……ナイスエイム」


「うわー……マジで最悪だ。ここぞという時の為に取っておいたのにもう後2発しかないじゃんもー」


「え? あー……それはすいません……でした」

「――……まあいいです。取り敢えず入って下さい、また襲われても面倒なんで」


 すると、てっきり邪魔だから帰ってくれと言われるかと思いきや、予想外にも彼女は家にまで上がらせてくれる。


 故に俺は一つ礼を言い入ると、中は人2人ぐらいが限界のシンプルな作りになっており、奥に寝袋と収納箱が置いてあるのみ。


 見る限り仮拠点といっただろう。


「あ、柱には触らないで下さいよ」

「流石にそんな卑劣な真似はしないって」


【柱】には簡単に言えば家の管理者になる機能があり、触ると家の維持や増改築、何なら取り壊すことも簡単に出来るようになる。


 明確な勝ち負けのないサバイバルゲームでは、レイドのゴールはこの柱を触ることとも言われており、非常に重要な存在。


 まあスト鯖においてはあまり関係ないかもだが……それでも幾らでも悪戯は出来てしまうので基本的にクランメンバー以外に柱を触らせることはまずない。


「……取り敢えず、焼いた肉と水はあるのでどうぞ」

「おおありがてえ……文明が進んでらっしゃるようで……」

「いや普通に最低限なんですけど――」

「でも本当に助かった、お礼に何かあったらいつでも言ってくれ」

「弓の原始人なんて肉の壁にしかならないでしょ、別にいいですって」


 と、若干素っ気ない感じはあるものの、終始お恵みを与えてくれる菅沼まりんに俺はただただ感謝をし続ける。


 まあ配信中の状態で冷たい対応を取っても、自分に得がないからしないという方が正しいかもしれないが……。


(そういう意味では、偶然とはいえ若干申し訳なくはあるな……)


 因みに菅沼まりん、もとい神保陽毬とはDM杯以来一度も話をしていない。


 ただ別に会社でも露骨に避けられている訳ではなく、今まで通りに戻ったというだけであり、特別何かをされたという話ではないので悪しからず。


 第一、優勝した側から声を掛けるのは何かウザいしな。


「――というか、もしかしてですけどかれこれ5時間、その原始人の格好で何もせず草原を駆け回っていたんですか?」


「いや流石にまだ1時間ちょっとなんですけど、何故かファームをする先々で必ずトラに襲われ、全く文明が進まない状態でして……」


「? そんなトラって湧き多かったっけ……」


 何だか変な感じではあるが、配信上では俺と彼女の関係性は皆無に等しい為、あくまで敬語は崩さずに話を進めていく。


 それに、配信者としては一応先輩ではあるし。


「まーでも、スト鯖だからそれぐらいは幾らでも弄れるか……どうやらMOD(改造データ)も普通に入っているみたいですし」


「いずれにせよ自分はいつでもプレイ出来る感じじゃないんで、まともに遊べるぐらいまで整えば良かったんですけど、それすらままならず……」


「ふうん……じゃあエンジョイでやる感じですか」

「まあエンジョイで出来るかも分からないですが……」

「…………」


 そう口にすると、何故か菅沼まりんが俺をジトりした目で見てくる。


 え? 何か癪に障るようなことでも言ったか……? と少し恐々としてしまっていると彼女はこんなことを言い出すのだった。


「それ、勿体無いですよ」

「勿体無い?」


「ええ、勿体無いです。何故ならGissyさんは今一番油の鮮度が良い時期だからです。配信をするだけで登録者も同接も増える無敵状態なんですよ?」


「まあ……言わんとすることは分かりますが――」


「そこで奇跡のように重なってきたスト鯖EDGEを、ただ普通に過ごすと? そんなのはあまりにも勿体なさが過ぎる行為です」


 やけに熱の篭った、真剣な表情で語りかけてくる菅沼まりんに、俺は少し意外な気持ちになっていた。


(何でわざわざ俺にそんなことを――)


 彼女はDM杯で優勝こそ逃したが、やはり新人のVtuberが本気で闘う姿はファンを大いに獲得したのである。


 何なら登録者数はたった数週間で10万人以上もプラス、同接も平均3000人超えとかなりの高水準で上がり続けていた。


 無論コンテンツとしての強さも当然あるとは思うが、やはり一番は彼女が長年磨いてきたトーク力を多くの人に見せれたことだろう。


 実際コラボの回数も飛躍的に増えている。

 となれば、彼女はもう完全に軌道に乗ったと言ってもいい。


 つまりこの先どうなるか分からない不安から解放された彼女に、そんな台詞を言う必要は本来微塵もない。


「――とはいえ、俺は経験値も足りなければ、時間も足りないので」

「一理ありますけど、それは早計じゃないですかね」

「早計じゃないですよ、俺は皆と比べたら到底――」

「いえ、早計です」

「……? ――――!」


 と。


 そう言った彼女はまたダブルバレルを取り出すと、今度はその銃口を俺の頭へと合わせてくる。


 どうせ死んでもただリスポーンするだけだというのに、その妙に真剣にも見える表情と相まって妙な緊張感を俺に与えていた。


「――……何でそこまでするんだ? 極端な話、俺がどうなろうと菅沼さんには関係のない話だと思うが」


「確かに、全く関係ないですね」

「だったら」

「気に食わないんですよ」

「気に食わない……?」


「私の屍を踏み越え頂点に立った貴方が、それなり以下の立ち位置で収まろうとしていることがどうにも気に食わない」


「…………それは随分と勝手な意見ではあるな」

「大いに自覚はあります」


 しかし配信中という状態でわざわざそれを口にするということは、嘘や冗談で言っている訳ではないのだろう。


 まさかそんな風に思われているとは思わなかったが。


「――だがそうは言ってもスト鯖は大会みたいに明確なゴールがある訳じゃない。お金の勝負はあるにせよ、結局そこもボス周回が出来るクランが強い筈だろう」


「お、意外と分かってるんですねGissyさん」

「そりゃただ倒すだけのボスなんてやる意味がないからな……」


 この手の類に詳しい訳じゃないが、やはり報酬が良いからこそボスに挑むというのは至極当たり前ではある。


 無論それだけではないことは分かっているが、効率的に進めたいのであればそこは切っても切り離せない部分だろう。


「だからいくら勿体なくとも、俺みたいな立場で出来ることは無――」

「ですがGissyさん、その考えは甘いです」

「甘い?」


「Gissyさんもご存知とは思いますがスト鯖というのは自由です、お金を稼ぐのであれば何をしてもいいですよ」


「……まさかオフラインレイドでもするつもりか?」


「いやいや、それはただの炎上商法じゃないですか。大体私はそういうやり方は下品なので好きではないです」


「だったらどうやって――」


 そう口にした途端、菅沼まりんの口元がニヤリとしたように見える。


 いくら最新鋭のVRゲームといえ、そんな細やかに表情が動くとは思えなかったが――しかし彼女はこう続けるのだった。




「簡単なことです。私達がこのスト鯖の支配者になればいいんですよ」


「…………は?」

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