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第43話 ぼっちの恐怖

▼Gissyさんってスト鯖やるんですか?


「んー……?」


 SCLの現地観戦から帰ってきた翌日。


 俺は観戦した話や直接会った配信者のことでリスナーと雑談配信をしていると、ふいにそんな書き込みが入ってくる。


 因みに優勝したのはLIBERTAで準優勝がDeep Maverick。


 惜しくもLIBERTAに連覇を渡す形となってしまったが、世界大会の切符は失った訳ではなく、まだプレイオフが残っている。


 是非ともDMには引き続き頑張って欲しいものだと、俺はそんな内容も含めて話をしていたのだったが――


「……どうだろうな、声を掛けて貰えたら是非という感じだが」


 俺は適当な言葉で、そのコメントをいなしていた。


 一応スト鯖の運営からSNSを通じて匂わせはされているが、まだ正式にすると発表された訳ではない。


 分からない時は言わない、ヒデオンさんから教わった言葉である。


▼でもGissyさんがスト鯖行ったらどうなるんだろうな

▼ボス戦とかあるなら結構活躍しそうではあるけど

▼Gissyさんってサバイバルゲームのプレイ経験は?


「いや全然ないな。だから仮に招待されてもまともに役に立つことも出来なさそうというのが正直な所ではある」


▼しかもGissyさん社会人だしな、時間が足りないか

▼Keyさんとか毎回スタートダッシュエグいしな

▼初日から24時間以上プレイするのは普通じゃねえよ

▼でも早ければ早い程武器とか素材で有利に交渉出来るから

▼もう33だっけ、ゲームへの意欲はマジで10代だわ

▼見た目も10代だよ、顔若過ぎ


「そうそう、だから出来るにしても俺はエンジョイだよ」


▼変にガチクランとか入ったら大変なことになるしな

▼とはいえ、知識がないままもしぼっちになったら辛くないか

▼そういやぼっち拗らせて炎上した奴前にいたなー

▼あーあれは最悪だったな、マジでつまらんくなって最悪だった


「――……」


 そう。


 実はその昔、とあるスト鯖で1人の配信者が炎上した。

 その配信者は全くの無名ではなかったが、同接は100以下。


 ゲームは下手ではない、寧ろカジュアル大会では上位常連の上手さで、その実力で視聴者を獲得していった程。


 だがそれでも中々同接が増えることがなかった。


【どうにかスト鯖をキッカケに、人を集めたい】


 そんな思いを抱き彼はスト鯖へと参加したらしいが、そもそも彼はあまりコミュニケーションが得意なタイプではない。


 おまけに初日からスタートが出来なかったせいもあり、完全に出遅れた彼は中々馴染むことが出来なかった。


 それでも知識がないまま1人で進めていこうとしたが――交流はあっても挨拶程度で、地味な配信が続いていく。


 同接は、いつもよりも大きく下回っていた。


【駄目だ……このままじゃ……】


 恐らく、本来はここで止めるのが賢明であっただろう。

 今回のスト鯖は運が無かった、次があれば活かせるようにしようと。


 だが、日々中々伸びない配信者人生に嫌気が差していた彼が取ったのは【オフラインレイド】という最悪な手段。


 つまり何をしたかと言えば、有名配信者のクランがいる建物をグレネードや火炎放射器等を使い破壊し、武器や素材を強奪したのだった。


 スト鯖は普通のサーバーと違い争いを主としていない為、建築物の作りが頑丈でなかったりすることが多い。


 故に物資が乏しい彼でも簡単に突破することが出来た。


【さあ、これで戦争が起これば大盛りあがりするに違いない……!】


 だがそういった行為をスト鯖でするとファンの怒りを買う。


 いくら自由なスト鯖と言えど、予告なしに、しかも有名とは言えない配信者が仕掛ければリスナーが黙っている筈がない。


 結果大炎上に次ぐ大炎上を引き起こすこととなり、実家の住所を割られ脅迫文まで送りつけられる事態に。


 結局戦争が起こる前に、彼は配信者引退まで追い込まれた。


(実際はレイドされた配信者達は怒っていなかったし、何なら行き過ぎたファンの行動に苦言を呈す程だったのだが――)


 一度起きた畝りは、どんな有名ストリーマーでも止めることは出来ない。

 故に彼は、引退する直前にこんな言葉を残したらしい。


【人気者は人気者同士でつるんですぐ力を付ける。でも俺みたいな中途半端なぼっちは目立つことも出来ず、詰んで止めるしかない】


 そんな奴らが、一体何人いると思っているんだ。

 だったら、こんなことでしか目立てないだろうが、と。


 無論それ関しては同意しかねる部分は大いにある。

 だが彼の境遇自体は、切り抜き経由で見た時に妙に刺さるものがあった。


(俺もこうなる未来は、大いに有り得る)


 流石に炎上経験のある身としてレイドは死んでもしないが――配信者としての凋落までの課程はあまりに似通っているものがある。


 つまりこの配信者と自分が、妙に重なった気がしたのだ。


「まあ……中々難しいもんだな。スト鯖なんて人気云々を考えてやるもんじゃないのは当たり前なんだが」


▼有名になるより楽しく出来るかが一番だよな

▼でもあんな自由に配信者と交流出来る場ってまずないわ

▼配信者どころか普通に有名人もいるしな

▼正直俺が微妙な配信者だったらワンチャン考えちゃう

▼そのワンチャンを踏み出すのも勇気がいりそうだけどな

▼まあGissyさんはそんな意識する必要はなさそうだけど


「……実際変に意識して期待通りにならなかったらしんどいっていうのはあるだろうし、考えない方が健康上はいいんじゃないか」


 と言いつつも、意識せずにはいられないのが人間ではある。


 ただ俺の場合は人気どうこうよりも、この味わったことのない世界から退場することの方が怖いと思っていた。


 しかし皮肉ながら、この世界は人気が無ければいられない。


 だからこそ、俺はつのださんにDMへの加入を勧められた時、大きく心が揺れ動く自分がいたのは事実。


 事実ではあったのだが――


▼けどGissyさんなら伝説メンバーと出来そうじゃね

▼確かに、今でもアオちゃんとデュオやったりしてるし

▼伝説メンバーをスト鯖で見れるのは熱いな~


「――まあまあ、出れるかどうかも分からないことを話しても仕方ないだろう。それよりいい加減スタペでダイヤ到達しないとな」


 と、俺は雑念を振り切るかのように強引に雑談を終わらせてしまうと、スタペを立ち上げいつも通りソロ配信を始める。


 だが頭の中では、こんな良くない思考に溢れていた。


 確かに、伝説メンバーに会えれば懸念は大分解消されるかもしれない。

 それこそ、事前にそんな話が来る可能性も――


「――――……あっ」


 しかし。

 そんな思考は当然ながら負けを増やす要因にしかならない。




 結局雑念塗れの俺はランクをゴールドまで落としてしまい。

 何ならスト鯖当日まで誰からもそんな連絡が来ることはなかった。

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