第38話 トップ会談的な何か【番外編3】
3人称視点です
「ちゃっすちゃっす」
「おうおう」
「ういーっす」
都内某所、某日。
金髪のマッシュ気味な髪型に、塩顔のシュッとした体型の男。
ツーブロックの髪型を、ジェルを使ってオールバックで固めた、少し濃い顔をしたガタイのいい男。
茶髪にパーマが入ったミディアムヘアをセンターから分けている、赤縁の丸眼鏡が特徴的な小太りな男――
トップストリーマーと呼ばれるKey、ヒデオン、AceLabの3人は、都内では知る人ぞ知ると言われる高級料理店の円卓で、上座を空けて座っていた。
とは言っても、彼らはただ食事に来た訳ではない。
「先入っとってくれと言われたものの、林さんはいつ来るんや?」
「仕事が押してるんじゃない? 多分もうすぐだろうけど」
「先に食べていいとか言ってなかったん?」
「どうだろ。コース料理っぽいし、その辺も店側に伝えてるんじゃないかな、早く食べたいならラボくんが訊いてみたらいいと思うけど」
「んー……それはダルいから無理だ……」
「じゃあもう少し待つとしよう」
AceLabのことをよく理解しているKeyは、敢えてそう言うことで素直に待たせるという方向に自然とシフトさせる。
「あ、そういえばヒデくん優勝おめでとう、君達のチームマジで強かったね」
「ん? ……なんや珍しいな、お前がそんなこと言うなんて」
「いやいや、配信者界隈も規模が大きくなって久しいけど、君は全然優勝出来てなかったからさ、祝福ぐらいはしてあげないとと思って」
「なんや準優勝の癖に煽ってきよって――まあお前のことはしこたま落としたったから今回は勘弁しといたるけど」
「でも君のSRは途中から完全に現役と同じ【東大阪の死霊】だったな」
「その名前はお前が言い出して広めた糞みたいな別称やけどな」
「あぁ、そういえばヒデくんDM杯優勝したんだっけ?」
「――おいおい、お前俺の勇姿を見てなかったんかいな」
「そりゃー、自分が関係ない大会とかは基本見んでしょうよ」
「お前は相変わらずなやっちゃな……」
「ラボくんはそういう性格だから仕方ないよ」
AceLabは基本的にイベントや大会に積極的に参加する性格ではない。
自分がやりたいゲームがあればそちらを優先するし、そもそも彼は流行りや勝負事に強い拘りを持っていなかった。
ただその分、面白いと思う物事には積極的に関わりエンタメを提供していく――そこが彼の人気ストリーマーたる所以だった。
「まあそれはさておき。実際皮肉ではなくちゃんと俺達は負けたからさ、何なら負けて普通に悔しいと思ってるし」
「――ま、そこはいっちゃんの優秀さと、Gissy君の成長が全てではあるけどな、あの2人どちらが欠けても俺等は優勝出来へんかったよ」
「ああ、確かにGissy君は凄かったな。まりんさんも相当上手いと思ってたけど――この2人は完全にサプライズだったね」
それに今回のDM杯で二人共相当名を上げたみたいだし、つのださんは流石だなと、Keyは満足そうにも聞こえる声で言う。
「言われてみるとDM杯で名を上げた配信者はそれなりにはおるが、ここまで話題になったのは今回が初めてな気がするな」
「それだけドラマがあった大会なのは間違いないと思う」
「ふうん、その2人ってそんなスタペ強いのか」
「多分お前とやったら普通にボコされて終わるんちゃうか」
「そりゃそうとしか言えねえって。スタペとかもう半年以上やってねえしな」
「でもマーシナリーは踏んだんじゃなかったっけ」
「タッチはした筈、でも何かそれで満足してやらなくなったな」
大体おれは昔から飽き性というか、流行りのゲームだからやるとかがねえしと、AceLabは大きく欠伸をしながら目をこする。
「ほならSCLのオフラインも行かへんのか」
「行かないでしょ、ウォッチパーティーあるんだっけか?」
「現地でやるね、多分結構配信者も観に来る筈だけど」
「あー……どうせやったらDM杯優勝記念みたいな感じで、ウチのチーム呼べへんのかな、丁度タイミングもええんやし」
「Vtuberの子達はアレだけど、丁度お盆だしGissy君ぐらいなら何とかなるんじゃない? あ、でも顔出しはしてないのか」
「流石にウォッチパーティーには出さんやろ。取り敢えず会場でSCL見て貰って、その後飯とか行けたら理想やねんけどな」
「じゃあ、どうせなら妹さんも呼んだらいいんじゃないかな?」
「……は? 何でお前Gissy君に妹おること知っとんねん」
「俺は興味のあることは割りとすぐ調べるからね。妹さん、Vtuberになったら一瞬で天下を取れそうな素質のある可愛らしい喋り声ではあったよ」
「……お前のそういうとこマジでキショイよな」
そう口にし何かを噛みしめるかのように腕を組み頷くKeyに、ヒデオンは侮蔑とも取れる表情を彼に向ける。
Keyは配信者界隈でも随一と呼ばれるイケメンとされているが、その反面かなりオタク気質であることでも有名だった。
何なら人気だけでなく過疎Vtuberから原石を探す程であり、将来はVtuber事務所を立ち上げるのではと噂されているとか。
「まあいずれにせよ、俺もGissy君とは会ってみたいと思っていたし、可能かどうか俺から訊いてみることにするよ」
「そうか、ケイからも言うて貰えると俺も助かるわ――」
「――つーかさ、話は変わるんだけども、林さんが俺らのこと呼んだ理由て【スト鯖】の件でいいんかな」
そんな風に話をしていると。
黙って話を聞いているとお腹が空いてきてしまったAceLabが、空腹を紛らわす為にそんなことを言い出す。
「ん? まあ……多分そうやろな、せやけど今回って何するんや?」
「何か結構大きいことをするとは聞いたけど、詳細は分からないな」
「ふうん……まあ林さんのやるエンタメは個人的には好きだから、俺は結構楽しみにしてんだけどなー」
「俺も毎回楽しみではあるよ、まあずっとは流石に疲れるから大体半年に一回ぐらいでいいと思ってるけど」
「お前らは毎回スタートダッシュがイカれとるからやろ、しかもそれで無茶苦茶もしよるから普通にやる方としてはかなへんわ」
「あの手のゲームは時間をかければかけるほど有利になるからしょうがないよ」
「まあただ今回はいつもと全く違う可能性もあるっぽいし一概には――お?」
と、言いかけた所で。
個室へと繋がる扉が開き、1人の男が入ってくる。
年は3人よりも上であり、その小綺麗な見た目は妙に貫禄を感じさせる男――
『ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐーーーーーーーーーー!!!!』
だがその人の姿をみた瞬間、AceLabのお腹が地響きのように鳴ってしまった為、思わず笑いが起こってしまうのだった。
◯
「はーい、いつもご苦労様です――ここに判子を押せば良いんですね? ――はい、こちらこそありがとうございました――――ええと……ワレモノ注意で……荷物はお兄様宛ですね…………VRゴーグル?」