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第37話 とある女子会【番外編2】

「いつき、久しぶり」

「あっ、くるちゃん久しぶり」


 DM杯後、都内某所にて。


 あたしはとあるお店の前でスマホ片手に人を待っていると、駆け寄ってきた女の子に声を掛けられた。


 彼女の名前は伊地知(いじち)くるる。

 あたしと同じVG所属のVtuberで、同期でもある。


 明るく軽快な関西弁が特徴的な『べしゃり担当』で、アバターは紫のロングの髪色に色気のある顔をした大人なお姉さん的キャラ。


 まあその割にはお喋りが過ぎるせいで、ただのうるさい大阪のオバサンみたいになっちゃってるけど……。


 因みにBuetubeの登録者数は41万人、Spaceは利用していない。


「最後に会ったのいつだっけ、忘年会?」

「それぐらいかな。だっていつき暫く休んで連絡取れへんかったし」

「それに関してはホントにごめん……」

「まあまあ、あんまり外で喋るのもあれやし、取り敢えず中入ろ」

「あ、そうだね」


 そう。

 あたし達は今、リアルの世界で出会っている。


 つまり喋り声一つでリスナーに気づかれる可能性がある訳で、バレてしまえば面倒事になるあたし達はそう小声で話をすると、そそくさとお店の中へ入る。


 お店は勿論個室、所謂創作料理的な少しお高い所。


 割りと防音もしっかりしている感じであたし達はバッグを下ろして席につくと、そこでようやくマスクを外しふうっと息をついた。


「それにしても、いつきは相変わらずお洒落に鈍感な服装やね~」

「え? そう? これでもいつもよりはマシなんだけど」


「マシなのに三つ編みに黒縁眼鏡はヤバない? まあそのサロペットはかわええと思うけど、田舎から出てきた感が凄いっちゅうか」


「まーでも、友達と会うだけだから別にいいかなって」

「誰と会う時でもお洒落はちゃんとした方がええよ~」


 そういう彼女は茶髪のショートボブにバッチリとメイクを決め、服装はプリントTシャツにデニムとクールな女性を彷彿とさせる。


 加えて耳にキラリと光るピアスは更に色気を出していた。


 ただまあ――くるちゃんは配信でも最新の美容について話すぐらいお洒落に敏感だから、あたしが異常とまでは思えないんだけど。


「いやーそれにしてもめっちゃお疲れさんやね、ここ1ヶ月ぐらい怒涛の日々やったんとちゃうの?」


「死ぬほど大変だった――でも今は充実感の方が大きいかも」

「まー優勝したらそらそうなるかー、ほんまよう頑張ったと思うわ」


「多分配信者人生で一番頑張ったんじゃないかな。リーダー兼コーチ兼IGLって決まってから多分一生分のスタペをやったと思うよ」


「せやけどその集中力は私には無いもんやからホンマ尊敬するで。私なんかチームの雰囲気崩さん為に一生太鼓叩いてただけやから」


 くるちゃんはそう言うと深く溜息をついてぐいっとビールを飲む。

 こういう所がおじさんというか、おばさんなんだよな――


 ただそんな風になるのも仕方がない話ではあった。


「まあ――Crudeと同じチームは最悪どころの話じゃないしね」


「あんまこういうこと言いたくないけど、あいつはホンマ終わってるで? 喋らん、話も聞かん、声も出さん、言われたことも全然しない、それでストライカーやっとるねんから勝てるわけあらへんもん」


 もうスクリムから空気は最悪やし、何かもう皆早く終わることしか考えてなかったわと、くるるは文句を垂れる。


「でもよくそれでスクリム4勝も出来たね、実際あたし達もチームとして仕上がる途中で負けてるし」


「まあCrude除けば全員最高ランクやしね。それにコーチもどうにかCrudeなしで勝てる方法を模索しとったし」


「でも0ストライカー構成は、当たり前だけど4人でやるものじゃないから……」


「それに皆必死で仕上げてくるからさ、あまりにも難し過ぎて途中からコーチも無我の境地みたいになっとったわ」


「気の毒……でも話題性があるにしても何でCrudeなんか招待したんだろ、あたしと競わせるにしても大分無理があるというか」


 実力もさることながら、あたしとCtudeはそもそも役割が違う。


 となればスタッツで優劣を決めるのは難しいし、じゃあ勝敗で優劣を決めるにしても、Crudeが無双しないと意味がない。


 もしGissyさんぐらいセンスがあって、その上で同じ努力を積み重ねられると判断したならまだ分かるけど、到底そんな風には――


「つのださんの考えることなんて分かんよ。ただ推薦枠は『有名になりそうかどうか』が重要視されてるっぽいし、その延長でしかないんちゃう」


「……それはそうだけど」


「まあ流石にやり過ぎだとは私も思うけどね――ていうかさ、これまだ噂の段階なんやけど、あいつDM杯でチート使ってたらしいよ」


「えっ? それ本当!?」


 空になったビールを恨めしそうに見つめながら、しれっととんでもないことを言うくるちゃんに、不意を突かれたあたしは声を上げてしまう。


 でも彼女はあまり怒っているような声色ではなかった。


「SNSでCrudeが急に撃ち合いが強くなったっていう噂を皮切りに、一部関係者の間でも可能性が高いって話になっとるみたい」


「それってまさか――」


「そ。いつきチームとの試合。ただCrudeが強かった試合ってあれだけやから、負けられない意識が転じて上振れしただけやと思ってんけど」


 ……確かにCrudeはあの試合、妙に撃ち合いが強かった。


 ただ逆を言えば本当にそれだけでしかなかったから、結局脅威とはならずあたし達は簡単に抑えきっていたけど――


「でもそうなると、くるちゃん達は失格ってことに」


「んーまだそこまでは分からんけど、ただそうなったらそうなったで別にいいっちゃいいと思ってるけどね」


「え? なんで?」


「そりゃいくらCrudeがおったとしても、力の差で負けたのは紛れもない事実だから。何ならいつき達にもGissy君はおった訳やし――けどそのイレギュラーである彼を皆で支えてMVPにした時点で、私達はどう足掻いても勝てへんかったよ」


「――……」


「だからいつきも色々大変やったと思うけど、自分の力で全部跳ね除けて、仲間と一緒に優勝を掴み取ったのはホンマに凄い、同期として尊敬するよ」


 と、彼女は言うと、二杯目のビールをまるで一杯目のように飲んだ。


「……でも、そういうことなら、くるちゃんも今までと変わらずあたしと接してくれてホントに感謝してる」


「そんなの当たり前よ。VGの同期として切磋琢磨してきた仲なんやから、第一アンタが自主的にやる訳ないことぐらい分かってたし」


「うん……ありがと」


「まあまあ、そんなしみったれた話はいいのよ――そんなことより、いつきはGissy君とはどこまでやったん?」


「ぶっ! ――は、はあっ!?」


 あまりにも色々あり過ぎたかもしれないけど、その先であたしはこうやってまた変わらない日常を送れている。


 それは当然自分の力だけじゃない。だから皆と出会えたことは幸運でしかないと、本当に自分は幸せ者だ――――と思いながらあたしはピーチウーロンに口を付けようとした所で、その発言に吹き出しそうになる。


「ぐぐ……な、何言って――」


「ええ? だっておかしいやん、いくらGissy君を強くしないといけない言うたかて、普通あそこまで延々とマンツーマンでは教えられへんで~?」


「そ、そんなことは別に――だ、第一直接会ったことも無ければ、会うことも大分難しいのにやるも糞もな……」


「なら今度SCL(スタペ日本大会)のオフラインあるやん、どうせいつきは見に行く予定なんだから誘ったらええんちゃう?」


「いやあの、だ、だから……人の話を聞いて――」


 くるるはお洒落も好きなら色恋沙汰も大好きな陽キャVtuber。


 ただ厄介なのは自分はそうだと思うと見境なく勝手に話を広げていくきらいがあり、それが原因で同業者から怒られることもしばしば。


 とはいえ面倒なのは、男女に限らず男同士でも女同士でもすぐカップリングをしたがる為、リスナーからは意外と面白がられてウケてしまう所。


(今はプライベートだからまだいいけど……これを配信で話し始めたら間違いなく面倒臭いことになる)


 となれば流石にこれは止めなきゃならんと、あたしは何か彼女を牽制出来る言葉はないか探っていると――


「お?」


 まるで救いと言わんばかりに、くるちゃんのスマホが震えだす。


「あ、まりんからやん、もしかしたら仕事終わったんかな? もしもーし?」


 すると気がそっちに向いた彼女はそのまま電話を取ってくれた為、あたしはホッと胸を撫で下ろす。


「た、助かった……」


 くるちゃんはあたしにとってかけがえのない親友ではあるけど、こういう所だけはマジで性格が違い過ぎるからキツい。


 あたしは本当に何でもない普通の学生しながら、それ以外の時間は殆どゲームをしてた人間だから、どうにもその手のノリにはついて行けないのである。


(――……とはいえ)


 もし直接Gissyさんに会ったら、あたしはどんな気持ちになるのか。




 それを考えると、何故か少し高揚する自分もいるのだった。

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