第34話 2次会、チーム崩壊
『――と言いつつも、実際何しますかね』
『んー何だろ、クラフト系とか人狼系とか、ボドゲもありだけど』
『まあ軽く遊べる感じがええよな、麻雀は5人じゃ無理やけど』
『ぎしーさんにご褒美AOBをぼくは推します!』
2次会というからまさか今から集まって飲むのかと思っていたが、話を聞く限り皆でゲームをしようということらしい。
どうやら視聴者情報によればこういう大会後はチームで遊んだり、何なら他のチームも絡めて遊ぶのは定番なのだとか。
確かに経験したからこそ分かるが、この5日間はどれだけチームの空気が良くても何処か張り詰めた雰囲気があった。
(特に俺は一生スタペ漬けだったしな……)
そこから解放され仲間と、時には垣根も超えてただ純粋に遊ぶというのは凄く良い風習でしかない。
それに、視聴者の中にはチームに愛着が沸いている人もいるだろうし。
『そやなぁ……アオちゃんの言う通り今夜の主役はGissy君やからな、折角やしGissy君に決めてもらっても全然ええで?』
そんな風に思っていると、急にヒデオンさんがそう言ってくる。
「え? いや――多分ゲームは皆さんの方が詳しい筈なので俺が決めるのは――それに俺がというより皆で楽しめるモノをやりたいですし」
『うーん――じゃあ繋ぎで適当なゲームをやりつつ相談して、何か面白そうなゲームがあったらそれに移るとかにしません?』
『あ、それだったらさ、手始めに【10回一致するまで終われません】っていうゲームでもやらない?』
『? なんやそのゲーム?』
『簡単なゲームですよ、基本的に【~といえば何?】的なお題がランダムで出てくるから、それを各自で答えてから一斉に回答を見せ合って、全員一致したらクリア、それを10回成功するまで合わせるって感じ』
『ほう、ええやんか、実力差もないから気楽に出来そうやな』
『じゃあそれにしましょう』
というような流れで。
ウタくんの提案でまずはそのゲームを始めたのだが。
この選択が、想像以上の波乱を巻き起こすことになる。
『えーと【動画配信サイトと言えば何?】かぁ』
『流石にこれは簡単じゃないですか?』
『これはぼく達と言えばというのがありますからね』
「ふむ……」
王道と言えば天下のBuetubeではあるが、ストリーマーと言えばやはりSpaceを利用している人の方が多い。
それにアオちゃんも示唆しているし、まあここは無難にSpaceだなと俺は書き込んだったのだが――
■刄田いつき[Buetube]
■ヒデオン [Space]
■青山アオ [Buetube]
■仮詩 [Space]
■俺 [Space]
「あれ?」
『えっ? Buetubeじゃないんですか!?』
『いやいやいっちゃん、俺ら言うたらSpaceやろ~』
『それは……でもあたし達はBuetubeの配信が多いので――』
『でも言われてみればSpaceでしたよね、ごめんなさい……』
「まあまあこれは仕方ないって、別に謝る話でもないし」
『そうそう。じゃあ気を取り直して――次は【春と言えば何?】』
おっと、これは流石に簡単だろう。
確かに色々連想するものはあるが、真っ先に浮かぶと言えば一つしかない。
取り敢えずこれで1回目はクリアだなと、俺はささっと書いて提出したのだが。
■刄田いつき[花粉症]
■ヒデオン [桜]
■青山アオ [さくら]
■仮詩 [桜]
■俺 [桜]
『ええぇっ!?』
「へ? い、いつきさん……?」
『おい、これもしかしてトロールおるか?』
『いやいや待って下さい! あたし春先は毎年花粉で死にかけるんですよ! そう考えたら真っ先に浮かぶのは仕方なくないですか!?』
『だとしても真っ先に浮かぶのは花粉より花じゃない?』
『あたし花とかに興味ないので』
『エグい開き直りしてる後輩がいるんですけど』
まさかの絶対に外すことはないだろうと思っていたお題で、万人が連想するものではなく個人的症状を回答をしてしまう刄田いつき。
あれ? これもしかして……思った以上にまずいか?
【日本を代表するストリーマーと言えば?】
■刄田いつき[Keyさん]
■ヒデオン [俺]
■青山アオ [ケイさん]
■仮詩 [Keyさん]
■俺 [ヒデオンさん]
『おおおおおおおおおい!!!? 何で裏切りモンが3人もおるねん!!!』
『いやー、現実的な話をすればKeyさんだし……』
『いくら同じ仲間と言えど、やはり登録者数に差はあるので……』
『忖度はできないですね……』
『うう……Gissy君、俺はこんなチームで戦ってたんやと思うと悔しいで……』
「ヒデオンさん――もしかしたら決勝トロールが原因なんじゃないですか」
『Gissy君!?』
とはいえあまりに理不尽ではある。ただそれ以前の問題として、合わせようという気持ちが無さ過ぎるのは気の所為だろうか……。
だとしたら、よくこんなバラバラ具合で優勝出来たな……。
『うーん、意外と上手く行かないもんだね、なら次は――』
「いや、ちょっと待ってくれ」
『? どうしたのGissyさん』
「一回、皆落ち着かないか? さっきから明らかに噛み合っていないし、やっぱりこういう時こそ声を出し合うのが大事だと思うんだが」
『何言ってるんですか? FPSをしてるんじゃないんですし』
「だが意思統一は大事だろう。自分はこう思うじゃなくて、皆で話し合って回答を出す方がいいんじゃないか?」
『確かにぎしーさんの言うとおりですね。何かこのままだと一回も一致せずに朝を迎えそうですし』
『そやな、ちょっと自分本位になり過ぎてたかもしれへん』
『じゃあ答える前に話し合いを――お、でも次は【緑の飲み物と言えば?】だよ』
『おお、これは流石に行けたんとちゃうか?』
『大丈夫です、これは絶対に分かりました』
『王道のこれぞっていうのがありますしね』
「ああ、何ならこれしかないまであるな」
と、一瞬乱れかけた空気を正した所で、それを後押しするかのような優しい問題出てくれたことが、皆の士気をぐっと上げてくれる。
よしよし……これなら何とか軌道修正が出来そうだな。
■刄田いつき[緑茶]
■ヒデオン [緑茶]
■青山アオ [緑茶]
■仮詩 [緑茶]
■俺 [青汁]
「なんっっっっっっっっっでやねん!!!!!!!!!!!!!!!!!」
『なんでやねんはこっちの台詞ですよ!』
『オイオイオイ! どう見ても名前に【緑】って入っとるねんから緑茶以外考えられへんやろ! それが【青】汁て! Gissy君それは片腹痛いでぇ!』
「いやおかしいでしょう!? 緑茶なんて茶葉も緑か怪しいですし、何なら抽出したら殆ど黄色――おし◯こみたいな色じゃないですかぁ!」
『Gissyさん、それ以上はいけない』
『ぎしーさん……ぼくはぎしーさんをフォローしたいですが、民主主義的観点から見れば残念ですけどトロールです……』
『というか【緑色の飲み物】ならGissyさんが正しいですけど、緑と言っているだけなので色で判断した貴方が100%悪いです』
「お、おかしい……何でこんな……」
ついさっき結束を深め、一緒に乗り越えようという雰囲気になった筈なのに、何で俺が総叩きにされているんだ……。
何なら、やられたらやり返すぐらいの悪ノリが起こってないか……?
考えれば考えるほど、何でこうなってしまったのか分からなかったが――しかしこうなると当然その勢いが止まることはない。
【WindowsのOSと言えば?】
■刄田いつき[10]
■ヒデオン [XP]
■青山アオ [10]
■仮詩 [10]
■俺 [10]
『お前らは何にも分かってへん!!!! かつてXPがどれだけ素晴らしいOSやったのかということを何で理解してへんのや!!!』
「いや……世代じゃないんで」
『ヒデオンさん、ジェネレーションギャップはキツイです』
『おじいちゃん……』
『まあ95じゃなかっただけまだいいよ』
『いやそこまで世代は古くないんよ……?』
【ラーメンの具と言えば?】
■刄田いつき[麺]
■ヒデオン [チャーシュー]
■青山アオ [めん]
■仮詩 [チャーシュー]
■俺 [たまご]
『いやいや流石に麺は深読みし過ぎやろ! どう考えても上に乗ってる具材で考えてチャーシュー一択やんか! なあウタくん!』
『ですよね、ここまで来るとワザとやってるまであるよ』
『はぁ!? じゃあ貴方達は今後一生麺無しのラーメンを食べて下さいね!! スープとチャーシューだけでどうぞお召し上がり下さい!』
『まあまあいっちゃん。ヒデオンさんはほら、大阪の方だから肉吸いとかあるし、麺とかなくても大丈夫だから分かんないんだよ……』
『はいカッチーン!! いくらアオちゃんでも大阪のソウルフードを馬鹿にすることは許しませーん!』
「ちょっとちょっと、皆熱くなり過ぎですよ……」
『たまごは黙ってて貰っていいですか』
『たまごとか一番ありえへん選択肢やから』
『たまごとかトッピングメニューだし』
『まあまあ……ぎしーさんはメンマとは言ってないですし……』
「え? 何でそこで急に共闘される?」
結果、回答しては殴り合うという地獄の無限ループが始まる我らが【伝説、お見せします】。
何なら最早殴り合うことを楽しんでいる節すらあった。
(まあ実際楽しいし、視聴者も盛り上がってるからいいんだけど……)
しかしこのままだとアオちゃんの言う通り、マジで1回も正解することなく朝を迎えることになるんじゃないかと危惧してしまっていると。
【日本を代表するチームと言えば?】
まるで計ったかのような、この争いを止めに来たと言わんばかりのお題に、あれだけ混沌としていた空気がパッと晴れた気がする。
『――……これはまたおもろいお題が来たもんやな』
『まあ色々あるけど、これは一つしかないんじゃないかな』
『つまり――これでようやく一致出来るということですね』
「……俺も一つしかないが、本当に皆大丈夫だよな……?」
『いや、ここでもし逆張りしたらぼくはちょっと悲しいですよ』
「……そりゃそうだ」
だったらと、あれだけ言い争っていた俺達は何を話し合うでもなく回答を書き終えると、特に吟味もせずパッと5人の回答を表示させる。
■刄田いつき[伝説、お見せします]
■ヒデオン [伝説、お見せします]
■青山アオ [伝説、お見せします]
■仮詩 [伝説、お見せします]
■俺 [伝説、お見せします]
その瞬間、ゲームマスターであるウタくんが正解音を鳴らした。
どうやらこれを外すことだけは誰も出来なかったらしく、しかしようやく1回目の一致成功に取り敢えず安堵の喜びぐらいは出るかと思ったのだが。
「『『『『………………』』』』」
これをあと9回――しかもこんなバトルを繰り広げながらやり続けないといけないと思うと誰も声を上げることが出来ず。
『えー……終わります?』
『……そやな、じゃあ皆改めてお疲れさんやで』
『いやいや本当に最高のチームだったよ』
『じゃあ――皆さんまた機会があればぜひ』
「ああ……皆さん本当にありがとうございました……」
完全に疲れ果てた5人は、完璧な意思疎通を見せ、そのまま解散したのだった。
……え? 2次会ってこういうもんなのか……?