第19話 99人のアンチより1人のファン
▼なんだ? なんだ?
▼今日も恥を晒しに来たんか
▼ずっと下手なんだから辞退したら? 向いてないよ
▼スタペやらんでいいからDM杯のギャラ教えてくれ~
▼DM杯辞退宣言しろDM杯辞退宣言しろDM杯辞退宣言しろDM杯辞退宣言しろDM杯辞退宣言しろDM杯辞退宣言しろDM杯辞退宣言しろDM杯辞退宣言しろ
▼―このコメントはモデレーターによって削除されました―
配信を付けると、相変わらずアンチが湯水の如く湧いていた。
とはいえ、これだけ荒れ続けるといい加減慣れてくるもので、何ならよくいつまでも粘着出来るなと感心する余裕さえあったのだが――
流石に24時間ぶっ通し配信ともなると、終盤どういう精神状態になっているか分かったものではない。
『あたしがモデレーターになり、常時対応します』
そこでBAN役を買って出てくれたのが刄田いつきだった。
いや正確には刄田いつきが自分から提案してくれたのだが――しかし彼女まで24時間起きているというのはどうにも忍びない。
故に無理をする必要はない言ったのだが。
『言い出しっぺが寝るのは流石に終わってますって。どの道あたしもやることが沢山あるのでご心配なく』
そう言われたこともあり、24時間配信は決行される運びとなった。
(……今の所視聴数は700人くらいか)
最初に比べれば大分視聴者数も減ったが、それでもこの時間帯でこの人数は十分過ぎる程に多い。
まあ内訳的には9割9分アンチなのだが。
「――はいどうも、底辺配信者にして大嫌われ者です、こんばんは」
しかし配信をしないという訳にはいかない為、俺はマイクをオンにすると視聴者もといアンチに向け軽く雑談を始める。
▼お
▼きっしょ、自虐すんな
▼DM杯辞退宣言しろDM杯辞退宣言しろDM杯辞退宣言しろDM杯辞退宣言しろ
「あー話をする前になんやけど、今回からモデレーターに入って貰っていてな、行き過ぎた発言はBAN対象だから注意してくれ」
▼は? 言論統制かよ
▼―このコメントはモデレーターによって削除されました―
▼―このコメントはモデレーターによって削除されました―
「因みに全て任せているから基準は俺にも分からん。ただ普通のコメントを心掛ければそうそうBANはない筈だから必要以上の心配は――」
▼―このコメントはモデレーターによって削除されました―
▼―このコメントはモデレーターによって削除されました―
▼―このコメントはモデレーターによって削除されました―
▼ひええ……
「え?」
と、まずは手始めに牽制球を投げたつもりが、よく見るとモデレーターこと刄田いつきが烈火の如くBANをしているではないか。
い、いや……確かに酷い荒れようではあるが、そんなバカスカBANしまくったら萎縮して誰もコメントしなくなるだろ。
「ちょ、ちょっと待てストップストップ! 流石にやり過ぎだ」
【少しでも気分よく配信する為にライン超えは一発BANした方がいいです。正直前から思っていましたが度を超す輩が多過ぎです】
そうWaveの個人チャットに書き込む刄田いつきは、何だか妙に言葉が強くなっているように見える。
……まさか怒ってるのか? だが俺ならまだしも彼女がキレる理由はない気がするが――と思いつつも慌ててキーボードを叩く。
【それはそうだが配分は考えた方がいい、大体今から24時間配信をするのにこんな恐怖で縛ったら誰も見なくなるぞ?】
【……それはそうですね、ごめんなさい】
するとそこでようやく刄田いつきは情け無用のBAN祭りを停止する。
だが予想通り、あれだけ荒れていたコメント欄は一気に凪になっていた。
「えー……まあそういう感じだから、ホント気をつけて貰えると助かる」
▼今から何するんですか?
▼スタペソロランク?
とはいうものの。
どうやらこんな焼け野原でもまともな質問をしてくれる人はいるらしく、お陰で少し気を取り直すことが出来た俺は一つ咳払いをして本題へと入った。
「明日が本番だし勿論スタペだが、24時間配信をする」
▼え? まじ?
▼ダイヤ耐久でもするのか?
「それも悪くはないんだが、俺があまりに稚拙だから温情が出てな、配信者に練習相手になって貰うことになったんだ」
▼おおおお、いいじゃん
▼誰が出るんだろ、気になる
「まあそれは後のお楽しみということで――まずは概要といこうか」
そう言うと俺は刄田いつきから受けた内容を説明していく。
24時間配信はスクリム、トイレや食事といった休憩も込みということ。
そして主にチームメンバーや大会出場者を除く配信者と練習をし、その中でデスマやカスタム、座学等があることなどざっくりと話す。
「今が13時前だから――大体翌日の13時まで、恐らくそこから少し寝てそのままDM杯に臨むことになる、まあこんな感じだな」
▼くっそ激務じゃん、本番前に死ぬぞ
▼まさかそこまでやるとは
「まあ俺はそこまでやっても足りないけどな。それでもケツは決まっている以上、出来る限りのことはやりたいと思ったから配信することになった」
▼成程、決してただの企画ではないと。
▼よくやるわ。でもあんまり言えなかったけど俺は応援してるぞ
▼それな。マジで頑張ってるから正直馬鹿に出来ん
▼がんばれ! アジア1位は嘘じゃないってとこ見せてやれ
「……!」
決して多い訳ではない。
何ならそれは片手で数えられる程度だろう。
だがそこには、確かに俺を応援してくれるリスナーがいた。
(99人のファンより、1人のアンチが気になるとはよく言ったものだが)
まあ俺の場合は99人のアンチに1人のファンなんだが。
しかしだからこそ、彼らの声は妙に響いた気がした。
(もしかしたら刄田いつきは、これを見せたかったのだろうか)
周りにいるのは、いつも敵ばかりではないのだと。
何故なら自分もまた、彼らに助けられたことがあるから――
「……そんなことを言われるとは思わなかったな、ありがとう」
▼言ってたけどアンチコメしか見ないから気付いてないだけです
▼何ならモデレーターさんありがとうまである
「そうか――それは悪かった」
ふいに出てきたリスナーの温かい反応に思わず感動しかけるが、流石に今がその時ではないと思った俺は頬をつねることで何とか踏みとどまる。
しかし……こうなったらうかうか寝落ちもしてられんな。
応援してくれる人に優勝を届ける為にも、何としても24時間を完遂しなければ。
「そうだな……よし、じゃあ早速24時間耐久配信というこうか」




