第12話 アンチしかいない配信
▼ういすういす
▼うーーーーーーーーーーーーーっす
▼いえーい、事務所の力で出るDM杯ってどんな気分?
▼DM杯で大トロール楽しみにしてます^^
▼ブレイバーの俺と代われよ雑魚シルバー
▼し、し、し、シルバー!? 草ァ!
▼GGEZ
▼ねえねえDM杯のギャラっていくらなの?
▼アオちゃんの足引っ張ったら◯すぞタコ
▼妹はまだですか?
▼misakuちゃん好きです結婚して下さい
「キモ過ぎだろ」
俺は画面に流れるコメントを見て、思わずそう呟いていた。
日付は変わって翌日の夜。
本来ならスクリム初日がチームとの顔合わせらしいのだが、つのださんの配慮で俺達のチームだけ前日に会うことになっていた。
とはいえ集まるまではまだ少し時間が早い。
故に俺は出場者発表後初めて配信をしたのだったが――
「同接5000人て……冗談が過ぎるな」
今まで配信をしてもほぼ0人だった俺のチャンネルに、たった数分で5000人以上の視聴者が押し寄せていた。
トレンドに載ったこともそうだが、やはりこれがDM杯の影響力。
まあ、殆どは誹謗中傷嘲笑でしかないが。
「正直気は乗らんが……しかし話をするなら今しかないか」
故に俺はマイクをオンにすると、「あ、あ」と声を出した。
▼あ
▼音質わっる
▼DM杯辞退会見はよ
▼シルバーが喋ったアアアアアアア
「うるせえ。あと妹目的の奴は帰れ、お前らとは1秒も会話させん」
▼は? つまんな
▼シスコンきっつ
「まあ羨ましい気持ちは分かるが諦めろ。何せ妹は白銀だからな、お前らみたいな汚物は俺みたいな汚物と戯れるのが丁度いい」
▼シルバーの時点で一緒じゃねえから
▼妹来たら呼んでくれ、寝るわ
にしても俺も若干喧嘩腰とはいえ、本当にコメント欄が酷いな……。
正直他の配信でここまで世紀末なのは見たことがない。
要するに、皆厳格な対応してきたということなのだろう。
それに俺には刄田いつきのような誠実さはない――あまり相手をし過ぎてもより一層荒れるだけか。
▼真面目な話AOBでアジア1位は凄いけど、スタペでも同じように強いとは限らないですよね? 実際シルバーで沼ってるようですし。そのレベルじゃ到底DM杯で活躍出来るとは思えないんですが……個人的には辞退した方が貴方の為だと思いますよ?
しかしそんな考えに水を差すかのように、今度は所謂『お気持ち』と呼ばれる長文コメントが飛んでくる。
それに対し視聴者は▼まじでこれ▼DM杯舐めんな▼辞めろ辞めろ、といった反応を乱立させていくが――そんなことは俺が一番分かっている。
「んなもん活躍出来る訳ないやろ、当たり前のことを長文で語るな」
▼は?
▼おいおい開き直りかよwww
▼流石に酷いわ、何でこんな奴を運営は選んだんだ?
「そんなことは俺も知らん。とはいえ――実際実力に見合っていないという自覚はある。だからこそ少し考えてみて欲しい」
▼???
「そんな圧倒的に見劣りする奴が、躍進する様を見たくはないか?」
いつの時代も、弱者が強者を倒す姿は人の心を揺さぶる。
何故ならそれは普通であれば中々起きない現象だからだ。
そして、その現象を体現出来るのは、DM杯では俺だけしかいない――
「無論その為の努力を俺は惜しまない。だが当然壁にはぶち当たるだろう――そういう時に視聴者が俺にアドバイスをしてくれれば、優勝した暁にはこう自慢出来るぞ? 『Gissyは俺が育てた』なんつって――」
▼いや、別にいらん
▼お前のことなんか応援してねえから興味ねえよ
▼3日で上手くなったら全員ブレイバーなれるわ
▼御託はいいから足引っ張んなよ下手糞
「…………」
……それは全く以てその通りだ。
一応俺の目論見では『悪くない』という風潮を手に入れ、視聴者からスタペのイロハを教えて貰いながら交流も深めようと思っていたのだが。
そもそもアンチにとってそれが面白い訳がない。
(批判的な人間を味方につけるのは簡単ではない……か)
そう考えると、やはり刄田いつきは凄いなと思っていると――
『いやーGissy君、肝座っとんなぁ~』
『5000人相手に堂々と臭いこと言える人も中々いないよ』
『ぎ、ぎしーさん、そろそろじかんですよ』
『そろそろというか時間過ぎてるんですけど』
「え?」
軽快な関西弁と、中性的な声と、舌っ足らずな声と――そして聞き馴染みのある声が一斉に飛んできたことで、俺はハッとして時計を見る。
指し示している長針は、集合時間を10分も過ぎていた。
「やば――」
しかしそれを口にする訳にはいかず、俺は批判冷めやらぬ中強制的に配信を終了させると、慌ててWaveのマイクをオンにする。
「いや、あの……本当に申し訳ないです」
『で、でも、ぎしーさんが一番はやくログインしてましたよ』
『そうだけど、グループチャットには入ってないから』
『何やアオちゃん、やけにGissy君に甘いなぁ~』
『そ、そそんなことは……』
『まあまあ、配信者なんて皆遅刻が定時みたいな所もありますし、それを言い出すといつきさんも2分遅刻してますし?』
『えっ、いや、そこはオーバータイムだし……』
先程の地べたを這いずり回るかのような配信とは打って変わって、何とも心地よい会話が優しく鼓膜を撫ぜてくる。
そう、彼らこそが俺とDM杯に出てくれるチームメンバー。
つのださんの言う通り、実にフランクで親しみやすそうな雰囲気漂う彼らあるが――経歴を考えると嫌でも身が引き締まるというもの。
何せ。
◆1番手 刄田いつき(Virtual Gaming所属)
■Butube 登録者数43万人
■Space 登録者数25万人
■SNS フォロワー39万人
□スタペ最高ランク エンペラー
◆2番手 ヒデオン(LIBERTA所属 元プロ)
■Butube 登録者数47万人
■Space 登録者数62万人
■SNS フォロワー45万人
□スタペ最高ランク ブレイバー1
◆3番手 青山アオ(Virtual Gaming所属)
■Butube 登録者数82万人
■Space 登録者数19万人
■SNS フォロワー65万人
□スタペ最高ランク ブレイバー3
◆4番手 仮詩(Deep Maverick所属)
■Butube 登録者数178万人
■Space 登録者数36万人
■SNS フォロワー123万人
□スタペ最高ランク マーシナリー1
……こんな化け物級の配信者が揃い踏みしている中でただ1人。
◆5番手 Gissy(無所属)
■Space 登録者数1人(妹)
■SNS フォロワー1人(妹)
□スタペ最高ランク シルバー1
こんなヘボヘボな奴が甘えてヘラヘラしようものなら、トロール、予選敗退、大炎上の3コンボ確定なのだから。




