第二章 第一話:二人目のお客様
カクヨムに章投稿する前のお試し1話ずつ投稿です。
人間は間違える生き物だ。
これは将棋棋士の大山康晴さんが後世に残した名言だ。
私はこの言葉には続きがあると思っている。
人間は間違える生き物だ。しかし、そこから何かを学び成長する。
そう私は思っていた。
何故、私がこんな取り留めも無いことを考えているのか。
その理由は簡単な話で、最初のお客様からその後、客足が途絶えたからだ。
人の過去を追体験できる装置「ガシャポン」改め、「ドリ子」の改良も、あの後、順調に進めることができた。
その人の過去の生い立ちから記憶が再現されるのはもちろん、おおまかな年代スキップ機能まで可能になったのだ。
「ドリ子」という名前の由来は、ドリームメイカーという言葉から私が考えだした造語だ。
なんとなく、私はこの装置が女の子だと思ったので、可愛らしく名前の最後に「子」をつけた。男の子だと思っていたら「男」だっただろう。
我ながら完璧なネーミングセンスだと思っている。
私は上記を考えながら、ぼけーっと2Fの居住スペースでテレビを見ていた。
「暇だ……」
あまりの暇加減に一人ぼやいてしまう。
私のスマホが着信を告げたのはそんな時だった。
初期設定のまま変更していない無機質な着信音が部屋に響く。
「誰だろう?」
スマホの画面を見ると、そこに表示されていた名前は高校の同級生だった。
高校を卒業して以来、連絡を取り合っていた訳でもない同級生からの着信。
私は少しだけ不審に思いながらも、その電話に出ることにした。
「……もしもし」
「おー、久しぶりー元気にしてた?」
人間の声というのは年を重ねても、大きな変化はしないのか。
電話先の声を聞いて、私は一瞬だけ高校生に戻ったかのような錯覚に陥った。
私はその錯覚を振り切ると、何の用があって電話してきたのか尋ねることにした。
「急に電話して来たってことは、何か用がある?」
すると、電話口の同級生の声が少しだけ詰まる。
何か、説明が難しい話なのだろうか。
「あぁ……用があって電話したんだ。話せば長くなるんだけど……」
何やら混み合った話になりそうだ。
私はスマホを片手に持った状態でリモコンを操作してテレビを消す。
そして電話先の同級生『竹内 卓也』の話を聞くことにしたのだ。
彼の話によると、彼は高校の時に語っていた将来の夢を順調に叶えている途中らしい。
彼の将来の夢は刑事になって世の中から犯罪を無くすことだった。
そして、これは同級生だった私も初めて聞いた。
彼、卓也の母親は彼が幼い時に赤の他人に殺されていた。
無差別な通り魔殺人だったらしい。
彼は現在。過去の未解決事件を捜査する部署に配属されていて、その事件を追っているのだと言う。
私は彼、卓也の話をそこまで聞いて口を開いた。
「それで? 私に何か手伝って欲しいの?」
「君のホームページをこの前、偶然見つけたんだ。凄い発明をしたんだな」
「私自身もそう思うよ」
「それで、もしかすると過去の俺は、その犯人の顔を見てるかもしれないだろ?」
「え、母親の近くにいたの?でも今は思い出せないんだろう?」
「あぁ……、男なのか女なのか、それすらも思い出せない」
「それに友人の記憶の中とは言え、殺人現場を見るのはちょっと……」
私がそう言葉を濁して電話切ろうとすると、卓也は急に大きな声で
「ま、待ってくれ!」
と言って、通話の終了ボタンに伸びていた私の人差し指にストップを掛ける。
そして、情けない声を出しながら話を続けた。
「頼む……俺の記憶だけが最後の手がかりなんだ……」
私も別に冷酷冷血な人間ではない。
高校時代に卓也には色々なことで助けられていた。
私は一度だけ、ため息をついて口を開く。
「はぁ……今回だけだから。次はない」
私は、それだけ卓也に言うと、一通りの予約の仕方を彼に説明して電話を切った。
程なくして、私のお店のホームページに予約が入る。
「竹内卓也 様」と書かれていることから電話の彼のものだ。
予約は明日の日付で時刻は9:00と書かれていた。
私はそれを確認すると、自身のホームページを開いていたノートパソコンを閉じる。
「明日は忙しくなりそうだ」
明日の来客の準備をするため、店舗スペースの1Fに降りて準備を進めた。
翌朝。
竹内卓也は、自身で入力した予約時刻9:00の30分も前に私の店に来たらしい。
店舗のドアの前で何やら大きな声で叫びながらドアを叩いている。
「おーい!居るんだろ。開けてくれよ」
お前は店の予約の時刻をなんだと思っているんだ。
私がそう思ったのが顔に出ていたらしく、ドアを渋々開けた私を一目見ると
「あー……、なんか怒らしちまったか?わりぃわりぃ」
そう言ってズカズカと店舗の中へ入ってきた。
そういえば、高校時代からこんな奴だったな。
遠慮がないというか何というか。
私がそう思っている間に、彼は勝手に私の発明品に近寄ると
「へぇ―……これがその装置なのか。なんか何処にでもあるガシャポンみたいだな」
と言いながら装置を触ろうとしている。
私は慌てて装置を触ろうとしてる彼を止める。
「おい!勝手に触るんじゃない。大人しく向こうのソファーにでも座っててくれるか」
私は普段声を荒げることは無いのだが、こいつと居ると何故かペースを乱される。
彼は少しバツの悪そうな顔して私の方を見て、静かにソファーへ腰かけた。
「ったく……。しかし、高校の時からそれほど変わってないな卓也」
私はそう言いながら卓也を見る。
高校を卒業した時は18歳で、それから10年ほど会っていない。
しかし、見た目はあまり変わっていない気がする。
髪型も相変わらずの坊主だし、体つきも学生時代より筋肉質になったくらいだろうか。
ただ、目つきだけは昔より鋭く観察を行うようなものになっていた。
人の罪を取り締まる職業柄なのだろう。
私は前回のお客様同様、お茶の用意をしてそれを卓也の前に置いて、対面に腰かけた。
「しかしお前も変わらないな、あんな事があったのに……」
卓也はお茶を飲みつつ、こちらに意地の悪い笑みを浮かべながら私に向かって言ってくる。卓也と無駄話をするつもりのない私は、話を遮るように口を開く。
「……それで?卓也が何歳くらいの時の話なんだ」
「いきなり本題かよ。忙しそうに見えねーが、この仕事」
「さっきから色々失礼だな。こっちは入店拒否してもいいんだが?」
「わりぃわりぃ……だいたい5歳くらいの時だ。あとさ、お茶のおかわりくれる? うめぇなこのお茶」
わりぃわりぃ、と言うのは高校時代からの彼の口癖だ。
私は彼が何かやらかす度にこの口癖を聞いていた。
彼は一息でお茶を飲み干したのか、おかわりを要求してきた。
しかし私はそれを断り、彼をベットに横になるよう案内する。
私の言葉を聞いた卓也は
「なんだよ、久しぶりの同級生様だぞー」
などと言っていたが、例のごとく今回もお茶には例の漢方を入れていたので
「ん、なんか急に眠くなってきたな」
と言ってフラフラとベットに向かうと横になり、すぐに寝息をたて始めた。
私は卓也が寝たのを確認して、早速彼の過去を追体験する準備を始める。
私が改良した「ドリ子」には、パッと見て前の「ガシャポン」と違う箇所がある。
「ガシャポン」から「夢球」を取り出す際に回すハンドルの横に付いているダイヤルだ。
これにより、おおまかにその人の記憶の年代を決めて、見始めることができる。
卓也はさっき5歳くらいに起こったと言っていたのでダイヤルを回して「幼少期」に合わせる。
これで、彼の幼少期の記憶から再現が開始されるのだ。
私は前回のように、体の各所に吸盤をつけてヘルメットを被った。
そして、ヘルメット右側の右側のボタンを押した。
――――卓也の幼少期の記憶が流れ始める。