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(仮題)私と夢球  作者: ビルメンA
~第一章~
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プロローグ

 

 ―― 過去のあなたの夢と言葉を 今のあなたへ届けます ――



 私は製作中のホームページ画面に、この一文を打ち込み完了ボタンをクリックして画面を閉じた。パソコンの画面を食い入るように見つめていた影響なのか、目をしぱしぱさせながら私は自身の部屋を見渡した。


 場所は都内一等地に建っている高層マンションの最上階だ。

 その一室で私は暮らしている。


 私は今年で28歳になるが、ここまでの人生で将来の夢というものを抱いたことがなかった。



 それは家庭環境が悪いのではないか、そう考える人もいるだろう。しかし、私と両親の関係は良好で、両親の愛情を一身に受けて育ってきたという自覚もある。それに貧乏でもない平凡な家庭だ。


 ならば周りの環境が悪いのだ、そう思う人もいるだろう。しかし自分でも意外なことに、私の周りの友人は「将来の夢」を持っている人ばかりだ。私は友人が目を輝かせながら語る夢を、少し妬ましく思いながら聞いていた。


 周りの友人が自身の夢に向かって努力したり、挫折したりしている中、私は両親の勧めで公務員になっていた。公務員の給料は安定しているし悪いものではなかった。しかし、何かが足りない、何かが欠けている、そんな私の思いは日々強まるばかりだった。



 そんな折に早期退職者の募集があった。

 何でも組織規模の収縮に伴うものだという。

 私は早期退職に志願した。



 驚く顔の部長を差し置いて職場を後にした私は、自室に引きこもり兼ねてから開発を続けていた「ある装置」の完成を急いだ。……そしてそれを完成させた。


 ――その装置とは他人の過去を追体験できる装置だ!

 まだ名前はない。

 過去にこのような装置を作り始めたきっかけがあったはずだが、理由は忘れてしまった。

 とにかく、私は他人の過去を見ることができる装置を完成させたのだ!



 私は装置の特許でお金を稼ごうと思ったのではない。さっきも言ったが作り始めたきっかけがあったはずなのだ。しかし、何度思い出そうとしても記憶にもやがかかっているかのように思い出せない。


 装置の見た目は一見すると、デパートやスーパーにある「ガシャポン」のようなフォルムをしている。一点だけ違うところがあるとすれば、その物体から縦横無尽に電極線の先に吸盤がついたものが出ているということくらいだろう。


 その吸盤を頭の各所に張り付けて、脳に微弱な電気を流すのだ。

 するとその人の脳は活性化する。


 人間の記憶の仕組みを知っているだろうか。人間の脳には一時的に記憶を保管しておく「海馬」と呼ばれる場所と、記憶を長期的に保管し必要な時に活用できる「大脳皮質」と呼ばれる場所がある。



 ――人間は忘れる生き物である。



 これは心理学者のエビングハウスの言葉である。確かに人間は日々記憶を忘れていく。なぜかというと、人間の脳は日常的に覚えておかなければならない記憶が優遇されるから。逆に日常的に使われない記憶は脳が「不要」と判断して忘れられる。


 しかし忘れられた記憶が、脳内からきれいさっぱりなくなるかというと、そうではない。

 頭の片隅にほこりをかぶった状態で他の記憶に埋もれているだけなのだ。


 私の製作した装置は、そんなほこりをかぶった記憶を掘り起こし、現実のことのように再現する。他にも便利な機能があるのだが、それはおいおい説明しよう。



 私はこの装置が完成すると、すぐに会社を立ち上げた。

 私の意図に沿う立地の店舗も用意ができている。

 そして先ほど宣伝用のホームページも完成した。



 あとはお客様が来るのを待つだけだ。


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