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実力主義の学校で彼女に裏切られて全てを失った俺はのんびり高校生生活を謳歌する事にします

作者: はらみ


 私立『藤明高校』。

 

 様々な分野のエリートを生み出すこの高校は、知力・運動能力・容姿・コミュニケーション能力・リーダーの資質など生徒の能力を定量的にポイント化する実力主義の校風が特徴だ。


 ポイント数に応じて生徒毎にA〜Eランクまで割り振られ、最上位ランクであるAランクで卒業すると、大学進学だけでなく、その後の有名企業への内定や起業資金の提供など、あらゆる面でのサポートが補償される。

 

 逆に最下位ランクであるEランクで卒業してしまうと、大学進学はおろか就職すら学校にサポートしてもらえず、18歳にして人生のどん底を味わう事になる。


 このように各ランクで明確に差別する事で、生徒に競争意識を植え付け、優秀な人材を育成するシステムとなっている。


 そして俺、皆川徹は、そんなポイントが全ての実力主義学校に在籍している高校1年生。

 女手1つで俺を育ててくれた母親を将来楽にさせてやりたいと思って、自らこの辛い環境に飛び込んだ。

 

 そのため、俺が目指すのはAランクでの卒業、そしてそれの特典である大企業への就職だ。


 その目的の元勉強に必死で取り組み、入学して2か月で、ある程度ポイントを貯める事ができた。

 生徒ランクもAランクになる事ができている。


 それに、最近は彼女もできて、絵にかいたような順風満帆な学生生活を送っていた。

 ……そのはずなのに。


「徹、あんたのポイント、頂くわ」


 そう言って跪いている俺を見下ろすのは、金髪でカールに巻かれた長髪が特徴的な女子、橋本万里子。

 

 万里子は、俺の彼女だった。

 授業で一緒になって仲良くなり、万里子から告白されて付き合った正真正銘の彼女。


 そんな女子に俺は今、裏切られた。


「まさかこうも簡単にいくとはなぁ。なぁ万里子」


「そうね。あんた頭いいから難しいかと思ったけど、チョロすぎでしょ」


 万里子の隣にいるのは、学年で有名なAランクの中村。

 服を着ていても分かる筋骨隆々の体と、オールバックの髪型で、制服は第3ボタンまで開けて着崩している。


 さっき、俺はこの中村とポイントをかけて『決闘』をした。

 

『決闘』とは、学校が公式に認めている生徒同士のポイント奪い合いシステム。決闘者同士が合意した勝負事で戦い、勝利した者がポイントを相手から奪える。


 俺たちは、テキサスホールデムポーカーで『決闘』をした。

 相手の心理を読むことが得意な俺は、もちろんポーカーも大の得意分野。

 

 負けるわけがないと思っていた。

 だから、自分が今持っている全ポイントを賭けて『決闘』を受けることができた。


 しかし、俺は負けた。

 中村は、まるで俺の手札が全て見透かされているように完璧なプレイだった。

 何かがおかしい、そう思わずにはいられない程に。


 そして、そんな俺の違和感は的中しており、中村はある人物をスパイとして利用し俺の手札を盗み見ていたと言った。


 その人物こそが、俺の彼女である万里子だった。


「うそ……」


 目の前で起こっている事が信じられなかった。

 俺たちは恋人同士だと思っていたから。


「あんたはただの金づるよ。ポイントを奪うための」


 万里子は悪気もなく、してやったり顔で俺を睨んでくる。


「ドンマイだな〜皆川君。万里子は俺の女だよ。お前はずっと騙されてたんだ」


「あんた真面目で頭は良いから、それなりにポイントを持ってると思ってね。本気でアンタみたいなインキャと付き合う訳がないじゃない。バカじゃないの」


 中村は万里子の体を胸に寄せ、万里子も慣れたように中村にくっつく。

 その2人の恋人のような距離感が、本当に俺が騙されている事の何よりの証明だった。

 俺なんて、2週間の付き合いで手すら握っていないのだから。


「流石万里子は悪魔だな。これで釣り上げたのは8人目か?」


「9人目よ」


「うほっ! 流石男垂らし」


 どうやら俺以外にもポイントを奪うために騙してきた男たちがいるようだ。

 まるで美人局だな。


「……」


 何故か、俺はこの状況を俯瞰して見ることができていた。

 きっと目の前で起きていることをまだ完璧に処理しきれていないのだ。


「言葉も出ねーか。憎まれ口の1つでも吐けば面白かったのに。まぁいい。さて、じゃあ可哀想な皆川君のポイントは……っと」


 中村は学校から支給されたスマホを見る。

 

 うちの学校は各生徒にスマホが支給され、自分のポイント数や成績などが一目で分かるようになっている。

 決闘の結果も即時にこのスマホで確認でき、受け取ったポイント数もすぐに分かる。


「お、2000ポイントあるじゃん。ガリ勉君勉強頑張ったねー」


 俺も自分のスマホでポイントを確認してみる。


 ☆ ☆

 皆川徹

 保有ポイント:0pt

 生徒ランク:E

 ☆ ☆

 

 そこには、確かに『0』の文字がある。


 俺が必死で勉強して手に入れた2000ptが一瞬にしてなくなっていた。


「っ……」


 さっきまでのどこか物語の中にいるようなふわふわしたような感覚が急に現実味を帯びた。

 実際に数字がなくなっている画面を見て、初めて自分が全てを失った事に気づいた。


 初めてできた彼女も、この学校を過ごす上で最も大事なポイントも、全て。

 

 その瞬間、苛立ちや怒りよりも辛さを感じた。

 

 誰も俺の味方がいない。

 自分は1人だという感覚は、辛くて仕方がない。


「じゃあ、確かにポイント貰ったよー。ありがとねー皆川くーん」


「またね~徹。あ、もう二度と会わないか」


 中村と万里子は俺を嘲笑いながらその場を立ち去って行った。


「……くそ」


 こうして俺は、すべてを失った。


 〇


 あの地獄のような出来事から、1週間が過ぎた。


 人間1週間あれば何とかなるようで、あれほどメンタルを傷だらけにされて家から出られなくなっていた俺は徐々に回復し、今日から無事に学校へ登校できるようになっていた。


 1週間ぶりの学校は多少行きづらかったが、幸運にも俺は友達が全くいないので変な緊張感は特になかった。

 それに、うちの学校はクラス分けがなく授業も任意参加であるため、周りの好奇な視線に晒される事もない。


「はぁー疲れた」


 昼前の4限目の授業が終わり、隅っこの席で背伸びをする。

 1週間ただ寝てただけの体で朝から60分授業を4連続で受けるのは、それなりに疲労を感じた。


 1週間前まではこんな事をいとも簡単にやっていたと思うと、少し自分に自信を持てる気がしてくる。


「万里子様! お昼どうですか?」

「万里ちゃん! 俺らとは?」

 

 すると、教室の前方で俺を裏切った張本人、橋本万里子が相変わらず男どもから迫られていた。

 万里子は学年でも有数の美少女であるため、あのように男から誘われるのは日常茶飯事だ。


 きっとあの立場を利用して、様々な男からポイントを巻き上げているのだろう。

 

「……」


 1週間経って、万里子の事は完全に吹っ切れた。

 こうやって彼女の姿を見ても正直なんとも思わないし、憎しみの気持ちもない。

 好きの反対が無関心とはよく言ったものだ。


 そもそも俺は、全てを捧げられるほど万里子のことを好きではなかったんだと思う。


 よく考えれば万里子と付き合ったのも、好きというより、女の子と付き合ってみたいという気持ちが強かったからだ。


 思春期の男は皆そういうものだろう。

 俺は今回の経験で安易に女の子と付き合わない、信用しない方がいい事を学んだ。

 この失敗を、次に活かせば良い。


 そんな事を考えていると、『グ〜』とお腹の音が鳴った。


 今日は朝から何も食べていない。

 胃の中はすっからかんだ。


「昼食べよ」


 俺はいつも通り1人で教室を出て、校内にあるコンビニで鮭おにぎりを購入した。


 うちの学校は全校生徒5000人を超える超マンモス校であるため、校内にコンビニのような飲食チェーン店がいくつかある。

 

 飲食店以外にも、ドラッグストアや服屋、スポーツ店など普通に1つの町として機能しそうなほど校内の施設は充実している。


 しかし、そんな校内の店舗利用にもランクによる格差がある。


 ランクによって、店の商品を購入する値段が大きく変動するのだ。


 例えば、今俺が購入した鮭おにぎりは、定価が150円だが、現在0ptでEランクの俺はその1.5倍の225円で購入することになった。


 逆にAランクだった時は、半額の75円で買う事が出来ていた。


 このように、一般的な暮らしをする中でもランクによる格差をつける事で、生徒同士の競争意識をより強めるシステムだ。

 

 甘い蜜を吸えていたAランクにいた時までは素晴らしいシステムだっと思っていたが、今の俺にとって、このシステムはかなり痛い。


 前も言ったが、俺の家庭は母子家庭で貧乏だ。

 毎月の仕送りは1万円ほど。

 

 そのため、このままEランクで定価以上のお金を払い続ける事は経済的に不可能だ。

 今は、Aランクだった時の貯金がそれなりにあるため1ヶ月程はなんとかなるだろうが、それ以降はかなり厳しいだろう。


 つまりタイムリミットは1ヶ月。

 それまでになんとかポイントを集める必要がある。

 そうしないと飯を食う事も出来ない。


 頭を抱えながら、俺は人気のない校舎裏のベンチに行き、そこでおにぎりを開ける。


「とりあえず、何かポイントを取るための作戦を練らないとな……」


 うちの学校でポイントを取得する方法は3つある。


 1つ目は、俺もポイントを全て奪われた『決闘』。

 リスクは大きいが、最も手っ取り早くて多くのポイントを手にできる。

 

 しかし、そもそも『決闘』は両者で掛けるポイントが一致する事で初めて成立するシステムであるため、元手が0ptの俺は現状何もできない。


 2つ目は、学校が公開している様々なミッションをクリアする事によるポイントの獲得。

 しかしこのミッションは、部活動のインターハイ出場や課外活動での活躍、学問で顕著な功績を残した場合など、一生懸命努力した人に対する報酬という意味合いが強いため、これまで特に何もしてこなかった俺がすぐにポイントを貰えることはない。

 

 ……まぁ1つだけクリアできそうなミッションはあるが、これもすぐにはポイントを支給されないだろう。


 となると、現状俺がポイントを得るためには最後の3つ目の方法しかない。


 3つ目は、定期的に行われるテストや特別研修などの学校主催のイベントによるポイントの獲得。

 うちの学校には、一般校にあるようなテストや学園祭などの行事以外にも、様々なイベントが開催されており、参加条件を満たせば誰でも参加する事ができる。

 そして、そこで優秀な成績を出せば、指定されたポイントを獲得できるのだ。


 俺も入学してすぐのフラッシュ暗算のイベントで優勝し、500pt獲得した事がある。


 今回も同じように頭を使う系且つ1ヶ月以内にポイントをもらえるイベントがあれば良いが……。


「とりあえず、今やってるイベントを調べるか」


 学校から支給されたスマホでは学校のイベントを一覧で確認する事ができる。


 俺は、程よい塩味の利いた鮭おにぎりを口に含みながら、スマホを開こうとした。

 だが、その画面は真っ暗で全く反応しなかった。

 

「充電なくなってる……」


 1週間スマホを触らずに過ごしていたからか、スマホの充電はすでに底を尽きていたようだ。

 てか、それを昼になって気づくのやばすぎるな。


 まぁいい、スマホでなくても学校の掲示板でイベントの一覧を見る事ができる。


 俺は、おにぎりを口にかきこみ、掲示板のある職員室に向かった。



 職員室の前の掲示板には、縦2m横10m程の大きなボードに1枚1枚丁寧にイベント情報が張り出されていた。


「えっと、とりあえず今から一番早いイベントは……演劇主役オーディション?」


 演劇主役オーディション。

 うちの文化祭で有名な『聖なる夜に』という舞台の主役オーディションを行うイベントらしい。

 

 優勝しただけで1000ptを貰えるそこそこ大きなイベントだ。

 勿論その後の舞台の評判によってはさらにポイントは上乗せされるだろう。


 すごく魅力的なイベントですぐにでも応募したいところだが、生憎女子しか応募できないらしい。

 確かにあの舞台の主人公は女子だしな。


 その後も色んなイベントを確認してみたが、俺が得意そうなイベントはなかった。


「やっぱ無理か。まぁ、来月にはテストもあるし一旦そこまで耐えるしかないか」


 イベント参加を諦めた俺がその場を立ち去ろうとした瞬間、さっきまでいなかった人影を見つけた。

 その人物は、さっき俺が見ていた演劇主役オーディションのイベントを凝視している。


「あれ、鬼束さんか?」


 鬼束蘭。

 黒髪のウルフカットで制服を着崩しているギャルのようなやんちゃな容姿から、毎日夜遊びをしていると学年の中では有名だった。


 そんな鬼束さんが、演劇主役オーディションをあんなに必死そうな目で見ているなんて意外だ。

 そういうものには縁遠い存在だと思っていたから。


「あ」


 すると、そんな俺の視線に気づいたのか、鬼束さんが訝し気に俺を見てきた。

 

 あまり関わりたくないし何もなかったように離れようとしたが、何故か鬼束さんはジーっと俺を見続ける。


「……」


「……」


「……あの」


 しびれを切らした俺はそう切り出した。


「なんか、俺の顔についてる?」


「あんた、皆川徹よね?」


 なんと、あの鬼束さんに名前を知られていた。


「そうだけど、なんで知ってるの」


「そりゃ、1年の中で一番頭がいいって噂だからね」


 確かに直近の定期テストは学年1位だったが、それは勉強ができるというだけで、頭の良さはまた別だろう。


「そうなんだ。それで俺に用があるの?」


「私……この演劇好きなの」


 鬼束さんは、『聖なる夜に』のポスターを見ながら、感慨深そうに目を細める。

 その瞳の純粋さに、少しドキッとした。


「俺も一度見たことあるけど、いい演劇らしいね」


 確かにこの演劇は学校外からも人気の高い演劇だと聞いたことがある。

 文化祭の時には外部の人がこの演劇を見るために足を運ぶこともあるそうだ。


「うん。すごく素敵な演劇なのよ」


 その深みのあるその声音だけで、どれだけこの演劇が好きか伝わってくる。


「だから、私、この演劇の主役になりたいのよ」


「じゃあ、このイベントに応募したらいいんじゃない?」


 真っ先に思い浮かんだ言葉を話すと、あきれ顔を向けられた。


「それはそうだけど、普通にやってちゃ勝てないの」


「ほう」


「このオーディションは校内の生徒の投票形式で選ばれるからある程度人気が必要なの。私にそんなものがあると思う?」


 自分で言っていて悲しくならないのだろうかと思うが、まぁ確かに鬼束さんの言う事も分かる。

 俺も鬼束さんを知っていたのはあまり良くない噂のおかげだったからな。


「でも、鬼束さん可愛いし、いけるんじゃない?」


「なっ!」


 ここもシンプルに思った事を言う。

 お世辞抜きに鬼束さんは可愛い。

 

 肌は白いし、目はパッチリを開いて、鼻は高い。

 身長が高く、スタイルも良いし。

 普通にしてたらもっとモテていただろう。


 俺の言葉に顔を真っ赤に染める鬼束さんは声にならないのか、口をパクつかせる。

 

「な、何言ってんのよあんた。私が可愛い? そんなわけ」


「いや普通に可愛いと思うけど。オーディションに出てみたら?」


「そ、そんな事言うのは、あんただけよ」


「そうかな?」


「そ、そうよ! それにこのオーディションにはあの、橋本万里子も出るんだから」


 どうやら、万里子もこのオーディションに出るらしい。

 間違いなくポイント目当てだな。


 でも確かに、万里子は表向きでは学校内でも有数の美少女であるため、投票勝負になると勝てる気がしないだろう。


「ふ~ん、じゃあ、出なければいいんじゃない?」


「……っ」


 鬼束さんは、瞳を揺らして黙り込んでしまう。

 

 この様子だけでも鬼束さんの意図は手に取るように分かる。

 きっと鬼束さんは今俺に真逆の事を言ってほしかったのだろう。


「鬼束さんはさ、なんで俺に話しかけたの?」


 元々この会話は鬼束さんから話しかけられたものだ。


「そ、それは……」


「このオーディションに出たいからでしょ? 大好きな演劇の主役になりたいからでしょ?」


「っ……」


「でも、自分の評判的に、普通に出てもうまくいかない。万里子が出るとなるとなおさら。だから、頭が良いと噂の俺に何かアイディアがないか聞きたかった。そんな所かな」


「……正解よ」


 おそらく俺が『可愛い』なんて言ったせいで、正直に頼む事が出来なかったのだろう。

 そんな事をすれば、自分で自分が『可愛い』と認める事になるような気がするから。


 このキツそうなギャルの見た目なのに、案外自己肯定感が低いんだな。


「……」


 鬼束さんは、見透かしたような俺の視線が気にくわないのかじっと睨んでくる。


「う~ん、そうだな。何かアイディアというかサポートならしてもいいよ」


「……サポート?」


「そう。投票形式だから校内の生徒たちにアピールするための活動があるだろうし。その辺のサポートをさせてもらえれば」


「……そんなサポートされても、良い戦略がなければ勝てないでしょ?」


「大丈夫だよ、戦略はすでにあるから。この辺については追々話すとして、サポートするにあたって2点お願いがある。これが駄目なら俺はサポートできないな」


「な、なによ」


「1つ目は、このオーディションの1件で鬼束さんが獲得したポイントの3割を俺に譲渡してほしい。タダ働きできる程人間できてないし」


「……なるほど。3割ってことは、300ptくらいね。まぁそのくらいだったら大丈夫よ」


「おっけ。そして2つ目は、万里子に『決闘』を挑んでほしい。このオーディションの勝敗、で」


 俺の言葉に鬼束さんは驚いたように目を開く。


「はっ? どういう事よ。決闘なんてわざわざしなくても」


「理由は、万里子に勝つだめだよ。これを飲んでくれないととサポートする事はできないな」


「……あんまり繋がりが見えないけれど。ちなみに、私の今のポイント数はこれよ? 橋本が『決闘』を受けると思えないわ」


 鬼束さんは俺に所有ポイント数を見せてくる。


 ☆ ☆

 鬼束蘭

 保有ポイント:200pt

 生徒ランク:E

 ☆ ☆


 決闘は、決闘者同士で定めた同じ量のポイントを賭けあって、利害が一致したら成立する。

 

 万里子は推定でも5000ptを超えるポイントを所持しているため、たったの200pt程度では決闘を受けてもらえないと思っているのだろう。


「大丈夫だよ。ポイントは俺が準備するから」


「え?」


「安心して。鬼束さんが言っているように俺は頭がいい。それなりにポイントも持ってるよ」


『決闘』は基本1対1で行うものだが、賭けるポイントを他の生徒が肩代わりする事は可能だ。

 まぁ肩代わりするメリットはあまり無いんだけど。

 

 俺の言葉に、鬼束さんが思慮深い顔になる。


「……だ、だったら、皆川が『決闘』をすればいいじゃない」


 その言葉はごもっともだ。

 だが、今回は鬼束さんと万里子の『決闘』が大事になってくる。


「いや、俺よりも鬼束さんの方がいいんだよ。できるだけこの『決闘』を色んな人に知ってもらいたいからね」


「……あまりよく分からないけれど。でも、私にデメリットは少なそうだから、『決闘』をしてもいいわよ」


「よしっ! じゃあ時間もないし、オーディションに応募して、万里子へ『決闘』を申し込もう」


「そうね」


 こうして俺は、鬼束さんの演劇主役オーディションをサポートする事になった。


 〇


 学校の中庭のとあるベンチ。

 『決闘』を申し込むため、万里子と1週間ぶりに対面した。


 別れた時はもう2度と会わないなんて言っていたが、『決闘』の申込を散らかせると、すぐに顔を出してくれた。

 

 本当にポイントが大好きなんだな。

 何故付き合っている時に、この一面に気づけなかったのか。

 

 恋愛は人を盲目にさせてしまうというのは、あながち間違いではないのかもしれない。


「久しぶり、万里子」


「挨拶なんていいわ。それで、『決闘』の申込というのは?」


 万里子は金髪カールを人差し指に巻き、早口でまくしたてる。

 隣の鬼束さんには目も向けない。


「あぁ、この鬼束さんと万里子とで、『決闘』をしたいんだ」


「鬼束さん……」


 先ほどまでは全く鬼束さんに興味を示さなかったが、今は値踏みするような視線を向けている。


「なんの勝負よ」


「今週末にある演劇主役オーディションのイベントの勝敗」


 万里子の目が少し広がる。


「ふ~ん、あのイベントに応募してるのね。てっきり私以外誰もいないかと思ったけど」


 確かにこのイベントに参加したのは、万里子と鬼束さんの2人だけ。

 他の人は万里子がいる時点で諦めたのだろう。


「でも、決闘できるほどのポイント数持っているの? 私、これだけポイントを持っているから、はした金はいらないんだけど」


 言いながら万里子はスマホを俺たちに見せてくる。

 

 ☆ ☆

 橋本万里子

 保有ポイント:10,058pt

 生徒ランク:A

 ☆ ☆


「え、1万っ?」


 想定以上のポイント数に隣の鬼束さんは思わず声が漏れていた。

 確かに予想していた以上のポイント数だ。


「知ってる? この学校では、学年ごとにポイント数が多くて優秀な生徒10人の事を『十傑』と呼んでいるの。私はその十傑の第九席。あなたたちとは格が違うの」


 『十傑』。

 確かにその名前は知っている。


 学年の英知が集まった10人で、待遇はAランク以上のものがあると聞いた事がある。


「大丈夫だ。そのポイント相応のものを賭ける準備は出来ている」


「どうかしら? 徹はポイントがすっからかんだし、その女もいい噂聞かないし。ポイントなんてあるのかしら」


 万里子は、訝し気な視線を俺たちに向けてくる。


 完全に俺たちでは『決闘』にならないと踏んでいるようだ。

 全く、なめられたものだ。


 

「じゃあ、この決闘に俺の『退学』を賭けるよ。鬼束さんが負けたら、俺はこの学校を退学する」



「え」

「は?」


 2人は信じられないといった様子で俺を見る。


「ちょっ、皆川何言ってるのよ。退学? そんなものが賭けられるわけ」


「賭けられるんだよ。万里子は、知ってるよね?」


 俺が万里子を見ると、少し考えた様子を見せすぐに口角を上げる。


「ええ、知っているわ。ポイントを無くした生徒の最後のカード。10,000pt分として、自分の『退学』を賭ける事ができる」


「そう。そして、相手を退学させる事ができた生徒も、人数に応じてボーナスポイントが支給される。1人11,000ptとかだっけ」


「1人12,000ptよ」


「流石、把握してるね」


「そりゃ、ポイント好きだからね。それより本当にいいのかしら。あんた、退学するわよ」


「大丈夫。勝つ自信しかないから」


「……なめられたものね。いいわよ、この『決闘』受けるわ」


 負ける事を少しも想像していない万里子は言葉を続ける。


「よし、じゃあ今から鬼束さんが送る『決闘』依頼を承認してくれ」


 学校で支給されたスマホには、『決闘』で使う専用のアプリがあり、このアプリを通して決闘の依頼・承認が可能になる。

 

 また、このアプリで登録された決闘の情報は基本全校生徒で見られるようになっている。

 ただ、賭けたポイント数などの詳細な情報は開示しない事もできる。


 そして、その『決闘』アプリで鬼束さんに決闘依頼をしてもらおうと思ったのだが、鬼束さんは戸惑った顔で俺を見ていた。

 

「ちょ、ちょっと、皆川、退学ってどういう」


 そういえば、退学の件鬼束さんに話していなかった。


「まぁ後で話すから、とりあえず万里子の気が変わらないうちに依頼を」


「い、いやそんな退学なんて」


「大丈夫だから、早く」


「……分かったわよ」


 俺があまりに急がせるので、鬼束さんは渋々『決闘』アプリを操作し始めた。

 そして数十秒後。

 

「……今、依頼を送った」

 

「ほんとね。承認したわ」


 『決闘』の依頼・承認作業をした2人は、どこかギスギスした雰囲気でお互いを見ていた。

 すると、万里子がふと俺に視線を向ける。


「ちなみに、徹は純粋だから1ついいこと教えてあげる」


「……いい事?」


「そ。この学校にはポイントで出来ない事は何もないのよ」


 意味深な言葉を残し、悠々と万里子は去っていった。

 


「……ちょ、ちょっと、皆川どういうことよ。退学って」


 鬼束さんは低い声で俺を睨んでいる。


「さっき話した通りだよ。鬼束さんがこの決闘に負けたら俺は退学する」


「意味が分からないのよ。そんなの賭けるくらいだったら、別に『決闘』なんてしなくていいじゃない。こっちも退学とか、背負えないっていうか……」


「別にそんな風に思わなくてもいいよ。これも俺の作戦の1つだから。それに、退学をかけてもいいくらい、鬼束さんを応援してるって意味だから」


「っ……」


「あんなに必死そうな目を見たら応援せずにはいられないよ」


 これは本心だ。

 あの掲示板の前で演劇のポスターを見ている、鬼束さんの瞳。

 とても綺麗で、汚れがなくて、純粋なその思いを応援してあげたいと思った。

 

 なにより、1人の女の子をここまで虜にする演劇の主演をあの万里子に取られるのが癪だった。

 まぁ、俺がポイントを稼ぎたいという目的もあるが。

 

「で、でも、普通退学なんて」


「大丈夫。だって鬼束さんは可愛いから。きっと勝てるよ」


 俺だって勝率の少ない賭けはしない。

 鬼束さんだからこんな勝負をする事ができた。


「っ! ば、バカじゃにゃいの! 私は可愛くなんてないし、見た目もこんな感じだし、なにより引っ込み事案で」


「それでも、俺は鬼束さんにベットした。鬼束さんは自分に自信がないのかもしれないけどそんな事ない。鬼束さんは可愛いから、自信をもって」


「……っ! わ、分かったわよ! 退学しても知らないわよ!」


 こうして、俺の退学が懸かった演劇主役オーディションが始まった。



 鬼束さんと万里子の決闘の話は、『決闘』アプリを通してすぐに校内に広がった。

 流石は校内でも知名度のある2人だ。


 そのためか、例年よりこのイベントは注目を集めていた。

 予想通り、得票数も例年よりも大幅に上がる事だろう。


「さて、じゃあ作戦だ」


 俺と鬼束さんは、いつも俺が使っている校舎裏のベンチで作戦会議をしていた。

 投票日まで残り3日と時間はほとんどない。


「まず単刀直入に言うと、鬼束さんには、清楚系女子になって貰いたい」


「は、はぁ? 清楚系女子?」


 俺の切り出した言葉に鬼束さんは眉を顰める。


「そう。まず今回のイベントのルールを整理するね。今回は、学内の生徒による投票形式、より多く票数をとった者の勝利になる。こういう投票の勝負って、容姿とかも大事だけど、なにより印象に残る事が大事でさ。政治の選挙とかでもそうでしょ?」


「た、確かに印象に残ると覚えるわね」


「そう。で、鬼束さんってギャルっぽい印象があるから、ガラッと清楚系の見た目に変えればそのギャップで印象に残る人も増えると思うんだよ」


「な、なるほど。で、でも元々私の事を知らない人たちには効かないんじゃないの?」


「大丈夫。鬼束さんの事を知らない人は基本万里子の事も知らないでしょ? そういう人たちは単純な可愛さだけで投票してくれると思うから、それなら可愛い鬼束さんが負けるわけがないよ」


「お、おまっ! またさらっとそういうこと言うのね……」


 相変わらず可愛いと言われ慣れていない鬼束さんは恥ずかしそうに顔を赤らめる。


 いい加減慣れてほしいものだ。

 オーディションというのは、容姿ももちろん大事だが、自信も大事だからな。


「……皆川の作戦は分かったけど、清楚になるなんてそんな簡単じゃないわよ? ヘアセットとか、化粧だって変えないといけないし」


「その点は大丈夫。ちゃんと作戦を考えている」


「作戦?」


「うん、多分そろそろ来る頃だね」


「来るって誰が……」


 鬼束さんが言いかけたところで、ちょうど俺たちのいる校舎裏にすらっとしたイケメン眼鏡の男子生徒が現れた。


「徹。こんなところに呼び出してなんだ」

 

 黒髪マッシュの髪型に清潔感溢れる身なりをしているその男子生徒は、不満そうな顔でそう俺を睨む。


「あ、この人……」


「鬼束さんも知ってると思うけど、この人はこの学校の生徒会長、林優吾」


 林優吾。

 実力主義の藤明高校で生徒会長を務める高校3年生だ。


「どうも、はじめまして」


「は、はじめまして」


 優吾からの挨拶に、鬼束さんは少し気圧されているように体を引く。

 

 優吾は、学内では知らない人がいない有名人。

 そのキレる頭脳から圧倒的な量のポイントを所持していると言われている。


「ちょっと、皆川。なんでこんな人が知り合いなのよ……」


 鬼束さんは小さな声でそう聞いてくる。


「そりゃ、俺と優吾は幼稚園からの縁だからね。所謂、幼馴染ってやつ」


「お、幼馴染……」


「そう。そして優吾には色々貸しがあるから、今回の件でも手伝ってもらおうと思って」

 

「おい徹。何も説明せずに話し始めるとは相変わらずマナーがなってないぞ。何の用だ?」


 俺の言葉を遮るように、優吾は俺を睨む。


「ああごめん。幼馴染としてのお願いがあるんだけど、この鬼束さんを清楚美少女に変身させてほしい。優吾って美容のこと詳しいでしょ?」


「……唐突だな。何が目的だ?」


 目を細めて俺を疑う。

 相変わらず疑り深い。


「3日後にある演劇主役オーディションでこの子を優勝させたいからだよ」


 そう言うと優吾は鼻を鳴らした。


「ふっ、徹は知らないのか? 学校のイベントは生徒会の主催で開催している。今回のオーディションもそうだ。そのため、イベントの公平性という観点で俺たち生徒会はどの生徒にも肩入れできないんだよ」


 まぁそのくらいは知っている。

 全く、それくらい気にしてほしくないものだ。

 これだから真面目な奴は困る。


「じゃあ言い方を変えよう。この子のことを可愛くしてほしい。オーディション関係なく」


「この流れで俺がそれを飲むと思うか? 答えはノーだ。俺にも立場がある」


 優吾は断固として俺の要望を応じない姿勢を見せる。


「そうか。じゃあ全校生徒に過去のこの写真をバラそうかな~」


 俺はニタリと笑って、鬼束さんに見えないように優吾へある写真を見せる。

 

 中学時代の写真。

 今とは正反対の地味で髪もボサボサの優吾だ。

 これが、優吾の黒歴史である事は知っている。


「おまっ! それを持ってくるのはずるいだろ」


「別にいいでしょ。優吾だって前に過去のことで俺を脅した事があるしね。それの報復だよ」


 痛いところを突かれたのか、優吾は口をつぐむ。

 そして、少し考えた後にゆっくりと口を開いた。


「……その女子を清楚に可愛くすればいいんだな?」


 それは、同意とイコールの言葉だ。


「うん。まぁ元から可愛いからそんな手間かからないと思うけど」


「だから、お前っ! そういう事は」


 優吾と話している間、俺の隣でリスのように体を小さくしていた鬼束さんはまた顔を赤くしている。


 そんな鬼束さんを見て興味深そうに優吾が口を開いた。


「……ちなみに、お前たちは付き合っているのか?」


「へっ!?」


「いやそんな事はないよ。俺には勿体無いでしょ。どう見ても」


「確かにそうだな」


「だからそんな事は……」


 消えそう掠れ声で呟く鬼束さんに顔を向ける。


「鬼束さん。優吾は姉たちの影響で美容の知識はピカイチだから安心して任せていいよ。あと、できれば自分でも色々美容について調べてもらえると助かるかな」


「わ、分かった……」


 戸惑ってはいるが、肝の座った瞳をしているから問題はなさそうだ。

 やっぱり、鬼束さんは強い人だ。


「で、鬼束さんをイケチェンする日だけど、優吾は明日とか空いてる? できれば早めに頼みたいんだけど」


「う~ん最近は色々と研究に忙しいんだが……」


 研究とは、学業で功績をあげる為に行う事。

 どんな研究課題があるかは、分野毎にミッションで規定されている。


「研究か。珍しい事をやっているな」


「……お前が言うか」

 

 実は、俺も入学したての時に優吾の研究を手伝う事もあり、最近はある研究課題について、個人的に色々と勉強をしていた。


「ごめんごめん。また今度研究手伝うからさ、なるはやで予定空けてほしいな」


「まぁそれならば、幼馴染のよしみで予定を空けてやる。明日の放課後でいいか?」


「うん。鬼束さんは大丈夫?」


「わ、私も大丈夫よ」


「よしっ、じゃあまた明日の放課後に集まろう」


「わ、分かった」

「了解」


 ひとまず鬼束さん清楚化大作戦の当てはついた。

 後は……。


「優吾。後でもう1つ話があるんだけど、いい?」


 優吾は怪訝な視線を向ける。


「……あと5分で他の打ち合わせが始まる。生徒会室に向かう道中だったら話を聞いてやる」


「ありがとう。じゃ、鬼束さんは一旦ここで帰っていいよ。また明日」


「……え、いや私も」


「大丈夫。また別件のことだから」


「そ、そうか。分かった。じゃあまた明日」


 しょんぼりした様子で肩を落としている鬼束さん。

 その表情を見ると一緒に話を聞けばよかったかと思ったが、鬼束さんは聞かない方がいい話だ。


 今鬼束さんには、自分がより可愛くなる事に集中してほしい。


 鬼束さんは寂しそうなままその場を立ち去った。

 そして残った俺たちも2人で歩く。


「……で、もう1つはなんだ」


「これは、幼馴染としてじゃなく、オーディションをサポートする一生徒としての要望なんだけど」



「うお〜やっぱ、優吾の店すごいな。でかい」


「別に普通の美容室だろ」


 優吾と約束を取り付けた翌日。

 俺と鬼束さんの2人は優吾の実家である美容室に足を運んでいた。


 優吾の家は美容一家であり、ここらでもかなり大きい4階建ての美容室を構えている。


 平日の夜なのに3階までは客が埋まっているらしく、俺たちは4階に案内された。


「それで、どんな感じにする? 清楚って言っても色々種類あるけど」


 優吾はテキパキと美容用具を準備しながら声をかける。


「一応私も調べてきて、こんなのはどうかなって、思ってるんですが」


 鬼束さんはおずおずとスマホで写真を見せる。

 どうやら、自分でも色々調べてくれていたようだ。

 というか、優吾がいるから鬼束さんも敬語になってるな。

 

 俺と優吾は一緒にその写真を覗く。そしてすぐに2人顔を見合わせた。


 そこに、まるでサザエさんのような髪型で口ピアスをしている女性が写っていたからだ。

 

 えっと……これが清楚?


「徹、これでいいのか? じゃあ準備を」


「ダメダメ! 全然清楚じゃないよ」


「え、そう? 私は可愛いなって思ったわ」


「マジ……?」


 俺は思わず頭を抱えている。

 優吾は他人事なのか、ニヤニヤと笑っていた。

 どうやら、鬼束さんの美的センスは皆無に等しいようだ。


「どうする? 徹」


「優吾に任せる。ザ・清楚って感じにしてほしい」


「了解」


 俺たちのやりとりを聞いた鬼束さんは未だに気づいてないのか不思議そうな顔をしている。


「え、この写真可愛くない?」


「えっと、あの、優吾の趣味じゃないみたいだからさ。別のやつにするね」


「そうなのね。確かに先輩の方がセンスありそうだし、そうしてもらうわ」


「うん。そうしよ」


 良かった〜。

 鬼束さんが自分の美的センスにプライドを持ってなくて。


 そんなわけで、優吾のおまかせで清楚化作戦がスタートした。


 優吾は適宜会話をしながら、手際よく作業を進める。


 さながらそれは一流の美容師のようで、やっぱり優吾は多才だなと感じた。

 さて、俺は暇だし、適当に漫画でも読むか。



 2時間後、美容室によくあるヤンキー漫画の6巻途中で、優吾が俺に声をかけてきた。


「徹、終わったぞ」


「……結構時間かかったな」


「そりゃ、ヘアセットだけじゃなくてメイクまでやったからな」


「お、流石だな。手間が減った」


 メイクは別の人にアポを取っていたが、それは不要のようだ。

 俺は漫画を閉じて鬼束さんの元へ向かう。

 

 鬼束さんは元々可愛いが、顔立ち的に清楚系の方が似合う。

 どれだけ可愛くなっているのだろう。楽しみだな。

 

 そんな軽い気持ちで俺は鬼束さんと対面した。

 だからだろう。

 

「っ……」

 

 俺はその女性に目を離せなかった。


 想像以上だった。

 間違いなく、今まで俺が見た女性の中で一番綺麗な女性だ。

 

 その瞬間、俺は今回の勝負に勝った事を確信した。


 

 演劇主役オーディションのイベント開催日、当日。


 俺は40人規模の一般的な教室の半分ほどの大きさしかない特別教室に招集された。

 

 教室の中心には、縦4m程ある正方形のスクリーンが張り出されており、その両脇に長いテーブル1つとパイプ椅子が3つほどそれぞれ並べられていた。


 さらに教室の中には生徒会の赤い腕章を付けた生徒がいそいそと準備を進めている。


 ここは、今回のイベント会場だ。

 そして、俺たちの対戦相手である万里子はすでに到着しているようで、取り巻きの女子3人と共に俺を見て薄ら笑いを浮かべている。


 相変わらず感じの悪い奴だ。


「あら、女の子の方はどうしたの? 鬼須賀さん、だっけ?」


「違う。鬼束さんだよ。名前くらい覚えた方がいいよ」


「ああ、そうだったわね。ごめんなさい。そんなに怒らないで。で、その鬼束さんは?」


「鬼束さんは今写真撮影をしてる。万里子もやったでしょ?」


「ああ、あの学校のSNSに上げたいからってやつね。今年からの試みみたいだけど、そういえばこの学校はSNSとかやってたわね」


「あまり見ていないんだね」


「まぁ、最近はちょっと色々忙しくてね」


 万里子はにやりと不敵な笑みを浮かべる。

 少し不気味だ。

 

 まぁ気にすることはない。

 あの鬼塚さんを見たら、万里子のしたり顔も全く別物になるはずだ。


 そして。


「こんにちは」


 そんな声と共に鬼束さんが教室に入る。

 その瞬間、主催の生徒会メンバーも勿論万里子たちも、みな固まった。


 そこには、綺麗な黒髪ボブを靡かせ、セーラー服を着た美少女がいた。

 肌はすき通るように綺麗で、目は綺麗な二重と涙袋があるためパッチリと開かれ、その瞳は宝石が入っているかのようにキラキラ光っていた。


「……べ、別人じゃないの?」


 そんな鬼束さんの変わりように万里子が震えた声を出す。


「別人? そんなわけないでしょ。ね、鬼束さん?」


「ええ。私は鬼束蘭よ。スマホを見てもらえば分かるけれど」


「……」


 万里子は苦虫を噛み潰したような渋い顔を見せる。

 ここまで鬼束さんが変わるとは想定していなかったのだろう。

 きっと万里子自身も、容姿で自分が負けていると悟ったに違いない。


 それにあの鬼束さんがこんなに堂々と話せるようになっているなんて、俺も少し泣きそうだ。


「じゃあ、イベントを開始しよう」


 万里子の反応でほぼ勝利を確信した俺と鬼束さんがパイプ椅子に座ると、生徒会長である優吾が進行を始める。


「ご存じの通り、今回のイベントは投票形式で行わる。ルールの説明を行うが」


「いいですよそんなの。ちゃんとイベント内容くらい把握してるので」


 優吾のセリフを遮るように万里子が口を出す。

 少しだけ優吾のこめかみがググッと上がった。


 お、怒りを我慢してる。

 確かに1年からこんな口の利き方されたらキレそうになるよな。


「……分かった。鬼束さんも、それで大丈夫か?」


 聞かれた鬼束さんは心配そうに俺を見る。

 可愛くなったのに、こういうところは前のままだな……。


「大丈夫じゃない?」


「分かった」


 俺の言葉を聞いて「大丈夫です」と鬼束さんが言うと、優吾も頷く。


「では早速、校内の投票に移る」


 全校生徒に支給されているスマホには、いくつか普通のものとは違う特有の機能があり、その中に投票機能というものも備えられている。


 これは、全校生徒に一斉で投票付きメッセージを通知するもの。

 このようなイベントごとではよく利用されるシステムだが、基本自分が興味のないイベントでは無視をする。


 しかし、今回のイベントは万里子と鬼束さんの勝負、しかも『決闘』も絡んでいるため、かなり注目を浴びている。

 例年に比べて投票者もかなり増えるだろう。


「では、全校生徒へ一斉にメールを送る」


 優吾はスマホを操作すると、スクリーンの画面に投票画面が写る。

 その画面の中央にある投票者の数が動的にどんどん数を増やしていた。


 さっき投票を開始したはずなのに、すでに100人が投票を完了している。

 やはり俺の想定通り、得票はかなり伸びそうだ。


「だ、大丈夫かしら? やはり心配になってきたわ」


 隣に座る鬼束さんは心配そうに俺をみる。


「大丈夫でしょ」


 俺の言葉にムスッと唇を広げる。


「……なんでそんなに冷静なのよ。この投票に、退学がかかってるんでしょ?」


「まぁ、そうだね。でも大丈夫。万里子よりも鬼束さんの方が可愛いから」


「っ……そ、そんな臭い台詞が言えるなら大丈夫そうね」


 そんなに可愛いのに、いまだに顔を赤らめている。


 全くいい加減慣れてほしいもんだ。

 ……というか、優吾に言われた時はこんな照れてなかったよな?

 何故の俺の時だけ……?


「とりあえず、私なら大丈夫ってことよね。皆川がそう言うなら、なんだか負ける気はしないわ」


「そう。だったら良かった」

 


 そして、投票が開始して5分後。

 優吾が再び話し始めた。


「投票結果が集まった。まず今回の投票結果を発表する」


 鬼束さんは祈るように両手を強く握っている。

 自信があるとはいえ、多少不安はあるようだ。


 対して万里子は表情がなく、ただ黙って座っていた。


 そして、教室のスクリーンで結果が表示される。

 

 

 ****************************************

 総投票数 :1500票

 橋本万里子:987票

 鬼束蘭  :501票

 無効票  : 12票

 ****************************************


 

「え……」


 その結果に、鬼束さんは信じられないといった顔で固まってしまった。


 ○


 最高の気分ね。


 私は今、演劇主役オーディションで優勝した。

 それも圧倒的な差をつけて。

 

 相手の女子、鬼束さん?は驚きすぎて固まってしまっている。


「残念ね。せっかく可愛くなったのに」


「……」


 驚きすぎて言葉も出ないのね。

 

 徹も下を向いてこっちを見ない。

 退学が確定したらそんな風にもなるのも分かるわ。


「私は言ったでしょ? ポイントでできない事はないって」


 そう。

 優しい私は、彼らにヒントを送っていた。


「……ど、どういうことよ」


 相手の女子はまだ分からないのか、私を睨んでくる。

 全く、これだから頭の悪い子は困るわ。


 

「単純な話よ。ポイントで票を買収したのよ」



 そう、私は生徒に片っ端から声をかけ、約800人の生徒を買収した。


 元々このイベントは、優勝のポイントが1000ptとそれなりに高額だから応募しただけだったけど、『決闘』が絡んで私の優先度はさらに跳ね上がった。


 ここで勝てば徹を退学させる事ができて、12,000ptを手にすることができる。

 それは真面目に1年間勉強しても手に入らないようなポイント数だ。


 すぐに私は、彼氏である中村俊郎に話をして、ポイントを借りた。

 今の私は『決闘』でほぼ全てのポイントを賭けており、自由に使えるポイントを持っていないからだ。


 それからは早かった。

 私は校内の男どもに片っ端から声をかけ、私に投票するように買収した。

 1人2pt程度しか渡せなかったけど、私からの依頼という事もあって断る男はいなかった。


 唯一面倒だったのは、『決闘』が絡んだこともあってこのイベントが思いのほか注目を集めてしまった事。

 例年であれば400票程あれば優勝は当確だったのに、今年は全体の投票数が、増える可能性があるので、より多くの票を買収する必要があった。


 そのため、この3日間はずっと票集めに奔走していた。

 他の事が目に入らないくらいやっていたので、勉強は少し疎かになったけど、10,000pt程を手に入れられるのであればお釣りがくるくらいだ。


 そのかいあって、私は無事優勝できた。

 相手の女の子がここまで可愛くなってたら単純な男どもの票が流れる気もしたけど、そんなことがなくて安心した。


「……そ、そんなのずるじゃない。買収なんてやっていいの!?」


 女の子はそう喚きたてる。

 全く、ここまで無知だと逆に呆れるわ。


「この学校には、ルールなんてない。犯罪以外なら勝つためなら何をしてもいいの。むしろこの学校はそういう票集めだったりを推奨してる。今後優秀な人材程、根回しが重要になってくるからね。そうでしょう? 生徒会長」


「そうだな」


 その生徒会長の言葉を聞いて、女の子は分かりやすく肩を落とす。

 ほんと、無知で無能な奴は見てるだけイライラするわ。

 ま、私の金づるになってくれたことはありがたいけれど。


「他はないかしら。正真正銘私の勝ちで異論はないわね。徹、短い学校生活お疲れ様。これから、人生の落ちこぼれとして頑張って生きるのよ」


 未だ顔を下に向けたままの徹にそれだけ言った。

 騙すためとはいえ、一応徹は一度付き合った仲。

 

 退学するならこれくらいは言ってあげないとね。

 ま、こいつも無能だったけど。


「じゃ、私はここで出るわ。祝勝会もしなくちゃいけないし」


 今日は、校内のレストランで俊郎を含めたメンバで祝勝会をする予定だ。

 

「おい。まだイベントは」


「大丈夫ですよ。もう勝負は決まったでしょう?」


 生徒会長さんが私を呼び止めるけど私は足を止めない。


 私は生徒会が好きではない。

 

 俊郎が言っていたもの。

 生徒会は無能の集まりだって。


 私は一番無能が嫌いだから、無能の言葉にも耳を傾けない。

 

「流石ですね。万里子さん」

「見事な勝利」


 教室を出ると、私を取り巻いていた女子が次々にそう言う。

 

 うん、気分がいい。

 やっぱり私は優秀だ。

 この学校でNo1になれる資質があるんだ。


「あ、そうだ」


 『決闘』の結果は、勝敗が決まってからすぐにスマホに反映される。


 あの女との『決闘』に勝ち、徹を退学させた事で12,000pt、このイベントを優勝したことで1,000pt、計13,000ptを貰う事はできる。

 

 ふふ、ニヤケが止まらない。

 これで私の学校の地位はもっと高くなる。


 私は口角が上がるのを我慢せずに、スマホを見る。

 そして、その画面を見て体が固まった。


「え……」


 ☆ ☆

 橋本万里子

 保有ポイント:58pt

 生徒ランク:E

 ☆ ☆ 

 

 え、ちょっと、どういう事よ。

 追加分はおろか、元々持ってた10,000ptも……。


 確かに私はイベントで勝った。

 システムの故障?

 な、なんで私のポイントが減ってるのよ。


 私の手は震えていた。


「万里子さん? どうかしました?」


「戻るわ」


「え!?」


 私は速足でさっきの教室まで戻る。

 そして、そこでにわかに信じられないものを目にする。


 教室の中心のスクリーンには驚きの文字が並んでいた。


 ****************************************

 総投票数 :5523票

 橋本万里子:1321票

 鬼束蘭  :4190票

 無効票  : 12票


 優勝者:鬼束蘭

 ****************************************


「はぁ?」


 どういう事よ、確かに私は投票で勝ってた。

 なんで総投票数が増えてるのよ。


 私が戸惑いながら、辺りを見回すと相手の女子の方も私と同じように何が起きたから分かっていないようだった。


 でも、その隣にはしてやったり顔で私を見る徹がいた。



 イベント3日前。


「これは、幼馴染としてじゃなく、オーディションをサポートする一生徒としての要望なんだけど」


「なんだ? 珍しく徹がかしこまってるな」


「……イベントのルールを追加したいと思ってる」


「ほう」


「おそらくだけど、今回の勝負は校内だけの投票になると鬼束さんが負ける」


「自信ないんだな」


「別に鬼束さんが悪いわけじゃない。相手が万里子だから言っているんだよ。あいつはポイントのためならなんだってするからね。きっと、他の生徒にポイントを渡したり、ハニートラップで自分に投票させるように仕向けると思う。だから、どんなに鬼束さんのイメチェンが成功しようとも普通にやれば勝つことは厳しいだろうね」


「なるほど。それで、ルールを追加するってのは?」


「うちの学校の生徒会ってSNSやってたよね?」


「そうだな。部活で成績残したときとか、文化祭の時とかに投稿してる」


「ちなみに、フォロワーは何人くらい?」


「今は5万人くらいいるかな。うちの学校結構人気なんだよ」


「だったら大丈夫そうだね。そのSNSアカウントを使って、校外の人たちからも投票できるようにしてほしんだよ。そしてその投票結果をイベントの結果に反映させてほしい」


「なるほど。つまり校内の生徒だけじゃなく、校外からの投票も可能にしたいという事だな」


「そういう事」


「でもそれで勝てるのか? 橋本だって顔は悪くないぞ。正直、校外投票でもあの鬼束って子が勝てるとは思わないが」


「大丈夫。あの子は本気だしてないだけだから。髪だってボサボサだし化粧もしていない。その辺をちゃんとすれば万里子よりも可愛くなるよ」


「そこの自信はあるんだな」


「そりゃ、優吾さんに見てもらうからね」


「……ふっ、まぁ幼馴染の頼みだし努力はするよ」


「ありがとう。で、ルール追加は問題ない?」


「問題あるかないかでいえば問題はある。イベント開催中にルールを追加するなんて異例だ。今回のような大幅な変更なら尚更な」


「だろうね。別にこっちも何も出さないわけじゃない。この学校は、ポイントでできない事はないでしょ?」


「ポイントを使って俺を買収しようってか。生憎俺は今ポイントに困ってない」

 

「やっぱそうくるよね。じゃあ、俺はポイントじゃない所で優吾を買収してみる事にするよ」


「さっきみたいに、過去の写真でも持ち出すか?」


「そんなずるい事はしないよ。俺が差し出すものは、これ」


「それは……『セブンクエスチョンズ』」


「この学校はポイントが全て。ほぼ全ての生徒がポイント欲しさに行動している。だけど優吾のように余るほどポイントを持っている生徒は、ポイントじゃなく『功績』をほしがっている」


「……」


「その『功績』の中で最も名誉とされるのが、これまで超一流の生徒が在籍したこの高校で歴代誰も達成できていない7つのミッション、『セブンクエスチョンズ』を解くこと。そうでしょ?」


「……まさか、お前、それを解いたのか?」


「いや解いてない。解いていたらこんなまどろっこしい事はせずに勝手に一千万ptを貰っている。けど、一部は分かった。もしかしたらこれを手掛かりに解けるかもしれない」


「ほう」


「で、その手掛かりを優吾に渡す。そして俺はもう二度とその問題を解かない。むしろ、優吾が解くのを手伝ってもいいよ」


「……つまり、その問題を解くカギを持っているのは俺だけになるという事か」


「どう? 魅力的じゃない?」


「確かに魅力的だ。でも、お前はいいのか? ここまで解いておいてそれを手放すのは」


「……正直に言うと自分で解きたいよ。でも、今の俺はポイントを集めるのが先だからね。生活が懸かってるし」


「なるほどな。分かった。じゃあその紙切れと交換条件でイベントにルールを追加してやる」


「ありがとう」


「ちなみに、ルールの追加を黙ってやるわけにはいかないから、公式のSNSでちゃんと周知するぞ。橋本にバレる可能性があるけど、大丈夫か? あいつは部外者にもパイプ多いから対策されるかもしれんぞ」


「大丈夫。きっと万里子はSNSをチェックする暇もないよ」


「……そういう事。なんでわざわざ退学を賭けてまで『決闘』をしたのかと思ったが」


「うん、今頃万里子は票集めで忙しくしてるだろうね」


 ●


「ル、ルールを変えた? そんな事ありなの……?」


 俺の話を聞いた万里子は絶望した方に立ちすくむ。


「いや、さっきルールなんてないって言ったのは誰だっけ?」


「っ……」


「勝つためなら、何してもいいんだよね?」


「ぐっ……くそぉ。絶対、絶対いつかやり返してやるっ……」


 跪いて俺を睨む万里子を見て、少しスカッとした。

 やっぱ無関心といいつつも、万里子への恨みみたいなものは多少俺の中にあったみたいだ。


 こうして、演劇主役オーディションは鬼束さんの勝利で幕を閉じた。



 あれから、1週間が過ぎた。

 

『決闘』のニュースはすぐに校内を駆け巡り、鬼束さんはその可愛い容姿から学校で一躍人気者になっていた。

 

 対して万里子は取り巻き女子もいなくなり、1人で寂しく生活している所をよく見るようになった。


 そして俺はというと、相変わらず友達がおらず、生活に変化はない。

 しいて言えば、あのイベント後に鬼束さんから受け取ったポイントの3割である3,300ptを獲得し、晴れてAランクに戻れたため、経済的な不安はなくなった。


 俺は教室の中心で10人以上の男女に囲まれている鬼束さんに視線を向ける。


 うん、彼女が楽しそうにしているなら良かった。

 俺のせいで不快な思いをさせているかと思ったが。


 そんな事を考えていると、『グ〜』とお腹の音が鳴った。


 今日は朝から何も食べていない。

 胃の中はすっからかんだ。

 

「飯食うか」


 俺はいつも通りコンビニで昼飯を購入し、校舎裏のベンチに腰を下ろす。


 今日はそばを購入した。

 俺は麺類で一番そばが好きだ。

 このさっぱりした味が癖になる。


 俺が、そばを口にしようと割り箸を割ると、ある人物の声が聞こえた。


「ちょ、ちょっと!」


 そこには、清楚になってより可愛さを増した鬼束さんがいた。


「あ、可愛くなった鬼束さん」


「う、うるさい!」


 相変わらず顔を赤くするな~。


「で、なに?」


「その、な、なんであれから私に声をかけないのよ」


「……意外な質問だね。てっきり俺は嫌われているかと」


「なっ、なんでよ!」


「そりゃ、俺がポイントを稼ぐためだけに鬼束さんを利用しちゃったからさ。勿論鬼束さんの事を応援する意味もあったけど、一番の目的はポイントだったから。いい印象ではないのかなって」


 言うと、鬼束さんは少し思案する。


「それ、嘘でしょ。ポイント目的だったら絶対自分で『決闘』をした方が良かった。そうすれば、ポイント橋本のポイントも総取りできたわけだし」


「いや、そんな事ないよ。鬼束さんの名前で『決闘』をしたから話題になって今回は勝てた」


「……嘘。皆川は、私にポイントが残るようにしてくれたんじゃない?」


 少しだけ、ドキッとした。


「そんな事ないよ」


「……少なくとも私がそう思ってるから、そう思うことにするわ。だから、その、皆川に救われたっていうか……。その、感謝、してるの」


「……」


「だから、これからも、私をサポートしてほしいというか……。わ、私と一緒にいてほしい、なって」


 清楚らしい黒髪ボブの髪を触りながら上目遣いで俺を見てくる。

 その頬は紅潮している。


 全く、物好きもいたものだ。

 でも不思議と、嫌じゃなかった。

 


読んで頂いてありがとうございます!


かなり省略したつもりでしたが、2万字を超えてしまいました……。


好評でしたら同じシリーズを短編で更新しようと思いますので、面白かった評価の方お願いします!


更新のモチベーションになります!


2022/10/17 改稿しました


2022/10/23 第二弾も更新したのでご興味のある方はご覧ください。

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[一言] 月1万円でコンビニ半額300円単純計算で300円×30日で9000円 生きていけると思えない。もう少し仕送り増やしていいはず
[気になる点] のんびり高校生活を謳歌してない点 [一言] 短編なので導入にあんまり文字数をかけてられないってのは分かるけど失うと地獄を見る事になるらしい大事なポイントを賭けポーカーにオールインしてカ…
[気になる点] 安易にまた付き合ってるうううう!
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