もうひとつの闇
一歩踏み出すと、得たいの知れない悪寒を感じた。ここが隣町の掲示板で見た<<死の森>>で間違いなさそうだ。こんなことに首を突っ込みたくないけど、そんな私情は今後の命取りになりかねない。と、緊張している僕とは裏腹に隣にいるマルコはなぜか楽しそうだ。僕が冷や汗をかいてるとわかるとマルコはいっそうにやけだした。
「おいおいカイ君よ、ここに来てまたびびってるでしょ、まったくさ、もうそろそろ慣れてもらわないと仕事にならないんだよね。それに、この茶番何回目?」
そんなこと言われても、と思いつつ余裕のない声を僕は放つ。なぜならこれから僕は
「人を殺すことに慣れたくなんてないよ。」
「人を殺すことに慣れる必要はないよ。カイ、君が慣れるべきなのは『ブレイカー』を狩ることなんだよ。」
「ブレイカー」、やつらは理性を失いしもう一人の自分。本来の自分を『壊し』覚醒することからそう呼ばれている。今僕たちがいるこの森は、ブレイカーがいると噂の森で何人も行方不明になっているとか。とりあえず今回の仕事はこの森の調査兼、遭遇した場合の駆除だ。
「わかってるよ。とりあえず進んでみよう、居ないといいけど。」
「この期に及んでまだそんなこと、大丈夫、君は強いよ。」
マルコとしては僕を励ましてくれているつもりなのだろう。
「どうも」
吐き捨てるようにそう言い、森を進んでいく。暗く淀んだ空気を纏うこの森に再び沈黙がおとずれる。僕らはただひたすらに進んでいく。こんな仕事、できるならしたくはないがこれは僕にしかできない。二十分ほど歩いただろうか、だんだんと意識が遠退く。
「お、反応あり、だね。頼んだよ、相棒」
その言葉を最後に僕の意識は完全に途切れた。
「………ーい」
「おーい」
「起きろーカイ」
マルコの呼び掛けで目を覚ました。辺りは明るく視界は透きわたっている。
「森を抜けたんだね。やつは、ブレイカーは」
と、僕がおどけているとマルコ満面の笑みになった。
「お手柄だよカイ。今回もばっちり、瞬殺だったね」
なぜか得意気に話す仲間を見て僕は胸を撫で下ろした。
「よ、よかった。とりあえず、博士に報告だね。」
「ふん、それはとっくに済んでいるよ。この天才アシスタント、マルコ·ストーンズの仕事は最速なのです!」
いつも通りのポジティブシンキングなマルコを見るとこっちも元気をもらえる、ような気がする。
「にしても、あのサイコ博士もたまにはやるもんだなー。ブレイカーの察知機能付きの対ブレイカー平気。『アンチブレイカー』か。それでも理性を保てないってのはモノホンのブレイカーとさほど…いや、悪い。話が過ぎたかな。」
さすがのマルコも悪いと思ったらしく口を慎んだ。
「いいよ別に、僕はこの『もう一人の僕』を誇らしく思えてるんだから。」
そう、この体は作られた体。ブレイカーを倒すための対抗策は操れるブレイカーを作ることだけだった。