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骸骨剣士の人間メイクアップ

 薄暗い中、コツコツと足音が鳴る。

 誰か掘ったか、何の目的で作ったか分からない。

 そう、ここはダンジョン。


 私は骸骨剣士。

 名前はまだない。

 今は一人でダンジョンにいる。

 その理由は私を作った魔王様が勇者に封印されたからだ。

 

 封印はかれこれもう300年くらい前かな。

 ここで私はダンジョンの宝物を入れる仕事をしていた。

 魔王様の命令で人間共を襲ったり、探して採ったアイテムを宝箱に入れるのだ。

 ダンジョンも人気商売であり、来てもらわなくては意味がない。

 宝箱も薬草だったり、短剣だったり、呪われた下着だったりとセンスが問われていた。

 又、派遣で来てくれたモンスター達と誘導しつつ、宝箱がある通路においやったもんだ。

 成功した時の人間の肉は美味しかったなあ。

 だけど、魔王様が封印され、世界が平和になったとたん人が来なくなった。 

 昔はこぞって勇者やら冒険者パーティーが来てたが、今はどっかの商店街のような寂しさがある。

 魔王様が封印されても、しばらくは流行の物を仕入れたが、来なくては意味がない。

 来たとしてもアイテムが今の流行とは違い、古い物だったりするので誰も取りたがらない。

 今では宝箱は私の服を入れるタンスの代わりにしている。

 そして、私は何も変化がない暗いダンジョンをひたすら歩いてる。


<おーい、聞こえるか? そろそろ復活するから準備してね>


 頭に声が響いてきた。

 これは……魔王様!?

 昔も何も変わらないギャルみたいな声だな。

 えっ? 復活するっていつ?

 それにしても封印されてるのに明るいな。

 そんなに心地良かったのかな?

 なんて考えてる暇はない。

 落ち着け、私。

 えーっとまずはアイテムの確保からだな。

 今は何が流行かな。

 なにせ100年外に出てないから分からないな。

 とりあえず、私の数少ない友達に念じておこう。


「もしもし? もしもし? 聞こえますか?」

 

 返事がない。屍のようだ。

 なんて冗談を言ってしまってるのがおっさんだな。

 まあ、モンスターのおっさんっていくつだって話だけどな。


<だれだよ? 寝ようとしてたのによ>


 ちょっとムッとした低い声が聞こえてきた。


「私だよ。ダンジョンの骸骨剣士」


<おお! ガっちゃんかよ? 何やってるんだよ?>


「ダンジョンで隠居生活です。ところでさっき魔王様の声聞きました?」


<聞いたよ。相変わらず何も教えてくれないお方だよな>


「まあね。ところでそっちは何処にいるんだい?」



 久しぶりに外の世界に出たけど、何も変わってないな。

 心地いい風、草木は緑で美しい。

 動物たちも生命力に溢れている。

 そんな風情を感じて私は森をとぼとぼと歩いてたどり着いたのは一つの沼。


「おーい、来たぞー」


 私の声に反応するかのように沼が沸騰しだした。

 そこから飛び出して浮いてるのは一匹のオタマジャクシ。


「おー!久しぶりじゃんか? 相変わらず痩せてるな」


「それは骸骨だからな」


「当たり前か」


 こいつは魔法使いのオタマジャクシのジャック。

 ジャックは私が付けた名前だ。

 魔王様は面倒くさがりなところがあるので、名前はみんな無い。

 だから、モンスターは好きな者同士で名前を付けることがある。


「それで来て早々なんだけど、今のアイテムって何が流行ってるの?」


 ジャックは魔法使いの他に流行のアイテムを紹介することもしていた。

 そちらでいうところの雑誌ような感じかな。

 彼のおかげで私のダンジョンはいつも賑わっていたようなもんだ。


「世界が平和になって俺も全然分からないよ」


「それじゃあ困るよ。ジャックしか流行を知る奴がいないんだ」


「そんなことを言ってもねえ……」


 無理もない、世界が平和になって仲間たちは目的意識を失った。

 ある者は自殺するし、ある者は姿を消し、またある者は変な宗教を作った。

 私はアイテムを宝箱に入れることが唯一の楽しみだった。

 敵だとはいえ、人間の色んな表情に心躍ったんだ。

 そして、また味わえるんだ。


「まあ、方法はあるんだけどね」


「えっ?」


 私の表情を読み取るかのように微笑みかけたジャック。


「好きな物はそいつに聞いたら良いんだよ」


「そいつって誰だよ」


「人間だよ」


「人間!?」


 そうだ! 人間の好みを聞いてそれを集めればいいんじゃないか!

 一人で考えるんではなく、誰かと話すと解決するな。


「だけど、私はモンスターだ。話しかけたりしても人間は怖がって逃げてしまうよ?」


「簡単なことだよ。ガっちゃんが人間になれば良いんだよ」


「おいおい、冗談は八百屋さんで言えってんだよ。人間になれるわけないよ」


「忘れてるな? 俺の本職は魔法使いだぞ?」


 ドヤ顔しながらジャックは呪文を唱えだした。


「その時に彼女は隼人の胸の鼓動を聞いた。そして、隼人も彼女の鼓動を聞いた」


「お、おいちょっと待てよ」


 私の声を無視しながら、ジャックは呪文を唱え続けている。

 しかし、もうちょっと呪文ぽく言えないのかな。

 これじゃあラブコメでしかないな。


「二人は涙をぬぐい、そしてキスをした。 イルミネーション!」


 緊張感のない声と共に私の体に魔法の光が覆った。

 やがて、私の体は骨から、血管、肉、皮膚と出来上がる。

 私は、人間になった。


「これが人間……」


 むずかゆい感じをしつつ、私は自分の体をあちこち触ってみる。

 肉の感触、頭の毛のサラサラ、可でも不可でもない顔。

 うむ、人間ですね。


「これで人間の好きなのを探せるだろ」


「そうだな、とにかく時間があるのかないのか分からないしな」


「まずはどうするんだ?」


「ダンジョンはしばらく閉鎖して、近くの村に行ってみるよ」


 そうして私は『ここに痴女が現れます』という看板をダンジョンの前に立て、アイテム探しの旅に出かけるのでした。



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