表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

- 個人企画におじゃました短編 -

おばけゆうれい もんもんじ! さとこちゃんのお留守ばん in かぼちゃ祭り【ほっこり童話集2020】

作者: こたかん

 

 10月の最後の土曜日は、成郎町(なろうまち)商店街の『かぼちゃ祭り』の日です。


 “パティスリー・キムラ” のさとこちゃんも、大はりきり。

 保育園から帰ってくるなり園服(えんぷく)をぬいで、桃色のエプロンを腰に巻きました。


「さとこ。お弁当はこたつの上にあるから、ちゃんと手をあらってから食べるんだぞ」


「はぁーい!」


 白いコックコートにぎゅっと抱きついて、元気よくお返事します。



挿絵(By みてみん)




 さとこちゃんのお父さんはパティシエ。

 お母さんはパティシエール。

 ふたりとも、お菓子やケーキを作る職人なのです。


「お留守ばん頼むね。お父さんもお店にいってくる」


 小さな頭をコクンとさせて、階段を下りるお父さんを見おくりました。 




挿絵(By みてみん)




 さとこちゃんのおうちはイート・インできるケーキ屋さんです。


 かぼちゃ祭りの日には、魔女やミイラ男のすがたに仮装した客さんたちが、おいしいケーキやお菓子を食べにやってきます。



挿絵(By みてみん)



 ケーキを焼いたりレジをうったり、お父さんもお母さんも大いそがし。

 ですから、さとこちゃんも『夕方の4時まで、ひとりでお留守ばん』をまかされました。



 いまはちょうど12時。

 4時間もお留守ばんするのは、今日がはじめてです。


 腹がへっては何とやら。

 まずはお弁当を食べましょう。


 洗面所で手をあらって、蛇口をしっかりしめました。


「じゃぐち、いじょうなし!」


 廊下を走って、お台所を抜けて、

 こたつの部屋に行くと――――――





挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)



 そこには、まっ白なオバケがいました。


 オバケはお弁当をぱくぱく食べていました。


 甘いおだしのたまごやきも

 トマトケチャップで煮こんだミートボールも

 ほうれん草のバター炒めも

 桜でんぶをふりかけた、あわいピンクいろのごはんも

 あっというまに全部なくなりました。


 タッパーウェアに入っていたチョコレートケーキもぺろり。


「あーーーー! さとこのケーキ、たべたーー!」


 さとこちゃんの声に、オバケはびくっと反応しました。


「なな、なんだ、子どもじゃないか」


 オバケはすっくと立ちあがり、えらそうに胸をはります。

 背丈はさとこちゃんより、ちょっと低いでしょうか。


「ぼくは、おばけゆうれい もんもんじ! コワガラ世界(セカイ)の王子なんだぞ。

今日は “Go(ゴー) To(トゥー) いたずらキャンペーン” のかぼちゃ祭りだけど、おいしいケーキをもらったから、お前にはいたずらしない。

ついでにお弁当も、ごちそうさま!」



挿絵(By みてみん)



 不法(ふほう)侵入罪(しんにゅうざい)(※勝手におうちに入った(つみ))に、(せっ)(とう)(ざい)(※他人のごはん等を食べた(つみ))を重ねておきながら、もんもんじはドヤ顔です。


 さとこちゃんはプルプル震えだしました。


 お弁当とケーキを楽しみにしていたのに、目の前で食べられてしまって、とっても怒っていたのです。


「さとこのケーキ、たべたーーー!」


 さとこちゃんは容赦(ようしゃ)なく、大きな声で責めました。

 もんもんじは目を丸くしてタジタジ。


「いやその、今日はかぼちゃ祭りだか…」


「さとこのケーキ、たべちゃったーーー! かってに、たべちゃったーーー!」


「だ、だって、ぼく、おばけゆうれ…」


「あーあー、ひどいんだー!」


「ごめんなさい。勝手に食べてごめんなさい」


「たべちゃった! たべちゃった! いけないんだ!」


「本当にごめんなさい。反省してます。許してください」



挿絵(By みてみん)



 さとこちゃんは5才にして、女王様のような女の子なのです。

 もんもんじはぺこぺこ頭をさげて謝りました。


「ちゃんとあやまったからゆるしてあげるー。だけど、さとこといっしょに、お留守ばんしなきゃダメなんだからねー!」


「……お留守ばん?」もんもんじは目をぱちくり。「それは労働に当たると思うんだが、給料はもらえるのか?」


 さとこちゃんはこたつの上を指差します。

 空っぽのお弁当箱と、フタが開いたままのタッパーウェアが転がっていました。


「もんもんじ、ケーキとおべんとう、たべたでしょ!」


「そ、そりゃ食べたけど……物納(ぶつのう)なんてブラックすぎるだろう。

()()()()()の第24条によれば賃金(ちんぎん)は現金(通貨)で、直接手渡しで払うのが原則とされているんだぞ?」


「さとこ5才だもん。わかんないもん」


 さとこちゃんがぷいっと顔をそむけると、もんもんじはブツブツ(つぶや)きました。


「くっ、これだから子どもはズルいんだ!

こっちはおばけゆうれいの王子として “いたずら日間目標(デイリーノルマ)” が課せられているんだ。奉仕(ボラン)活動(ティア)なんてやってられるか!

べろべろべーーだ!

ハッ……いや、まてよ。相手は子どもなんだし、アレを使えば……!」


 もんもんじは両手を大きく広げて、もにゃもにゃと呪文を唱えました。


「もにゃもにゃもにゃ!……いでよ、強制☆実現JINSEIゲーム!」


 ぽぽん!



挿絵(By みてみん)



 “とつぜんだが、ここで説明せねばなるまい!

 もんもんじが召喚した【強制☆実現JINSEIゲーム】とは、コワガラ世界(セカイ)一世(いっせい)風靡(ふうび)した電源不要の玩具(がんぐ)であり、お年寄りからお子様まで(※対象年齢6才以上)、2~6名が楽しく遊べるボードゲームなのである!”



「さとこ、まだ6才になってないよ?」


「大丈夫。ぼくも5才だし、音声ナビの “じいや” が付属されているから、止まったマスの文字は読み上げてくれる。ルールの説明もしてくれるぞ。

さあ、好きな色の(コマ)を選んでくれ」


 もんもんじは6色の車を並べて、さとこちゃんを(うなが)します。

 さとこちゃんはぴかぴか光る白い車を選びました。


「あっ、ぼくの専用車(ガンダム)がとられた……!」


「だってピンクがないんだもん。もんもんじは男の子だから、青でいいでしょ」


青い車(グフ)か。戦わずして後退できないしな、いいだろう。――――ポチっと」


 ボードゲームのスイッチをいれると、小さなじいやが現れておじぎをしました。


『プレイヤ―設定完了です。さとこ様、ルーレットをまわしてください』


 おそるおそる手を伸ばす、さとこちゃん。


 カラカラカラ……

 ルーレットの数字は8。


 (コマ)を進めた先のマスには “一緒に遊んでいるプレイヤーの似顔絵をかく” とありました。


「にがおえ……? あっ、手がうごく!」


 さとこちゃんの手が勝手に動いて、えんぴつをにぎります。

 サラサラ、サラサラ。

 新聞折込のチラシのうらに、もんもんじの姿が描かれていきました。


 どこかのQ太郎ソックリですが、どちらもオバケ属性ですから似通うのも仕方ありません。


「ふふふ、子どもらしくノビノビした良い絵だな」


 もんもんじはニヤニヤしながらルーレットをまわします。


 カラカラカラ……

 8でピタっと止まりました。


「うげげ、最悪だ」


 じいやのアナウンスに従ってしぶしぶ描かれたのは、失敗した福笑いのような、晩年のピカソの自画像のような、女の子? の似顔絵でした。


「こんなかおじゃない! さとこは口裂(くちさ)け女じゃないもん! もんもんじのヘタっぴ!」


「し、しかたないだろ! 絵は、ぼくは、苦手なんだ」


 しどろもどろになるのも無理はありません。

 コワガラ世界(セカイ)のエリートな王子様に対して、ここまでズケズケと物を言える女の子は、一人もいませんでしたから。


 それでも二人は気が合うようです。

 わあわあギャアギャア言いながら、楽しくゲームを進めていきました。


 

 カラカラカラ……


『さとこ様、ルーレットで10が出ました。

……えっ、……えーと。

…………す……ストリップをする……と、ありますが……王子、こ、これは……?』


「すとっぷ? さとこ、すとっぷしてるよ?」


 キョトンとした表情のさとこちゃんの前で、じいやが気まずそうな顔をしています。

 ストリップとは音楽などに合わせて服を脱ぐこと。大人による、大人のためのエンターテインメントなのです。


 慌てたもんもんじがパッケージを確認すると、ゲームのタイトルの末尾に小さく【R18】の表記がありました。


「しまった! これは成人向けのアダルトバージョンだ!

すす、すとりっぷ……って、どどどど、どうすればいいんだ……!?」


 あわあわワタワタしている横で、さとこちゃんが「あっ」と声を上げました。


「青いくるま、まちがってうごかしちゃった……」


「それ、ぼくのじゃないか!」


 強制☆実現JINSEIゲームは、誰かがゴールするか、リセットボタンを押さない限り、強制的にプレイヤーを従わせ続けます。


 もんもんじはボタンに手を伸ばしたのですが、ほんの数秒遅かったようです。


 白くてふわふわしたバニラアイスの綿あめの衣装が、するりと落ちました。





挿絵(By みてみん)



「わあっ、おばけゆうれいの正装が……!」


 ひんやりした空気の中に現れたのは、プラチナブロンドがキラキラまぶしい、とても可愛い王子様でした。


 さとこちゃんの顔がポッと赤らみます。



 ※安心してください。

 ※全裸ではなく、豪華な衣装を着用していました。



「もんもんじ、ほんとうに王子さまなんだ……」


「うっ、恥ずかしいからあんまり見るなよ。それから、ぼくに近づいちゃダメだ。うっかり触ると凍傷(やけど)するぞ」


 ストリップは一枚脱げばOKだったようです。

 おばけゆうれいの正しい姿にもどって、ホッと胸をなでおろしました。


「まったくもう。ぼくの車をお前が動かしたんだから、次はぼくが同じことをするからな~」


 思わぬハプニングでしたが、おかげでもんもんじは冷静になりました。


(そうだ、楽しく遊んでる場合じゃなかった。

ここでケリをつける! おばけゆうれいチート “サーティー・ワン” 発動!)


 青い目がピカリと光ると、ルーレットがぐるぐる回り出しました。


 もんもんじのチートは、サイコロの目や、トランプや、ルーレットの数字を31にするという、使いどころが難しい能力なのです。


 ですが、子どもが相手ならイカサマが可能なのでした。




挿絵(By みてみん)



 カラカラカラ……


『31が出ました。さとこ様の車を動かします。

いー、りゃん、さん、すー、うー、りゅー、ちー、ぱ……。おや、ここは一回休みですね。

さとこ様、30分間たっぷりお昼寝してください』


 じいやの声が終わると同時に、さとこちゃんはパタリと倒れました。

 スヤスヤと気持ちよさそうな寝息が聞こえます。


「ふふっ、計画どおり! さあ、片付けて撤収だ」


 もんもんじはこのゲームに “お昼寝のマス” が(いく)つかあることを知っていたのです。

 にやりと笑って立ち上がりました。


『王子、ルーレットをまわしてください』


「もう終わりだぞ? じいや、はやく(コマ)をかたづけて……あ、あっ……手が…」


 ぷるぷる震える白い手が、ルーレットに伸びていきます。


 もんもんじは決着をつけた気でいましたが、()()()()()()()()()()()()()()()のです。

 ゲームが終わる条件を満たしていませんでした。


 しかもこの先のマスには、R18↑的な内容のものしかありません。


 作品的にも大ピンチ。絶体絶命です。

 さあ、どうする!? もんもんじ!



挿絵(By みてみん)



 もんもんじは――――

 右腕を押え込みながら、短い足をリセットボタンに向けて、懸命にのばしました。


 もうちょっと、あとちょっとです!


 ……カチリ☆


『リセットにより、ゲームを強制終了します。おつかれさまでした』


 アナウンスと同時に、さとこちゃんは目を覚まし、大きく伸びをしました。

 脱力したもんもんじはドテッと倒れます。


「ふわぁ、よくねちゃった。

 あれ、ゲームおわっちゃった? じゃあ次はトランプしたーい! 神経(しんけい)衰弱(すいじゃく)と、(しち)(なら)べと、ばばぬきと」


「……はい」


「それから、お絵かきも! あとねー、しりとりとねー、あやとりとねー、ゆびずもうとねー……

 えっと、えっと、お姫さまごっこと、悪役令嬢ごっこと、婚約破棄ごっこもやる!」


「“ごっこ”ってつければ良いってもんじゃないぞ!」


「もんもんじ、“はい”って、いった!」



 わあわあギャアギャア言いあって、たくさん笑って。

 二人はクタクタになるまで遊んで――……










――――さとこ、さとこ。


「さとこ、こたつで寝ると風邪ひくわよ」


「んっ……。んぅ、おかーさん……?」


「今日はお留守ばんありがとうね。すぐにお風呂沸かすから、ちょっと待っててちょうだい」


 さとこちゃんはのそのそ体を起こしました。


 さっきまで、とても楽しい夢を見ていたようです。

 はっきり思い出せませんが、誰かと遊んでいた夢でした。


「…………?」


 部屋のすみに目をむけると、チラシが一枚おちています。



 ペラッとひっくりかえせば、そこには…………










挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


「もんじ……」


 ~ おしまい ~


最後まで読んで下さってありがとうございました。


~「ほっこり童話集」の大まかな規定~

☆新作・旧作問わずで、ほっこりしたお話

☆5000文字以内のオリジナルな童話であること

☆イベント期間:2020年9月27日~10月31日

              ……でした。


真面目な子供向けの童話としては、文字数・〆切が守れるか怪しかったので、話をまとめるためウケ狙いに行ってしまいました(`;ω;´)


投稿時は4400文字。

イラストを直しつつ文章も手を加えて、現在は4801文字ほど。


☆文章&イラストへのご意見・ご感想 お待ちしております。




挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓ Kobitoさんの個人企画 ↓
i000000
(石河 翠さん作のバナーです)

ほっこりするお話、そろってます♪
― 新着の感想 ―
[良い点] うわあ、気合い入ってますね。 キャラクターがかわいいしクレヨンタッチなのも童話によく合ってます。 童話の挿絵は描きたいのですが、点数が多くて大変でしょうね。その中でアニメーションまでしてい…
[良い点] お疲れ様です。 おお、絵本だ! と最初に感動しました。 途中で、おお、エロいな! と笑ってしまいました。 とても楽しい物語だと思います。 [一言] 面白いお話をありますございました。…
[一言] もんもんじ、イラストの足が可愛い。 さらに、その正体も可愛すぎる。 (できれば、全部脱いでほしかった) さとこちゃん、たくさん遊んでもらえて良かったですね。 (お昼ご飯ぬきですが…………)…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ