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第五話 宴会

 寮に入ると、入り口は静かだったが奥から何やら騒がしそうな音が聞こえてくる。


 入ってから真っ直ぐの道を通り、階段を通り過ぎてなお真っ直ぐ進むと、そこには食堂があり、多くの人が忙しなく動いていた。昼、見かけたルイスも働いている。


「ノックスさん!何か手伝えることはありますか?」


「じゃあ、あのテーブルを……ってお前昼の新入りか!新入りは部屋で待つんだな。準備ができたら呼んでやるよ」


「はぁ……」


 諦めて部屋に帰ることにした。部屋で何か時間を潰せるものはあるだろうかと部屋を漁っているとすぐに、階段の下から鐘のなる音が聞こえた。階段を上っている間に準備は終わったのだろうか。そう考えるととても悔しい。部屋を出て、階段を降りようとすると他の部屋からも人が出てきたが、僕は彼を気にせず階段を降りてしまった。


 食堂に再度入ると、パーティーの雰囲気が整えられており、僕や僕の後に降りてきたと思われる同輩たちは座る場所が決まっていた。一通り座ると、各々のグラスに飲み物が注がれ、祝辞のようなものが始まった。


「さて、今日、この『狼』寮には新たに三人の寮生が加わった。本来であれば各々に自己紹介でもしてほしいところだが……新入りにだけ自己紹介はさせられないとなって全員が自己紹介してせっかくの料理が冷めてしまいそうなので、割愛する。だが、ここで暮らすに当たって幾らかの重要な人物には自己紹介をお願いしたいと思う。まずは……ウィーラーさんから」


「この寮の地上階担当兼事務のルース・ウィーラーと申します。学園に雇われた執事ですが、よろしくお願いします。呼ぶときはウィーラーと呼んでください」


 初老の男性の話が終わると同時に拍手が湧き上がる。

 すると、隣のルースより少し若い男が立ち上がった。


「一階担当のエドモンド・バークマンです。バークマンと呼んでいただければ」


 また拍手が湧き上がる。すると、隣の二十代ほどの若い男性が立ち上がった。


「二階担当のフィン・ビートンです。寮に勤めるのは今年が初めてですが、よろしくお願いします」


 すると、今度はまばらな拍手が起こった。面識のない人に対する態度というのはそういうものだろう。

 先程音頭をとっていた男がまた話し始める。


「俺はこの寮で寮長を任されてるアーノルド・エミールだ。今年で五年生になる。よろしくな……じゃあ、この後は部屋の階ごとに分かれて冷めないうちに食事をとってくれ、とは言っても席を移動する必要は無いけどな」


 と言って各々食事を始めようとするが、アーノルドが慌てて止める。


「忘れてた忘れてた、今日のところは乾杯から入ろうぜ、この素敵な門出に乾杯!」



『乾杯!』



 そう斉唱してはじめて食事は始まった。

 食事の最中に自己紹介をしたが同じ階の住人など名前を全員覚えることができるはずもなく、顔だけ覚えて、これからの生活で覚えていこうと決意した。

 僕が自己紹介を終えると、二年生か三年生の人が話しかけてきた。


「カーターっていうと、一階のあいつもカーターだったな。えーと……ルイスだったか」


 困った。兄がいるということは覚えているが、僕に兄に関する記憶はない。 


「カーターという貴族もそう多くはないと思うので兄だと思います」


「そうか、何かあいつの面白いエピソードがあったら聞かせてくれよ」


「いやー……あんまり記憶に無いですね。思い出したら言いますよ」


「だよなぁ〜」


『だよな』とはどういうことだろうか、面白いエピソードが無さそうなほど面白味のない人間なのか品行方正で欠点が無いのか。


 一通り自己紹介が終わり、食事をしながら歓談する。学園については自分の目で確かめろ、の一点張りだったが、寮に関することはよく教えてくれた。


「時間があったので少し散歩したのですが、寮の前の像はどんな基準で決まるんですか?」


「あれはちょっと複雑なんだよな。こっちサイドの寮……つまり『狼』『狐』『犬』だな。これらは全部男性生徒の寮なんだ。『犬っぽい』動物で構成されてるだろ?動物の差は爵位の差なんだ。『狼』は『獅子』を除けばここは一番爵位が高いところだ」


 道理で男性だけで女性がいないと思った。

 彼はさらに続ける


「それで、『虎』『豹』『猫』、つまり『猫っぽい』動物だな。これは女性生徒寮だ。システムは男性と大体同じだがな。そして両方にある『獅子』……これは皇帝陛下の直系の一族のみが入れる。よっぽどの事がないと一般生徒は廊下さえ見れない。今年は一年生に一人いるようだからお近づきになれれば入れるかもな」


「お近づきになったら入れるんですか?」


「ああ。この学園の寮は外泊は認めてないが行くことは禁じられてない。異性寮に行くことはかなり非常識だがな……それでも『獅子』に入るにはかなり大変だ」


「向こう側の『蛇』は?」


「『蛇』は異種属だ。人魔戦争が終わってからこの国に住む異種属も増えてな。この学園に通ってるんだ。魔物はそれでも才能がある場合が多いらしくてな。それに近いのは『梟』だなあそこは他国からの生徒がいるんだ。帝国と仲のいい国の、な」


「残りの『人』は」


「あそこは教員寮さ。まあ、学園に研究室が別途にあるからどれほど使われてるのか定かじゃないけどな」


「なるほど。よくわかりました。ありがとうございます」


「気にするな。あれはわかりにくいよな……」


 そのまま成り行きでパーティーは終わり、階段を上るという食後の運動を堪能してから、部屋に戻り、移動の疲れからかすぐに寝てしまった。

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