#2 子供が気にする事ではありませんッ
唯姫ちゃんには幸せになって貰いたいので頑張ります
山岸家へ釣れて来られた鬼の少女は唯姫と名乗った
両親が帰ってくると、両親は煌汰を冷めた目で見つめ、煌汰は説明もなしに全部俺のせいとか疑うとかどうなんだ、とその睨みを効かせる二人に怒鳴る
その際の唯姫はと言うと、せこせこと煌汰の両親のお茶を運んで離れた所から傍観しているという、当人なのに最早他人の距離のそれに煌汰はお前がそういうことするから!と怒ったのは初日のこと
「いいか、部屋は母さん達が準備するまで俺の部屋だが、布団は床だし端で寝ろ」
唯姫はこくこくと頷いて、布団を端に敷いてその上に正座したまま煌汰を見つめる
煌汰、「こいつ、何」と頭を抱える
流石に他の面々が唯姫を自宅に連れ帰ることはできないために起きた事ではあるけれど、この唯姫相手に誰かが何かを命令したり
もしくは行動の先を読み動くタイプらしいが、全くもって本人の意志が感じられなくて困る
だからもう本人のしたいようにさせようと家の物の位置から調理道具一式を見せて見ると、これまたすぐに順応してしまい、煌汰は何故か無性にイラついた
だって、子供なのに何かを求めたりだとか、外で遊ぶだとか一切やらないのだ
いくら鬼でもその辺は子供らしくあってもいいのではないかと思う
封印される…それまでがどれだけ酷い生活を強いられてきたのだとしても、今のご時世誰もそんな子供を働かせたりだなんてしないのだから
それただの児童虐待になりかねない、唯姫の行動の場合は
たまに心配になった煌汰の両親に話しかけられてもしばらく何かを考えた後微笑むだけ
それにただただ苛立って、そんな唯姫を放置して女子をとっかえひっかえしていた煌汰の元へ連絡が入ったのはそれから半年してからの事だった
ふとスマホに目を向けると点滅していて、折り返し電話をすると血相を変えた声で母親からすぐに帰って来いと怒鳴られたのが始まり
あの日、唯姫と遊んでいたメンバーと遊んでいたのでそのメンバーも一緒に自宅へ帰ると煌汰のベッドに寝かせられて顔は赤くなっているはずなのにどこか青くも見える唯姫の状態に両親が説明してきたのは
「リビングの隅で寝てたんだけどね、いつもみたいに声をかけても返事がなくて、お父さんが抱き上げてくれたの」
すると、酷い熱で慌てて病院へ連れて行こうとしたが流石に人ではなく鬼の子供
病院へ連れて行くわけにもいかず市販の風邪薬を飲ませたが効きが悪いのですぐに帰って来いと連絡したのだという
唯姫は火照って涙目になっている瞳を開いて煌汰達の顔を見る
「唯姫ちゃん、大丈夫?ね、苦しいね…お薬は飲んだんだけど…」
唯姫は徐に自身の額の角に触れて、その角を折る
それは全員が驚いて流石に無頓着だった煌汰も唯姫の手から角を取る
「おっおまえ、お前なっ?ただでさえ苦しいんじゃねえのかよっ?こんなことしても痛いことが増えるだけ…」
唯姫は角を煌汰の手から取り戻そうと動いて、煌汰も首を傾げながら角を見せると唯姫は自身の手折った角を口に入れる
「…いう、こと、きけます…」
煌汰は眉を寄せる
「うち、ごはん、つくれます…おせんたく、も…おさらあらいも、おせんたくも」
唯姫は角をかみ砕いて飲み込んでからそう話し始める
あの硬そうな角をかみ砕ける歯に少し恐怖したけれど、子供の言葉を待つ
子供が心配する事なんて今はないはずなのに
「うち、やくたたず、いわれてふういん、された、です…でも……おりょうりも、おそうじも、できます…」
だからどうか、どうか捨てないで下さいと、その先を聞かなくてもわかる
今どきの子供にはわからない事
昔は多かったのかもしれない、子供を捨てる親
だからこそ、人間の世界でも児童保護施設や育児放棄なんてある
そんないつ捨てられるかもしれない恐怖をずっと抱えて生きる子供が果たして居るのだろうか
いつか捨てられるの、そう考えるのが当たり前の子供はきっと、一度捨てられた経験がある子供にしかない
「あのなぁ」
煌汰の友人、真幌太一が膝をついて唯姫の前にやってくる
「煌汰は、まあ確かに口は悪いしゲスでクズだよ、けど、一回やらかした事には責任を取るんだ、今のところ子供孕ませてポイ捨てしたりしないのが救いだけど、そういうことが起きてもきっとこいつは責任はとるよ、クズだけど」
貶して楽しいか?同類のくせに、と煌汰が言いた気に睨んでいるが、事実その辺のことは責任は持っているから生でヤらないのだ
「だから、一回、捨てられるとか、そういうのは忘れな、それから、こいつの女遊びは一回禁止させるよ、こんな事になって、一番血相変えたのこいつだから」
言うなよ、と太一を殴る煌汰だが、本気で怒ってはいないし、少しほっとして居る所を見ると、周囲からの印象も気になっていたらしい
まあ太一とは小学生からの幼馴染だから通じるものがあったのだけれど
「オイ、チビ」
煌汰に話しかけられた唯姫は首を傾げる
「お前、家事禁止、その目の下のクマ…寝てないだろ」
気絶するように眠ったのは想像ができたので全員が額に手を当ててため息をつく
子供がそんな眠り方をするようなものではないのだから
「あと、約束変更、お前俺のベッドで寝ろ、後風呂は俺と入る、分かったかチビ」
「え、セクハラ」とか「え、ロリもアリ?」とか聞こえてきて違うわ‼と叫ぶ煌汰
「お前、家事は出来ても風呂は苦手なんだろ」
そう言われてみると、唯姫の髪は随分と、お世辞にも綺麗とは言えない見た目をしている
唯姫はあまり理解できていないのか、それとも熱のせいかは分からないが、唯姫はポカンとした表情を煌汰達に向けている
「いいからっ‼お前は寝るっ‼後っ‼角は元気になったら整えるからっ‼」
「おに、の…つの…げねつよう…」
その言葉に、何故角を折ってしまったのかが分かり、全員が「鬼の習慣は自分の一部を食べたりするの‼?」と叫んでしまい、それで唯姫が怯えてしまったのは全員反省することとなった…
【唯姫】
圧倒的良妻
元々大昔にとある鬼の集落の妃の娘として生まれたが、左目の邪眼(魔眼?)のせいで災いが多い(とか勝手に言われた)為、祠を作られ、大岩で塞がれるように封印された
煌汰が大学の友人たちと大岩(雨風のせいで小さくなって最早小石だが封印術が施されているため出られない)を破壊した為封印が解けた
家事全般出来るし、煌汰を立てる事が多い
色々あって自分に自信が無い為眼は常に死んでいる
片目の眼帯(元々は布)は煌汰が魔改造したような眼帯をつけている
ただ、布は元々の布を使用されているため邪眼は使えないし防げる
ただ邪眼は煌汰には効かない(理由あり)
【山岸煌汰】
圧倒的クズ野郎
女の子を取っ替え引っ替えする
決まった彼女は作らない
遊びで山に入って祠だのを壊してたら唯姫ちゃんの封印石を破壊した
ついてくる唯姫ちゃんを鬱陶しがるが、ドジ系な唯姫ちゃんに対して仕方無しに世話をする(予定)
クズ野郎なこいつに幸せそうな顔をする健気で甲斐甲斐しい唯姫ちゃんにクズ野郎の両親は安心して嫁いでおいでと言われて半ギレる
本人が居ない所で見た目ロリなだけでただのババアと言って両親にどつかれた
唯姫ちゃんの眼帯を魔改造してしまう
実は唯姫ちゃんの瞳が好きだが絶対言わないと決めている(引っ付かれたくはないので)