第99話 ミオの浮気(?)とホラーへのリベンジ
「ん~、美味しいです~」
私が渡したロールケーキを、もぐもぐと美味しそうに食べるフウちゃん。
そんな姿を見たライム達が、自分も食べたい食べたいとおねだりするのはもはや既定路線として最初から分かってたことだから、あらかじめたくさん用意しておいたそれを、ムギ達も含め1体ずつ手から食べさせては撫で、ゆっくりと可愛がる。
はふぅ、このひと時が癒される……っと、そうだ、忘れちゃいけない。ビートとムーちゃんにもあげなきゃ。
「それじゃあフウちゃん、食べ終わったらちゃんと続きやるんだよ?」
「あいあいさ~」
本当に分かってるのかな? ってくらいロールケーキに夢中になってるみたいだけど、まあ、その辺りは明日になったらまた確認すればいいか。ダメそうだったら今度からはおやつ抜きを言い渡そう。
そう心の中で確定事項として定めつつ外に出れば、相変わらずビートが寝そべるムーちゃんの体の上で、ころころと卵を転がしていた。
……いや、鳥の転卵でも数回でいいはずなんだけど、もしかしてずっとやってたのビート?
「ねえビート、それ何か意味あるの?」
「ビビ?」
聞いてみると、逆に首を傾げられた。
ビート、もしかして本当に遊んで……い、いやいや、ビートに限ってそんなことないはず、うん。
「まあ、卵は繊細だから、大事にね? それと、おやつ持ってきたから、ビートとムーちゃんも食べて」
「ビビ!」
「ムオ~」
お皿に載せたロールケーキを地面に置くと、2体揃って元気よくそこまで来て、ロールケーキを食べ始める。
その勢いに、一瞬卵を放り出したりしないかと内心でヒヤヒヤしてたけど、ビートは左前足で器用に卵を抱えながら、もう片方の前足でロールケーキを掴んでもぐもぐと食べてるから、そんな心配はいらなさそうだ。
「ム~」
「ごめんごめんムーちゃん、まだあるから」
鼻を持ち上げてもっとくれとアピールするムーちゃんのお皿に、次々とロールケーキを取り出していく。
それを見るなり、満足そうに鼻を鳴らし、これまたハイペースで食べ進める姿にほっこりしつつ、ふと私はホームの扉のほうをちらりと見やる。
「うん、今ならちょっとくらいいいよね?」
フウちゃんがまだホームの中にいるのを確認するなり、私は食事中のムーちゃんの体に、恐る恐るゆっくりと抱き着いてみる。
「んっ……おおっ、相変わらずの、この圧倒的もふもふ感……」
にへら、と自覚できるくらいだらしない表情を浮かべながら、さりとてやり過ぎて食事の邪魔をしないように、優しくその感触を堪能する。
前は、それこそこうやって抱き着いた瞬間に蹴り飛ばされたりもしてたけど、それなりに時間をかけて餌付け……げふんげふん、絆を育んできた今なら、フウちゃんと同じように反撃されることなく、このもふもふを味わうことが出来るんじゃないかと思ったけど、その通りになって良かった。
うふふふ、ついにやった……ゲーム初日に嫌われて以来、地味にずっと狙っていたこの立場、ムーちゃんを何も気にせずもふることがついに出来たよ!
うぅ、ここまで長かった……
「先輩~、何してるんですか~?」
「ふひゃ!?」
幸せいっぱいな時間は思ったよりもずっと早く過ぎ去っていたのか、唐突に聞こえて来た声に素っ頓狂な声を上げながら振り向けば、案の定、そこにはやや呆れ顔を浮かべたフウちゃんの姿があった。
早くも食べ終わったのか、その周りにはライムやフララ、ムギ達もいて、他人のモンスターをあやしてる私を見るなり、一斉に群がってきた。
「わっ、ちょっと待って、みんな、これは違くて、きゃー!?」
何となく、私をじーっと見るみんなの目で後ろめたい気分になった私はそう言うものの、その勢いは留まることを知らない。普通に押し倒された。
「本当に何してるんですか先輩~……」
「い、いや、フウちゃんこそどうしたの?」
「私は普通にそろそろ帰ろうと思って出てきただけですよ~」
私の体を埋め尽くすスライム達(+フララ)を忙しなく宥めつつ、ギリギリのところで顔だけ出してフウちゃんに問えば、そんな単純な答えが返ってきた。
「それより先輩~、浮気はよくないと思いますよ~?」
「う、浮気じゃないし! ただ一度でいいからムーちゃんのもふもふな体を思う存分堪能したかっただけだし!」
「まあ、私としては別にいいんですけどね~? ただ、やりたいなら自分でもマンムーをテイムすればいいじゃないですか~、《調教》スキルの枠は余ってるんですよね~?」
「そうだけど、ムーちゃんに嫌われたまま別のもふもふで満足するのは、何かテイマーとして負けた気分になるの!」
「えぇ~……」
益々呆れ顔を覗かせるフウちゃんのジトーっとした目からさっと顔を逸らせば、ロールケーキを頬張っていたビートもまた、やれやれとばかりに肩を竦めていた。
ビート、本当に最近器用さが増して多芸になってきたね! その成長は嬉しいけど出来れば助けて欲しいな!
「やれやれですね~……まあ、今日はごちそうさまでした~、また明日学校で~」
「うん、また明日~」
まあ、フウちゃんが助けてくれないのは分かり切ったことだから、そこはとやかく言わず手を振ると、そのままロールケーキをひとしきり食べ終えたムーちゃんを連れ、コスタリカ村の転移ポータルがある方向へと歩いて行った。
……何気に、フウちゃんが私のホームから出て行くところ見たの初めてな気がするんだけど、気のせいかな? いつもうちのホームの中にいるイメージがあるのに、出て行くところを見たことがないとはこれいかに……うん、深く考えないようにしよう。
それより今は、拗ねてる家の子達をどうにかしなきゃ。
「ほら、みんな、ムーちゃんとはちょっと遊んでただけだから。私はみんなのことが一番大好きだよ~?」
とりあえず、私に群がる子達を1体1体撫でながら、そう言って微笑みかける。
何となく、浮気がバレた夫みたいな言い訳だな、なんて心の中で思いつつ、けれどモンスターなだけに素直で純粋なみんなは私を疑うこともなく、嬉しそうにその体を擦りつけてくれる。
ああ、ムーちゃんの感触もいいけど、こうやってみんなに包まれてるとそれはそれで別種の幸せが……えへへぇ。
「さてみんな、このままずっと遊んでたいけど、そろそろ出かけないとね。こればっかりは今日中に片付けないとだし」
みんなが落ち着いてきた頃を見計らって、私はみんなを抱えたまま体を起こす。
クエストは一通り片付いて、次のクエストは多分明日にならないと受領出来ない。そして畑の方も、ハーブや薬草は問題なく採れたし、食糧難の解決のためにも、早く次の段階である畑の拡張に取り組みたい。そして、そのためには……
「ライム、フララ、ビート、ムギ達も、《スケルトンの骨粉》入手目指して、目標は《ゴスト洞窟》完全攻略! いつかのリベンジを果たすため、頑張るよー!」
おー! と、腕を振り上げるのに合わせ、スライム達はみんな仲良く体を跳ねさせ、フララやビートはその手を振り上げる。
けどよく考えてみたら、ライム以外の子はゴスト洞窟の一件って知らないよね……まあ、いっか。可愛いし。
そう考えながら、私は召喚した子達を召喚石に戻し、フウちゃんが歩き去ったのと同じ道を通って、転移ポータルへと向かった。
《北の山脈》は、ライムやムギ達に食べさせてあげる合金を作るために、ちょくちょく訪れてる。
とは言え、実のところその重さの割には、あまりライム達の胃袋を満たしてくれるわけでもないようで、やっぱり食料にするなら《料理》スキルで作るのが一番だから、お金がなくなってきた最近は少し足が遠のいていた。
そういう理由もあってか、ライムが私の腕の中で若干嬉しそうにしてるけど、量が減っただけで合金自体はちゃんと毎日食べてるじゃない。
今日は目的が違うんだから、採掘はしないよ? そんな目をしても、しないったらしない。今日という今日こそは鋼の意志でライムのおねだりに耐えてみせ……
「えいほっ、えいほっ」
……なんて、そんなことを思ってる時点でほぼ負けたも同然。途中途中でちょっとだけ寄り道して採掘なんてしたりしながら、山脈の中腹にある《ゴスト洞窟》までやって来た。
これより上にも登る道はあるんだけど、流石に出て来るモンスターが強くて私じゃあまだソロで行くのは難しい。けど、《ゴスト洞窟》なら十分ソロ攻略も出来る……はず。
「い、行くよみんな」
若干震え声で改めて言うと、そんな私を元気づけるように、ライムとフララが寄り添うように身を寄せてくれる。
うん、そうだよね、ビビってたら始まらない、フララのお陰で作れたとっておきのアイテムもあるんだし、やってやりますか!
1つ深呼吸をした後、取り出した《強心の丸薬》を呑み込んで、MIND強化の効果がちゃんと現れていることを視界の端に浮かぶアイコンからキチンと確認してから、ようやく《ゴスト洞窟》の中へと足を踏み入れる。
前回は真っ暗で、何が何だか分からないうちにしてやられちゃったわけだけど、流石に同じ轍を踏むつもりはない。バッチリ《感知》スキルをセットしてるのはもちろん、暗闇を照らす《松明》のアイテムも用意して、ライムに持って貰う。
ライムの《触手》スキルは、使ってると少しずつとはいえMPを消費するから、私が自分で持つかどっちにしようか迷ったけど、《投擲》スキルと鞭との併用もあるし、何よりライム自身の《MP自然回復量増加》スキルのこともあるから、今回はライムに託すことにした。
そんなわけで、今の私のスキル構成がこちら。
名前:ミオ
職業:魔物使い Lv36
サブ職業:召喚術師 Lv29
HP:330/330
MP:420/420
ATK:118
DEF:159
AGI:159
INT:164
MIND:224
DEX:250
SP:22
スキル:《使役Lv40》《鞭Lv37》《召喚魔法Lv33》《魔封鞭Lv18》《敏捷強化Lv32》《投擲Lv33》《感知Lv38》《採掘Lv29》
控えスキル:《鍛冶Lv35》《釣りLv15》《隠蔽Lv30》《合成Lv36》《料理Lv41》《調合Lv42》《調教Lv38》《採取Lv43》
一応、レベル的には《ゴスト洞窟》は格下マップで、レベル上げにあまり期待できないから《調教》スキルを外したのに加えて、物理攻撃が効かない敵が多いから《料理》スキルもアウト。代わりに、いつでも逃げれ……げふんげふん、ソロだと私個人の回避能力が重要になるから《敏捷強化》スキルと、あと一応、ライムの要望を叶えるために《採掘》スキルはセットしておいた。
最近だと慣れてきたから、《採取》スキルが無くてもある程度はポイントも見分けれるようになったしね。まあ、この洞窟だと暗くて分からない可能性の方が高いけど……その辺りは素直に諦めて貰おう。
「けど、《松明》があっても暗いなぁ」
ライムに照らして貰いながら奥へと進むけど、イベントで入り込んだ遺跡エリアに比べても暗い。
こんな場所じゃ、何かいても分からなくて当然……
「ん?」
と、そのタイミングで、《感知》スキルに反応があった。
以前の経験から、素早く鞭を取り出して警戒するけど、反応は前みたいに消えることなく、じっとしてる。
「うーん……?」
どうして動かないのか、少し気になった私だけど、するとすぐに、耳元で声が聞こえてきた。
『ケケケ』
「わひゃ!?」
驚いて振り向くけど、特に何もない。というか、前みたいに《感知》スキルに一瞬反応があるっていうことも特にないし、MINDが上がったせいか、特にそれで必要以上に混乱するっていうこともなかった。
「なるほど……これが《闇属性魔法》かぁ」
ビートが持ってる《闇属性攻撃》は、単純にMPを消費して、自分の物理攻撃に闇属性を付与するだけのスキルだけど、《闇属性魔法》はその特徴として、相手を状態異常に陥れたり、プレイヤーの《感知》やモンスターのヘイトみたいな感覚を狂わせる効果を持った魔法が多いらしい。
だから、前回私がここに来た時、《感知》スキルがあちこちで一瞬だけ反応があったりしたのは、《闇属性魔法》に抵抗できずに混乱させられたせいってことなんだと思う。抵抗に成功しても、魔法の効果エフェクトとして虚空から声が聞こえてくる辺りが非常にいやらしいけど。
そして、今の私の《感知》スキルなら、惑わされることなく今も暗闇の中に潜んでる本体をバッチリと捉えることが出来ている。
『ケケケ』
「ひゃっ! ああもう、分かっててもびっくりするでしょ、もう大人しくして! 《チェインバインド》!!」
「ケケッ!?」
《感知》スキルを頼りにアーツを使うと、それまで影を纏って暗闇と一体化していたグレムリンが姿を現す。
このアーツで捕まえられればもう魔法は使えないから、こうなればグレムリンはゴブリンよりも弱い。
「お願いフララ、《ライトニングレイ》!」
「ピィ!!」
フララが緑の羽を拡げると、そこにバチバチと閃光が瞬く。そして次の瞬間には、雷が一直線にグレムリンへと向かい、暗闇を照らしながら一瞬にしてそのHPを消し飛ばした。
この魔法は、フララがウインドフェアリーへと進化して習得した、《暴風魔法》の初期魔法の1つだ。純粋に風だけを操ってた《風属性魔法》と違って、こっちは雷系の魔法も習得してるようで、攻撃性能がかなり上がってる。なんとも頼もしい。
「ありがとうフララ、これならこの先も安心して進めるよ」
「ピィピィ!」
一撃で仕留めたフララを褒めてあげると、嬉しそうな鳴き声を上げる。
正直なところ、適正レベルよりずっと高いって言われてても心のどこかでまた同じような結果に終わるんじゃないかって不安があったんだけど、今の戦闘を見て私も自信がついてきた。
「さあ、この調子でガンガン進むよー!」
洞窟に入る前の弱きな掛け声は何だったのか、改めて自分でも呆れるくらい元気に声を上げると、ライムとフララの2体もそれに続き、仲良くその手を振り上げた。
えー、この度、本作品が書籍化することになりました!
詳細は活動報告の方に載せていますが、ここまで来れたのも読者の皆様のお陰です、ありがとうございました!
これからもよろしくお願いします!




