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テイマーさんのVRMMO育成日誌  作者: ジャジャ丸
第五章 食糧難と農地改革
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第96話 妖精女王とフララの進化

 ヤマタノヒュドラを討伐した私達は、そのままエルフの長老のところに戻って、その報告を済ませた。


「おお、冒険者の方々、ありがとうございます。あの龍にはほとほと困っておったのです」


「いえいえ、あれくらいお安い御用です」


 まあ実際、推奨レベルが前にやった《妖精蝶の救援》クエストを達成できる程度に想定されてるみたいだから、あの時よりずっとレベルの上がった私や、それ以上にレベルが高い2人が居て、そんなに苦労するわけもない。

 もっとも、NPCの長老さんにそれを言っても仕方ないのは確かだから、ここは多少謙遜するくらいにしておく。


「これは心ばかりのお礼になります。ああそうそう、外の人間が妖精に認められやってくるのは珍しいから見てみたいと、精霊王と妖精女王が仰せです。よろしかったら一度、神殿の方に足を運んでいただけるとよろしいかと」




クエスト:エルフの里の毒龍討伐 2/2

内容:エルフの長老への報告 1/1



・50000G入手しました



「あ、はい、分かりました」


 クエスト達成報酬としてゴールドが手に入り、クエストが終了する。

 妖精女王に会えるって言うから、そこまでで1つのクエストなのかと思ったけど、そうじゃないんだね。


「それじゃあ長老さん、また」


「はい、またいつでもいらしてください」


 長老さんに一礼すると、エルフとしては随分としわがれた顔をにこやかに緩め、手を振ってくれる。

 それに見送られて長老の家を出ると、フレアさんがふと何かに気付いたように足を止めた。


「フレアさん?」


「ごめんなさい、ちょっとメッセージが来たみたいで」


 メニューを開き、届いたと言うメッセージを確認するフレアさん。まあ、可視化設定でもしてない限り、メニューを操作してることは分かっても、その内容は分からないから多分そうだってだけだけど。


「フレッド、《北の山脈》の頂上で、貴方のお待ちかねだったドラゴンが見つかったそうよ。かなり手強くてソラ達のパーティじゃ勝てなかったみたい。再アタックするメンバーを募集中みたいだけど、どうする?」


「おおっ!? ついに見つかったのか! よし、これで俺も真の《竜殺し(ドラゴンスレイヤー)》となれる日が……! っと、とは言え、今はミオさんとパーティプレイ中だし……」


 私のことを気にしてか、迷うように言葉を詰まらせるフレッドさんに、私は思わず苦笑を零す。


「私の方はもうクエスト終わりましたし、そろそろホームに戻って畑の方も面倒見なきゃいけないですから、行ってください。今日は色々とありがとうございました」


「そうか……いや、こちらこそありがとう、元々俺の方から強引に誘ったようなものだったのに、ここまで付き合ってくれて」


「私も、最近はギリギリの戦闘ばかりだったし、良い息抜きになったわ。ありがとうミオさん」


「どっちかというと私の方がクエスト付き合って貰った形ですし、お礼なんていいですよ。それではまた」


 今後も何かあれば連絡を取りやすいようにと2人とフレンド登録をし合い、フレッドさんが「ついにフレンドにまでこぎ着けたぁぁぁぁ!!」なんてエキサイトするのをフレアさんが引っ叩いたりなんて言うやり取りを挟みつつ、手を振り合って別れた。


「なんて言うか、相変わらずだったねー」


「――?」


「ピィ?」


 ライムとフララには分からなかったのか、首を傾げる2体を撫でながら、私はそのまま里の中央、《生命の大樹》の麓にある神殿へと向かう。

 どういう風に出来ているのか、純白の木で出来たその建物は継ぎ目1つ無く、まるで木そのものが最初からこういう形に育ったんじゃないかと言うくらい周りの自然に溶け込んでいて、何とも不思議で綺麗な建物だった。


「お前が毒龍を仕留めたという冒険者か……話は聞いている、通れ」


「あ、はい」


 神殿の入り口で警備兵っぽいエルフの人にそう言われて、中に入る。

 どうでもいいけど、私がこの里に来てからまだそんなに時間経ってないんだけど、一体どういう情報伝達速度してるんだろ。長老さんにしろこの人にしろ、話が聞けるの早くない? リアルのお役所も真っ青な手際だよ?

 まあ、ゲームでそんな情報伝達の不備みたいなのされても困るんだけどさ。


 そんなしょうもないことを考えつつ、大理石で出来た廊下を歩いていくと、やがて一際大きな扉の前に辿り着く。

 これどうすればいいんだろう? と少し悩んでるうちに、やがてその扉がゆっくりと開かれていく。


「おお……」


 見上げるような巨大な扉が、音も立てずに開いていく様に思わず感嘆の声を漏らしていると、その奥に2つの人影が見えた。

 いや、人影と言うにはあまりにも大きい。1つは、玉座みたいな椅子に腰かけた老齢の巨人。厳めしい顔付きで、けれど圧迫感以上に後光が差してるかのような神々しさを覚える。多分、この人が精霊王、かな?

 もう1つは、以前に見た《聖なる大樹》の妖精さんと同じ、蝶の羽を背中から生やした綺麗な女の人。この人が、目的の妖精女王かな? ただこちらも、隣に座っている巨人のお爺ちゃんの座高と同じくらい大きくて、もはやいつもみたいにその巨乳への嫉妬心すら湧き起こらない。

 私も、大きくなれば見返せるのにとは何度か思ったけど、流石にあんな大きいのはちょっとね?


『よくぞ来た、冒険者の娘よ。さあ、こちらへ参れ』


 頭の中に直接響いてくるような、重厚感のある声。どこから聞こえて来たのかもよく分からない不思議なそれでも、流石に誰が声の主かを間違うような気はしない。私は精霊王(?)さんの前まで歩いて行く。


『我が名は精霊王、精霊たちの王なり。まあ、精霊はきまぐれな妖精達と違い、人の前に姿を現すことはほぼない故、言われてもピンと来ぬかもしれんが……まあ、楽にするとよい』


『あらあなた、それではまるで妖精達が遊び呆けてるみたいではありませんか。可愛い我が子達は皆、ちゃんと森の守護を担っておりますよ』


『分かっておる、今のは物の例えであってだな……』


「…………」


 突如始まった夫婦(?)のやり取りに、私はどうしたものかと少し待ちぼうけを食う。

 うーん、まあ、仲良さそうで何より、なのかな?


『と、ゴホン。まあ良い、此度用があったのは我ではなく、我が妻ティターニアだ』


『初めまして、私の名は妖精女王ティターニア、この世の全ての妖精達の母です』


「あ、えっと、私はミオです、初めまして」


 妖精女王、ティターニアさんが優雅に一礼するのを見て、私も慌てて頭を下げる。

 妖精全ての母、ってことは、うちのフララもこの人がお母さんってことになるのかな? だとすると私の立場はこの場合……うーん、何だろう、「娘さんを私にください!」って、言うにはちょっとタイミングが違うような……まあ細かいことは良いか。


『ミオさん、我が子と友誼を結び、我が子の眷属を従えし少女よ、此度は里の危機を救ってくださり、ありがとうございました』


「い、いえその、乗り掛かった船と言いますか……」


 うん、私としては、妖精女王に会うために受けたクエストだったわけだから、こうも真っ直ぐお礼を言われると何だか罪悪感が……

 それにしても、我が子の眷属、ってフララのことだよね? 妖精さんは我が子だけど、フララは我が子じゃないってこと? 我が子の、更にその子供的な? ……孫? つまりこの人はフララのお婆ちゃん?


『ささやかですが、私からの感謝の印に、祝福を授けましょう。貴女の旅に、幸多からんことを』


 そのまま口にしたら逆鱗に触れそうなことを内心で考える私に、けれどティターニアさんは流石に気付くことはなく、差し伸べられた掌から、小さな光の粒が私へと降り注ぐ。



《妖精の祝福》が《妖精女王の祝福》に変化しました


名称:妖精女王の祝福

性能:HP+5 MP+5 ATK+5 DEF+5 AGI+5 INT+5 MIND+5 DEX+5

効果:妖精女王の加護 幸運



「おお~」


 元々AGIとINTだけ微増してたのが、今度は全ステータス微増に変化した。

 HPやMPが+5されても雀の涙ではあるんだけど、それでも結構良いアイテムになったんじゃないかな?


 けど、私がここに来た目的は別に装備の強化じゃない。フララの進化について聞くためだ。そう思って口を開こうとしたけれど、それよりも先に、もう堪えきれないとばかりにフララが飛び出して行った。


「フララ!?」


「ピィ! ピィ!」


 呼び止めようと手を伸ばすけど、フララはあっという間にティターニアさんのところまで行って、何かを必死で訴えかけてる。言葉そのものは私にはさっぱり分からないけど、どうやらティターニアさんには分かるらしい。可笑しそうにくすっと笑みを零した。


『ふふふ、どうやら随分と良くしてもらえているようですね。我が子に代わり礼を言います、ミオさん』


「え? あ、はい、ありがとうございます?」


 よく分からないけど、愛情いっぱい育ててるのは事実だから、戸惑いながらも素直にお礼の言葉を受け取ると、ティターニアさんは一転して真面目な顔付きになり、フララへと向き直る。


『我が子の眷属、妖精蝶のフララ、貴女は更なる力を求めますか?』


「ピィ!」


『そうですか……では、フララの主たる冒険者よ、貴女は我が子の眷属とこれからも共に生き、共に笑い、末永く同じ道を歩み続けると誓いますか?』


「えっ……あ、はい、もちろんです!」


 何のことやらさっぱりでついて行けなかったけど、目の前に『フララがフェアリーバタフライからウィンドフェアリーへと進化します、よろしいですか? Yes/No』という選択肢が表示されたため、進化のために必要な儀式(プロセス)なんだとようやく理解して、力強く頷きを返す。

 何だか結婚の誓約みたい、と一瞬思ったけど、まあフララだし、いいかな。


『ふふ、よろしい……では、貴女に風の位階を授けます。その自由な心のままに、その大いなる羽でこのあまねく世界に祝福の光を』


 私の言葉でイベントが進行し、ティターニアさんの掌から私が今さっき受けたのと同じような、緑色の光の粒がフララに降り注ぐ。

 それと同時、フララの体が眩い光に包まれた。

 正直、私が口を挟む暇がほとんどないままに突き進むイベントに、ついていくのでやっとだけど、これが望んだ展開なんだから文句を言う必要もないし、大人しく様子を見ることに。

 光の中で、やがてフララの体が一回り大きくなると同時、折りたたまれていた羽が一気に広がり、体を覆っていた光を弾き飛ばす。


「わあぁ……!」


 中から姿を現したのは、鮮やかな緑の羽を持つ1匹の蝶だった。一回り大きくなったその羽は、まるで鳥のように力強く羽ばたき、その体の周囲を穏やかな風が包み込む。

 元の可愛さをそのままに、しかし大きく成長し頼もしさを増したその姿に、私は思わず歓声を上げた。


「フララ! やったね!」


「ピィ!」


 フララが真っ直ぐに私の胸に飛び込んでくるのを、優しく抱き留め頬擦りする。

 ちなみに、直前まで私が抱っこしていたライムは、こうなることを察してかいち早く肩の上に移動していた。うん、うちの子はほんと良い子だよ。


「ピィ! ピィピィ!」


「うん、これからも、私達みんなで強くなっていこ、フララ」


 嬉しそうに鳴き続けるフララに、私はそう語りかけて優しく撫でる。

 見限るつもりなんてこれっぽっちも無かったとは言え、やっぱり1人だけレベルが低いまま固定されるなんて寂しいもんね。どうせなら、やっぱりみんなで一緒に、1歩ずつ強くなっていきたい。


「あ、そうだ、ステータス……」


 進化の嬉しさで忘れかけてたけど、フララが一体どんなステータスになったのか気になって、そのままメニューからフララの状態を呼び出してみる。




名前:フララ

種族:ウィンドフェアリー Lv35

HP:240/240

MP:530/530

ATK:85

DEF:68

AGI:173

INT:288

MIND:132

DEX:82

スキル:《毒鱗粉Lv40》《麻痺鱗粉Lv39》《睡眠鱗粉Lv36》《付与鱗粉Lv1》《暴風魔法Lv1》《回避行動Lv30》




「わお」


 MPは《海杖オリンポス》の補正を受けた私よりも更に多いし、INTは300目前。それに、《風属性魔法》が上位の《暴風魔法》に変化したし、《付与鱗粉》なんて言う新しいスキルもある。これは凄い。

 あとどうでもいいけど、種族名からバタフライが取れて、ストレートにフェアリーになったけど、見た目は蝶のままなんだね。この世界だと、蝶=妖精なのかな? それとも、まだ妖精見習いだからこの姿のまま? うーん、どうなんだろう……


『ふふふ、仲がよろしいのですね』


「あ、すみません」


 ついフララの進化に浮かれ過ぎて、自分が今どこにいるのかすっかり忘れてた。

 慌てて謝る私に、気にしなくていいとばかりにティターニアさんは手を振ると、穏やかな微笑を湛えて私達を見据えた。


『妖精と人。太古の昔に忘れ去られ、ついに再び紡がれることのなかった絆が、今ここにこうしてある。願わくば、その繋がりを大事にしてください』


「はい、もちろんです!」


 また何か意味深なこと言ってるけど、ひとまずそれは置いておいて、フララとの絆ならこの先もずっと途切れることなんてない。だからそう断言すると、ティターニアさんは嬉しそうに顔を綻ばせた。


『いずれ、そなたが真に妖精との絆を紡いだ時、再びここに来るがよい。その時こそ、我が真名を教え、精霊界へと案内しよう』


「おお? ありがとうございます」


 なんかよく分からないけど、ついでに精霊王さんから意味深なフラグを頂戴出来た。

 真の絆ってなんだろ、フララとはもうこれ以上ないくらい仲良くしてるけど、何かのクエストとかかな?


『では、さらばだ……』


 最後にそう言うと、精霊王さんもティターニアさんも、その場からふっと姿を消した。

 気まぐれな妖精はともかく、精霊は人前に姿を現すことはないって言ってたし、今の話からすると精霊界ってところに帰ったのかな?

 まあ、何はともあれ……


「フララ、進化おめでとう」


「ピィ!」


 私が改めてそう言うと、ライムもまた触手を伸ばし、フララと喜びを分かち合う。

 そんなモンスター達のやり取りを眺めてほっこりしながら、私は精霊王の神殿を後にした。

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