第94話 番人ゴーレムとエルフの里
すっかり通い慣れた《西の森》。その中を、今日は珍しい組み合わせで進んでいた。
ギルド《光輝戦団》のギルドマスター、フレッドさんと、同じくサブギルドマスター、フレアさんの2人。ひょんなことからギルドに案内されたかと思えば、そのまま何かしらクエストを手伝って貰う流れになって、気付けばこんな大物(?)2人とこんなところまで来てしまった。
冷静に考えると、これ既にギルド加入の既成事実が作られていってない? 大丈夫かな?
「ミオさん、どうかした?」
「い、いえ何も」
フレアさんの疑問を首を横に振って誤魔化しつつ、森の中を進んでいく。
前にリッジ君やネスちゃんと来た時は、私が索敵係で他の2人に戦闘を任せていたけど、今回はフレアさんも索敵が出来るから、それだけやってるわけにはいかない。むしろ、《感知》の上位スキル、《索敵》まで取ってるフレアさんに、まだLv35で上位スキルに届いてない私の《感知》スキルじゃ太刀打ちできるはずもない。
となれば、私はその見つけた敵を攻撃する側に回らないといけない。
「いた、そこよ」
フレアさんが長弓を操り、向かってきたキラービーの1匹を仕留める。
《長弓》スキルは、フウちゃんの《短弓》スキルに比べて、威力・射程共に上だけど、連射性に劣る分、複数の敵の対処は得意じゃない。だから、近づかれる前に1射目で倒された敵以外を私が叩く!
「ビート、行くよ、《激突》!!」
「ビビビ!」
《突進》スキルがLv30で変化した上位スキル、《激突》は、単純な威力の向上に加えて、スキル使用中にノックバック耐性……簡単に言うと、攻撃を受けても怯まない効果が付与された、純粋な上位互換スキルだ。
もちろん、攻撃されればその分HPはちゃんと減るから、相手によってはライムの守りを付けてあげないといけないけど、キラービーくらいの相手ならもう何の心配もいらない。突きつけられた針ごと、キラービー達を蹴散らしていく。
「おお、ミオさんの召喚モンスター、前に見た時も中々だったけど、益々凄い迫力になってきたね……」
「えへへ、凄いでしょ」
戻ってきたビートを撫でていたらフレッドさんに褒められて、えへんっと胸を張る。
流石に、召喚コストの関係もあって最近は《合成》してないけど、ちゃんと戦闘は重ねてスキルのレベルは上がってるから、イベントの時のままっていうことは全然ない。益々頼りがいのある良い子になってる。
「ピィ……」
「大丈夫だよ、フララ」
ただその一方で、フララは進化出来ず、レベルの上昇も上限に当たって止まったせいで、少し伸び悩んでるのが現状だった。
もちろん、スキルレベルも上げてるんだけど、《風属性魔法》はまだ上位スキルに派生出来てないし、各種鱗粉スキルなんて上位スキルがあるのかすら謎だ。
そういう理由もあって、大幅に強くなったビートを見て、少し落ち込んでるみたい。
「フララが強くなりたいって思ってくれてる限り、私が絶対にフララのこと強くしてみせるから!」
「ピィ!」
フララをぎゅっと抱きしめると、嬉しそうにパタパタと羽を動かして擦りついてくる。
えへへ、フララのためにも、ここは頑張らなくっちゃね!
なんて決意はしたけれど、今となっては私でも、油断しなければ遅れを取ることは早々ない《西の森》で、今更特筆するようなピンチがあるはずもなく。以前リッジ君やネスちゃんと来た奥地まで、割とあっさり到達出来た。本当、ひと段落したら、そろそろ次の街を目指してみるのもいいかなぁ。
「と、着いたわね、ミオさん、妖精装備の準備は?」
「はい、大丈夫です」
フレアさんにそう言われ、私は首元に装備してある《妖精の祝福》を手に取って見せた。
それを見て、フレアさんが1つ頷くと、そのまま脇道(獣道?)みたいなところに入っていき、私もそれについて先に進む。
やがて視界が開けると、そこには苔に覆われた1体の巨大な石像があった。
石像というと、イベントで戦ったジャイアントロックゴーレムなんかが思い出されるけど、これはあのゴーレムと比べても2倍くらいのサイズがあって、もし戦闘になったらとても勝てそうにない。
「来訪者よ、これより先はエルフと妖精の住まう土地。妖精の導き無き者は通るべからず。もし通らんとするならば、その証を示せ」
そんな石像の眼窩の奥に、突然黄色い光が灯り、すごく流暢な言葉で喋り出した。
まあそうだろうとは思ってたけど、やっぱりこれゴーレムなんだ。テイム出来たら凄く強そう……いや、無理なんだろうけどね?
「ここで妖精装備を翳せば、戦闘にならずに普通にエルフの街に行けるの。持ってなかったらこのゴーレムと戦闘ね」
「へー、ちなみにどれくらい強いんですか?」
「βの時は、キラ達の《魔煌騎士団》しか突破報告は無かったな。探せば他にもいるのかもしれないけど」
「えぇ!?」
お兄達以外に誰も突破出来なかったゴーレム!? いやちょっとそれは無理、戦闘になったら私瞬殺されちゃうよ。って、喋ってる間に石像の目が黄色から赤に!? 本当にやばいって!
そう思って、慌てて《妖精の祝福》を翳すと、赤かった石像の目の色が緑に変わり、ゆっくりと道を開けるように移動を始めた。
「汝らに、精霊王のご加護のあらんことを」
最初に比べて、幾分柔らかな口調でそう告げて、石像はそれきり動かなくなる。多分、通ってもいいってことなんだよね?
「ふう、ちなみに、勝った場合はどうなるんですか?」
「特に何もないみたいね、普通にエルフの隠れ里に入れたらしいわよ」
「まあ、なまじそんな強引な突破をキラ達が成し遂げた上に動画までアップしたせいで、他の手段の模索よりもゴーレムの討伐にみんな精を出して、正式サービス始まるまで誰も妖精装備の価値に気付かなかったんだけどな」
「正式サービスで妖精装備の種類と入手クエストが増えたのも、プレイヤー達が思った以上に気付かないから、運営が気付きやすいように追加したんじゃないかって言われてたわよね」
「へ、へー……」
リッジ君が見つけたクエストに、そんな裏話があったなんて……ていうか、お兄達はもう少し自重してよ、思いっきり迷惑かかってるじゃん。いや、別に悪い事したわけじゃないのは分かってるんだけどね?
「とりあえず、行きましょう。ここまで来れば特に戦闘も何もないはずだから」
「あ、はーい」
フレアさんに続き、開いた道を通って進んでいく。
さっきの獣道みたいなところとは違い、歩きやすいように整えられた、けれど人が整備したのとは違う緑の道。森の木々がアーチを作り、優しい虫の囀りが聞こえてくるそこを抜けると、一面に広がっていたのは幻想的な空間だった。
「うわぁ……!」
まず目に付くのは、街の中央に聳え立つ巨大な大樹。前に見た、聖なる大樹よりも更に大きなそれは、まるで何本もの大樹が折り重なるように渦を巻いて天まで伸び、ところどころから綺麗な光の玉を発して、蛍のように辺りを照らしている。
そんな大樹の周りを囲うように、木で出来た珍しい形の家が立ち並び、グライセみたいな賑わいとも、コスタリカ村みたいなほのぼのとした光景とも違う、どこか静謐で神聖な雰囲気が漂う街並みを、フレアさんと同じ耳の長い美男美女が穏やかな微笑を湛えながら歩いていた。
何というか、凄く絵になる光景だなぁ。ちょっとスクショ撮っておこう。
「初めて来ると驚くわよね。ちなみに、あの中央に生えてるのが《生命の大樹》って言って、《聖なる大樹》の成長した姿らしいわよ」
「へえ、だから雰囲気が似てるんですね」
サイズこそ全然違うけど、中央に聳え立つ大樹は聖なる大樹と作りが良く似ていた。
そういう意味では、親子(?)って言われても素直に納得できる。
「ちなみにミオさん、エルフの隠れ里には着いたけど、《妖精樹の樹液》と違って《聖なる樹液》は聖なる大樹からしか採れないから、この先にある《妖精の花園》に行かないと採れない。そこまでは案内するよ」
「へえ、あ、ちなみに、妖精女王とかってどこかで会えたりしません?」
《聖なる樹液》がクエストアイテムではあるけど、それ以外にもフララの進化って言う目的があるんだから、そっちの手がかりだけでも得ておかないといけない。
そう思って問いかけてみたけど、フレッドさんは思いつかなかったのか、首を傾げた。
「いや、知らないな、フレアは?」
「うーん、確かそんなNPCが居たのは間違いないと思うわ。何かのクエストの最後で会えたはずだけど……ああ、そうそう、来たばかりでもエルフの長から1つだけクエストが受けられて、それを達成すると一度だけ妖精女王と精霊王の2人に謁見できるイベントがあったはずよ。確か、妖精装備が女王の祝福で少しだけ強化されるイベントだったかしら?」
「おおっ!」
有力な手掛かりを得られて、私は小さくガッツポーズを取る。
まあ、妖精女王に会えたかからって、フララが進化出来るとは限らないんだけど、それでも何かしらヒントが得られる可能性は高いんだから、否応にもテンションが上がるってものだ。
「あまり難易度の高いクエストじゃないし、このまま一緒にやってみる? 多分、フレッドもいるから失敗することはないと思う」
「あ、いいんですか?」
「ええ、乗りかかった船だし。フレッドもいい?」
「ああ、もちろんだ! 俺にとっても初めてのクエストみたいだからね、興味もある」
そうして、満場一致で新しいクエストを受けに行くことになったけど、そこで1つ、私はあることを思い出し、「あっ」と声を出した。
「どうかした?」
「クエスト受注数、限界いっぱいなの忘れてました……さ、先に精算してきます」
「あはは、それじゃあクエストの前に、転移ポータルの登録からかな」
「は、はい!」
そんなやり取りをしながら、私は若干速足で、エルフの隠れ里へ向かって歩き出した。
閃の軌跡Ⅲ終わったぜい!(総プレイ時間95時間
さあ次はⅣだ……




