第93話 ギルド勧誘と光輝戦団
何とか今週が終わるまでに投稿出来た……と思いましたが、よく考えてみたら日曜日が週の始まりなんでしたっけ(;^ω^)
土日休みだとどうにも月曜スタートの印象が強いんですけど、カレンダー的には日曜が頭に来てるし……うーん?
「どうか俺のギルドに!!」
「ごめんなさい」
ナンパ男に絡まれて、ナンパ男……フレッドさんに助けられた私は、そのまま流れるようにギルド勧誘を受けたけど、これまた慣れた仕草で速攻でお断りした。
ガーン、と擬音が付きそうなくらい落ち込むフレッドさんだけど、そこで諦めないのがナンパ男クオリティなのか、妥協案を提示してきた。
「じゃ、じゃあ、加入については保留しておいてくれればいいから、せめて1度、俺達のギルドホームに来てみないかい?」
「ギルドホームに?」
当たり前だけど、グライセはコスタリカ村よりずっと大きな街だから、その分ギルドホームみたいな大きな建物を建てやすい。
そういう理由でギルドの本拠地が多いここ、グライセの北区にある住宅街は、商店街のある南区と並び、いつもプレイヤーが多くひしめく賑やかな場所になってるんだけど、フレッドさんのギルドもそこに拠点を構えているらしい。ついでにお兄も。
「連れ込むだけ連れ込んだら後はなし崩し的にギルドメンバーにしようとか考えてません?」
「うっ……いや、そういう考えもないわけではないが、もちろん無理強いはしない! というか、そんな真似をしたら俺がリアルでキラに殺されてしまう」
「な、なるほど……」
ログアウト不可のデスゲームってわけでもないんだから、たとえ強引な勧誘でギルドに押しこめても、家に戻って私がお兄に泣き付けば、クラスメイトであるらしいフレッドさんに逃げ場はない。そういう意味では、初めて会った時のナンパに比べれば幾分安全なのかもしれない。なんとも情けない理由ではあるけど。
それに、フレッドさんはともかく、同じギルドのメンバーは普通に気の良い人ばっかりなことは前回のイベントで分かってるから、それほど警戒する必要もないでしょ。
「分かりました、北区の方にはクエストの関係で用事もありますから、案内してくれるならいいですよ?」
「本当かい!? ありがとう、それじゃあ案内するよ」
フレッドさんの案内で、私はそのまま北区の住宅街へと向かう。
私が受けたクエストは、街に出稼ぎに来てる恋人に宛てた手紙の返事が中々来ないから、何かあったんじゃないかと心配で様子を見て来て欲しい、っていう何とも心温まるクエストだ。
具体的には、浮気とかじゃなく純粋に事故や病気を心配してる辺りが。うん、私だったらまずそっちを疑いそうだよ。男なんてみんなケダモノだし。何かにつけて胸が胸がって、女の価値は胸だけかーーー!!
「み、ミオさん? どうかした?」
「なんでもないです」
平静を装ってにこっと笑顔を向けながら返したら、なぜか怯えたように後退られた。
むむ、おかしいな、私の心の怨嗟の声が表情に出てたかな? 失敗失敗。
なんてやり取りをしながら辿り着いた北区は、前に見た時に比べて空き家も減ったのか、記憶にあるより一層の活気に溢れていた。
「なんか前に見た時よりも人が増えてる」
「それはもう、このゲームのプレイヤー人口もそうだけど、何よりギルドの数が増えたことで、ここにギルドホームを建てるプレイヤーが多く出てきたからね。その分、人の往来も増えるってわけさ」
ほとんど無意識に口を付いて出た言葉に、フレッドさんは律儀に答えてくれる。
確かにフレッドさんの言う通り、視線を向けて注視すれば、道行く人達のほとんどはプレイヤーみたいで、デカデカとギルド名の書かれた看板の掲げられた建物に入っていく姿がちらほら見える。
うん、目立つなぁ……私、ギルド作るとしてももっとひっそりしたのでいいや。
「そういえば、ミオさんって拠点はどこに?」
「コスタリカ村ですよ」
特に隠すことでもないから素直にそう言うと、フレッドさんは「なるほど」と1人納得したように頷いた。
「あそこはこの近隣の街の中でも一番田舎だから、しばらく居たならここの人の多さには驚くのも無理はないね。初心者プレイヤーはみんなここに居るし、そうでなくてもギルドホームを構えやすいから、次の街まで辿り着いても結局ここを拠点にするプレイヤーは多い」
「そうですねー。けど、私は田舎の方が性に合ってるかなぁ……」
こうも人が多いと、ムギ達を連れて散歩なんてしたら速攻ではぐれちゃいそうだし、ビートみたいに大きい子を召喚したら普通に往来の邪魔になりそう。
そう思って言ったんだけど、フレッドさんには別の意味で聞こえたのか、慌てて釈明を始めた。
「い、いや、別にコスタリカ村が悪いところだって言ってるわけじゃないんだよ? ただこっちの方が人が多くて賑やかだって言いたいだけで」
「? はい、そうですね」
別に私としては、どっちが良いとか悪いとかじゃなくて、どっちの方が性に合うかって話をしてただけだから、フレッドさんがどう思っても本人の自由だと思うんだけど、私をギルドに勧誘したいフレッドさんとしてはそういうわけにも行かないのか、あれやこれやと言葉を重ねる。
それに対して適当に相槌を打ったり、ところどころ今まで知らなかったお得な情報なんかも教えて貰えて驚いたりと、そんなことを繰り返しているうちに、クエストNPCが働いているお店までやって来た。
「そうか、ジョゼフィーネに心配をかけてしまっていたようだね……すまない、今はこちらからコスタリカ村へ向かう行商人がいなくて、返事を送れないんだ。どうか、代わりに届けて貰えないだろうか?」
「はい、もちろん!」
クエスト:想い人の近況 を達成しました。
クエスト:愛しき君へ を受注しました。
返事が来なくなったのは浮気が原因じゃなくて、行商人の行き来が無くなったのが原因だったみたい。浮気でしょとか思ってごめんなさい、と心の中で謝っておく。
けど、何だか本当に行商人の行き来が途絶えたことが原因のクエストばっかりだなぁ、益々きな臭くなってきた。
「よろしく頼むよ」
最後にそう言って手を振るNPCの青年に、私も同じように手を振り返しながら別れる。
出来れば早いうちに返事を届けてあげたいところだけど、案内して貰う代わりにフレッドさんのギルドを一度見学するって約束したから、まずはそっちを果たさないとね。
「それじゃあフレッドさん、案内お願いします」
「ああ、付いて来てくれ」
そう言って、フレッドさんに連れられて向かったのは、北区の中でも大通りに面した、かなり立地の良い所。建物のサイズ自体は他にもっと大きなところもないではないんだけど、派手さで言うなら全く負けていなかった。
何せ、看板はどこも派手で目立つから一旦置いておくにしても、入り口のところに2体の剣を構えた武骨な戦士の像が並べられていて、金剛力士像もかくやと言う厳つい顔でポーズを決めている姿は、カッコよさもあるけど威圧感の方が凄い。本当にギルドメンバーを誘致しようとしているのか甚だ疑問だ。
「どうだい? カッコイイだろ? 《北の山脈》の奥にある鉱山の街、《バルロック》の職人が作ってくれたんだ。最近出来たばかりなんだけど、ギルドメンバーにも好評なんだよ」
「へ、へー……」
好評なんだ、これ……っていう呟きが喉まで出かかったのをぐっと堪えて、私はその2体の像の間を抜け、ギルドの中へと向かう。
それにしても、鉱山の街《バルロック》か……もうこのゲーム始まって何週間か経ってるんだし、次の街まで辿り着いたプレイヤーが居てもおかしくないか。私の場合、フララの進化がまだだったからこの辺りで活動し続けてたけど、今回のクエストが一通り片付いたら、次の街に向かうことも考えようかな。
そうやって、戦士の像を見ながらまだ先の予定を組み立てる私をどう捉えたのか、フレッドさんが満足気に頷いてるのに首を傾げる私だったけど、その疑問を口に出すよりも先に、ギルドの扉が開かれた。
「ようこそ、俺達のギルド、《光輝戦団》へ!」
私ギルドに加入するわけでもないのに、その迎え方は仰々しすぎない? とは思ったけど、細かい疑問はスルーして中に入れば、そこは意外にも……って言ったら失礼かもしれないけど、落ち着きのある綺麗な酒場みたいなところだった。
落ち着きのある酒場、って言うとなんだか色々とイメージが崩れそうな感じがするけど、実際そこまで人が多いわけじゃないのもあって、内装自体はよくある冒険者ギルドの酒場って感じなのに、学校の教室の休み時間程度の賑やかさで済んでるんだから、見た目から感じるイメージに比べると随分落ち着きがあると思う。
そして、そんな場所に仮にもギルドマスターが仰々しい迎え入れ方をするもんだから、中に居た人達は当然のように勘違いした。
「おおっ、ギルマス、新しいギルドメンバーか……って、ミオちゃんじゃん!?」
「えぇ!? ミオちゃん!? ミオちゃんってクラーケンとやり合った時に一緒だったミオちゃん!?」
「うおおっ、マジかぁ! 俺このギルド入っててよかったぁ!!」
さっきまでの、それなりに大人しく雑談に興じていた雰囲気はどこへやら、右へ左へとその場にいたプレイヤー達は大騒ぎ。うん、私別にギルドに入るわけじゃないよ? 見に来ただけだから。
「みんな落ち着け、ミオちゃんはまだうちのギルドメンバーじゃない。今日は見学に来ただけだ」
いっそ逃げようかな、なんて思い始めた頃、騒ぎの元凶であるフレッドさん自らそれを鎮静化した。
ただ、“まだ”のところを強調する辺りに悪意を感じるのは私だけかな?
「だが! ここで俺達のギルドの良さを知って貰えば、加入してくれる可能性もある! みんな、存分に俺達のギルドの魅力をアピールしてやってくれ、迷惑にならない程度にな!」
やっぱり悪意しかなかったよ!! いや、一応忠告はしてくれてるからいいのかな? いや良くない? うーん、どうなんだろうこれ、判断に困る……
そしてそんな私の戸惑いを知ってか知らずか、その場に居た人達による自己紹介と言う名のアピール合戦が始まった。
二刀流の流れるようなアーツの連発による剣舞とか、テイムしたハウンドウルフと炎属性の魔術師による火の輪くぐりとか。何それすごい、よしうちの子もやって……あ、ライムは無理? フララも火には近づきたくないって? うん、仕方ないね。よしよし。
「皆さん騒がしいですよ? 何してるんですか?」
「あ、サブマス!」
そんなことをしていたら、2階からエルフ耳を付けた弓使いの女性プレイヤー、フレアさんが降りて来た。私を見ると、笑顔を浮かべながら手を振ってくれたから、私の方も振り返す。
「ミオさんじゃないですか、うちのギルドに入ってくれたんですか?」
「いえ、今日は何か、見学に来てくれって言われまして」
そう言ってフレッドさんの方を見ると、ギクッ! って感じに背筋を強張らせた。
あれ? この反応、やっぱり何か後ろめたいことでもあるの?
「あまりしつこく勧誘しては嫌われると言ったじゃないですか、フレッドさん」
「い、いやフレアさん、一応これは合意の上であって、決して強引な勧誘などでは……ね、ね? ミオさん」
「ギルドへの加入を断るなら、せめて一度見学だけでもと必死にお願いされたので付いて来ました」
「……フレッドさん?」
「はいすみませんもうしません」
流れるような仕草で頭を下げるフレッドさんを見て、大体このギルドの力関係も分かった。
うん、美鈴姉もそうだけど、大人の女の人ってすごいなあ。いや、美鈴姉も高校生だから正確にはまだ子供なんだろうけど。
「まあ、私達のギルドにもミオさんのファンが多いのは確かですから、入って欲しいのは確かですけどね? せっかく来たんですから、ゆっくりして行ってください」
「あ、はい、ありがとうございます」
フレアさんからウインクされ、慌てて頭を下げる。
うーん、何だか徐々に外堀を埋められているような気がする。
「まあ、無理にギルドに入らずとも、何ならミオさん自身がギルドを立ち上げて、ギルド同盟を結んでもいいですしね」
「ギルド同盟?」
「ギルド同士のフレンドのような物です」
聞き慣れない単語に首を傾げると、フレアさんからそう軽く説明をされた。
要するに、普段は別々に活動するギルドだけど、レイド戦みたいなのがあった時は人員を融通し合って協力するギルドってことみたい。ちょうどお兄のギルドとここがそうなんだって。
「か、考えておきます」
「ふふふ、楽しみにしてますね」
適当にぼかした返事を笑顔で受け止められて、何だか上手いこと掌の上で踊らされてる感じがしないでもない。
「ああそうだ、せっかくこうして来たんですから、この後一緒にクエストなどどうですか? 私、ここ数日レベリングに集中して疲れ気味なので、少し息抜きがてら別のことをしようかと思っていたところなので、ミオさんのクエストをお手伝いしますよ」
「クエストですか」
突然の提案に、けれど私としては中々Yesとも言いづらい。
さっきのナンパ男じゃないけど、私が今やってるのってお使いクエストだから、手伝って貰うことってあんまり……あ、そうだ。
「フレアさんって、エルフの隠れ里の場所って知ってますか?」
フレアさん、いつもエルフの付け耳してるから、もしかしたら知ってるのかと思って聞いてみると、案の定「ええ、知ってますよ」との答えが返ってきた。
「ほんとですか!? じゃあ良かったら、案内とかして貰えると嬉しいです。今は私、《聖なる樹液》の納品クエスト受けてるので」
「いいですよ。それではちょっと準備があるので、少し待っていてください」
そう言って、もう一度2階に上がっていくフレアさん。
それに合わせて、俺も連れて行ってくれ! なんて人が殺到したけど、隠れ里までの道にボスはいないからってことで、前衛としてフレッドさんが付いて来るだけに収まった。
ギルマスとサブマスのセットにパーティとして組み込まれるって、何だか高くつきそうだけど……まあ、フララの進化のためなら、安いものかな。
そんなことを思いながら、私はギルマス権限の名の下に涙を飲んでいるプレイヤー達を見て、苦笑を浮かべていた。




