第9話 物欲センサーと森の激闘
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こそこそ。こそこそ。
「ライム、しーっ、だよ、しーっ」
肩の上で、ぷるんっと肯定の返事を返すライムを撫でつつ、私はどこぞの特殊部隊よろしく、丈の長い繁みの中を這うように進んでいく。
家事を終え、お風呂にも入った私は、寝るまでの間に出来るだけ進めようということで、始まりの街の西側にあるフィールド、《西の森》にやって来た。
このゲームでは、リアル時間にして午後8時から午前4時までの間、フィールドに夜の帳が降りて、モンスターの分布や狂暴性が変わる。
《東の平原》なんかは、それこそ空が暗くなる程度で、開けた場所で星明りに照らされているせいか特に変化もないみたいだけど、この《西の森》では違う。
ただでさえ生い茂った木々のせいで悪い視界が更に悪化して、相当近づかないとモンスターが見つけられない上、モンスターの多くが攻撃的になって不覚を取る場面が増えちゃうらしい。
結果、敵モンスターの位置を察知する《感知》スキルや、暗闇でも昼間と同じように見通すことのできる《鷹の目》スキルを取ってない限り、夜中の《西の森》での狩りの効率は否応なく下がって、昼間と一転して不人気フィールドになる。と、お兄から教わった。
そんな場所になんで足を運んだかと言えば、もちろんMPポーションの材料である、《霊草》を手に入れるためだ。
戦闘をする上では足枷でしかない夜の闇だけど、ただ森を回ってアイテムを拾い集めるだけなら、むしろモンスターから自分の身を隠し、いざ見つかって逃げる時も、その追跡を素早く振り切る心強い味方になってくれる。
そういう理由から、私はログインする前にネットで軽く調べておいた使えそうなスキルを2つ習得して、今装備してある。
名前:ミオ
職業:魔物使い Lv3
HP:72/72
MP:60/60
ATK:42
DEF:62
AGI:62
INT:42
MIND:62
DEX:83
SP:0
スキル:《使役Lv2》《鞭Lv4》《採取Lv2》《隠蔽Lv1》《敏捷強化Lv1》
控えスキル:《調合Lv2》《調教Lv2》
《隠蔽》スキルはそのまま、モンスターから見つかりにくくなるスキル。《敏捷強化》は、装備しているとAGIが上昇するスキルだ。
これを付けた状態で、こうして草むらに隠れつつ動けば、よっぽどモンスターに見つかることはないし、見つかったとしても逃げ切れる……はず。
「けどこれ、採取ポイントも見つけづらい……」
いっそ《敏捷強化》じゃなくて《感知》スキルにして、モンスターが近くにいない間は顔を上げて探すとか、そういう風にしたほうがよかったかなぁ。
けど、もうスキルは習得済みな上にSPも残ってないから、少なくとも次のレベルになるまではこの構成でなんとか探していくしかない。
「あ、あったあった……って、これまた《薬草》じゃん!」
手にした戦果に、がっくりと肩を落とす。
《東の平原》でもよく取れた《薬草》は、このフィールドでも変わらず取れるようで、一番多く採取出来たアイテムもこれだった。
ただ他にも、《毒消し草》や《石ころ》、《ドクの実》なる毒々しい色をした木の実に、《シビレダケ》っていう如何にも毒キノコですと言わんばかりのキノコ、後は普通に食べられそうな食材アイテムがいくつか、などなど。《薬草》しかお目にかかれなかった《東の平原》と違って、ここでは色んなアイテムが取れて、それはそれで楽しい。
けど、肝心の《霊草》がなかなか見つからなかった。
「うーん、これが噂に聞く物欲センサー……厄介だなぁ」
欲しい物なら、仮に本来どれほどレア度の低い物であっても手に入らず、プレイヤーを苦しめ続けるという悪魔のような機能。
決してそんな機能は搭載されていないと言いつつも、都市伝説のように大昔から脈々と語り継がれてきたそれが、ついに私に牙を剥いたらしい。
そうじゃなきゃ、森の浅いところでも手に入るって言ってたお兄の情報が間違ってるってことだし、見つからなかったら文句言ってやる。
「面倒だなぁ……よし、立って探そう」
さっきから一度もモンスターを見てないし、いざとなっても逃げられるように《敏捷強化》を習得したんだから、このまま隠れた状態で終わっちゃったら勿体ない。
「ライム、しっかり掴まっててね」
ぷるんっと返答が返ってきたのを確認すると、私は伏せてた状態から勢いよく立ち上がり、駆け出す。
暗闇の中、ぼんやりと見える障害物を避けながらだと全力疾走とは行かないけれど、むしろ暗いからこそ視界内に光って表示される採取ポイントは分かりやすかった。
「そこっ!」
駆け抜けつつ、手を伸ばして掴み取り、すぐに次のポイントに向かって走る。
確認は全部後回しにして、ゲームだからこその疲労感の無さを活かして、どんどんとアイテムを回収していく。
「うん、順調順調!」
今まではなんだったのかってくらいのハイペースで、アイテムを拾い集めていく。
この分なら、《霊草》も1つや2つは手に入ってるよね~、と軽く考えていた私は、《隠蔽》スキルはそれらしい行動を取ってないと効果を表さないのも忘れ、すっかり油断していた。
「きゃっ!?」
突然、横から衝撃を受けて倒れ、地面を転がる。
慌てて起き上がりつつ、いきなり攻撃してきた不埒者を探そうと目を凝らせば、そいつは闇夜の中から、光り輝く双眸だけを覗かせてそこにいた。
「ハウンドウルフ、か……ぜんっぜん気付かなかった」
黒い毛皮に身を包んだ、狼みたいなモンスター。
その色が、夜の森にあっては完全に保護色になっていて、攻撃されるまで近くにいることも全く分からなかった。夜でモンスターが見つけにくいとは聞いてたけど、まさかここまで分からないなんて予想外だよ。
こんな時でもなければ、あの毛皮に顔を埋めてみたいんだけど。もふもふしてそうだし。
「うへえ、HPが一発で3割持ってかれた」
緑色のHPゲージを確認すれば、そのうちの3割ほどが黒く染められて無くなっていた。
ゴブリンで2割くらいだから、それより厄介な敵であるのは間違いないと思う。
そうでなくても、今の私は《調教》スキルを付けてないから、もし戦って倒したとして、ライムに入る経験値の量がいつもより少なくなっちゃう。
つまりこの場は、
「三十六計逃げるに如かずっ!」
ライムを抱き抱えてくるりと身を翻し、脱兎の如く駆け出す。
けれど、夜の狂暴なモンスターは逃げる私も獲物にしか見えないのか、すぐに後を追いかけて来る。
その足は速く、一方の私はいくら《敏捷強化》を習得しているとは言っても、所詮は3レベルの足。段々追いつかれてきた。
それでも森の浅い場所で採取していれば、追いつかれる前に街に逃げ込むことも出来ただろうけど、走りながらの採取で思った以上に深いところまで来ちゃってたみたいで、このままだとちょっと逃げ切るのは難しそうだ。
「う~、何か、何かいいアイテムは……」
走りながら、この状況を打開するためのアイテムがないかインベントリに目を走らせる。
とはいえ、まだポーションくらいしかまともに作ってないし、それ以外のアイテムなんてここで拾い集めたアイテムくらい。その中で役に立ちそうな物は……
「とりあえず、これ! えいっ!!」
まずぱっと目に付いたのは、《シビレダケ》。名前からして明らかに麻痺とか、そんな感じの状態異常を起こしそうなそれを、背後に迫りくるハウンドウルフ目掛けて投げつける。
それは運よく、真っ直ぐに追ってきてるハウンドウルフの顔面に直撃したけど……
「ぜんっぜん効いてないしっ!」
ハウンドウルフのHPは一欠けらも削れず、麻痺する様子もない。
食べさせない限り効果がないのか、それともある程度の数をぶつけなきゃ効果が出ないのか。まあ、多分前者だと思う。
「となると、後はー、後はー……」
あ、《霊草》いつの間にか採取出来てる。やったね。
ってそうじゃなくて!!
「もう、後はこれくらいしかない!!」
意外と大きい、拳大の《石ころ》を取り出して、ハウンドウルフ目掛け投げつける。
また顔面を狙ったそれは、これまた運よくハウンドウルフの頭に直撃した。
「ギャンッ!」
そしてそれは、ほんの僅かではあるけどハウンドウルフのHPを減らして、若干その追撃を緩めさせた。
「おお、石ころすごい! もうこれメイン武器でいいかも!!」
なんてバカなことを考えながら、私は次々石ころを投げつける。
けど、元々野球をやってたわけでもキャッチボールをやったわけでもない私が、正確に投げ続けられるわけもないわけで、最初の2回で運も使い切ったのか、ほとんど当たらなかった。それに、投げるためには一々インベントリを開いて1つずつ取り出さないといけないから、走って逃げ回ってる今の状態だと、転ばないように注意しながらになって言うほどたくさん投げられない。
「ギャオゥ!!」
「きゃあっ!」
二度目の追撃。HPが残り3割くらいにまで追い詰められて、再び地面を転がる。
安全地帯の街まではまだ距離があるし、もう、こうなったら腹をくくるしかない!
「行くよライム、こいつ倒しちゃおう!」
素早く起き上がりながら距離を取り、《初心者用HPポーション》を取り出す。
そして、飲む間も惜しんで自分に振りかけてHPを回復し、腰に装着してあった《蔓の鞭》を引き抜き、ハウンドウルフに向けて構えた。
「《バインドウィップ》!!」
恒例のアーツを使って、素早くハウンドウルフの動きを封じると、指示をする必要もなくライムが飛び掛かり、《酸液》でそのHPを削っていく。
「まだまだ、これも食らえー!」
ついでに、鞭を持つのと逆の手で、インベントリから《石ころ》を取り出し次々投げつける。
ダメージはほぼないに等しくてもやらないよりはマシだし、お兄曰く、このゲームでは継続ダメージ系の攻撃はヘイトをほとんど稼がないらしいから、これでもやっておけばライムにヘイトが向かないように出来るはず。
けど、ライムのMPはそう長くはもたない。
《鞭》スキルのレベルが上がった影響で、《バインドウィップ》の拘束時間も伸びた結果、それが解けるよりだいぶ早くそのMPが底を突いて、
一瞬で全快した。
そして途切れることなく発動し続ける《酸液》によって、ハウンドウルフのHPは徐々に削れる速度を早めていく。
「よし、狙い通り、やれた!!」
もしかしたら、程度の考えで試したけど、上手く行ってよかった。
ライムのMPが回復した仕組みは至極単純で、言ってしまえばただ《初心者用MPポーション》を使っただけだ。
ただ、ポーションは普通、直接飲むか振りかけるかしないと効果がないから、《バインドウィップ》で拘束してる間、私から離れてモンスターに張り付いてるライムにポーションをあげることは出来なかった。
だから発想を変えて、ライム自身に、自分にポーションを使って貰おうと考えた。
おあつらえ向きに、ライムには《収納》って言うスキルもあるし、食べる時も収納する時も体に取り込んでるんだから、もしかしたら行けるんじゃ? と思って、《初心者用MPポーション》を渡しておいたんだけど、まさか本当に取り出す工程すら省いて使えるなんて……
うん、次からは、大事なアイテムは預けないようにしよう。気づいたら食べられちゃいそう。
「っと、効果終わりっ、ライムはそのまま張り付いてて!」
《酸液》で攻撃し続けるライムに、そのままにするよう指示しつつ、私は襲い来る衝撃に身を備える。
すると狙い通り、ハウンドウルフは私目掛けて一直線に襲い掛かってきた。
「きゃっ! うぅ、いいよ、そのまま私を狙ってなさい!」
石ころで散々嫌がらせ染みた攻撃をした甲斐もあって、ヘイトはバッチリ私に向いてるみたい。
引き倒されて、また大きくダメージを受けた私は、すぐにもう一本の《初心者用HPポーション》で受けたダメージを回復しつつ、ハウンドウルフに向けて鞭を振るう。
「ハウンドウルフのHPはあと半分……ライム、頑張れ!」
既に2本目の《初心者用MPポーション》が使われ、ライムが持ってる残りは2本。
ライムにヘイトが向かないよう、必死に鞭で攻撃するけど、システムアシストが入るアーツと違って、普通の攻撃はプレイヤースキルに依存してるから、私の腕前じゃ素早いハウンドウルフにほとんど当たらず、反撃を受ける。けど、攻撃された瞬間になら、私の鞭だって当てられる。そして、減ったHPを《初心者用HPポーション》で都度回復して、なんとか私に釘付けにしたまま時間を稼ぐ。
「あと、ちょっと……あとちょっと!!」
HPもMPも、どっちの初心者用ポーションも使い果たして、ハウンドウルフのHPも残り僅か。
そこに来て、ついに騙し騙し私に向けていたヘイトが、背に張り付いたままのライムに向いた。
「ギャウゥ!!」
ライムを潰そうとでもしているのか、ハウンドウルフが傍の木に向かって走り出す。
ライムのHPもレベルが上がって増えたけど、相変わらずゴブリンの攻撃一発で倒されることに変わりはない。ゴブリンよりも攻撃力が高いハウンドウルフなら、猶更だ。
ハウンドウルフが木に向かって飛び掛かり、ライムを叩きつける――その寸前で、ギリギリ、間に合った。
「《バインドウィップ》!!」
「キャウン!?」
アーツのCTが終わって、再使用可能になったそれを使い、ハウンドウルフの動きを封じる。
じたばたともがくその姿を見ながら、残り僅かだったHPゲージは徐々に黒く染まっていき――ついに、全て無くなった。
「やった……?」
ポリゴンの破片となって消えていったハウンドウルフを見ながら、呟く。
そして、後に残ったライムを見て、少しずつその実感が沸き上がってきたところで、私は感極まってライムに抱き着いた。
「やった、やったよ!! お兄に無理って言われてたモンスターを倒せたよ! しかも、ほとんどライムの攻撃で!!」
私の攻撃がほとんど当たらないし効かない状況で、本当にライムの攻撃だけが頼りだった。
ゴブリンみたいに私がゴリ押ししたほうが強いんじゃなくて、ちゃんとライムがいなきゃならないっていう状況があって、そして力を合わせてモンスターを倒せた。正直、物凄く嬉しい。
「やっぱりライムはダメな子なんかじゃなかったよ、頑張れば出来る子だよ~!」
ハウンドウルフは別にボスでもなんでもなく、ただの雑魚モンスターの1つだけど、それでも、これは大きな一歩だ。このまま頑張れば、きっといつか、ボスモンスターだって倒せる。そんな実感と共に、ライムを頬擦りしながらめいっぱい甘やかした。
そんな風に、歓喜に包まれていた私は、またうっかり忘れていた。
この場所は安全な街中じゃなくて、モンスターの出る戦闘エリアだってことを。
そして、そもそも《西の森》は、モンスターの出現頻度が高いエリアだってことを。
「……あ、あれ?」
「グルル……」
「ガルァ!」
「ギャオゥ!!」
気づけば私は、ハウンドウルフ3体に囲まれていた。
1体でも、手持ちのアイテムの限りを尽くしてギリギリだったのに、いきなりそれが3倍。
うん、これはダメだね、詰んだ。
「はあ……最後にケチが付いちゃったけど、仕方ないよね」
まだまだ、私もライムも弱い。けどいつか、これくらい、ピンチでもなんでもないって笑えるくらい、強くなろう。
そう決意を新たにする私に、3体のハウンドウルフが一斉に群がり――私は、このゲームで初めての死に戻りを経験した。
作者「火竜の逆鱗欲しい」
友人「じゃあ手伝ってやるよ」
作者「出ないんご(´・ω・`)」
友人「俺いらないのに2つも出たんですけど」
作者「なんでや!!」
物欲センサーって怖いですよね。