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テイマーさんのVRMMO育成日誌  作者: ジャジャ丸
第四章 初イベントと深海の怪物
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第75話 海の都の英雄と怪物討伐クエスト

「ふぅ、終わったー」


 始まった時はどうなることかと思ったけど、終わってみれば誰一人欠けることもなく、それなりに余裕をもって終わることが出来た対幽霊船。

 結果的には、大砲とか操船とか、船の上での戦い方が多少なりと身に付いたことも考えれば、中々実入りの良い戦闘だったと思う。


「何体倒した?」


「9体」


「くっ……8体、僕の負けか」


「ふふふ……」


 そして、ユリアちゃんとリッジ君の勝負は、僅差でユリアちゃんが勝ったみたい。少しだけ得意気に鼻を鳴らす姿は中々珍しいけど、それを前にしたリッジ君は悔し気だ。

 まあ、いがみ合ってるというより、良いライバルみたいな感じになってるし、これは放っておいてもいいかな?

 それに、今は他に面倒見なきゃいけない子もいるし。


「先輩~、疲れました~」


「あはは、お疲れ様フウちゃん。戦後処理? はこっちでやっとくから、ムーちゃんと2人で休んでて」


「ふぁ~い」


 ふらふらとやって来たフウちゃんを抱き留めて、ほいっとそのままついさっきまで枕代わりに使わせてもらっていたムーちゃんが、慣れた手付き(鼻付き?)でフウちゃんの体を背中に乗せる。

 ふにゃあ、と和らぐフウちゃんの表情を見れば、心底リラックスしてるのも分かるというもの。ムーちゃんへの無条件の信頼が見て取れる。

 うん、やっぱりテイマーはこうじゃなきゃね。


「さて、ライム、ビートも、お疲れ様。よく頑張ったね」


 さて私もということで、今回は新技を使って大活躍だった2人を褒めて撫で回す。

 ああ、やっぱり戦闘が終わった後はこれに限るよ、ライムのぷるぷるボディも、ビートのつるつるボディも撫でると気持ちいい。癒される。


「ピィ~……」


「フララも、次は色々出来るようにしてあげるから、元気出して、ね?」


「ピィピィ」


 今回の戦闘は余裕もあったし、ライムとビートのコンビネーションアタックを練習しようと思って、フララはあまり戦えなかった。それで、ちょっと寂しい思いをさせちゃったみたい。

 これは、フララの新しい連携技を考えられてない私の失態だから、ちゃんと考えてあげないと。

 けど、今すぐは無理だから、とりあえず今はいっぱい甘やかしてあげよう。なでなでぎゅ~っと。

 そうやってフララを抱きしめて撫でていると、ライムが自分も自分もと甘えてくるので、2体纏めて可愛がる。

 すると今度はビートがあぶれちゃうから、ライムを肩に載せながらビートを撫でて、擦り寄ってくるライムと頬擦りして……

 うん、やっぱりペットが多いと、こういう時中々大変だなぁ。いや、体の小さい子ならもうちょっと行けるかな……?


「さてミオちゃん、この後はどうする?」


「え? この後って?」


「ほら、派手に突っ込んじゃったから、船が半壊しちゃったでしょう? これ、一度港に戻らないと直らないから、このまま航海を続けるのは無理だと思うの」


「あー……」


 私達の様子を微笑ましそうに見つめながら紡がれたリン姉の言葉に、思わずちらりとフウちゃんの方を見る。

 うん、寝返り打って寝息なんて立ててみても誤魔化されないからね? 狸寝入りなんて私には通用しないよ?


「船室の奥に、プレイヤーが島まで戻るための転移ポータルが常備されているし、戻る分には問題ないのだけれど、せっかくだからあの幽霊船、少し調べてみない?」


 言われて見てみれば、確かに戦闘は終わったのに幽霊船が消える様子はないし、元のエリアに戻る様子もない。

 どうせ大型船の試運転がここまでなら、確かに一度探索するのはいいかもしれない。


「うん、それじゃあ私も行くよ。ごめんねビート、また後で。《送還》」


 ビートに一言断りを入れながら、召喚石としてインベントリに戻す。

 そして、両肩にライムとフララを乗せたまま、私はリン姉と一緒に、幽霊船の方へと移動した。途中、私が行くならとリッジ君とユリアちゃんも付いて来たけど、そこまで広い船じゃないし、休んでてくれてもいいんだよ? フウちゃんなんて、もうしばらく動きたくないからって、ムーちゃんと一緒にだらーっとしてるし……


 まあそれはともかく、幽霊船の中は特に変わったこともなく、それでいて何かしらのアイテムが手に入るようなこともなかった。

 無駄足だったかな? と私含め、みんなが思い始めた頃。ようやく辿り着いた船の奥で、予想外の人物が待っていた。


『やあ、君達。連中を僕の船から退治してくれたこと、感謝するよ。僕の名はセルジオラ。この船の艦長さ。あるいは、アトランティスでは英雄なんて呼ばれてもいたね』


 半透明の体に、騎士っぽい出で立ち。

 お兄がずっと探していた亡国の英雄が、私達に向けて一礼した。






『なるほど、君達は彼の怪物に挑まんとする勇者というわけか。我が愛しのウィルフィーヌのことも知っているのなら話は早い。僕の知り得ることを全て伝えよう……とは思うのだけど、その前に1つお願いがあるんだ』


「お願いですか?」


『ああ、僕がクラーケンと戦い、力尽きる時。渡しそびれていた婚約指輪を生き残っていた兵士の1人に持たせて小舟に乗せ、ウィルフィーヌへの使いとしたんだ。それが無事に届いたのかどうか、確認して欲しい』


 セルジオラさんと会話して、流れに沿って私達のことを伝えると、なぜか勇者扱いされた。その上で、海の怪物――予想通りクラーケンみたい――についての話は全部教えてくれるみたい。

 ただ、そのために1つお願いを聞かなきゃいけないみたいだけど……ん? 婚約指輪?


「あ、それならもう、私が届けましたよ」


『なんと!?』


 ウィルフィーヌさんのいる墓地エリアの入り口にあった髑髏。その中にあった指輪と、それを届けるまでの一部始終。そして最後に、ウィルフィーヌさんが喜んでいた事を伝えたところ、セルジオラさんは目を剥いて驚きを露わにし、そしてすぐに笑顔を浮かべた。


『そうか、心配せずとも、僕の愛は届いていたんだね……ありがとう勇者よ、これで僕も、あとたった1つを除いて、もう未練はない』


「あと1つ?」


 私の問いかけに、セルジオラさんは『ああ』と神妙に頷いた。


『祖国を滅ぼし、僕ら2人を引き裂いた元凶……クラーケンを、どうか討伐して欲しい』


「はい、もちろん!」


 セルジオラさんのお願いに、私は大きく頷く。

 それと同時に、ピコーン、っと音が鳴った。



クエスト:故国への想い 0/2

内容:クラーケン1体の討伐 0/1



「……おおっ」


 お兄の予想通り、本当に英雄さんの話がトリガーになってたんだ。これ、帰って教えてあげたら喜ぶだろうなぁ。


『それで、クラーケンの情報だが……まず、奴は触手による攻撃が最も危険だ。あまり時間をかけていると、乗っている船ごと沈められかねない。そこは気を付けたまえ』


 船ごとって……うん、クラーケンだもんね、なんかそんなイメージあるよ。でも、ゲームの戦闘中に船が無くなったらどうなるんだろ……やっぱりゲームオーバーなのかな?


『そして、奴の弱点だが……まず、奴の体は特殊な粘液で覆われているため、真っ当な攻撃はほとんどが通じない。物理、魔法共に、効果が著しく減少する。ただ、炎だけはよく通じた。炎の魔法や、あるいは大砲による砲撃などが最も有効だ』


「へ~」


 炎の魔法……うん、1人凄く心当たりがあるなぁ。

 クラーケンとの戦闘の前に、手伝って貰えるかどうか聞いてみるのも悪くないかも。


『そしてもう一つ……奴の粘液は、燃えると性質が代わる。どう変わるかは分かる前にこの有様となってしまったので分からないが、攻撃の効き方が異なっていたように思う』


「性質かぁ」


 燃えると、ってことは、炎属性の攻撃をした直後ってこと? どうやって狙うんだろ……それとも、見た目で分かるような変化があるのかな? まあ、それはお兄と相談すればいいか。


『これで、僕が知っている全ては伝え終えた。幸運を祈る、勇者たちよ』


 そう思っていたら、話は終わったとばかりにセルジオラさんは消えて行った。

 ほんのりと光を放つ騎士の骸骨が代わりに横たわっていたから、多分、これに話しかければもう一度出てきてくれるのかな? まあ、クラーケンについては聞けたから、後は一度戦ってみないと分からないし、態々呼び出すこともないんだけど。

 ただ、少し気になることもある。


「ねえリン姉、これってさ、私達がクエスト受けてればみんなを連れてクラーケンに挑めるってことかな? それとも、全員セルジオラさんの話を聞かなきゃダメとか?」


 もし全員聞かなきゃダメなら、お兄にここを教えるために案内とかしなきゃダメな気がするんだけど、それはちょっと面倒かも。


「そうね、ひとまず同じパーティ扱いになっているフウちゃんにも、同じクエストが出ているかどうかの確認が必要ね。出ているのなら、特に問題はないけれど……」


「それじゃあ、確認してみよっか」


 セルジオラさんとのイベント以外、特に何も無さそうだってことで、さっさと船へ戻って話を聞いてみたら、それまで何もなかったのに、事情を説明した瞬間同じクエストが発生したらしい。

 なにそれ、バグ?


「多分、さっきのNPCから直接話を聞かなくても、クエストを受注済みのプレイヤーから間接的に話を聞けば、同じクエストが発生するんだと思う」


「なるほど、そういうことね」


「お~、わざわざ中まで行かなくてもいいなんて、なんて親切なシステム……」


「もう、それくらい面倒臭がらないの」


「てへへ」


 私がユリアちゃんの予想に頷いていると、フウちゃんからなんとも情けない感動の声が漏れる。

 全く、さっきまでの戦闘ではかなりやる気に漲ってたのに、やっぱりフウちゃんはフウちゃんか。


「まあいっか、それじゃあ後は、帰ってお兄に報告するだけだねー」


 フウちゃんの頭を軽く撫でつつ、そんな感じで話を纏め、ようやくこの幽霊船のイベントも終わりを迎えた。

 後は、クラーケンの討伐を残すのみだ。

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