第74話 イカ人間と海戦勃発
今回はちょっと長めです。
毎日更新を少しでも長く、と思うなら途中で区切るべきなんでしょうが……微妙にキリが悪いんですよね(;^ω^)
砲声が響き、船の周りにいくつもの水柱が立ち上る。
まだ距離があるからか、直撃は1つもないけれど、それも時間の問題だと思う。
「リン姉、これはどうしたらいいかな?」
取り敢えず、こういう時一番頼りになるリン姉に意見を伺うと、少し何事か考えるような仕草をした後、すぐに答えを返してくれた。
「そうね、まずはこの距離だと魔法も弓も届かないから、船を寄せた方がいいかしら。操船のやり方は覚えてる?」
「うん、大丈夫」
一応、この船に乗って出航してすぐ、口頭で伝えられる範囲では色々と教えられたから、その辺りのことはちゃんと覚えてる。
大型船に限らず、船はプレイヤーが操作しない限りずっと一定のスピードで直進を続けて、加速や減速、左右の舵取りは、全て船尾付近の一段高い位置に取り付けられた、操舵輪とレバーを操作することで行うことが出来る。
なんで帆船なのに加減速が舵と同じ感覚で出来るんだとか、そんなことは突っ込んだら負け。きっと魔法的な何かなんだよ、うん。
「それから、投射量が全然違うから不利ではあるけれど、せっかくだから大砲の方も試してみましょう。練習になると思うの」
「分かった。それじゃあフウちゃん、ちょっとこの船の舵取りお願い、砲撃出来るように横腹向けて、向こうの船に少しずつ近づいてく感じで」
「は~い」
「ユリアちゃんとリッジ君は、私と一緒に大砲の準備を手伝って」
「ん」
「分かった」
リン姉のアドバイスに従い、なぜかこのパーティのリーダーに設定されている私が各員に指示を飛ばしていく。
とは言え、操船はともかくこの船の主砲、砲弾を船室から運んで来なきゃいけないんだけど、これが中々重い上、インベントリに入れられず1度に1人1発ずつしか運べないっていう面倒な制約がある。
となれば、こういう時に輝くのが人海戦術だ。
「リン姉もお願い!」
「ええ、みんな来て、《召喚》」
リン姉が召喚石を取り出し、前にも見た6体のゴブリン達を呼び出した。
装備が一新され、歴戦の戦士感が前にも増して上がってるから凄く強そうだけど、リン姉曰く、MP消費を抑えるために装備の強化を中心にして、ステータスはあまり上げてないから、今のレベル帯だとこの子達が1対1で倒せる敵はあまりいないみたい。それでも、雑魚狩りや囮役、今回みたいな単純に頭数が欲しい時には重宝するし、付き合いも長いから愛着があるみたいだけど。
うん、分かるよその気持ち、自分に懐いてくれてる子なんて、もう可愛くて仕方ないもんね。
まあ、それはともかく、私も砲弾運び手伝わないと。
「ライム、フララ! それからビートも手伝って、《召喚》!」
ビートを召喚しながら、ライムとフララにも一緒に砲弾運びを手伝って貰う。
けど、困ったことにフララの力だと砲弾は重すぎるようで、引っ張ってもびくともしてなかった。それでも一生懸命グイグイやってるフララ可愛い。
そして、ビートはそもそも、狭くて船室まで入れなかった。
元々、船室の扉が複数人が通るには小さいって言うのももちろんだけど、この場合はビートの体が大きいって言うのが理由の大半を占めてる気がする。
仕方ないから、私はライムが船室の中から運んできた砲弾をビートに渡し、大砲まで運んで貰うことにした。
ライムも、フララとATKはそう差がないし、インベントリに入れられない以上難しいんじゃないかと思ったんだけど、《収納》スキルのお陰なのか、1つだけなら体内に取り込んで運べるみたいで、動きは遅いけど中々助かる。
ここは、ライムとビート、それにルーちゃんも合わせてバケツリレー(?)して貰おう。ルーちゃんは人見知りだけど、戦闘となればそれを押してちゃんと手伝ってくれるみたいだから、ここのチームは中々効率よく運べそうだ。
「それで、大砲にはえーっと……」
大砲の設置場所に着いたら、大きく開いた穴に砲弾を押し込めて、少しだけ動く砲座を回して狙いを付けたら、後は発射するだけ。
ドォン!! と重々しい音を立てて、砲弾が発射される。
けど、初めてで狙いが甘かったのもあってか、明後日の方向に飛んで行って、全然当たらなかった。
「うーん、難しいなあ」
そもそもこの大砲、狙いを付けてる時に一応着弾予想地点が視界に映るんだけど、その範囲がかなり広いんだよね。それこそ、射程ギリギリだと船一隻丸ごと入っちゃうくらい。
距離を詰めればもっと狭まっていくんだろうけど、これで遠距離戦闘はちょっと不毛かも。
しかも、砲弾運びの最中も中々気が抜けない。
「きゃあ! もう、危ないなぁ!」
敵船から飛んできた砲弾が私の近くに着弾し、炎を巻き上げる。
幸い、効果範囲外だったからダメージも何もないんだけど、爆風に煽られて危うく抱えた砲弾を落っことすところだったよ。
この砲弾、結構脆くて、その場に落とすと簡単に爆発しちゃうんだよね。当然、それに巻き込まれるとダメージも受けるし。
さっきも、リン姉のゴブリンの1匹が運んでる最中に爆風に飛ばされて転び、抱えていた砲弾が誘爆するっていう悲劇に見舞われてそのまま召喚石に戻されちゃってたし、単なる流れ作業かと思いきやかなり神経を使う。
それでいて、人数差もやっぱり問題だ。
こっちは、操舵を頼んでるフウちゃんを除けばプレイヤーだけで4人、リン姉の召喚したゴブリン部隊やルーちゃん、私のライムにビートを合わせても、砲弾を運べるのはたった13人。向こうが30体のモンスター総出で撃って来てるんだとしたら、とても人手が足りなかった。少しずつ両者の距離が詰まるごとに命中弾は増えていくけど、それ以上に被弾数が増えて不利になっていく。
うー、フララはATKが低くて砲弾が運べないし、ムーちゃんは力はあっても砲弾を上手く持てないみたいだし、どうせならもうちょっと召喚モンスターを育てておくんだったかなぁ……けど、ゴブリンよりもたくさん召喚出来るほどMP消費が低くて、砲弾を運べるようなモンスターなんていたかな? いや、いたとしても、今は核石がないから用意は出来ないんだけど。
「…………」
「うん?」
そんなことを考えていたら、私の方をじっと見ていたユリアちゃんと目が合った。
何か言いたそうに見えるんだけど、躊躇ってる感じがする。
……ふむ。
「ユリアちゃん、どうかした?」
「いや、その……」
「私、こういうの慣れてないからさ、思いついたことがあれば教えてくれると嬉しいな」
出来るだけ柔らかく笑顔を向けながら、優しい口調でそう尋ねる。
すると、ユリアちゃんは躊躇いがちに、それでいて凄く大胆なことを口にした。
「ミオ、このままだとジリ貧。砲撃は辞めて頭から船ごと突っ込んで、そのまま乗り込んで制圧しよう」
「えぇ!?」
まさか、人見知りなユリアちゃんからそんな提案が飛び出してくるとも思わず、素っ頓狂な声を上げる。
いや、よくよく考えてみたら、二つ名が付くくらいPKとやりあってる上、ちょくちょく物騒な言動してる気がするし、割と平常運転なのかも?
それに、大砲の打ち合いだと人員の数の差でこっちが不利だけど、近接戦闘ともなれば、リッジ君やユリアちゃんがモンスター相手に遅れを取るとも思えないし、リン姉がいれば仮令30体相手でも勝てるはず。
「……って、思ったん、だけど……」
そうして私が悩んでるのを見て不安になったのか、ユリアちゃんの言葉が尻すぼみになっていく。
そんな彼女の頭を、私はぽふぽふ、と優しく撫でた。
「ありがとうユリアちゃん、それでやってみるね!」
「う、うんっ」
嬉しそうに何度も頷くユリアちゃんを見てほっこりしながら、私はすぐに、のんびりと舵を取るフウちゃんのところへと向かう。
ていうか、これだけ砲弾が降って来てるのに、微動だにせず舵を取り続けるフウちゃんって、ほんと大物だよね……すごい度胸。
「フウちゃん!」
「ああ先輩、今度はなんですか~? 突っ込みます~?」
「あれ、何で知ってるの!?」
「それはもう、それが一番確実そうですから~」
あれれ、実はその判断が普通なの? 思いつかないの私だけ?
と、後輩にも負けたことで地味に落ち込みながら、それでもと気を取り直して改めて指示を出す。
「うん、それでお願い。どうせ壊れても直るんだし、思いっきり激突しちゃって!!」
「あいさ~、流石先輩、大胆ですね~」
フウちゃんが舵を大きく切り、こっちに向かって砲撃を続ける幽霊船に船首を向ける。
ていうか、2人が提案したことなのに、なんで私が大胆って言われるの? おかしくない?
そう疑問を覚えながらも、船はぐんぐん加速しながら幽霊船に向かって突き進む。
幽霊船がこっちの狙いに気付いてるのかどうなのか、逃げようとする素振りもなく砲撃を続けるのを見て取ってもその勢いは衰えることなく、むしろ限界を超えて加速する。
「あの、フウちゃん? ちょっと速くない?」
「“思いっきり”激突しちゃって、とのことでしたので~」
「いや、そうは言ったけどね? でも私としてはこう、フウちゃんならそれくらい言っておかないと途中でヘタるかな~と思ったから言ったわけでね? 本当に正真正銘の全速前進で突っ込むとは思ってなかったわけなの」
「まあ、船って一度加速すると止まれませんからね~、諦めてください~」
「……フウちゃん、実は怒ってる?」
「怒ってないですよ~? 別に私は、やっとモンスターの群れが落ち着いて、先輩のご飯をツマミにしながらの優雅なクルージングに戻れると思った矢先に邪魔されたからって、ちっとも怒ってませんよ~?」
「怒ってるよね!? 絶対怒ってるよね!?」
私のほうをチラリと向いたフウちゃんの顔に浮かんでいたのは、滅多に見ない満面の笑みだった。
笑顔自体はよく浮かべるフウちゃんだけど、ここまで満面の笑みを浮かべる時は決まって怒ってる時だと知ってる私としては、不安しかない。
「……ほどほどにね? フウちゃん」
「善処しますよ~、ふふふふ……あ、ムーちゃん、後は頼みます~」
傍にいたムーちゃんに舵を任せ……というか、固定させて、自分は弓を構えるフウちゃん。
うん、これ明らかに突っ込む気満々だよね、いつも動かないフウちゃんが自分から前に出ようとするなんてよっぽどだよもう。
「さ~て、あのイカどもも纏めて、今日のお昼ご飯にしてやりますよ~」
「食べるのあれ!?」
しかもフウちゃん、なんかすごいこと口走ってるし!
あの、いくら私だって、イカとは言えそれなりに人の形をしたスクイドヒューマの刺身は食べたくないんだけど? ねえ、ライムもそう思う……って、ライム、何でそんなに目(?)をキラキラさせてるの!? 食べたいのアレ!?
「ユリア、さっきの勝負の続きと行こうか、どっちがあの連中を多く仕留められるかで」
「ん、望むところ。勝ったら……」
「うん、勝った方がミオ姉の優先権を得る。異論はないよ」
向こうは向こうでいつの間にか私が景品にされてる!? リッジ君もユリアちゃんも、私に何をさせるつもりなの!?
「リン姉どうしよう、何か私が指示した以上に凄い流れになってるんだけど!!」
何だか不安になって、慌ててリン姉のところに駆け寄るけど、リン姉はただ見る人を安心させるような微笑みを浮かべ、とんでもないことを口走る。
「大丈夫、キラ達とやる時はいつも、もっと酷いことになるから。これくらいなら十分常識の範囲内よ」
「なにそれ怖い!」
お兄は本当、普段このゲームでどういう狩りをして過ごしてるの!? えっ、何、慌ててる私がおかしいの?
「どうしようフララ、この場にまともな人が誰もいないんだけど」
「ピィ?」
復讐(?)に逸るフウちゃん、食欲に滾るライム、勝負に燃えるリッジ君とユリアちゃん、そして、まるで散歩にでも出かけるような穏やかな表情を崩さないリン姉。
敵である幽霊船のスクイドヒューマたちも、来るなら来いやと気勢も高く槍を掲げてるけど、悲しいかな、私には無残にも蹂躙される未来しか見えない。
「ピィ~」
「うん、取り敢えず私達は……巻き込まれないように援護しよっか」
「ピィ?」
流石に見てるだけなのもアレだから手伝うけど、前に出過ぎると私達ごと斬られかねないし。
そうやって心の中で神妙に頷いたのと同時に、船同士が激突し、大きく軋みを上げてお互いの船が動きを止める。
「さて、それじゃあ頑張っていこっか」
奇声を上げながらこっちの船に乗り込んでくるスクイドヒューマたちを見ながら、私は愛用の鞭を抜き放つ。
来るなら来い! そんな心持ちで待ち構えていた私だったけど、実際にはほとんど乗り込むことは出来てなかった。
「《弓技・白雨轟雷》~」
私達の船に乗り込むため、手すりを超え跳び上がった端から、フウちゃんの短弓から放たれる雨のような矢の弾幕に射貫かれ、叩き落とされる。
なまじ、こっちが船首から突っ込んでるだけあって、乗り込むための経路が限られてるから、猶更フウちゃんの弓矢は猛威を振るっていた。
そして、まるでそうなることが分かっていたかのように、リン姉のゴブリン達はいち早く矢に紛れて敵船へと乗り込み、当然そんな様子をただ眺めているわけもないリッジ君やユリアちゃんが、素早くそれぞれの得物を手に後を追う。
結果的に、真っ当に待ち構えようとしてた私だけ、大きく出遅れる形になった。
「ああもう、みんな張り切りすぎ! 行くよ、ビート! ライム、フララも!」
「ビビ!」
「――!」
「ピィ!」
遅れを取り戻すため、私はビートの足を掴むと、ライムとフララを両肩に乗せ、そのまま飛び上がって貰った。
益々ATKが高くなり、250を超えたステータスを持ってすれば、私やライム達を抱えて飛ぶくらいはわけない。それでいて、AGIも高水準。フウちゃんの矢も、リッジ君やユリアちゃん、リン姉のゴブリン達も飛び越えて、スクイドヒューマたちの頭上を通過する。
「今だよライム! 《大岩》投下!」
そのタイミングに合わせ、私はライムに得意の落石攻撃を指示する。
ライムだけだと、ビートのスピードに合わせて当たるように投下するのが難しいみたいだけど、プレイヤーならそこまで難しくはない。落ちて行った岩によって数体のスクイドヒューマが押しつぶされて身動きが取れなくなり、すぐ近くにいた別のスクイドヒューマ達は、急な攻撃に驚いて、目の前にリッジ君達が近づいてるのも忘れ上空にいた私達の方を見た。
「《ソニックエッジ》!」
「《デスリープ》」
当然、その隙を逃す2人でもない。揃って移動距離の長いアーツを使うことでゴブリン達を追い抜きつつ大きく斬りこみ、無防備に突っ立っていたスクイドヒューマの首元を斬ってポリゴン片へと変えていく。
「みんな、行くわよ、《アタックフォーメーション》!」
「「「「「「ギッヒーー!!」」」」」」
そして、2人の攻撃によって益々注意が散漫となったスクイドヒューマ目掛け、ゴブリン達が数の有利を確保しつつ、1体ずつ確実にタコ殴りにしていく。
うーん、数の暴力って怖い。いや、総数では完全にこっちが負けてるんだけど、でもあの光景はそうとしか言えないから不思議。
「よいしょっと、さて、どう動くかな……?」
私達の船から見て、幽霊船の反対側にまで回り込んだところでビートに降ろして貰うと、ビートの維持コストのために《MPポーション》を飲みながら、早速スクイドヒューマ達の動きを観察してみる。
どうやらスクイドヒューマ達は、彼らのど真ん中にまで正々堂々と乗り込んで来たリッジ君やユリアちゃんを最大の脅威とみなしたのか、ほとんどが2人を狙って殺到していた。
「疾ッ!!」
リッジ君が近づいてくるスクイドヒューマを斬り裂いて倒しながら、更に奥へと突っ込んでいく。
当然、仕留めきれなかった分のスクイドヒューマが、リッジ君の後ろに回って攻撃しようとするけど……その個体は、例外なくユリアちゃんの鎌に首を狩られ、爆散した。
「後ろがお留守」
「僕を囮に使って不意打ちしてる癖に良く言うよ。そっちこそ、下手なことして狙われて、足引っ張らないでよね」
「こっちのセリフ」
口では凄い喧嘩し合ってるのに、合流するなり背中合わせて息ピッタリに戦ってるリッジ君とユリアちゃん。
あれがツンデレってやつかな、何だかんだ2人とも仲良くなれそうでよかったよ。
「リッジ君、ユリアちゃん、包囲を崩すから、少しだけそのままでいてね。ルーデン、行くわよ」
「――!」
「《MPリンゲージ》」
使役モンスターとMPを共有状態にするアーツを使い、リン姉とルーちゃんが繋がり合う。
他のモンスターはともかく、スライムについてはライムの育成に使える情報がないかと、よくサイトやブログなんかを見て回ってるから、その知識はちょっとしたものだと自負してる。そして、そんな私の記憶が確かなら、ゴールデンスライムの種族特徴は、私のライムみたいに優れた防御力があるわけでも、ビートみたいに必殺の攻撃力があるわけでもない。《収納》や《悪食》、《酸液》に、《触手》と言ったスライム系モンスターの基本スキル以外に、特別なスキルを覚えるわけでもない。
ただ、ひたすらにMPが多い。
そんな、MPタンクとして使えと言わんばかりの特徴が、ゴールデンスライムの最大の力だ。
「行くわよ、《召喚》! ゲコ太、フロ吉、グラ、ゴル!!」
ルーちゃんのMPを得たことで、ただでさえ多い《召喚術師》のMPが一時的に倍増し、リン姉はゴブリン達に加え、更に4体のモンスター、ポイズンフロッグ2体と、クレイゴーレム2体を呼び出し、戦列に加えた。
しかも、よく見ればクレイゴーレムの方はヒュージスライム戦の時と違って、体がクリスタルみたいになってるし。あれ、絶対クレイゴーレムじゃなくなってるよね。
そして、そんな私の予想を裏付けるかのように、ゴブリン達やリッジ君達の相手で夢中になってるスクイドヒューマ達をその拳で勢いよく殴りつけ、力づくで包囲を崩してる。
流石に、リッジ君達みたいに一撃必殺とはいかないみたいだけど、倒れて動きを止めた個体を、ポイズンフロッグの2体が後ろから毒液を吐いて追撃してるお陰で、上手く無力化出来てるみたい。
そんな、3人の凄まじい奮戦により、結構大胆に回り込んだにも拘らず、私達の方へ注意を向けるモンスターはほとんどいない。なら、今がチャンスだ。
「ライム、ビート、新必殺技行くよ!」
「――!」
「ビビ!」
私の言葉を聞いて、ライムはすぐさまビートの背に乗ると、《触手》スキルでビートの体、主に前の方を保護するように包み込んでいく。
そして、それが完了するや否や、ビートは大きく羽を拡げ、その黒い羽音を響かせ始めた。
「《硬化》、《闇属性攻撃》、《突進》!!」
ビートの体が、物理攻撃に闇属性を付与するスキルの発動によって黒いライトエフェクトを発しながら、スクイドヒューマの集団へ向けて突撃する。それに対し、スクイドヒューマ達の内、比較的近くにいたこともあってずっとこっちを注視していた個体が冷静に槍を構え、ビートを迎撃する構えを見せた。
AGIの差は大きいから、その巨体を活かした当たり判定の大きさもあって躱される心配はしてなかったけど、当然その分反撃も受けやすい。実際、少し前まではそうされると、HPやDEFの低い虫型モンスターのビートじゃひとたまりもなかったわけだけど、今はライムもいるし、問題ない。
ライムの触手は、《硬化》スキルによって鉄壁の鎧となって、ビートの体を覆ってる。それこそ、そこらのモンスターの攻撃じゃビクともしない、優れた対物理防御を持って。
最強の槍が、最強の盾を構えたまま突進する。それが生み出す結果は、今目の前で起こってることが何よりも雄弁に物語っていた。
「ギュボォ!?」
「ボオォ!?」
スクイドヒューマ達が突き出した槍はライムの触手にあっさり弾かれて、その直後に襲い掛かってきたビートのツノに撥ねられ、その更に奥で無防備に背を晒していた個体までもを巻き込み、次々と弾き飛ばされていく。
まるで戦車か何かみたいに、スクイドヒューマを蹴散らしながら突き進むビートの姿は、このコンビネーションを考案した私からしてもちょっと怖いくらいだった。
いやあ、うちの子も強くなったもんだなぁ……うん、何だか感慨深いよ。
「《弓技・五月雨撃ち》~」
と、そんなことを考えていたら、間延びした声と共に飛んできた無数の矢が、気付かないうちに私のすぐ傍まで来ていたスクイドヒューマに立て続けに突き刺さり、打ち倒された。気付くのが遅れてたら、ちょっとやばかったかも。
「先輩~、油断大敵ですよ~?」
「あはは、ごめんフウちゃん」
そんなやり取りを交わす間にも、リン姉と私のモンスターの攻撃で包囲が崩れたことで、リッジ君とユリアちゃんが縦横無尽に幽霊船の上を駆け回り、たちどころにスクイドヒューマが倒されていく。
私達のほうに流れてくる個体もいないではなかったけど、私が鞭で拘束してる間に、フウちゃんの矢を無数に受けて蹴散らされるから、大して脅威にはならず、笑顔を零す余裕すらあった。
スクイドヒューマが討伐され尽くしたのは、それから程なくのことだった。
海戦はロマン(きりっ
まあ、細かく描写出来るほど詳しくはないんですがね!(ぉぃ