第71話 新武器の受け取りと化け熊さん再び
第68話が抜けていたことに今日遅ればせながら気が付き、慌てて割り込み投稿を行っております。
まだ目を通していない方は先にそちらをご覧ください……m(_ _)m
「いやほんとごめんミオ姉」
「だから、そのことはもういいってば」
ホームの中とは言え、水着姿ではしゃぎ過ぎた果てに、リッジ君がやって来るっていうハプニングが起きた後。乾いた服に着替えた私達を前にしてから、リッジ君はずっとこの調子で謝り倒していた。
私としては、小さい頃から何度も一緒にお風呂に入ったりしてる仲だし、今更水着姿を見られたくらいどうってことないんだけど、それを言うとなぜか凄い複雑そうな顔をされるから、あまり強く言えない。
「ね? フウちゃん」
だから、私と違って小学校の時クラスメイトだった以上の付き合いがないフウちゃんに許して貰えれば、リッジ君の気も晴れるだろうと思って同意を求めると、やっぱり大して気にしてない様子で、「はい、私も別に気にしなくていいですよ~」と軽い口調で頷いた。
「責任は先輩に取って貰いますから~」
「えっ、私!?」
代わりに、なぜか私に矛先が向いてきたけど。
「そうですよ~、先輩が調子に乗ったせいで、私はあんな背徳的な触手プレイシーンを、かつてのクラスメイトに見られちゃったんですから~、責任取ってください~」
「いやうん、それはごめん」
冷静になって考えれば、流石にあれはないと自分でも思う。周りに誰もいなかったからって、ホームはフレンドなら誰でも入って来れる設定にしてあるんだし、お兄とか、少し前に知り合ったファーマーの人とかがもし来てたらリッジ君以上の大惨事になるところだった。
「いやその……ごめん」
そんなフウちゃんの言葉を聞いて、申し訳なさそうな……それでいて、さっきのシーンを思い出したのか赤くなってもじもじしてるリッジ君が、また謝りながら頭まで下げ始めた。
「リッジ君、そこまで気にしなくていいって! フウちゃんも本気で気にして言ってるわけじゃないからさ」
「う、うん、それは分かってる。分かってるんだけど、今はこうさせて、お願い」
私が顔を上げるよう促すけど、リッジ君はそう言って下を向いたまま、焦ったように捲し立てる。
そんなリッジ君を見てニヤニヤしてるフウちゃんをジト目で見やりつつ、仕方ないからリッジ君の気が済むまで待つことに。
「うーん、それじゃあリッジ君、お詫びの代わりに、ちょっと付き合って欲しいところがあるんだ。一緒に来てくれない?」
そして、このまま「気にしてない」の一点張りじゃ埒が明かないしってことで、ようやく顔を上げたリッジ君にそう軽いお願いをする。
「僕で良ければ、いつでもいいけど……」
元々、今日は一緒にMWOをやろうって話をしてたから、リッジ君としては最初からそのつもりだったんだろうけど、こっちからお願いする形にして強引に償いってことにする。
こうしておけば、これ以上リッジ君も謝り続けられないはず。
「それじゃあ決まり! 早速、《スプラッシュアイランド》に行く前に寄るところがあるから、そっち行こっか」
「寄るところ?」
「うん」
このことは、フウちゃんには事前に話してあったから、リッジ君だけが首を傾げる。
そんなリッジ君を見ながら、驚いてくれるかなぁ、なんて内心でほくそ笑みつつ、私達は《グライセ》へと転移した。
《グライセ》へと転移した私達がやって来たのは、言わずと知れたボロ小屋……から昇格して、中々立派な佇まいへと変貌したウルのお店だ。
そこへ立ち入ってまず目に入るのは、綺麗に整えられた内装や、立て掛けられた武器の数々……ではなく。
「よう、テイマーの嬢ちゃんじゃないか」
見上げるような巨体の熊にしか見えない、ウルの知り合いのパパベアーさんだった。
「!? み、ミオ姉離れて!!」
突然そんなものを目にしたからか、リッジ君が腰の剣に手をかけながら、私を庇うように前に出る。
その過激な反応を見て、そういえばパパベアーさんのこと説明してなかったなぁ、なんて思いつつ、その当人の様子を窺うと……
「…………」
あまりのショックに固まって、悲しそうな表情を浮かべていた。
いや、パパベアーさん着ぐるみ姿だから、正確には表情は分からないんだけど。
「リッジ君、その人プレイヤーだから、大丈夫だよ」
「えっ、プレイヤー!?」
見ていられなくて、そっとリッジ君に耳打ちすると、本気で驚いた顔をしてパパベアーさんの頭上に浮かぶアイコンを見て……ついでに目を擦って二度見して、ようやく納得したのか剣の柄から手を離した。
うん、リッジ君、気持ちは分かる、凄く分かるけど、そんな驚いたような顔しないであげて! パパベアーさん泣いちゃうから!
「え、えっと……すみませんでした」
「いや……俺もそういう反応には慣れてる。気にするな」
気まずそうに頭を下げるリッジ君に対して、パパベアーさんはそう言って何でもないと軽く手を振った。
……何でもないと言うには、背中から凄く哀愁が漂ってる気がするけど。
「あれ、そういえばフウちゃんはどうしたんだろ」
一緒に来てたのに、パパベアーさんを見て何の反応もないなんて。
もしかして、フウちゃんには平気だったのかも? そう思って振り向いてみると……
「………………」
なぜか無言でその場に倒れていた。
え、えっと……
「フウちゃーん? 大丈夫ー?」
「話しかけないでください~、今の私はただの死体です~……」
しゃがみ込んで話しかけてみると、ちゃんと返事が返ってきたから気絶してるわけじゃなかったみたい。
けど、死んだフリって……熊に死んだフリが有効なのって迷信なんじゃなかったっけ?
「あの人は別に危なくないから、怖いのは見た目だけだから、ね? 大丈夫大丈夫」
「う~、ほんとですか~?」
「ほんとほんと」
死んだフリを続けるフウちゃんの頭を優しく撫でて、そう言い聞かせる。
なんだか後ろで、パパベアーさんがついに膝を折って両手を床について落ち込んでる気がするけど、これはうん、仕方ないの、こうしないとフウちゃんがパパベアーさんの前に出れないから!
「じゃあ、先輩のこと信じますね~、えっと、そこの熊さん、私もなんだかすみませんでした~」
「いや……気にするな……うん……」
リッジ君に応えた時よりも、ワントーン落ち込んだテンションで返すパパベアーさんは、なんだか一回り小さくなったように見えた。
一回り小さい程度じゃまだまだ全然厳つくて、親しみやすさとは無縁なのが悲しいけど。
「あはは、やっぱり防具を外したくらいじゃダメだったね、パパベアーさん」
そんなやり取りをしていると、パパベアーさんの後ろから、ひょっこりと顔を出したのは、この店の店主にして私の装備の製作者、鍛冶師のウルだ。
相変わらず大きな胸に一瞬だけ目をやって、萎め~! なんて念を軽く送りつつ、何事も無かったかのように笑顔を向ける。
「ウル! お邪魔してるよー」
「うん、いらっしゃいミオ。それで、そっちの2人は……」
「あ、僕はリッジって言います」
「フウって言います~、よろしくです~」
「リッジにフウね。私はウル、よろしく! で、こっちで落ち込んでるのがパパベアーさん。うちの店の用心棒的な感じかな?」
「……パパベアーだ、よろしく頼む」
お互いに自己紹介を交わしつつ、私はウルに視線で頼んでた物の首尾について尋ねる。
すると、「バッチリ!」って感じに指でOKサインを送ってくれたから、お礼の意味も込めてこくりと軽く頷き返す。
「それでミオ姉、ここって鍛冶屋だよね? もしかして……」
そんなやり取りを交わす私達を見て首を傾げながら、リッジ君の方から本題を切り出してくれた。
これ幸いとそれに乗りつつ、私はワクワクとした気持ちを隠そうともせずに笑顔を向ける。
「うふふ、正解だよ、前にリッジ君が言ってた装備、頼んでおいたのが出来たって聞いたから、取りに来たの」
「ほんと!?」
リッジ君が嬉しそうに目を輝かせるのは、今回ウルに頼んだ装備っていうのが、リッジ君の武器だからだ。
元々、リッジ君には前にナンパ男から助けて貰ったご褒美を上げるって言ってたんだけど、良いのが思いつかなくて悩んでたら、ちょうどリッジ君がそろそろ武器をちゃんとした刀にしたいって言ってたのを聞いて、だったら私が良い鍛冶師を紹介してあげようって話になったから、部活で忙しいリッジ君に代わりウルと交渉して刀を発注しておいたんだ。
最初は奢ってあげようかって話したんだけど、流石にそれは申し訳ないからって言われたから、代金はリッジ君持ちなんだけどね。久しぶりにプレゼントしようって意気込んでただけにちょっと残念。
「それじゃあミオ、トレードで送るよ。毎度あり」
「うん、ありがとウル!」
トレード申請で送られてきたアイテムを確認してお礼を言うと、私は早速リッジ君の方に向き直った。
「はいどうぞ!」
ウルから受け取ったアイテムをインベントリから取り出し、そのままリッジ君に差し出す。
名称:白虎刀―《雪月花》
耐久値:137
性能:ATK+67 AGI+25
効果:氷属性攻撃 アーツ再使用時間短縮(小)
「うわぁ……!」
「ふふふ、驚いた?」
「そりゃ、驚くよ……こんなに凄い武器、ほんとにあの値段で足りたの?」
「え? ああうん、もちろん足りたよ?」
「本当に?」
じとーっと、リッジ君が疑わしげな視線を向けてくる。
い、いやまあ、確かにリッジ君から渡された予算からすると、相場より遥かに性能良い武器ではあるんだけどね? 別に、私が少しでも良い武器を贈ってあげたいからってウルに頼みこんで、少しばかり素材集めから合金作りまでライムと一緒に手伝ったりしたけど、その辺りは弟同然のリッジ君への贈り物なわけだし、うん、問題ない!
そんな私の様子を見て、色々と察したように溜息を吐いたリッジ君は、けれどすぐに私に笑顔を向けてくれた。
「うん、ありがとうミオ姉。大事に使うね」
そう言って、大事な宝物を受け取るように恭しく掴み取ったリッジ君は、スラリとその刀を鞘から抜き放つと、淡い水色の刀身が露わになる。
光を受ける度、流麗な白の刃紋が水晶のようにキラリと輝く姿は幻想的な美しさを放ち、何ならそのままケースに入れて飾っておきたくなるくらい綺麗だった。
「……なんだか、使うのが勿体ないくらいだよ」
「ダメだよ、刀は武器なんだから、やっぱり戦闘の中でこそ一番輝くってもんだよ。何、心配いらないよ、壊れたって私がすぐ直すから」
リッジ君も同じことを思ったのか、そんなことを呟くと、ウルが窘めるような口調でそう注意する。
やっぱり鍛冶師としては、芸術品としてじゃなくて、武器として使ってくれた方が嬉しいらしい。
「あはは、それもそうですね。最高の刀をありがとうございます、ウルさん」
「私は依頼を受けただけだよ。それに、その刀に使われてる合金は、元々ミオが作ったのを参考にしてるからね。合作みたいなものだよ」
ね? と、ウルが私に向かってウインクを飛ばしてくる。
いやまあ、確かに《ライム合金》を作ったのは私だけど、私が持ち込んだ余り物の《蒼水結晶》を使って更に上位の合金にしたのはウルだし、もう自分の合金だって言い張ってくれて良いと思う。むしろそっちの方が変な二つ名もなくなりそうだしありがたい。
ライムも、今の合金の方が美味しいって言ってたしね……うん、合金としての性能よりも、ライムの胃袋を私よりもうまく掴んでるっていうのが一番悔しい。今度、絶対ウルの新しい合金よりも良いの作ってやる!
「そうなんだ……ミオ姉、ほんとにありがと! 今度何かお礼するよ!」
「あはは、お礼のお礼って言われるとなんだか変な感じだけど……楽しみにしてるね」
私の手を取り、キラキラした目でそう言うリッジ君にまたも苦笑しつつそう返すと、「うん!」と大きく頷いて、やる気を漲らせていた。
この分なら、今日の戦闘でも頼りになりそう。戦闘があるかは分かんないけど。
「それで先輩~、今日は何するんですか~? 造船クエストのアイテム集めはもう終わったんですよね~? もしかして、早速レイドボスとやり合うんですか~?」
そこへ、それまで成り行きを見守ってくれていたフウちゃんが入り込んでくる。
フウちゃんのその行動ではっと我に返ったリッジ君が、なぜか顔を赤く染めながら慌てて手を離して距離を取ったけど、私は首を傾げつつもフウちゃんの質問に答えるべく口を開く。
「集め終わったけど、レイドボス討伐のクエストが発生しなかったから、やっぱりそれの情報を教えてくれる英雄さんって人を見つけないと、フラグが建たないんじゃないかって。だから、レイド戦はお兄がそっちを見つけるまでお預け。その代わり……」
「その代わり~?」
「造った船、実戦前にどういう仕様か調べておいて欲しいって頼まれたんだ。フウちゃん、クルージングしたい?」
「したいです」
今まで見たこともない速度で即答するフウちゃんに、私もリッジ君も、思わず苦笑を浮かべた。