第7話 初フレンドとポーション調合
ブクマが100超えたと思ったら200超えてました……と報告しようと思ったら投稿間近の時間になって300に(
皆さんありがとうございます! これからもよろしくお願いします!
「ライム、これ食べる?」
拾い集めた《薬草》を1つ、ライムにあげると、ぷるんっと軽く揺れて取り込まれていく。
「うーん、あんまり美味しくない?」
肯定するようにまたぷるんっと揺れるライムを撫でながら、私はまた戻ってきたグライセの街中を歩いていく。
ゴブリンのドロップアイテムと違って、ライムが気に入ってるポーションの材料なら好きかと思ったんだけど、やっぱり《薬草》をそのままっていうのはお気に召さないみたい。
別に嫌いって感じじゃなさそうだけど、こう……ポーションとかを食べた時に比べて、あまり喜んでないような気がする。
「ふふ、いいよ、ライム。すぐ私が作ってあげるから!」
そう言ってライムを胸に抱き直し、私は街の南区へ向かう。
グライセの街は、東西南北の4つの区画に別れていて、南側は色んなお店が軒を連ねて、ポーションなどの消耗品から、武器防具、果ては食べ物まで、色んなものが売っている商店街みたいな場所だ。
「えーっと、あれはどこだったかな~……っと、あったあった!」
NPCのお店はどれも露店形式で、品物を注視すると簡単な説明文も見れるから、レベリング前に一度訪れていたこともあって目当ての物は結構簡単に見つけられた。
「おじさん、これください!」
「あいよ~、《携帯用調合セット》だね。1500Gだよ」
「高い!?」
今の所持金は1082G、全然足りない。
「え、えーっと、この辺のアイテムって買い取って貰ったりできますか?」
とりあえず、今手元にあったゴブリンのドロップアイテムをNPCの店主さんに全て見せる。
持っていたのは、《ゴブリンの角》が3つと、《粗末な剣》が2つ、そして《ゴブリンの核石》が1つだ。
「んー? そうだな……《ゴブリンの角》は1つ5G、《粗末な剣》は10G、《ゴブリンの核石》は200Gってとこか」
「ぐふっ」
全部合わせて235G……あと183G足りない。
「じゃ、じゃあ、これは!?」
そう言って私が提示したのは、《蔓の鞭》。
これが無くなると私の攻撃手段が無くなっちゃうけど、それでもライムのためなら……!
「あん? こんなの買い取れねえよ、どうしてもってんなら1Gな」
「えぇー!?」
やっぱりこれ、武器じゃなくてただの蔓だった!
けどどうしよう、これがダメなら、後はさっき採取して集めたアイテムくらいしかないし……うーん、とりあえずお試しってことで、そんなに多く拾い集めたわけじゃないから、ここで売るとまた集め直しに行かないといけないしなぁ……うぅ、でもしょうがないか。
「ねえ、どうかしたの?」
「へ?」
そんな風に葛藤していると、突然後ろから声をかけられた。
振り返ってみると、そこにいたのは一人のプレイヤー。
私と違って、貧相な初心者用の革装備じゃなく、見るからに上質そうな生地を使って作られた、動きやすそうな服に身を包んだその女の子は、プレイヤーなのに武器の一つも持っていなくて、頭上のカーソルが無ければNPCと勘違いしていたかもしれない。
でも、それ以上に私が目を奪われたのは、その大きく発達した胸。
キャラクタークリエイトでちょっとだけ大きく変更した私より更に大きなそれは、果たして現実なのか虚構なのか。それが何よりも問題だ。
「えっと、私の顔に何かついてる?」
「ナンデモナイデス」
別に、リアルの代物だったらもいで……げふんげふん、どうやったらそんなに育つのか聞こうだなんて思ってないよ?
「私は買い物しようかと思ってたところなんですけど、何かありました?」
ひとまず内心で渦巻く嫉妬心は脇に置いて、話しかけられた用件を尋ねてみる。
このプレイヤーは私より背が大きいし、年上の可能性があるから一応敬語を使ってみたけど、すぐに「別に畏まらなくていいよ、ゲームなんだしさ」と言ってくれた。
ふぅ、実を言うと私、敬語とか苦手だし、助かったぁ。
「いや、急に叫んだり落ち込んだりしてたから気になってさ。言っちゃなんだけど、目立ってたよ?」
「うぐっ、ご、ごめん、騒がしくて」
自分ではほとんど無意識だったけど、騒いでた自覚がないわけでもないからすぐに頭を下げる。
でも、その人は特に怒っているわけでもないみたいで、「大丈夫大丈夫、あれくらいならまだ普通にいるから」と笑って許してくれた。
ふぅ、よかった。独り言が多いのは常々お兄からも言われてることだし、直さないとなぁとは思うんだけど……うん、なかなかね。あはは。
「それで、何買おうとしてたの?」
「えーっと、実は……」
とりあえず悪い人ではなさそうだったから、私がテイマーであることと、ミニスライムをテイムしたこと。それと、《悪食》スキルのせいもあって食費が嵩んで、ひとまずアイテムを自作して食費を浮かすために《調合》スキルを習得したことを一通り話した。
時折ふんふんと相槌を打ちながら話を聞いていた巨乳プレイヤーの人は、ミニスライムの話になった辺りで、じっと私のライムのほうを見る。
「へ~、確かに、テイマーでミニスライムをテイムしてる人なんて、私も初めて見たよ」
「やっぱりそうなの? こんなに可愛いのになぁ」
ミニスライムは確かに最弱かもしれないし、食費も嵩むし、挙句頑張ってもそれほど強くならないかもしれない。
でも、そんな苦労も、この可愛さを思えば十分補って余りある。可愛いは正義だよ、やっぱり。
「あはは、なるほどね。うん、いいと思うよ、やっぱりゲームなら、自分のしたいようにやるのが一番だしね」
「うんうん、だよねだよね! だから私、絶対ライムをこのゲーム最強のスライムに育ててやるって決めたんだ!」
「おお、良い目標じゃない、頑張ってね」
「うん!」
お兄でもあんな反応だったし、もしかしたらミニスライムってだけで色々言われるんじゃないかと覚悟してたけど、むしろ肯定的な意見を貰えて私のテンションは否応なく上がる。
味方がいなくってもやり遂げるつもりではあったけど、やっぱり応援してくれる人がいると嬉しい。
「それで、調合セット買いに来たんだよね? 買わないの?」
「いやその、買おうと思ったんだけど、実はお金が足りなくって」
あははっと誤魔化すように笑うと、巨乳の人はふむ、と少し考えるような仕草をして、思いもよらなかった提案をしてくれた。
「そっか、それなら、良ければ私が持ってるのを売ってあげようか? βテストからの一部アイテムの引き継ぎで、今はもう使ってないやつがあるんだけど」
「ほんと!? あ、でも、私色々売っても1000Gしか持ってないけど、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、《携帯用調合セット》はそのままNPCショップに売っても700Gにしかならないし。そうね、800Gくらいでどう?」
「うん、いいよ! ありがとう!」
「それじゃあトレードしよっか。っと、まだ名前聞いてなかったね、なんて言うの?」
「あ、そうだっけ。私はミオ。こっちは相棒のライム。あなたは?」
「私はウルだよ。それじゃあ名前も分かったところで、トレードついでにフレンド登録もしない?」
「うん、いいよ」
巨乳プレイヤーの人改め、ウルとフレンド登録を交わした後、改めて送られてきたトレード申請を受諾して、800Gと《携帯用調合セット》を交換する。
これで私の所持金は200Gぽっちになっちゃったけど、有り金全部使い果たしても足りないところだったことを思えば、それでも十分だ。
「これでよしっと。それでミオ、これからどうするの?
「うーん、取り敢えず、集めたアイテムで早速《調合》を試してみようかなって。ウルは?」
「私はしばらく、《北の山脈》のほうで鉱石集めようと思ってる。これでも《鍛冶師》だからね」
「へ~」
鍛冶師っていうと、筋骨隆々の大男が、大きなハンマーを振り回して金属と格闘するイメージがあったけど、そっか、ゲームなら、ステータスさえ合えば華奢な女の子でも鍛冶仕事出来るんだね。
まあ、そう言う私も、モンスターに立ち向かうにはちょっとばかり見た目がか弱すぎるから、人の事言えないんだけど。
「それじゃあ、今日のところはこれでお別れかな? ありがとねウル、私に何が出来るか分からないけど、いつかちゃんとお礼するよ!」
「どういたしまして。まあ、お礼がしたいって言うなら、もしミオが武器とか防具作る時は、私に声かけてくれると嬉しいな。ミオくらい可愛い子が私の装備使ってくれれば、良い宣伝になるし」
「うん、それくらいで良ければ、喜んで! 今はお金ないから無理だけどね」
「知ってるよ」
あはははっと、お互いにひとしきり笑い合う。
「それじゃ、またね、ミオ。そのうち一緒にパーティ組んで素材集めにでも行こ?」
「うん、その時はよろしく! またね、ウル!」
ばいば~い、と手を振る私に合わせて、ライムも私の腕の中で小さく体を伸ばして一緒に振る。
それを見て、ウルもまた笑いながら手を振って、その場を後にしていった。
「さて、それじゃあ私達も行こっか、ライム。これでやっとライムもお腹いっぱい食べれるようになるよ!」
ぷるるんっ! と、興奮したように一際強く体を震わす現金なライムに苦笑しながら、私は《調合》スキルを試せそうな場所を探して歩き始めた。
あちこち歩き回ったものの、街の中はどこも大抵プレイヤーやNPCが歩き回っていて、あまり落ち着いて作業できそうになかった。
そうして仕方なくやってきたのは、またまた《東の平原》。レベリングにも素材集めにも向かない、ある種チュートリアルの続きみたいなこの場所は、人気もないから街中よりずっと集中して作業できる。
それに、マンムーがのっしのっし歩いて、時々ミニスライムが草むらから飛び跳ねるここの光景は、見てると心が和んで安らぐし。
「さーて、それじゃあやりますか!」
エリアの隅っこで適当に座って、インベントリから《携帯用調合セット》を取り出し並べる。
セット内容は、片手持ちの乳棒乳鉢と、漉し器? や、かき混ぜる棒みたいな、正式名称の分からない物。それから、無限に水が湧いて出る摩訶不思議なビーカーに、燃料もないのに火が点く謎のアルコールランプ。他にも細々したのが入ってるし、取り出したはずのものがなぜかそっくりそのまま中に新しく出現してたりしたけど、ひとまずはそんな感じだった。
一通り並べ終えると、唐突にメニュー画面を開いた時のようにチュートリアルが始まる。そこで、使い方を軽くレクチャーされた私は、満を持して《薬草》を1つ取り出す。
「とりあえずは、普通に作ってみようかな」
装備した《調合》スキルのアシストに従い、すり鉢と乳棒を使って薬草をゴリゴリと磨り潰していく。
「ふんふふんふふ~ん♪」
鼻歌を歌いながらゴリゴリやってると、ライムは気になるのか私の手元に寄ってきて、中を見ようと(?)這い上ってくる。
「ライム、良い子だからもうちょっと待っててね~」
そんなライムを宥めて脇に押しやりつつ、磨り終わった薬草をビーカーに入れて軽く振る。そうすると、まるでビーカーの底から湧き出てくるように、少しずつ水が溜まり始めた。
これだけだと、調合っていうより手品みたいだなぁ、なんてどうでもいいことを考えながら、磨り潰した薬草が水に溶け切るまで、棒を使って混ぜていく。
名称:初心者用HPポーション
効果:HPが50回復する。
「よし、出来た!」
完成したら、ビーカーが消えてキッチリ瓶に入った状態でポーションが現れた。
この瓶どこから出て来たの? とか、消えたビーカーはどこに? とか、そういうことは考えたら負けなんだと思う。たぶん。
「さて、お味のほどは……うん、ちゃんと緑茶だ」
何がちゃんとなのか、自分でもよく分からないけど、ともかく一口飲んでみた感じ、さっき飲んだポーションと同じ味だから問題ないと思う。効果も同じだしね。
「はいライム、お待たせ」
そう言ってポーションを渡すと、待ってましたとばかりにライムが飛び掛かってきて、瓶ごとポーションを取り込んでいく。
ぷるぷると嬉しそうに食べるその様子にほっこりしつつ、私はまた新しい《薬草》を取り出した。
「どうせだから、他にも色々試してみようかな」
まずはシンプルに、1度に使う薬草を2つに増やす。
ゴリゴリゴリゴリ。力を入れて磨り潰した後、さっきと同じだけの水を出して、その中で2つ分の薬草を溶かしていく。
さすがに量が多いからか、中々全部は溶け切らず、少し茶葉(?)が残っちゃったけど、そのままきちんとアイテム化された。
名称:特濃初心者用HPポーション
効果:HPが60回復する。
「おー、効果が上がった」
けど、薬草1つで作ったポーションが1つでHP50回復、2つで100回復だから、2つ合わせて60っていうのはちょっと少ない。
まあ、ストレートに100回復するアイテムになったらそれはそれでどうかと思うから、妥当なのかな?
「味のほうは……ぶっ! に、苦っ! 何これ、抹茶!?」
思わずむせそうになるほどの強烈な苦味に、思わず顔を顰める。
抹茶は以前、お母さんに付き合って茶道教室の体験会に行った時に飲んだきりだったけど、あの時はあまりの苦さに、つい作法とか忘れてお茶菓子にがっついちゃって、凄く怒られた。正直あまり思い出したくない思い出だったけど、この味で鮮明に思い出しちゃった。
「うぅ……あ、ライム、これも飲むの? 大丈夫?」
渡したばかりの緑茶風ポーションを飲み干し(食べ尽くし?)たライムが、今度は抹茶風ポーションに興味を持ったみたいで、その触手を伸ばしておねだりしてくる。
正直、この味はデスペナルティを甘受することになったとしても飲みたくないし、ライムが飲みたいのなら是非とも飲んじゃってもらいたい。というわけで、渡してみる。
「……えっ、ライム、こっちのほうが好きなの?」
肯定するようにぷるんっと体を揺らしながら、ポーションどころか《魔物の餌》以上に美味しそうにライムは抹茶風ポーションを取り込んでいく。
うーん、意外……ライムとは味の好みは合わないみたいだね、残念。
「まあいっか。次はー……」
今度は薬草1つ。ただ、磨り潰したうちの半分だけ使って、残り半分はもう一つ用意したビーカーで、同じように作る。
2倍に濃くしたら効果が高まったわけだけど、逆に薄めたらどうなるのか。ついでに、どうせ2つ作るならと、片方はアルコールランプを使って沸騰させながら溶かしこんでみた。
どんなアイテムになるのか、どんな味になるのか、ワクワクしながら2つのビーカーを混ぜていくと、きちんと両方ともアイテム化された。
名称:初心者用劣化HPポーション
効果:HPが20回復する。
名称:初心者用劣化HPポーション(ホット)
効果:HPが22回復し、《耐寒Lv1》を付加する(60秒)。
「効果短っ!!」
特濃の反対だから特薄とかじゃないんだーとか、意外と回復量多いんだなーとか、回復量が2だけ上がるって地味すぎない? とか、言いたいことは色々あるけど、何よりもこの耐寒付加って効果、60秒って効果時間短すぎない? 意味あるのこれ?
「ま、まあいいや。味のほうは……?」
ひとまずは、普通の劣化ポーションのほうを一口飲んでみる。
今度はさっきの抹茶風ポーションと違って苦味はほとんどなく、飲みやすい味だった。
というか、これって……
「……麦茶だ」
なんで!? 抹茶は緑茶の仲間だからまだ分かるけど、麦茶って原材料から違うんだけど!? なんで同じ茶葉(?)のバリエーションに存在するの!?
「い、いや、突っ込んだら負け、突っ込んだら負け……」
ブツブツと自分に言い聞かせながら、速攻で抹茶風ポーションも飲み干したライムに普通のをあげてみる。
けど、今度はあまりお気に召さなかったのか、ぷるっと微妙な反応。うーん、私はむしろこれが一番良いんだけど……やっぱりライムの舌は私とは違うみたい。
「まあ、仕方ないか。好みはそれぞれだよねー」
ライムのために、また新しく薬草2つで抹茶風ポーションを作ってあげて、ライムがそれに夢中になっている横で、私は残った麦茶風ホットポーションを一口飲む。
「はあぁ、あったまるな~」
のどかな草原の風景を眺めながら、温かいお茶で一服する、風情あるひと時。
実際にはお茶じゃなくてポーションだし、その味も麦茶と、風情というには微妙な要素もあるけど、このまったりした時間は、都会の喧騒の中では味わえない、田舎のお婆ちゃん家のような居心地の良さがあった。
草原の彼方に日が傾き、空も草むらも、一様に茜色に輝く。
私はログアウトするまでのしばし時間、抹茶風ポーションを飲み終えたライムを膝にのせてゆっくり撫でながら、その光景を眺めていた。
作者は緑茶も満足に飲めません。
あれ苦いのぉ……(´;ω;`)