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テイマーさんのVRMMO育成日誌  作者: ジャジャ丸
第三章 初イベントと常夏の島
62/191

第62話 死神ちゃんと護衛契約?

「こいつは、私の獲物」


 鎌を担ぎ、堂々と宣言するユリアちゃん。

 表情はフードに隠れてよく見えないけど、狂獣さんと何か因縁でもあるのかな?


「いや、別に構わないっちゃ構わないけど……なぜに?」


 お兄も気になったのか、困惑しつつも率直に尋ねる。

 PKは倒したところで職業レベルが上がるわけじゃないし、スキルレベルに関しては別に倒す必要もなく使ってれば勝手に経験値は入ってくる。所持金や所持アイテムにしても、PKの人は大抵の場合最低限しか持ってないから、大した戦果にならない。

 だから、お兄もさして狂獣さんを自分の手で倒すことに拘りはないみたいだけど、だからって戦闘中の人の獲物を横取りするのはマナー違反だ。それも、これからトドメっていうタイミングで割り込むなんて特に。

 それを曲げてまで寄越せって言うからには、理由が気になるのも当然だと思う。


「それは…………」


 お兄の質問を受けて、ユリアちゃんが口を開く。そして……


 ………………。


 あれ? 続きは?


「……ごめんなさい、今の忘れて……」


 たっぷりと間を開けた後、小さくそう言って踵を返し、てくてくと去っていく。

 って、えぇ!?


「ちょ、ちょっと待って!?」


 なぜかいきなり帰ろうとするユリアちゃんを、慌てて引き留めようと手を伸ばす。

 そうしたら、まるで頭の後ろに目があるみたいに綺麗に躱されて、私の手は虚しく空を切った。

 ガーン、フラれた……じゃなくて!


「ユリアちゃん、待ってってば、なんで帰ろうとするの!?」


「用がないから」


「あるんじゃないの? あそこで眠ってる狂獣さんに」


「あったけど今はない」


「私達のことなら気にしなくていいよ? どうしてもキルしなきゃならない理由なんてないし」


「それでも、あれは今、あなた達の獲物だった。余計な横槍を入れたことは謝る」


「いやいや、ユリアちゃんの獲物なんでしょ?」


「今は違う」


 話しかけてる間も、ずっと逃げるように足早に歩いていくユリアちゃん。

 それをなんとか引き留めようと話しかけ続けるけど、帰ってくる返事は素っ気ないし、私の方を見てもくれない。


 嫌われてるんじゃないかと思わなくもないけど……なんとなく、この反応は嫌ってるというより……


「おーい、ミオー、俺はどうすればいいんだ?」


「現状待機!」


「いや、待機って言ってもこいつの状態異常も長くは……」


「それでも!」


「あ、はい」


 気付けば結構距離が離れてるお兄にそう叫んでおいて、そのままなんとかユリアちゃんを引き留めようと話しかける。

 けれども、中々反応が芳しくない。やっぱり、嫌がられてるのかなぁ……と、自分の考えに段々自信が持てなくなってきた頃。ユリアちゃんじゃなくて、後ろの方から反応が返ってきた。


「おいユリアぁ~! ()りに来たなら、自分で()るにしろ他人に任せるにしろ、最後までちゃんと見ていけ、バカヤロウ」


 振り向けば、ついにその体を縛り付けていた《麻痺》と《睡眠》の状態異常が解けたのか、よっこらせっと体を起こす狂獣さんの姿が。

 あらら、もう起きちゃったかぁ、と思わなくもないけど、その仕草を見るに、あまり戦意があるようには見えなかったから、私は特に危機感は覚えなかった。

 近くにいるお兄もそう思ったのか、特に慌てた様子もなく、やれやれと肩を竦めてる。


「それとも、俺を殺せたらご褒美に買ってやるって言ってたアイスはもういいのか?」


「~~~~っ!! こ、こんなところでそれを言うな、バカ兄!!」


 ただ、その後に続いた狂獣さんのカミングアウトには、流石に驚いた。

 えっ、兄? ユリアちゃん、狂獣さんの妹!?


「バカ兄とはなんだバカ兄とはよ。ちゃんと前みたいに、お兄さま~って呼んでくれてもいいんだぜ?」


「だっ、誰が呼ぶもんか!!」


 勢い余って振り返ったせいでフードが取れて、ユリアちゃんの幼くも整った顔が露わになる。

 その顔は今、まるでトマトみたいに真っ赤になってて、前に見た時のどこか神秘的だった印象とのギャップが凄い。

 天使みたいだ、って前から思ってたけど、今はまたあの時とは別の意味で天使みたい。うん、すっごく可愛い。


「それで、どうすんだ? 俺はもう負けたからな、どうするかはお前達が決めていいぜ?」


 お兄と……それ以上に私の方を見て、ニヤニヤと笑みを浮かべながら、からかうような口調で身を差し出す狂獣さん。

 その、ただ面白がっているように見えて、どことなく期待の色が浮かぶその目に頷き返すと、私はユリアちゃんに向き直った。


「ユリアちゃん、お兄さんの身柄が欲しいんだよね?」


「だから、別にいいと……」


「私のお願い聞いてくれたら、あげてもいいよ?」


「人の話を……」


「私とフレンドになってくれない?」


「だから……えっ?」


 余計な口を挟ませずに、最後まで一気に提案しきる。

 前に会った時もそうだったけど、ユリアちゃんって返事がいつも素っ気ないけど、人を嫌ってるっていうよりただ不器用なだけに見えたから、実は仲良くしたいんじゃないかと思ったんだけど、この驚いた表情を見るに当たりだったかな?


「私、なんだかんだで結構PKに狙われることが多いし、ユリアちゃんみたいな強い子がフレンドに居てくれると心強いんだ。だから、ね? ダメかな?」


 友達になりたい、だけじゃ唐突過ぎて断られちゃうかもしれないから、ユリアちゃんが自分に言い訳しやすいように、ひとまずは打算を前面に出しながら、優しく笑いかける。


 それでも、ユリアちゃんは最初、迷うように視線を彷徨わせていたけど、私の肩に乗ったライムが握手を求めるように触手を伸ばし、フララが歓迎するようにひと鳴きすると、その可愛らしい仕草に緊張も緩んだのか、小さく頷いた。


「……PKの相手なら慣れてる。護衛とかは出来るか分からないけど……それでよければ」


 その返答にぱぁっと笑顔を浮かべながら、いそいそとフレンド申請を送ると、ユリアちゃんもまた手を伸ばし、目の前に表示されているであろうメッセージウインドウに触れる。


 ポーンっと音が鳴って、『ユリアとフレンドになりました』というアナウンスが響いた。


「ふふっ、ありがと! よろしくね、ユリアちゃん!」


「むぐっ!?」


 そのメッセージを見るなり、私は感極まってユリアちゃんを抱きしめた。

 華奢で柔らかな、それでいて少し温かみのある感触が伝わってきて、ゲームでもちゃんと人の体って温かいんだなー、なんて、少し場違いな感想を抱いて、思わず頭を撫でる。


「むぐぅ……くるしい……」


「あ、ごめんごめん、つい癖で」


 普段はライムとかしか抱かないし、リアルだと苦しくなるような胸がないから気付かなかったよ。

 ……言ってて悲しくなってきた。


「全く……いきなりキルされるとこだった……」


 ユリアちゃんを離してあげると、ぷいっとそっぽを向きながらブツブツと文句を言い始める。

 けど、顔は赤いし、嫌がってる風には見えないし、照れてるだけかな?


「それで、えと、お兄さん? はどうする? もうユリアちゃんに返すから、ここでキルしても連れて帰ってもいいんだけど」


「えっ? ああ、ラルバのことなら……」


 ラルバ? って一瞬思ったけど、狂獣さんの名前か。

 お兄、ずっと狂獣狂獣って呼んでたから、今の今まで知らないままだったよ、そういえば。


 そして、ユリアちゃんも兄の存在を忘れてたのか、どうしようって顔でラルバさんの方に向き直る。


「ハハハッ、やったじゃねぇかユリア。やっとフレンドが出来たな! いやぁ、ずっとフレンドが欲しいフレンドが欲しいっつってたのに、一向に自分から言い出さないもんだから、最近じゃもう無理なんじゃねぇかと思ってたぜ。いや、無事出来て良かったな、初フレンド!!」


「………………」


 途端に、照れて赤くなっていた顔から表情がスッと消えるユリアちゃん。

 これは、うん……とばっちりはごめんだし、ちょっと下がろう。


「兄ぃ……さっきからうるさいよ」


「お、おう? どうしたユリア? そんな怖い顔しなくても、負けた以上は大人しくやられるから……あ、いや嘘、やっぱなし、アイスでもなんでも買ってやるから今は見逃してくれっ!!」


「断る。死ねバカ兄!!」


 鎌を振り上げ、逃げ惑う兄を追いかけ、銀髪を振り乱しながら襲い掛かるユリアちゃんは、まるで修羅か鬼にでもなったみたいに怖いけど、それでもよくよく見れば耳が赤くなっていて、恥ずかしいのを誤魔化そうとして暴れてるのがよく分かる。

 うーん、ユリアちゃん可愛いなぁ。


「これは、片付いたでいいのかね?」


「あ、お兄、居たの?」


「居たよ!? あっちの妹も大概だけどお前も大概だよなほんと!!」


 ずっと大人しくしてたから、割と素で存在を忘れかけてたお兄が隣に来て、一緒になってユリアちゃんとラルバさんの兄妹喧嘩を眺める。

 鎌が振り回される度、虫の息ほどにしか残ってないHPじゃ剣で防御するわけにも行かず、ひたすら逃げ惑うその姿には、さっきまでの修羅同然の、二つ名通りの《狂獣》だった面影はどこにもない。


「PKでもなんでも、やっぱりプレイヤーはプレイヤーなんだね。私達と同じさ」


「そりゃあな。まあ、あそこまでギャップがあるのは流石に珍しいと思うけど」


「あはは、それはそうかもね」


 何のアーツなのか、電光石火のスピードで鎌が振り抜かれる度に突風が起き、それをラルバさんが紙一重で躱しつつ、ついには「ええい、こうなりゃ返り討ちにしてやらぁ!!」なんて言って反撃に出てる。

 ちょっと兄妹喧嘩って言うには派手で激しすぎる気はするけど、2人から感じられるのはちょっとした苛立ちと、お互いに対する気安さだ。だからきっと、あれはあれで仲の良い兄妹なんだろうね。


「私達はそろそろ戻ろっか、お兄」


「そうだな、これ以上ここに居て、巻き込まれて死に戻りなんてなったらかなわん」


「あはは。それじゃあお兄、夕飯はどうする? 今日は気分が良いから好きなの作ってあげるよ」


「マジで!? じゃああれだ、ハンバーグ喰いてぇ!!」


「はいはい。ふふふっ」


 お兄と笑い合いながら、ラルバさんの絶叫が響く墓地エリアを後にする。

 フレンドも増えて、色々と課題も見えて、何だかんだで充実した一日だったけど、まだまだイベントは始まったばかり。

 クエストは1つしか終わってないし、行ってないエリアはいっぱいあるし、フウちゃんとの約束や、竜君が来た時に何をしようかっていう問題もある。


 まだまだ、しばらくは忙しくなりそうだ。

 そんな予感に心の中で嬉しい悲鳴を上げながら、私は明日からも続く日々への期待に胸を躍らせていた。





名前:ミオ

職業:魔物使い Lv28

サブ職業:召喚術師 Lv19

HP:268/268

MP:325/325

ATK:97

DEF:133

AGI:132

INT:136

MIND:172

DEX:204

SP:14

スキル:《調教Lv32》《鞭Lv30》《使役Lv31》《召喚魔法Lv14》《料理Lv28》《感知Lv27》《敏捷強化Lv22》《投擲Lv28》

控えスキル:《調合Lv33》《鍛冶Lv24》《採掘Lv21》《合成Lv22》《釣りLv10》《採取Lv34》《隠蔽Lv24》《魔封鞭Lv5》



名前:ライム

種族:メタルスライム Lv30

HP:290/290

MP:140/140

ATK:70

DEF:276

AGI:115

INT:124

MIND:184

DEX:83

スキル:《酸液Lv36》《収納Lv24》《悪食Lv34》《麻痺耐性Lv19》《鉄壁Lv21》《触手Lv26》《硬化Lv19》《MP自然回復量上昇Lv12》



名前:フララ

種族:フェアリーバタフライ Lv25

HP:136/136

MP:238/238

ATK:53

DEF:46

AGI:128

INT:164

MIND:114

DEX:65

スキル:《毒鱗粉Lv30》《麻痺鱗粉Lv28》《睡眠鱗粉Lv27》《風属性魔法Lv27》《回避行動Lv14》



名前:ビート

種族:ギガビートル

召喚コスト:163

HP:142/142

MP:36/36

ATK:206

DEF:109

AGI:153

INT:52

MIND:42

DEX:91

スキル:《突進Lv13》《飛翔Lv10》《筋力強化Lv7》《敏捷強化Lv8》《手先強化Lv7》


これにて第三章終了、次回から第四章、イベント後半戦になります。

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― 新着の感想 ―
[一言] あ、置いてかれた(笑) 初フレンドに
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