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テイマーさんのVRMMO育成日誌  作者: ジャジャ丸
第三章 初イベントと常夏の島
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第57話 遺跡探索と失われた指輪

 お昼ご飯を食べ終わった私達は、もう一度MWOにログインした。

 そして、ライム達にもお昼御飯をあげた後で、イベントの開催地であるスプラッシュアイランドにやって来ると、ボスを倒したことで開通した移動用ポータルから、最後に訪れた遺跡エリアの入り口へと転移する。

 転移した先には、相変わらず小さなピラミッドが鎮座していて、中央には私達を迎え入れるように、中へと続く扉が開け放たれている。


「《ハニーポーション》よし、《ミルキーポーション》よし……ライム、フララ、行ける?」


「――!」


「ピィ!」


 そこへ着くなり、ホームから持ってきたアイテムの残量を確認しつつ、2体の従魔に尋ねてみれば、元気の良い返事が返ってくる。

 そして、俺を忘れるなよ! とばかりに、手に持った《ビートの召喚石》が仄かに熱を持った……ような気がする。

 忘れてなんかないよ、と伝わるようにそれを軽く撫でてあげると、その熱もすぐに収まった。

 そんな風に、召喚石のままでも意外と感情表現豊かなビートにくすっと笑いながら、私はそれをローブのポケットに仕舞い込む。


「よし! ビートも大丈夫そうだし、準備オッケーだよ、お兄」


「よし、それじゃあ行くか」


「うん!」


 頷き合い、足を向けると、遺跡の内側から吹き付けてきた生暖かい風が頬を撫でる。

 それにブルっと体を震わせながら進んだ先は、真っ直ぐ下っていく階段になっていた。

 道幅は広くもなく狭くもなく、人が2人……少し詰めれば3人くらい並んであるけるくらいの、割としっかりした石造りの階段だ。


「結構暗いな、松明点けるか。ミオ、お前持ってくれ」


「うん、分かった」


 特に反対する理由もないから、お兄が取り出して点けた照明アイテムの《松明》を、私が手に持って横を歩く。


「足元気を付けろよ、ミオ」


「いや、私が松明持ってるんだから、どっちかというとお兄でしょ。それに、この状況でお兄に転ばれると、私まで巻き込まれそうだから、本当に気を付けてよね」


 マングローブエリアを通ってた時と違って、お兄は鎧に身を包んで、盾と槍を持ったフル装備だ。

 これで転ばれて、私が下敷きにでもなったら、それだけで潰れて死に戻りそう。

 実際には、流石にそこまでダメージはないだろうけどね。


「誰が転ぶか。大体お前、横並びに歩いててどうやって巻き込めっていうんだよ」


「そういうのフラグって言うんだよ、お兄」


「フラグはフラグだと自覚した瞬間フラグじゃなくなるって法則があってだな」


「それを口に出したらそれはそれでフラグなんじゃ?」


「だからフラグはフラグだと……って何の話してんだ俺らは」


「さあ?」


 そんなバカなことを話してたせいか、フラグを回収することもなく普通に一番下まで到着する。

 ただ、フラグの代わりに別の物を拾うことになったけど。


「……お兄、これ髑髏?」


「だな、どう見ても」


 階段の下には、ひたすら広い空間が広がっていた。

 壁にはなんだかよく分からない絵画が描かれ、これぞ歴史ある遺跡って感じではあるんだけど、それよりもまず私の目を引いたのは、そこら辺に転がってた髑髏だ。

 別に、私が髑髏好きとかそういうんじゃないんだけど、こういう如何にもな物を見ると、この先に待ち受けているだろうモンスターの種類が大体想像できて微妙に気分が沈んでいく。


「《北の山脈》で《ゴスト洞窟》に入って逃げ帰った時のこと思い出すなー……」


 あの時は軽く採掘しただけで、よく分からない状態異常にされて小さい子供みたいに泣き喚きながら逃げ帰るハメになっちゃったし、軽くトラウマなんだよね。


「なんだお前、あの洞窟入ったのか。あそこは《混乱耐性》スキルを取るか、MINDを100以上にして挑まないとグレムリンの《闇属性魔法》で簡単にやられちまうぞ」


「うん、骨身に染みてる。ていうかあれ、グレムリンってモンスターの仕業なんだ……うん、覚えておこうっと」


 《召喚術師》をサブ職業についたお陰で、各種ステータスが思いっきり伸びたし、今ならあの洞窟も完全攻略できるはず。イベント終わったら絶対仕返ししてやろうっと。


「それはそうと、この髑髏、あのゴーレムの言葉を信じるならこの島の原住民か、侵略者の慣れの果てってことかな?」


「まあ、だろうな」


 ゴーレムの最期の言葉は、「侵略者共、我々は決して屈しはしない」だった。

 我々って言うからには、あのゴーレムの仲間か、もしくは作った誰かがいるはずだし、侵略者がいるなら侵略される側の原住民が居るはずだ。

 それにこの髑髏、よく見れば近くに白骨化した体が倒れてて、それには錆びた金属の鎧とか剣とかが握られてるし、ここで最後まで戦った原住民の兵士とかなのかもしれない。いや、だったらなんでゴーレムが壊れてなかったのか謎が残るような……うーん、分かんないからいいや。


「でも、確かにこの島の人にとっては、開拓事業のために来た私達って侵略者だよねー……はぁ」


 あくまでそれはただの設定で、私としてはこの島でちょっとのんびり遊べればそれでいいんだけど、改めてこういうのを見ると、必死に戦ってこの遺跡を守ろうとしてたゴーレムに、なんだか悪いことしてる気がしてくる。

 けど、お兄は別の考えなのか、「そうとも限らないぞ?」と軽い口調で言った。


「そもそもこんだけあからさまに古い遺跡なんだし、俺達とは別の何かと戦うために作られたゴーレムってほうがしっくり来る気がするな、俺は」


「うーん、それもそうか」


 このファンタジー世界で経年劣化がどれくらい当てになるのか分からないけど、今拾ったこの髑髏だって、死んだ人がこうなるまでに何年かかるか分からない。そういう意味では、お兄の言い分はもっともな気がしてくる。


「それに、気になるなら猶更、この遺跡にどんな物語(ストーリー)があるのか知りたくならないか?」


「確かに」


 リアルの遺跡ならともかく、これはあくまでゲームのイベント。絶対に何かしら、物語を紐解くためのヒントがあって、場合によっては、フララとの出会いの切っ掛けになったあのクエストみたいに、ゴーレムが守ろうとしてた何かを助けられる展開があるかもしれない。

 勿論、これは単なる背景設定で、特に毒にも薬にもならない可能性だってあるけど、それも進んでみなきゃ分からない。


「よし、それじゃあお兄、気合入れて行ってみよっか!」


「おう、その意気だ」


 沈んでいたやる気が再燃して、私は勢いよく立ち上がる。

 すると、からんころん、と音を立てて、髑髏の中から何かが転がり落ちた。


「あれ、なんだろ?」


 拾ってみると、それは指輪だった。

 かなり古いのか煤けてるけど、中央には小さな宝石が嵌められていて、裏側には何かよく分からない文字が刻まれてる。

 なんて読むんだろう? そう思って、試しにアイテム詳細を見てみると、読めないところもちゃんと翻訳されていた。


「何々……『ウィルフィーヌへ、永久の愛を誓う』か……」


 ……この骨だけの人が実は女の人なのか、それとも誰かに贈る前に死んじゃった男の人か……どっちにしても、ちょっと悲しいな。


 そう思った私の耳に突然、ポーン、という聞きなれた音が鳴る。



クエスト:届かなかった想い

内容:《古びた婚約指輪》をウィルフィーヌへ届けろ



「「……ん?」」


 なんか、クエストが発生したみたい。

 これには流石のお兄も予想外だったのか、私達は兄妹仲良く首を傾げた。






「カカ、カカカ!」


 髑髏から拾った《古びた婚約指輪》をトリガーに、思わぬクエストを発生させた私達だったけど、特に指針になる何かが表示されるわけでもなかったから、ひとまずそのまま奥へ進んでみることに。

 そんな私達の前に立ちふさがったのは、錆びた剣やひび割れた盾を手に襲い掛かって来る、スケルトン達だった。

 奇怪な声を上げながら、骨だけの体の癖に意外と巧みな剣捌きで斬りかかって来る。


「おらっ、《シールドバッシュ》!!」


 そんなスケルトンに向けて、真正面から盾で殴りつけて倒すお兄の姿に、呆れるやら感心するやらなんとも微妙な気分にさせられる。

 うーん、スケルトンって確かに打撃攻撃に弱いイメージはあるけどさ、盾職が自分から突っ込んでいって盾で殴り倒していくのはなんか違くない?


「カカカー!」


「おっと」


 そんな風にお兄を見てる間にも、別のスケルトンが私に襲い掛かって来る。

 別にお兄の守りを突破されたとかそういう理由ではもちろんなく、単にスケルトンはまだ戦いやすい相手だからって、慣れるために私も戦っておこうかと思いスルーして貰った1体だ。


 スケルトンの持つ剣が、私に向けて振り下ろされる。

 それを、《敏捷強化》で引き上げられたAGIに任せて大きく距離を取ることで躱した私は、いつものように鞭を手に、アーツを発動した。


「《バインドウィップ》!」


 青い触手が伸び、スケルトンを雁字搦めに縛り上げる。

 そこへ更に、私は《投擲》スキルでライムを投げつけた。


「あとはお願いね、ライム」


 べちゃっ、と骨だけのスケルトンに張り付いたライムは、そのまま身体中から酸性の消化液を分泌し、ダメージを与えていく。

 以前なら、使ったとしてもロクにダメージも与えられなかったスキルだけど……今は違う。


「カッ、カカッ、カカカ……!?」


 スケルトンの体からぷしゅう、ぷしゃあっ、と音を立て、白い煙が立ち上り始める。

 当然、その演出に負けず劣らず、それなりの勢いでスケルトンのHPは減少を始め、《バインドウィップ》で拘束されたままのスケルトンも、なんとか逃れようとその体を暴れさせ始めた。


 前はゴブリン1匹倒すのにも苦労していた《酸液》スキルだけど、今やそのスキルレベルも35。ボス相手だと流石にまだまだダメージが少ないけど、それ以外のモンスターとの戦闘なら、十分選択肢に上がるくらいには有効な攻撃手段になってる。


「ピィ! ピィ!」


「あはは、ごめんねフララ、もうちょっと我慢して?」


「ピィ~……」


 私も戦闘したい! とばかりに鳴き声を上げるフララにそう言うと、がっくりと空中で器用に項垂れた。

 もちろん、いくら進化して強くなったって言っても、《酸液》は《酸液》、それだけで戦うとなるとどうしても時間はかかる。今だって、ライムが1体倒す間にお兄は3体も倒してるし、本当ならフララの《風属性魔法》や《毒鱗粉》か、せめて《酸性ポーション》くらいは搦めて使うべきなんだろうとは思うけど……


「こんなところで消費してたら、最後までもたないし」


 午前中、慣れない水中の敵との戦いで、溺れさせられる前に仕留めようと短期決戦を狙い続けてたせいで、アイテムがほぼ底を突いた。

 一応ホームで補充したとはいえ、数段質が落ちた物しか用意出来なかったし、かと言ってお兄から分けて貰ったアイテムをいつもみたいにガンガン使うのは流石にちょっと抵抗がある。

 フララの魔法やビートの突進は、ライムの落石攻撃が使えない今、私に残された数少ない切り札だ。余裕があるうちに、少しでも温存しておかないと。


「節約するのはいいけど、ラストエリクサー病になるなよ? 一応俺だってまだアイテムは残ってるんだからさ」


 そんな感じで、時間をかけてスケルトンを倒し終えた私に、早くも他に4体いたスケルトン達を一掃したらしいお兄がやって来て、そんなことを言い始めた。


「ラストエリクサー病? 何それ」


「アイテム温存し過ぎて、結局本当に必要な時でも使わずに死に戻ったり、クエスト終わるまで結局使わないまま死蔵することだよ」


 戦闘が始まった時に、地面に火が点いたまま投げ捨てておいた《松明》を拾い直して首を傾げる私に、お兄はそう言って戒める。

 けど、私はお兄のそんな忠告を、笑って聞き流した。


「何言ってるの、ボス戦とか、敵に囲まれたりとかしたら、私アイテム無かったら何も出来ないよ? 大丈夫だって」


 今までずっと、アイテムありきの戦闘してきたのに、節約したまま強敵を倒せるわけもない。だから大丈夫だと言う私に、お兄も「ならいいけどな」とそこまで気にした様子もなく引き下がった。


 だから、私もこの時言われたことをすぐに忘れたんだけど……この後すぐに、少し予想外の形で、お兄の心配は現実の物になった。



『《鞭》スキルがレベル30に達しました。上位スキルを習得可能です』

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >だったらなんでゴーレムが壊れてなかったのか謎が残るような…… 第三章を最後まで読みましたが、これは不明のまま。というかこの話以降ゴーレムについての言及がない。
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