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テイマーさんのVRMMO育成日誌  作者: ジャジャ丸
第三章 初イベントと常夏の島
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第52話 連戦と釣りスキル

 水中戦闘がこのイベントで重要な位置を占めるんじゃないかっていう、お兄の予想はあったけど、今日のところはその準備も何もないことだし、ひとまず水中戦は出来るだけ避けつつ、可能な限り先に進むことに。


「お兄、また来たよ!」


「ああくそっ、またか!」


 けど、途中からはお兄の予想を裏付けるように、足場と足場が繋がっておらず、絶対に水の中を通らなきゃならないような場所が出て来始めて、その度にブラックアリゲーターの襲撃を受けていた。


「えいくそ、ちょこまかと!」


 ブラックアリゲーター目掛けて突き出されたお兄の槍を、ブラックアリゲーターは体を捻るようにしてあっさりと躱し、逆にお兄の体に噛みついてくる。体の半身が水に浸かってる状態だと、アーツでもない限りはやっぱり上手く動けないみたい。

 そこまで大きなダメージを負ってるわけじゃないのは、HPゲージを見れば分かるけど、それも積もり積もればバカにならない。現に、さっきからの連戦で私が今回持ってきた《HPポーション》は残り半分をとっくに割り込んでる。


「だあー! また噛みつかれた! 鬱陶しい!」


「落ち着きなよお兄、傷は浅いよ」


「確かにHPは大して減ってないけどな! このままじゃ溺れるっての!」


 槍を近くの足場である木の根に突き立て、必死に抵抗しながらお兄が叫ぶ。

 ブラックアリゲーターはATKがあまり高くない代わりに、噛みついた相手を水中に引きずり込んで溺死させるっていう、恐ろしい習性を持っていたみたいで、お兄はさっきから群がられては引きずり込まれ、なんとか振り解いては逃げてを繰り返してる。


 ただでさえAGIのあまり高くない盾職、それも水の抵抗を受けて更に動きが遅くなってるからほとんど避けられず、それでいて溺れないように鎧を脱いでるから、普段ならノーダメージに限りなく近い程度に抑えられるはずのブラックアリゲーターの攻撃でもそれなりに削られて、しかもDEF、MINDの高さと一切関係なく一定時間が過ぎれば確実にHPが尽きて死ぬことになる溺死攻撃を仕掛けられる。


 このエリアは、お兄にとって天敵みたいな場所っぽい。


「私達のこと、ちゃんと守ってくれるんでしょ? だから頑張れ、お兄!」


「いや、お前ほとんど守る必要ないじゃねーか! なんだよそのアーツ!」


「これ?」


 その一方で、私がやたら余裕の態度で高みの見物を決め込めてるのにも、ちゃんと理由はある。

 

「《鞭》スキルレベル20で覚えた、《アンカーズバインド》っていうアーツだよ。昨日までは何に使えばいいんだかって感じだったけど、まさかこんなところで使えるなんてねー」


 このアーツは、《バインドウィップ》の劣化軽量版みたいな感じで、拘束スキルではあるけど縛った相手の動きを阻害する効果が一切ない代わり、CT(クールタイム)がほぼ一瞬で終わる。ゴブリンやスライム相手でも、縛った後に好き放題動き回られるし攻撃もされるっていう、戦闘では全く意味のないアーツだ。


 けど、こういう地形ギミックのあるエリアだと、近くの樹とか足場に向けて使うことで、水中に落ちることなく、ターザン染みた立体機動で足場から足場へ移動できるっていうことに気付いて、そのお陰で何の危険もないままにここまで進んでくることが出来ている。


 一つ難点があるとすれば、これはあくまで1人で使うアーツだから、パーティメンバーは置き去りにして進まなきゃならないところだけどね。


「お兄も、そんなに羨ましいなら《鞭》スキル取ってみたら? 結構便利だよ?」


「流石に、片手に槍持って片手に盾持ってが俺のスタイルだから、これ以上武器スキルはノーサンキューだ。今から育ててる時間もないしな」


 そう言うお兄だけど、今はあまり装備を付け過ぎると重くて沈むからって、鎧も着て無ければ盾も持ってない、盾職というよりただの槍使いの戦士みたいな状態だから、やろうと思えば鞭を使うことも出来るはずだけど、流石にこのイベントのためだけに、新しいスキルを習得するつもりはないみたい。


 まあ、私がお兄の立場だったとしても同じこと言うだろうし、気持ちは分かるけど。


「ええい、《サイクロンランス》!!」


 お兄が槍を引き抜くと同時に大きく振り回し、周囲のブラックアリゲーターを纏めて薙ぎ払う。

 普通の通常攻撃は、水の抵抗を受けて遅くなるけど、アーツのほうは地上で撃つのと同じスピードで攻撃できる。

 ただ、やっぱり威力は落ちてるのか、お兄の攻撃を受けたブラックアリゲーターは、そのHPを大きく減らしながらも、もう一度お兄に殺到し始めた。

 しかもブラックアリゲーターに加えて、体からバチバチと電気を放つウナギみたいなモンスター、サンダーイールまでもが襲い掛かってきた。


「うおお、そろそろキツイ! ミオ、援護くれ援護!」


「そうしたいのは山々なんだけどね……」


 一見、私はアーツのお陰でブラックアリゲーターに襲われることのない、安全地帯を確保出来てるわけだけど、それはブラックアリゲーターにしても同じこと。

 前衛が水のせいで動きづらく、攻撃がほぼ意味をなさないのと同じように、後衛職……というより私にとっても、《投擲》で投げたアイテムは水に浸かった時点で一気に勢いと射程が縮まって届かないし、ビートは泳げないから水中に攻撃は出来ず、フララの魔法も威力が減衰してるのか効果が薄かったりと、安全ではあっても援護らしい援護がほとんど出来ない役立たず状態になっちゃう鬼門のエリアだ。


 お兄の言った通り、これは何かしらの対策かアイテムがないと、とてもやってられない。けど、今はそんなもの何一つないんだし、効率が悪くてもやるしかない。


「やっぱりゴリ押ししかないよ、お兄。餌役お願い」


「それしかないか……よし来い! 《ヘイトアクション》、 《ガードアップ》、《エンチャント・ディフェンス》、《エンチャント・マインド》!!」


 お兄が槍をまた近くの木の根に突き立てて固定すると、重くなるのを嫌って装備してなかった盾を取り出し、アーツを使って周囲のモンスターを引き付けながら、DEFを引き上げると同時に、サブ職業の神官で覚えられる《付与魔法》で更に自身のDEFとMINDに補正を加えて、耐える姿勢を整えてる。

 その一方で、水中に引きずり込まれないように槍を掴んでモンスターに背を向けてるせいで、取り出した盾はアーツを使用可能にした以上の意味はなく、無防備なお兄の背中にモンスター達が群がっていく。


 ブラックアリゲーターが齧りつきながら水中に引きずり込もうと引っ張り、サンダーイールが纏わりついてバチバチと火花を散らしながら電撃を放ってお兄に攻撃する。

 重ね掛けされたアーツと魔法のお陰か、私だったらあっという間に死に戻ってそうな猛攻を浴びながらでも割と余裕を持って耐えてるけど、あれでまだ鎧を着てないから全力の防御じゃないっていうんだし、ガチプレイヤーって怖い。


「じゃあ行くよお兄。ライム、投下!!」


 《アンカーズバインド》を駆使して、お兄の真上に移動してきた私は、ライムに頼んで岩の連続投下を行う。

 さすがにこれなら、海面にぶつかって多少威力が減っても、十分なダメージになる。普段なら、落ちてくるまでの時間差で目標のモンスターに逃げられないよう、アーツで拘束するなりアイテムで麻痺させるなりしてからやるところだけど、今はお兄自身が撒き得代わりになって引き付けてくれてるから、そう簡単には動けない。


 案の定、降ってきた岩をモンスター達は躱すことも出来ず、まともに喰らってそのHPを散らしていった。……お兄諸共。


「お兄ー、平気ー?」


「な、なんとかな。やっぱあのサイズの岩が降って来るのは普通にこえぇ……」


 HPが残り2割少々にまで減っているものの、お兄だけは一応生き残って、えっちらおっちらと崩れてない足場へよじ登ってきた。

 私も、さっさとアーツを解いてお兄と同じ足場に着地し、インベントリから《HPポーション》を取り出しながらお兄に渡す。


「お兄、いい加減アイテムが底突きそうだよ。まだ進むの?」


 在庫処分品は使い切ったから、普通の《HPポーション》を飲むことが出来てご満悦なお兄にそう尋ねる。


 毎度毎度、襲われる度にこんなごり押しを続けてるせいで、回復アイテムはもちろんのこと、特に攻撃用の《大岩》がもうすっからかんになってる。

 一応、ホームにはまだ念のために残しておいた在庫があるし、こっちの足場を崩すために海面に顔を出したところを、《麻痺投げナイフ》やら《睡眠投げナイフ》を投げつけて状態異常を起こし、動けないところをたこ殴りにするっていう手段もまだあるんだけど、このエリアは結構モンスターの出現頻度が高い。

 だから、その方法を取ったとしても、アイテムがもつのはあと2、3戦が精々で、今から引き返す間にもそれくらいの戦闘は余裕で発生しちゃいそうだ。むしろもっとエンカウントする可能性の方がずっと高い。


 そう思ってたら、お兄は「心配すんな」とばかりに軽く手を振った。


「アイテムならほら、俺のが余ってるから持ってけ」


「ありがとお兄。けど、お兄の分は大丈夫なの?」


 お兄からトレード申請で送られて来たアイテム一覧を確認すれば、《HPポーション》と《MPポーション》が各50個ほど入ってた。これなら取り敢えずは持つかな? とは思うけど、お兄が自分で使う分まで無くなったらダメなんじゃないの?


「まだ余ってるから心配すんな。それに、どうせ敵と対峙してる最中は自力で飲めないしな。ミオが持っててくれた方がいいだろ」


「そういえばそっか。ていうか、だったら普段はどうやって回復してるのさ」


「そりゃお前、パーティメンバーと前衛変わってる間にな。今回は2人だけだから無理だけど」


「ああ、なるほど……」


 そういえばお兄に見せられた動画での戦闘中も、リン姉が召喚したモンスター達が時間を稼いでる間に回復とかしてた気はする。


「まあそういうわけだ、多分このエリアも半分は来てるし、どうせなら最後まで突き進もうぜ。死に戻ったら死に戻った時だ」


「流石ゲーマー、命が軽いよ」


 まあ、ゲームの中にあるのは仮初の命で、死に戻ったからって私達プレイヤーも、使役してるモンスターでさえ、本当に死ぬわけじゃないんだから実際軽いと言えば軽いんだけどさ。


「RPGってのはそういうもんだ。HPが尽きる前に何か有効な戦い方でも見い出せればいいんだけど、やっぱ難しいしな」


 最大のネックは、水中では動きが鈍り、遠距離攻撃が減衰しちゃうことだけど、それはテクニックでどうこうなる物じゃなくてこのエリアの仕様だから、ここで考えるべきはそれじゃなくて、どうやったらあのモンスター達を私達の土俵である地上戦に引き込めるかだ。


「やっぱり、最初の1戦でやったみたいに、地上まで釣り上げるしかないんじゃない?」


 思い出されるのは、このマングローブエリアに足を踏み入れた最初の戦闘。

 私が水中に潜ってブラックアリゲーターを拘束し、私ごとビートが地上まで引っ張り上げたあれだ。

 けど、お兄は私の提案に対して、微妙な表情を浮かべる。


「あの力技は、足場の広い最初の場所だったから出来たことだろ? あんな強引な釣り上げで、こんな狭い足場に釣り上げたブラックアリゲーターを正確に落とすなんて真似出来るのか? 《釣り》スキルでもあればともかく……」


「ああ、それなら《釣り》スキル取れば問題ないね」


「そうだけど……って、はい?」


 私も、どうやって釣り上げたブラックアリゲーターをこの足場に着地させるかは悩ましかったんだけど、スキルがあればそういう調整が効くっていうなら問題ない。さっさとスキルを習得して、スキルスロットに装備する。


「えっ、まさか取ったのか? 《釣り》スキル」


「うん。元々、せっかく常夏の島に行けるなら、やってみたいと思ってたしね」


 新鮮な海の幸が獲れれば、ライム達へ振る舞うご飯にも彩りが増えるし。私にとっては十分美味しいスキルだ。

 お兄はそう思わなかったのか、口をあんぐりと開けたまま固まってるけど。


「流石に食材アイテムとモンスター1種類倒しやすくするためだけに新しいスキル取るとは思わなかったよ俺は」


「モンスターを倒す方はオマケだよ。私としては食材アイテムのほうが大事だもん」


 そう言うと、お兄はまたも呆れたような、感心したような複雑な表情を浮かべて私を見る。

 確かに、あんまりスキルを取り過ぎると上位スキルへの派生が難しくなるかもしれないけど、それより食材アイテムの確保の方が重要なんだよ。釣りは《採取》スキルじゃ代用効かないし。

 ……けど、次からはもうちょっと自重しようかな、うん。


「けどお前、釣り竿は? 釣り竿がないと《釣り》スキルは効果ないぞ」


「大丈夫、こんなこともあろうかと、行きつけの鍛冶師の子に作って貰っといたから」


 正確には、釣りがしてみたいって言ったら作って貰えたっていうだけだけど。




名称:爆釣竿トッタドー

効果:ATK+10 釣り強化 耐久強化




 性能としてはなんとも控えめ。少なくとも武器には使えない。

 けど、《釣り》スキルに補正が入る《釣り強化》があるし、耐久値が高くなるスキルまで付いてるから、釣り具としてはそれで十分過ぎる。

 ネーミングに、なんともウルの遊び心を感じるけど……トッタドーは、釣りじゃなくて銛で獲った時に言うセリフじゃなかったっけ? まあ、いいんだけどさ。


「餌は……まあ、ハウンドウルフの肉でいいかな。お弁当代わりに持ってきた調理済みのやつだけど、結構あるし」


 主に容量無限のライムの胃袋を満足させるために。


「そりゃあ、あのワニが草食ってことはないだろうからな。ウナギは知らんが」


 そんなことをしているうちに、新しいブラックアリゲーターが現れたのを私の《感知》スキルが捉える。

 しかもおあつらえ向きに、出てきたのは1体だけ。あと少しすれば他にも湧いてくるだろうけど、試すにはちょうどいい。


「よいしょっと」


 ブラックアリゲーターが近づいてくる方向に、肉をぶら下げた釣り糸を垂らす。

 徐々に近づいてくるブラックアリゲーター。果たして上手く行くかな? と不安になるけど、それは杞憂だった。

 ブラックアリゲーターは目の前に垂らされた肉を見た瞬間、猛然と齧り付いて来た。


「よし、かかったっ!」


 とりあえず引き上げようと、その場で竿を振り上げようとするんだけど……


「お、重い……!」


 やっぱりと言うべきか、ブラックアリゲーターはそう簡単には釣り上げられてくれなかった。

 私が竿を持ち上げると同時に暴れ出し、逆に引きずり込もうとしてくる。


「うぐぐ……お兄、手伝って!」


「お、おう。てか結局力づくかよ!」


 お兄が私の後ろに回り、一緒に竿を掴んで引き上げようと力を込める。

 更に、一緒に手伝おうとしてるのか、ライムは肩から降りて後ろから触手でお兄の腰を引っ張り、フララもまた竿の先端に留まってパタパタと小さく羽ばたき始めた。うん、2体のATKの低さを思えばあんまり意味はないかもしれないけど、一生懸命手伝おうとしてくれてる姿がすっごく可愛い。癒される。


 けど、お兄に加えてライムとフララまで手伝ってくれたお陰で、拮抗してたブラックアリゲーターとの引っ張り合いの天秤が、私達の方に傾いた。


「よし、今! てえぇぇい!!」


 引っ張り合いの最中、一瞬だけブラックアリゲーターの力が弱まった隙をついて、思いっきり竿を振り上げる。

 ドパーンッ! と派手に水飛沫を上げて、ブラックアリゲーターが海面から飛び出る。

 それは、《釣り》スキルの補正を受けてか、空中で弧を描きながら真っ逆さまに狭い足場の上に落下して、そのまま最初の時と同じように、柔らかい腹を見せたまま気絶した。


「よっしゃ! 溜まりに溜まった鬱憤をここで晴らしてやる!」


 それを見るなり、お兄は槍を手に突撃し、喜々としてブラックアリゲーターを仕留めにかかった。

 気絶して動けないモンスターを笑顔でめった刺しにする姿は、こうして傍目に見ると凄く危ない人に見える。


「それにしても、やっぱり釣り上げるの大変だったなぁ。《釣り》のスキルレベルが上がればもうちょっと楽になると思うけど」


 1体釣り上げるのに、お兄の手を借りなきゃならないんじゃイマイチ効率アップにならない。いい案だと思ったけど、もうちょっと工夫しないとなぁ。


 そんなことを考えながら、私は次の敵が出て来るまで、お兄によるブラックアリゲーターの解体ショーを半目で見つめ続けていた。

ウナギって何食べてるんでしょう?

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[一言] ウナギは肉食だから、魚や水生昆虫
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