第46話 出発準備と甘々ポーション
さて、フウちゃん達との朝のお食事会を終えたはいいけど、今日はまず明日のイベントに備えて色々と《調合》したり《合成》したりしなきゃいけない。
そのことを伝えると、フウちゃんは「事前準備ですか~……ガチプレイって大変ですね~」なんてことを言いながら、インベントリからドサドサとアイテムを落としていく。
「フウちゃん? どうしたの急に?」
突然の行動に戸惑っていると、相変わらずマイペースに「こんなところですかね~」なんて言ってから、ようやく私の質問に答えてくれた。
「ほら、先輩には毎日ご飯食べさせて貰ってますけど、最近は食べ過ぎてて食材アイテムの供給が足りなくなってるっぽかったですから~、今更ですけど、偶にはお金以外の食材も提供した方がいいかな~と」
「おお、ありがと! 助かるよ」
お金は貰ってるけど、いつもいつもご飯をうちで食べてくもんだから、そろそろ食材アイテムの方が尽きそうだったんだよね。
正直、フウちゃんのことだからクエストはやっても、真面目に採取なんて地道な作業してないだろうから、そっち方面の支援は期待してなかったっていうのが大きいけど、ありがたい。
「いえいえ~、どうせ私、こんなアイテム持ってても使うことないですから~。大量消費な先輩が持っててくれたほうが、何かと便利でいいと思うんですよ~」
「まあ、食材アイテムなんて《料理》か《調合》がないと使い道ないもんね。《調合》で使う食材アイテムなんて本当に少ないし」
モンスターの素材アイテムなら、武器防具に使ったりもするから結構需要もあるみたいだけど、食材アイテムは本当に《料理》スキルに使って食べる以外使い道がないのも多い。そして、凝った物が食べたいならNPC経営のレストランでいいし、買い食いするにも屋台がある。満腹度ゲージの回復のために安く済ませたいなら《携帯食料》があるしってことで、《料理》スキルの需要は底辺を這い蹲ってる以上、フウちゃんがこう言うのも仕方ないと言えた。
「それじゃあ先輩~、私もこれからイベントに向けてちょっとした準備があるので、ここらへんでお暇しますね~」
「あ、そうなんだ? 珍しい」
いつもは大体、私がいなくなるまでず~っと傍でゴロゴロしてるのに。
いや、私自身、《調合》にしろ《料理》にしろ《鍛冶》にしろ、特にこの場所じゃなきゃ出来ないってわけじゃないし、このホーム自体ただの物置兼ログインポイントで、一日のうちそこまでここに長居してないっていうのも大きいけど。
「まあ、大したことじゃないんですけどね~、せっかくイベントですし、この機会に私もやれば出来るってところを見せようかと思いまして~」
「ふーん? 良く分からないけど、頑張ってね」
「は~い、先輩もまた今度~」
フウちゃんがムーちゃんの背に乗ると、そのまま起き上がってのっしのっしと歩いて去っていく。
乗ると言っても、座ってるんじゃなくて上でうつ伏せに寝そべってる感じだから、どっちかというとムーちゃんが運んでるって感じがして思わず苦笑が浮かぶ。
「さて、私は私の準備をしようかな。ライム、フララ、来てー」
フウちゃんを見送った後は、改めて自分の準備に取り掛かる。
《携帯用調合セット》を取り出して、傍にビーカーをいくつか並べると、もう2体とも慣れたもので、何も言わなくてもライムがそれによじ登って《酸液》を使い、溜まった端からフララが各種状態異常系の鱗粉を順番に振りかけて混ぜてくれる。
私はその横で、乳棒を使ってゴリゴリとキノコやら薬草やらを磨り潰し、ライム達が作ってくれた《酸性ポーション》や、その他素材と混ぜ合わせてせっせとアイテムを作っていく。
「《睡眠ポーション》の在庫は十分だから、麻痺と毒のほう集中的にお願いね。あと、回復アイテムは……最近フララのレベリング重視だったから、《ミルキーポーション》の数が減ってるなあ。やっぱり食べる用とは別に、ちゃんとした《MPポーション》作っといた方がいいかも」
《ミルキーポーション》にしろ《ハニーポーション》にしろ、ライムやフララの大好物だから優先して作ってたけど、モンスター達が好んで食べてくれるってことを除けば、普通の《HPポーション》や《MPポーション》の劣化なんだよね。
装備を一新したし、私達自身のHPもMPも、それらに頼るにはまだちょっと絶対量が少なかったからよかったけど、今回のイベントではお兄もいるし、そう甘いことも言ってられないかもしれない。
だからうん、ライムもフララも、もう作らないって言ってるわけじゃないんだからそんなに落ち込まないで? ライムは《酸液》がビーカーから駄々洩れになってるし、フララに至っては鱗粉がライムにかかっちゃってるから。《麻痺鱗粉》以外だったらライムが状態異常になっちゃってるところだよ?
「さて、それじゃあ早速……」
ライム達が心なしかしょんぼりと状態異常ポーションの原料を作ってる間、私は早速普通の《HPポーション》の作成に移る。
とは言っても、作り方は簡単。《薬草》と、《傷癒茸》を一緒に磨り潰して、ビーカーの中で水に溶けるまでかき混ぜるだけ。元々ゲームだから、大して調合に難しい作業なんてないんだけど、それでも《ハニーポーション》よりかかる工程数は少ないくらいだ。
名称:HPポーション
効果:使用者のHPを150回復する。
「うん、よしよし」
出来上がったポーションの効果を確認したら、早速一口飲んでみる。
うん、やっぱり何度飲んでみても、初心者用のポーションと変わらないお茶の味がする。
「フララ、ライムも、一口どう?」
ちょっとだけ減ったそれを2体の前に置くと、ライムはフララと一緒に飲めるようにか、いつもみたいに丸呑みにするんじゃなくて、触手を1本伸ばして瓶の中に突っ込み、フララも触手の隙間からその細い口を差し込んで、2体仲良く飲んでいく。
あの触手、口にもなるんだ……なんて、割とどうでもいいことを考えつつ、私は更に他のアイテムを作りながら2体の反応を伺う。
「ピィ~!」
「――!」
「うーん、やっぱり初心者用より反応が良い……この子達の舌はどうなってるんだろ」
私としては、初心者用も普通のも、HPポーションの味は同じ緑茶味なんだけど、この子達にとっては違うみたい。
うーん、茶葉の違いでも分かるのかな? いや、実際には茸が入ってるわけだし、大分違うはずなんだけどさ。
ただまあ、やっぱり《ハニーポーション》や《ミルキーポーション》には劣るのか、2体ともテンションが若干低いんだけど。
「まあいっか。種族が違えば味の感じ方が違うのも当たり前だし」
私の中で浮かんだ疑問はひとまずそう棚上げして、次のアイテム作りに意識を集中させる。
使うのは《霊草》と、先週《西の森》で見つけてきた《ヒカリゴケ》。これを、いつものようにせっせと混ぜ合わせ、水に溶かしていく。
名称:MPポーション
効果:使用者のMPを150回復する。
うん、こっちも予定通り。とりあえず出来たけど、ここまでならそれこそ先週からずっと作るだけはできてるし、何より数を揃えるなら店売りの方が早い。
だから、《調合》スキルで作る以上、後はここからどれだけ効果を高められるかが勝負だ。
「とはいえ、《ハチミツ》も《ムームーミルク》ももう試したんだよね」
初心者用のポーションに混ぜると劇的に効果を高めてくれた素材だけど、流石に次のポーションでまで同じ手の強化は出来なかった。
他にも色々と試してみたけれど、未だにこれだ! っていう組み合わせには出会えてない。
「あとは……フウちゃんが持ってきたアイテムで、何か良いのあるかな?」
そう思って、乱雑に置いていかれたアイテムに一通り目を通してみるけど、フウちゃんの活動範囲も私とさほど変わらないのか、ほとんどは見たことのあるアイテムばかりだった。
ただ1つだけ、初めて見るアイテムもあった。
「《妖精樹の樹液》……?」
名前からすると、大体出自は想像できる。多分、フララと出会ったあのクエスト、《妖精蝶の救出》に関係してるんじゃないかな? デビルズトレントになった樹は聖なる大樹って名前だったけど、妖精と樹に何かしら関わりがあるのは確かだろうし。
けど、それの樹液なんて、どうやって手に入れたんだろ……それとも、実はあの近くの樹は全部妖精樹とか? でも、あの辺りには何度か行ってるけど、《採取》スキルに反応なんてなかったし。
「まあいいや、取り敢えず使ってみよっと」
使えるようなら、フウちゃんに頼んで入手先を教えて貰うのもアリだしね。
そう思って、ひとまず《妖精樹の樹液》を1つ、《薬草》と《傷癒茸》と一緒に混ぜてみる。
瓶1つ分なんていう、無駄に大量にあるそれを《ハニーポーション》の時と同じノリでどばっと投入してみたけれど、なんだかこの樹液、思った以上に粘っこくて全然混ぜられない。
試しに火を入れて、煮込むようにしてみたけれど上手く行かず、やがて焦げ付いて……
名称:焦げたポーション
効果:使用者は40%の確率で《毒Lv1》を付与される。
「まさかの毒物になったよ」
しかも効果が微妙過ぎる。40%で《毒Lv1》て。
これくらいだと食中毒扱いってことなのかな……
「うーん、一度に使う量を減らしてみようか」
あそこまでねっとりした樹液だと混ぜられないし、だったら少しずつ、様子を見ながら足していって混ぜればいい。
そう思って、新しい樹液と《HPポーション》の素材を用意して、また混ぜ始める。
「ゆーっくり、ゆーっくりと~」
《薬草》と《傷癒茸》を水と一緒にビーカーに入れ、混ぜているところへ、少しずつ《妖精樹の樹液》を注いでいく。
入れ過ぎると固くなって失敗するのは分かってるから、ある程度余裕を持ってかき混ぜられる程度の粘度で注ぐのを止め、そのまましばらく混ぜて様子を見てみる。すると、少しずつ混ぜるのに抵抗が無くなってきたから、また少し注ぎ足し、また混ぜて、注いでと繰り返していくと、やがて樹液の中に《薬草》と《傷癒茸》が溶け込んでいき、その色が綺麗な琥珀色へと変化していった。
名称:アンバーポーション
効果:使用者のHPを200回復する。
「おおっ、いいねこれ!」
《HPポーション》や《MPポーション》が作れるようになってから1週間弱、色々試して全然納得いく物が出来なかったけど、これは十分満足いく物が出来たって言えるんじゃないかな。
「あと、味のほうはどうかな……?」
樹液がどんな味かなんて知らないけど、虫って甘い物が好きなイメージがあるし、やっぱ甘いのかな?
そんな風に思って飲んでみると……
「ふむ、メープルシロップみたいな味……甘くて美味しいけど、流石に瓶一本飲むにはくどいかなぁ」
《ハニーポーション》も中々だったけど、これはそれ以上に単体で飲むには辛い。ホットケーキとかにかけて食べると美味しいかも?
まあ、甘い物大好きなネスちゃんなら、これも美味しいってゴクゴク飲むのかもしれないけど。
「ライム、フララ! 新しいご飯出来たよ、食べてみて」
《ハニーポーション》や《ミルキーポーション》がお役御免になると聞いて、少しご機嫌斜めな2体をもう一度呼び寄せて、新しく出来た《アンバーポーション》を飲ませてみる。
「ピィ! ピィピィ!」
「――――!!」
たった一口飲んでみただけで、さっきまでの暗い雰囲気はなんだったのかってくらい、揃って美味しそうにポーションをゴクゴクと競うように飲み始めた。
全く、現金だなぁ、もう。
「でも、気に入ってくれたみたいでよかった。え? おかわり欲しいの? まだ出来たばっかりで、明日に備えて出来るだけたくさん作らなきゃいけないからだーめ。ほら、ライムにはライム合金があるでしょ? フララも、残った《ミルキーポーション》は好きに飲んでいいから、ね?」
あっという間に飲み終わり、次をおねだりするように体を擦り寄せてきた2体を宥めながら、代わりの餌を用意する。
2体とも、それを見て若干ぶーぶーと文句を言うようにそっぽを向いたけど、じゃあいいやとばかりにインベントリに仕舞おうとすれば、すぐに私の手にしがみついてやっぱり欲しいとねだってくる。
ふふふ、可愛いんだから、もう。
「これからはこんな回復アイテム兼ご飯じゃなくて、もっと美味しい物作ってあげるから」
今までは、《料理》スキルで何か作っても、こういったモンスターに好かれるポーションよりも気に入って貰える料理が未だに出来ていない。
けどそれも、このイベントで南の島で採れる新鮮食材があれば、きっとライム達が気に入ってくれる物だって作れるはず。
「だから、楽しみにしててね?」
料理のイメージは出来上がってるから、後は、それに合う食材を見つけるだけ。このイベントで行くのは期間限定の新エリアなわけだし、きっと色々と新しい食材アイテムも集まるはず。それを使って、ライムとフララをいっぱい喜ばせてあげなきゃ。
それぞれポーションを手に、美味しそうに中身を呷る2体を見て和みながら、私の頭は既に、イベントで手に入るアイテムの皮算用を始めていた。
ネットを色々見て回っていたら、「プロ作家目指すなら1日2~3時間で12000文字くらい書けないと」みたいなのを見つけて、次元の違いに戦慄しました。
3時間だと調子が良くて3000~5000文字くらいですよ私(´;ω;`)
もっと早く書けるようにならねば……時間が余ればその分推敲も出来るし……




