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テイマーさんのVRMMO育成日誌  作者: ジャジャ丸
第三章 初イベントと常夏の島
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第44話 イベント告知と明日の予定

 私がウルのところで装備を新調してから1週間。相変わらず、お兄が何かしたせいか、それともあの女の子プレイヤー……ユリアちゃんに恐れをなしたせいか、はたまたいい加減ライム合金の価値も無くなって来たのかは知らないけど、やっぱりPKの影も形もなく、そろそろそんな存在のことを忘れそうなくらい、平穏なゲームライフを楽しんでいた。


「イベント?」


 そんなある日のこと、いつものように適当に見繕った朝ご飯を食べていると、お兄から唐突にそんな単語を投げかけられた。

 首を傾げる私に、お兄は「ああ」と頷きを返してくる。


「MWOの公式イベントだ。お前、サイト見てないのか?」


「見てない」


 私がレベル20になって、サブ職業に予定通り《召喚術師》を選んだから、最近はそれで呼ぶモンスターを選ぶために情報を見漁るのに夢中で、そういうお知らせは読み飛ばしちゃってたよ。倒して《核石》を入手するにも、そのモンスターの分布が分からなきゃ意味ないからね。


「明日、グライセから常夏の島《スプラッシュアイランド》への直通転移ゲートが開かれるんだ。期間は2週間。情報だと、島の中で発行されるクエストの達成報酬で得られるクエストチップを集めれば、枚数に応じてイベント終了時に景品と交換できるらしいぞ」


「へー、お兄はやっぱりギルドメンバーと参加するの?」


「おう。って言っても、四六時中一緒にやるわけじゃなくて、イベント情報の共有とか、インしてるメンバーでパーティ組んだりとか、まあそれくらいだな。割とみんな自由にやってるから、ソロも多いぞ」


「へ~、なんか意外。お兄がギルマスやってるってくらいだから、もっとこう、最高効率突き詰めて、イベントとなれば全員にノルマ課して達成できなきゃ出てけー! みたいなガチギルドかと思ってたよ」


「いや、そういうところもあるけどな? うちは基本、ノルマとかなしに、みんなそれぞれに頑張る感じだから。大体、ソロプレイ推奨のやつならともかく、パーティプレイ推奨のゲームでノルマなんて課しても息苦しいだけだって。気の合う奴らで集まって、それぞれにトップを目指す方が長続きするよ」


「なるほど、つまりノルマがいらないくらいにみんなガチゲーマーばっかと」


「おい? 今の話の流れでどうしてその結論に至ったんだ?」


「だって、ねえ?」


 ガチゲーマー以外で、お兄と気が合う人がいるとも思えないし。

 一応、美鈴姉はガチゲーマーって言うとちょっと違うけど、あれはガチゲーマーでもないのに、ガチゲーマーの話題に完璧についていけるあの頭脳あってこそだから例外。

 本当、美鈴姉はお兄に付き合ってあんなにゲームしてるのに、なんで学校の成績はいつもトップなんだろ……私にその頭の良さの1/10でもいいから分けて欲しいよ。


「まあ、お兄のギルドがどんなのでもいいけど。それよりイベントだよイベント! お兄、何か新しいモンスターとか実装されたりする?」


 私としては、イベント云々よりも新エリア解放に伴って増える新しいモンスターの方がずっと気になる。

 気に入った子がいれば、テイムするなり核石を集めて召喚石にするなり出来るしね。


「お前から話振っといて全く……ああ、色々公開されてるよ。見るか?」


「うん!」


 やれやれと呆れた表情を浮かべながらも、自分の携帯端末から仮想ディスプレイを呼び出し、私にも見えるように表示してくれるお兄。


「どれどれ……? おおっ、色々いるなぁ。やっぱり、南の島って言うだけあって水棲のモンスターが多めっぽい?」


 まだイラストが一部公開されてるだけで、名前もステータスも何もわからないけど、大きな蟹みたいなの、フワフワと空に浮かぶクラゲみたいなの、水面を飛び跳ねるトビウオみたいなのや、更には凶悪な面構えをしたサメ。他にも、南国らしいヤシの木みたいなのに登ったお猿さんや、マングースみたいな小動物まで、色んなモンスターの画像が並んでいた。


「うわあ! どの子も可愛いなー、うちの子になってくれないかなー」


「マングースはまだ分かるけどさ……うーん、相変わらずお前のセンスは良く分からん」


「えー?」


 まあ確かに、蟹っぽいのはゴツゴツしたフジツボみたいな甲羅を背負った胴体と、岩くらい簡単に砕きそうな屈強な鋏を持った巨大蟹で、可愛いっていうよりはかっこいいって言ったほうがいいかもしれないし、クラゲも空を飛んでる以外は至って普通のクラゲ……に見せかけて、バチバチと放電する触手で足元を歩く獲物を一瞬で捕らえて捕食する映像は中々衝撃的ではあった。

 

 けどほら……こうして見てると、どっちもどことなく愛嬌があって良いと思わない?

 えっ、思わないって? まあ、お兄だし仕方ないか。


「けど、これだけ居ても、私がテイム出来るのはレベル的に1体だけなんだよねー。それに、《召喚魔法》の方も、片っ端から召喚するのはちょっとねー」


「変な拘りだなぁ。俺だったら欲しいと思ったキャラは全部コンプしないと気が済まないんだけど」


「そこを無制限にしちゃうと、私の場合本当に際限なく増やして行っちゃいそうだから、ある程度普段から自重しておかないとね。お世話しきれなくなっちゃう」


 ライムは進化したし、フララもまだ進化こそしてないけど随分レベル上がって来たから、今なら少しはパーティを増やしても手は足りるけど、だからって次から次へと迎え入れられるほど、私は器用じゃないし。


 まあ、いずれはMWO中のモンスターを全部テイムしたマスターテイマー! みたいなのもいいかもしれないけど、それは、そうなっても不自由なく暮らせるだけの豪邸を手に入れた後の話だね。《召喚魔法》で呼ぶモンスターは、ホームの中でならMP消費なしで召喚し続けられるらしいし。

 ああ、でも体が小さい子なら今のホームでも増やせるかな……うむむ、悩む。


「ふーん、まあ澪が良いならそれで良いけどよ、普段のフィールドでの戦闘もそうだけど、イベント中はより一層パーティ推奨の難易度だと思うから、参加するなら誰か一緒にやってくれる人を探したほうがいいと思うぞ。何なら俺とやるか?」


「お兄、ギルマスなら色々付き合いあるんじゃないの? 私に構ってて平気?」


「別に平気だぞ、さっき言った通りその辺りは緩いし。ギルド総出のクエストとかあったら別だけどさ」


「ふーん」


 素っ気ない返事をしつつも、私の中では結構良い話だと思っていた。

 お兄と一緒なら、私1人じゃ到底行けない場所まで行って色んなモンスターに会えるだろうし、何より、最近では私もライムやフララとの連携がちゃんとしてきて、コソコソしなくてもソロで夜の《西の森》に行けるくらいになってきた。ライムの力をお兄に見せつけるなら、イベントっていうのはちょうど良い舞台だ。

 あ、でも盾職のお兄とサポーター寄りの私じゃ、攻撃に不安が……うん、迷ってたけど、イベント前に召喚モンスターを育てておくのもいいかもしれない。


「分かった、それなら取り敢えず、明日は一緒にやれる? 竜君は大会が近くて最近やれてないみたいだし、終わったら一緒に手伝ってあげなきゃ」


 剣道で、夏の全国大会に出ることになった竜君は、ここ最近MWOにログインしてない。

 私がPKとゴタゴタ揉めてる間、私のことを心配して何度かINしようとしてくれたみたいだけど、そこは全国大会の方が大事でしょと言って思い留まらせていた。

 問題が片付いたことはもうメールで報告してるけど、せっかくだから応援ついでに元気な姿を見せたり、心配かけたお詫びにイベントで出遅れた分、出来ることなら私が手伝ってあげたい。


「おう、いいぞ。まあ、竜也のやつならほっといても、自力でなんとかしそうだけどな」


「そういう問題じゃないのー」


 それに前、みんなでヒュージスライムを倒しに行くために待ち合わせした時、勝てたらご褒美あげるって言ったのにまだ何も出来てないからね。それなのに、竜君は私のために妖精蝶のクエストを見つけてくれて、お陰でフララにも会えた。だから、少しでもそのお礼をしなくっちゃ。


「そうは言うけど、あいつにとっちゃリアルで全国大会の応援に来て貰えるだけで十分だと思うぞ?」


「いや、そんなのお礼じゃなくても当たり前じゃん、何言ってるのお兄」


 小さい時から姉弟同然だった子の晴れ舞台なんだから、見に行くに決まってるよ。そりゃあライム達と過ごす時間も大事だけど、だからって竜君を蔑ろにしていいわけないし。むしろ、ライム達にも竜君の雄姿を見せてあげたいくらい……って、そうか、見せてあげればいいのか。


「そういえばお兄、動画ってMWOの中でも見れるよね?」


「うん? まあ、動画でも画像でも音楽でも、電子データで在るやつならゲーム内でも見れるし聞けるけど、それがどうかしたか?」


「いや、竜君の試合、カメラで撮って、MWOの中でライム達にも見せてあげようかと思って」


 全国大会って言うくらいだし、まだ中一の竜君が絶対勝てるなんて思うほど楽観はしてないけど、どういう結果になるにせよ、一生懸命戦う姿は絶対カッコイイだろうから、出来るなら見せてあげたい。


「モンスターって、動画見て分かるもんなのか……?」


「知らないって。けど、あの子達結構賢いし、分かるんじゃないかな?」


 今時のAIはかなり高性能だって言うけど、実際のところどの程度の物なのかはよく知られてないんだよね。

 まあ、仮令正確に伝わらないんだとしても、そうやってコミュニケーションを取っていくのが動物と仲良くなるために大事なことだと思うから、私はやるけど。


「まあそれはどっちでもいいか。それじゃあ、明日は取り敢えず、死に戻り上等でガンガン進むから、回復アイテムとかの消耗品、出来るだけ多めに用意しとけよ。多すぎなくらいでちょうどいいから」


「うん、分かった。自分だけじゃなくて、お兄のサポートにも回れるくらい用意しとくね」


「おう、期待しとく」


 自分の戦闘にも消費してるとはいえ、そういうパーティ戦に備えてこの一週間貯蓄もしてきたから、どのアイテムもそれなりの数があるし、流石に足りないってことはないと思う。……ないよね?


「それじゃあお兄、お昼は適当にカップ焼きそば置いておくから、それ食べてね。お湯はこのボタン押せば沸かせるから。このボタンだよ? 分かった?」


 朝ご飯を食べ終わり、立ち上がり際にテーブルに置いてあった湯沸かし器を指差し、トントンと一番大きなボタンを叩いて見せる。

 そんな私の仕草に、お兄はバツが悪そうに目を逸らす。


「そ、それくらい分かるっての! しつこいぞ!」


「昨日変なボタン押したせいで、お湯すら沸かせずに私がログアウトするまで待ちぼうけ食ってたのどこの誰だっけ?」


「うぐぐぐ……!!」


 悔しそうに呻くお兄にやれやれと肩を竦めつつ、居間を後にする。

 今日の昼は早めにログアウトして、用意してあげるかなと、そんなことを考えながら。


艦〇れくらいしか真っ当にゲームイベントに参加したことない作者です(ぉ

お兄は取り合えず奥まで突き進むつもりですが、実際のMMORPGの攻略組ってどんな風に進めるんでしょうね?

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― 新着の感想 ―
[一言] 攻略組は、偵察する班とか、情報を精査する班とか、実働部隊以外の縁の下の力持ちをどれだけ抱え込んで円満に維持できるかで変わるんじゃ無いかな…………… 特に生産職の力は戦力に響くから
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