第43話 新装備とネーミングセンス
サブタイを○○と××、という形にしたのはいいですが、片方はともかく2つ目が中々思い浮かばない今日この頃(ぉぃ
2018/9/2
武器・防具の性能に耐久値を表記しました。
「へえ、そんなことがあったんだ?」
「うん、大変だったよー」
PK達との交戦から1日が経ち、私は完成した装備の受け渡しがしたいっていうメッセージを受けて、ウルの作業小屋にやって来ていた。
そのついでに、ライム合金のことでPKに狙われたこと、もし飛び火していたらごめんっていうことを伝えたら、「まあそんなこともあるよね」と随分と軽い返事が返ってきた。曰く、「鍛冶師なら大抵頼りになる用心棒の1人2人は抱えてる物」らしい。パパベアーさんのことかな? まあ、あんな怖い人が傍にいる相手なんて、私がPKだったら絶対襲わない。そういう意味では、最強の用心棒かもね。
「どうする? あんまり大変なら、私の方からレシピ公開するけど」
「ああ、それなら大丈夫。お兄に相談したら、なんとかしとくって言われたから」
さすがに今回の件は自分1人で抱えておけないと思って、その日のうちにお兄に相談したところ、「任せとけ、明日までにはどうにかしとく」という心強い言葉をいただき、取り敢えず今のところはPKの影も形もない。そのお陰と言うにはまだ経過した時間が短すぎるからなんだけど、何かしら手を打ってくれたのは確かだろうし、今度お礼しないとなぁ。
「へえ……PK相手になんとかしとくって、ミオのお兄さん、一体誰なんだか……」
なんだかお兄のことを畏れたみたいにブルっと体を震わすウルを見て、私は小さく噴き出した。
お兄がこんな風に誰かに畏怖されるなんて、普段を知ってるだけになんだか変な感じ。
ウルも、そんな私の態度を見て大方察したのか、バツが悪そうに頭を掻いた。
「まあ、それはいいか。はい、これがミオ用に作った新しい装備」
「わあ、ありがとうウル! ここで装備してもいい?」
トレード申請で纏めて送られてきた装備一式を前に、興奮を隠すことも出来ずそう尋ねると、ウルは快く頷いてくれた。
そういうわけで、まず取り出してみたのは乳白色の金属製の取っ手を持った一本の鞭。
取っ手の先からは、スライムと同じぷるぷるした触手みたいなのが生えていて、引っ張ってみるとみよ~んっとどこまでも伸びていく。
普通、こういうのって伸びたらその分細くなっていくと思うんだけど、これはそんな様子もなく、ずっと一定の太さみたい。うーん、ファンタジー。
名称:ブルーテンタクルス
耐久値:112/112
性能:ATK+20 DEX+20
効果:与ダメージ減少 伸縮自在 拘束強化 自己修復(小)
性能を見てみると、ATK補正こそ低いけど、まさかのDEXにも補正がある上に追加効果が思ったより多い。
《与ダメージ減少》はデメリットだけど……まあ、こんなぷにぷにの鞭で嬲られたからって、あんまり痛くなさそうだし仕方ないか。
《伸縮自在》と《拘束強化》は予想通り、リーチが普通の鞭と違ってかなり長いのと、拘束系アーツに補正が入る。実際どれくらい入るのかは、使ってみてのお楽しみかな?
最後の《自己修復(小)》は予想外だけど、どうやら使わない間、武器の耐久値が回復し続ける効果らしい。私の場合、鞭を使わない場面も多いから、整備費用が随分浮くしありがたい。
次に取り出したのは、新雪のような白い刀身を持った大きな包丁。
多分、大型の魔物肉の解体用なんだろうけど、片手で振れないほど大きいわけじゃないから、私みたいに非力な女の子でも、戦闘でなんとか使えそう。
ゲームだから、非力かどうかは性別じゃなくてステータスで決まるんだけど、そこはまあ気分ってことで。
名称:バハムートの解体包丁
耐久値:162/162
性能:ATK+45 DEX+20
効果:クリティカルダメージ上昇 食材アイテムドロップ率上昇
性能……の前に名前!! バハムートの解体包丁って何!? そんな大物これで捌けと!?
そう思ってウルの方を見ると、私が何を言いたいのか察してか、ぐっと親指を立ててきた。うん、これ絶対確信犯だよ!
いやまあ、性能のほうは凄いけどね! ATKの補正は45もあるし、《クリティカルダメージ上昇》はリッジ君でもないと上手く活かせないだろうけど、《食材アイテムドロップ率上昇》は普通に嬉しいし。
ライムもそうだけど、最近は大飯喰らいな子がホームに入り浸るようになってきたからね……ムーちゃんは体格からして当然だろうけど、フウちゃんもあの小さい体でどんだけ入るのさ。いや、ゲームだから物理的な胃袋は存在しないんだけども。
ていうか、なんでいつの間にか私がフウちゃんとムーちゃんのご飯のお世話することになってるんだろう……偶にネスちゃんもしれっと混ざってたりするし。
いや、みんなで食べる方が楽しいし、最近はアイテムやらお金やらでちゃんとお礼は貰ってるし、《料理》スキルのレベル上げにもなるし、何より事の発端は私がタダでアイテム配ったりしてたことだろうからいいんだけどね?
最後に残ったのは、防具一式。と言っても、要望通りの布系服装備だから、装備すると言うよりはほとんど着替えに近いけど、そこはゲームクオリティ。メニュー画面をちょちょいと弄れば、あっという間に早着替え。
「おお~」
そうして装備されたのは、黒を基調としたキャミソールタイプのワンピース。肩だけじゃなくて、胸元まで大きく露出していて、リアルにはない大きな胸が服を押し上げているのが、自分の目線からでもはっきり分かる。その谷間を見て、少しだけ顔がにやけそうになったのは内緒。リアルでもこれがあればなんて不毛な思考は頭の隅に押しこめておく。
ただ、それだけだと流石に人前に出るのは恥ずかしいっていうのはウルも分かってるのか、もう1つ付いてきた白いローブを、その上から追加で羽織ってみる。ところどころにモンスターの毛を使ったモコモコがついてて、テイマーらしさを残しつつもどことなく魔法使いっぽい装いだ。
それもそのはずで、私はこの2日間のレベリングによって、ライムより若干遅れて20レベルに到達し、サブ職業として《召喚術師》に就いていた。
この装備も、私がサブ職業に就いたことを伝えたら、ウルがそれに合うようにデザインして作ってくれた物だから、ちょうどいいのも当然だったりする。
名称:魔狼のローブ
耐久値:104/104
性能:DEF+37 MIND+29 AGI+22
効果:従魔強化(小)
名称:魔女見習いの服
耐久値:103/103
性能:DEF+28 MIND+35 DEX+12
効果:隠蔽補正(小)
性能は……えーっと、2つ合わせるとDEF+65、MIND+64、AGI+22、DEX+12か……一気に上がったなぁ。初期装備だった頃の、全部合わせてDEF+5しかなかったのが懐かしい。
まあそれはそれとして、ステータス面での性能が控えめな代わりに追加効果が一杯あったブルーテンタクルスとは違って、こっちは性能の上昇が多い代わりに追加効果が少ないっぽい。ただその少ない効果は、どっちも私にとってかなり嬉しい効果だから、不満は全くない。そもそも、比較対象である今の私の装備が、全部合わせてDEF+20が付くだけな時点で、不満なんて出るはずもないんだけど。
「どう? ライム、フララ、似合ってる?」
「ピィ!」
「――!」
「ふふふ、ありがと、2人とも!」
私の使役モンスター2体の前で、軽く一周回って新しい衣装を披露してみると、ライムはぴょんぴょんとテンション高く跳ね周り、フララもご機嫌そうに綺麗な鱗粉を撒きながら飛び回って、私を祝福してくれた。
どうやら、2人のお眼鏡にも適ったみたい。
「あと、これはオマケ! 《召喚魔法》を使うなら必要でしょ?」
「おわっと!」
装備の確認が終わり、しげしげとその出来栄えを眺めていた私に向けて、突然ウルが何かを投げ渡して来た。
慌てて受け止めると、それはサモナーが使う必須装備である《短杖》、それも、先端に青色の宝石が嵌められた、かなり高そうなやつだった。
名称:海杖オリンポス
耐久値:98/98
性能:INT+20 MP+100
効果:消費MP軽減(小) 詠唱時間短縮(小)
なんだかまた凄そうなネーミング付けてるし!? ちょくちょくぶっこんで来るよねウルって!
しかもこれ、MP+100って、サブ職業就いた私の今の総MPだってやっと200届いたくらいだよ? なんかいきなり5割も増えたんだけど!
「ふふふ、どうミオ? 我ながら今回は良い物出来たと思うんだけど」
よっぽど自信があるのか、色んな意味で驚き固まる私に向け、ドヤッと胸を張るウル。それと同時に揺れ動く胸が憎たらしい……じゃなくて、
「うん、どれも凄く良い装備だよ。本当にありがと、ウル!」
嫉妬の炎は一旦頭の片隅に追いやって、素直に感謝の言葉を伝える。
実際、こんな装備一式、普通なら何十万Gも積んでやっと手に入る代物だし、合金レシピの提供があったとはいえ、全部タダどころかむしろ私の方がお金貰いながら作って貰えるなんて、感謝してもしきれないくらいだ。
「むしろ、私の方がお礼言いたいくらいだけどね。ライム合金のお陰で最近は作った装備が飛ぶように売れてるから、ミオに払った代金考えても余裕で黒字。もうしばらくしたらこのボロ小屋引き払って、グライセの街中にもっとしっかりした店舗構えれそうなくらいなんだよね」
「なにそれすごっ!?」
私がライム合金渡して、まだ2日だよ!? どんだけ儲かってるの!? いや、口ぶりからすると、流石に店舗を買うにはまだ足りてないんだろうけど、それをする見通しが立つだけでもすごすぎる。私も、今回のことでお金増えたんだし、少しはホームの拡張とかしようかなぁ……まだ足りないとは思うけどさ。
「そういうわけだからさ、いい仕事させてくれてありがとミオ! また何か入り用だったら、ミオは優先して作ってあげるよ!」
「あ、あはは、どういたしまして……」
さすがにそこまでして貰うのは気が引けたけど、ライムやフララ以上にテンションが振り切れてる様子のウルには何を言っても無駄かと思って、ひとまず話を合わせておく。
「ところでミオ、ノリで短杖をあげといてなんだけど、《召喚魔法》で出すモンスターはもう決まってるの?」
「ううん、候補は絞ってあるけど、まだ決めてはいないよ」
サモナーの強みは、召喚魔法によってMPが保つ限り次々と配下を繰り出せる、その数の暴力にある。
そういう意味では、悩んでないで取り敢えず近くのモンスターを狩って、核石アイテムを拾い集めればいい話なんだけど、そんな風に何も考えずに片っ端から召喚するのはなんか違う気がする。
出来れば、サモナーとしての主流からは外れるけど、これだ! と思ったモンスターの核石を、他の核石と《合成》しまくって徹底的に強くしてあげたい。
量より質、もっと言えば、使役するモンスター1体1体を苦労して愛情かけて育て上げたいっていう意味では、やっぱり私はテイマー気質なんだろうな、と思う。
「それなら、一緒に狩りにでも行く? 新調した装備を試しついでに、今まで行けなかったエリアまで行けば、ミオが使いたいモンスターも見つかるかもよ?」
「うん、それもそうだね。けどウル、さっき依頼がひっきりなしって言ってたけど、鍛冶師のお仕事大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、ミオの装備作成するための試行錯誤と、依頼をこなすために素材ほとんど使い果たしちゃったからさ、そろそろ集めなきゃだったし」
「そういうことなら、遠慮なく付き合って貰おうかな」
《ブルーテンタクルス》を取り出しやすい左腰に装備して、予備武器である《バハムートの解体包丁》は後ろに、そして、《海杖オリンポス》は右腰に挿しておく。
その場でローブをパタパタしたり、軽く動いて問題ないことを確認すると、肩の上にライムを抱き上げて乗せ、それに便乗するようにフララが反対側の肩に留まる。
「よし、それじゃあ行こうか!」
「なんていうか、自分で作っておいてなんだけど、やっぱり武器装備すると途端に統一感ないよねー、ミオって」
「それ今言う!?」
準備万端なところへ茶々を入れてくるウルに文句を言いながら、私は小屋の外へと向かう。
扉を開けた私を出迎える太陽の光は、ゲームの中だというのを忘れそうなほど強く、思わず手でそれを遮る。
そろそろ、一年で一番暑い時期になるなあ。
そんなことを思い少しだけ溜息を吐きながら、私は今日の狩り場へ向けて足を踏み出した。
名前:ミオ
職業:魔物使い Lv20
サブ職業:召喚術師 Lv1
HP:194/194
MP:195/195
ATK:80
DEF:108
AGI:105
INT:92
MIND:124
DEX:150
SP:10
スキル:《調教Lv21》《使役Lv20》《鞭Lv18》《投擲Lv18》《料理Lv15》《感知Lv19》《採取Lv18》《召喚魔法Lv1》
控えスキル:《調合Lv20》《鍛冶Lv12》《採掘Lv9》《合成Lv10》《隠蔽Lv16》《敏捷強化Lv12》
名前:ライム
種族:メタルスライム Lv21
HP:182/182
MP:86/86
ATK:52
DEF:208
AGI:45
INT:94
MIND:104
DEX:64
スキル:《酸液Lv22》《収納Lv17》《悪食Lv21》《麻痺耐性Lv10》《鉄壁Lv10》《触手Lv11》《硬化Lv9》
名前:フララ
種族:フェアリーバタフライ Lv10
HP:76/76
MP:133/133
ATK:36
DEF:26
AGI:99
INT:120
MIND:84
DEX:48
スキル:《毒鱗粉Lv13》《麻痺鱗粉Lv12》《睡眠鱗粉Lv12》《風属性魔法Lv8》《回避行動Lv3》
これにて第二章完。次話から第三章に入ります。
ストックはまだあるので毎日更新は出来る……はずです(設定に関わる修正の余波がストック分にも影響してるのがちょっとアレですが(;^ω^)




