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テイマーさんのVRMMO育成日誌  作者: ジャジャ丸
第二章 オリジナル合金とプレイヤーキラー
42/191

第42話 ライムの力と自爆攻撃

今回は長めです、一息に行きます。


2018/8/10

ライムが新しく習得したスキルについて軽い説明を追記しました。

2018/8/18

ミオの所持金が前半部分と最後の部分で矛盾していたので修正しました。

 PKプレイヤー3人に囲まれながらも、いまいちシリアスになり切れない私だけど、冷静になるまでもなく自分がピンチなことくらいは分かる。

 ジリジリと後退しつつ、なんとか状況を打破出来ないかと言葉を紡ぎ続けた。


「けど私、アジトを襲った件については、もうそっちの人に報復されてるし、水に流して欲しいんだけどなー」


 それで許されるなら苦労しないとは思ってるけど、一応言ってみる。

 殺していいのは殺される覚悟のあるやつだけだ、なんてことまで言うつもりはないけど、PKをやる以上はああしてアジトに入られてアイテムを奪われるのは織り込み済みのはずだし、それが嫌なら真っ当なプレイをすればいい。そうでなくても、警報装置の罠で1回は仕返しが許されていて、それを利用したんだから、それ以上するのはただの嫌がらせだと思うんだ、うん。

 だから許して欲しいなー?


「バカ言うなオラァ! コビトがやった1回程度で取り返した額じゃ全然足りねえんだよぉ! 奪った分取り……つーかついでにコビトが使い込んだ分取り戻すまで、キッチリ落とし前付けてもらおうかぁ!」


「ですよねー……ってちょっと待って、使い込んだ分は私関係ないでしょ!?」


 うんまあ、報復されるの前提で、露骨にホームにアイテムもお金も置いてたからね。確かに私を1回キルしたくらいじゃ全然割に合わないと思う。

 けど、流石に使い込んだ分は私の知ったことじゃないよ! 自分達で何とかして!


「ヒヒッ、だが僕らも鬼じゃない、ある物を差し出せば素直に見逃してやってもいい」


「ある物?」


 なんだろう、少なくとも20万G+各種大量のアイテムに見合う物なんて、今の私に残ってないんだけど。

 一応、預金とは別に10万Gは持ち歩いてるけど、それのことじゃないだろうし……あ、今日ウルから受け取った90万、ホームに置いてくるの忘れてた。まさかこれを狙って?


「そうよ、貴女が持つ、とっておきのインゴット! それをあるだけ差し出せばこの場は見逃してあげる!」


 びしっ! と女の人が剣を突きつけ、私に宣言する。どうやら所持金狙いじゃなかったみたい。

 とっておきのインゴット? それってもしかして……


「ライム合金のこと?」


「そうよそれそれ。前に手に入れた分は全部売り払ったから忘れかけてたわ」


「えぇぇ……」


 名前も覚えてないなら要求しないでよ!! とは思うけど、そうか、ライム合金か……そういえばお兄も、「PKがこぞって狙いに来るようなレアアイテム持ってるわけじゃないよな?」みたいなこと言ってたっけ。あれってこうなることを示唆してたのかぁ。

 私は全然そんなつもりなかったけど、ウル曰く、ライム合金って今MWOで一番良い合金らしいからなぁ……すっかり忘れてた。


「ライム合金手に入れて、どうするの? 見た感じ鍛冶師じゃなさそうだけど、《鍛冶》スキル取ってるの?」


「そんなわけないだろ、鍛冶師の連中に転売するんだよ転売。1つだけでもそれなりの値が付くが、ある程度まとまった数があれば更に値段が釣り上がるからな、ボロ儲けできるぜ!」


 一応聞いてみたけど、やっぱり本職じゃないみたい。

 それで、転売か……ウルにレシピ渡して、その代金から引いて貰ってタダで武器を作って貰えることになった私が言うことじゃないのかもしれないけど、ライムに美味しく食べて欲しくて作ったインゴットを、友達でもない人の金儲けに使われるのはなんだか気に入らない。


「ライム合金を渡せば、もう襲って来ないの?」


「ええ、約束してあげる」


 ただ、気に入らないからって断れば、この3人にキルされることになるのは分かり切ってる。もしかしたら、今後この人達が満足するまで粘着されるかもしれない。

 だから、そこを確認してみれば、女のプレイヤーからはすぐにそう返事が来るけど、他2人の男プレイヤーのニタニタしたいやらしい笑みを見てると全く信用できない。


「そういうことなら、分かった」


 私は、インベントリから、ライム合金を1つ取り出す。

 それを見るなり、3人のPK達の目がそれに釘付けになったのを確認すると、私もにこっと笑みを浮かべる。


「あなた達にはあーげない!」


 そう言って、全力で上に向けてインゴットを放り投げた。


「「「なっ!」」」


 PK3人の声が重なり、その視線が放り投げられたインゴットに釣られ一瞬だけ上を向く。

 その瞬間、私達は動きだしていた。


「フララ、毒撒いて!!」


「ピィ!!」


 フララが羽ばたきながら《毒鱗粉》を撒き、すぐに《ウインド》を発動して風を起こし、PK達に叩きつける。

 更に、それに紛れてライムに出して貰った麻痺投げナイフを、厄介な遠距離攻撃手段を持ってる弓使いのプレイヤー目掛け投げつけた。


「ぎゃっ!?」


 突然の風で煽られてバランスを崩したところに、私が投げたナイフが突き刺さって、弓使いの人はあっさりと体を痙攣させその場に倒れ込む。

 他2人共々毒状態にもなってるし、不意打ちはばっちり決まったね。

 まあ、流石にこれだけで勝てると思うほど私も楽観的じゃないけど、仮に負けても今なら所持金半分とアイテムをランダムでいくつか失うだけ。デスペナルティのステータスダウンは、どうせそろそろ落ちるつもりだったから関係ないし、この際やれるだけやって少しでも道連れにしてあげるんだから!


「コビト!? てめぇ、やりやがったな!! 不意打ちなんて汚い真似しやがって!」


「どう考えても数の暴力で私をキルしようとしてるあなた達のほうが卑怯だよ!!」


「なるほど、それもそうか!!」


「納得しちゃうの!?」


 なんて決意も、こんなやり取りをされるとなんだか気が抜けていく感じがする。

 いやいや、何絆されてるの私、相手はPKだから、私をキルしようとしてきてる敵だから!


「ええい、フララ、《麻痺鱗粉》!」


「ピィ!」


 フララがまた魔法で風を起こし、麻痺の状態異常を引き起こす鱗粉を浴びせかける。

 けど、強弱はひとまず置いておくにしてもある程度すぐに効き始める毒と違って、麻痺や眠りの状態異常は、ある程度浴びせ続けないと効果が現れない。

 そして、そうなるまで親切に待ってくれるほど、PKの人達ものんびり屋じゃない。


「ちっ、アラン!」


「分かってる、私が撃ち落とす!」


 えっ? 撃ち落とすって、あの人剣士じゃ……って、魔法の発動準備入ってる!? ただの剣士じゃなくて、魔法剣士か!


「させない! フララ、逃げて!」


「ピィ!」


 フララには《回避行動》のスキルがあるけど、範囲攻撃系の魔法で確実に当てられたら、HPもMINDも低いし一発で倒されかねない。

 私は慌ててライムからもう一本の麻痺投げナイフを受け取り、フララにはそのまま上空へ退避するように指示を出しながら投げつけた。


「こっちのセリフだぜバカヤロォ! お前もここで死んどけ!」


「あっ……」


 けど、それよりも早く間に入り込んだチンピラPKに、大剣の柄で投げナイフを弾き飛ばされた。

 そのままの勢いで、投げナイフを投げるために前のめりになった私目掛け、大剣を振り下ろしてくる。


「オラァ!!」


 まずい、今の私は《鞭》スキルを装備してないから、《バインドウィップ》みたいなアーツは使えないし、盾ならともかく片手持ちの投げナイフであんな大剣を受け止められるわけがない。


 万事休すか……そう思って諦めかけた時、ライムが思いもよらない行動に出た。


「――――!!」


「えっ、ライム!?」


 私の肩の上から、体の一部を触手のように伸ばし、振り下ろされる大剣の前に翳される。

 私を守ろうとしてくれたのは分かるけど、いくらなんでもそんな細い触手じゃ、大剣なんて防ぎようがない。


 そう思いきや、ガキンッ!! と、とてもライムのぷにぷにボディと大剣がぶつかり合ったとは思えない、金属同士が火花を散らすような硬質な音を響かせて、チンピラみたいなPKの大剣を防ぎきった。

 あまりの出来事に、私もPKも、揃って呆然と立ち尽くす。


「そ、それ本当にスライムか!?」


「そうだけど、今のは私もびっくりだよ!!」


 確かに、ステータスではめちゃくちゃDEFが跳ね上がってたとはいえ、まさかあんな大剣の一撃を防げるほどとは思わなかった。触った感触も、メタルと言いつつ前とそんなに変わってなかったし。

 多分、《鉄壁》と《硬化》のスキルのお陰かな? 確か、《鉄壁》スキルはATKの減少と引き換えにDEFを大幅に引き上げるパッシブスキルだってお兄が言ってたけど、それでもMPが減ってるあたり、《硬化》の方はアクティブスキル? 体を金属みたいに堅くするスキルとか?


「《フレアレイン》!!」


 けど、今はそんな風に考察してる場合でも、呑気にライムの行動に驚いてる場合でもなかった。私が抑えられてる隙に、ついに詠唱時間(キャストタイム)が終了した魔法が放たれ、空を飛んでいたフララ目掛けて、炎の礫が雨のように襲い掛かる。


「フララ!!」


 あの炎の一発でも受けたら、それだけでフララは倒されちゃう。

 そう思って思わず叫ぶけど、心配は無用だった。


 ひらり、ひらりと、フララが空中を軽やかに舞う。

 炎の礫が暗くなりつつあった空を満たし、フララに殺到するけれど、一発も当たらない。《回避行動》スキルの影響か、どれも紙一重でフララを逸れていく。

 射程限界で霧散した火の粉が、フララが撒いた黄色の鱗粉と混じり合って、まるで夜空を彩る星のように光り輝く。


「綺麗……」


 その名の通り、妖精のような舞を見て、私も、そして魔法を撃った女剣士の人も思わず見惚れて声を漏らす。


「クソッ、よそ見してんじゃねえぞオラァ!!」


「わわっ!?」


 ぼーっと空を見ていた私に向け、チンピラの人がもう一度大剣を振るってくる。

 それを、再びライムが触手で弾いてるけど、よくよく見ればHPもMPも、防ぐ度に少しずつ減って行ってる。あまり長くは持たない。


「今度こそ……! せいっ!!」


 新しく取り出した麻痺投げナイフを、もう一度チンピラの人に向かって投げつける。

 けど、流石にもう私がそうしてくるのは分かってたのか、余裕をもって防がれた。


「何度やっても無駄だ! 大人しくキルされな!!」


「嫌だよ! 絶対生き残ってやるんだから!」


 とは言え、私は今鞭が使えない以上、このままだとジリ貧だ。フララの援護が身を結ぶまで、耐えられればいいんだけど。


「おいアラン、上に逃げた蝶は置いとけ、両側から同時に仕掛けるぞ!」


「分かったわ!」


 私を挟んで、左右に分かれて剣を構える女のPKとチンピラPK。

 どうやら、フララには直接的な遠距離攻撃手段はないと見て、一旦無視して私を一気に仕留めるつもりみたい。

 もっと言えば、私のすぐ傍に張り付くことで、その遠距離からの援護も出来なくするつもりなのかも。それにこうなれば、流石に進化したライムだってカバーしきれない。


「これならそのヘンテコなスライムにも対処しきれねえだろ! 行くぜェ!!」


 私の右側面に回り込んできたチンピラPKが、大剣を構え斬りかかってくる。


「ライム、そっちはお願い!」


「――!!」


 声なき了承の意志を肩越しに感じ、後は後ろから聞こえる雄叫びの一切を意識の隅に押しやって、反対側から斬りかかってくる女のPKに意識を集中させる。


「くたばりなさい!!」


「嫌だって言ってるでしょ!!」


 振るわれた剣を、私は腰から抜いた鞭を両手で持ち、ぴんっと張った真ん中の部分で受け止める。

 言っちゃなんだけど、鞭なんて要するに革で出来た紐みたいなものだし、剣を受け止められるのか疑問だったけど……そこは一応武器ってことなのか、多少たわんだだけでちゃんと受け止めてくれた。

 流石ゲームの鞭、すごい。


「鞭を盾にするプレイヤーなんて初めて見たわ……」


「今《鞭》スキル装備してないからこうするしかないの!」


 スキルが装備してあれば、アーツを使って拘束できるのに。

 いや、さっきのナイフみたいに弾かれたらそれで終わりかもしれないから、例え装備してあっても、やっぱりこうするしかないかも? そういう意味では、装備してなくって助かったのかもしれない。


「けど、それじゃあ時間稼ぎにしかならないよ! 倒されるのが遅いか早いかの違いしかない!」


 確かに、攻撃を受け止めてるって言っても、所詮はたかが鞭。防御用の武器じゃないから、受け止めた端から少しずつ私のHPが減っていってるし、武器の耐久値……は詳細を見なきゃ分からないにしろ、見るからに少しずつボロボロになっていってる。このまま続けば、鞭の耐久値が尽きるのが先か、私がそのまま倒されるか、どっちにしても末路は同じだ。


「それはどうかな? ここで時間をかけてれば、誰か他のプレイヤーが通るかもしれないよ?」


 けど、私はそう言いながら、不敵に笑ってみせる。

 実際のところ、夜中の《西の森》は狩場としては不人気で、この時間帯なら《南の湿地》の方がずっと人が多いから、人が通りがかる可能性は決して高くない。

 でも、だからって0じゃない。それを、私から指摘されて改めて意識させられたのか、PK2人の表情に少しだけ焦りが見え始めた。


「なら、さっさと仕留めればいいだけよ!!」


「その通りだぜ!!」


 前後から、2人がかりで私に襲い掛かってくるPK達。

 片方は私が鞭で止め、もう片方はライムが触手で捌きながら、ひたすらに耐え続ける。

 ライムはともかく、私なんかは防ぐのに失敗して攻撃を受けたりもするけど、その度にライムが《ハニーポーション》を使って自分も含め回復してくれるから、耐えるだけなら何とかなる。


「くそっ、しつこい! いい加減諦めやがれ!」


「誰が諦めるもんか! あと少しなんだから……」


「あと少し? 一体何のこと……!?」


 私の言葉に首を傾げる女PKだったけど、その言葉は途中で中断される。

 なぜなら、その体を《麻痺》の状態異常が拘束して、動けなくなっていたからだ。


「アラン!? 麻痺なんていつの間に……くそ、さっきの蝶か!?」


 チンピラの人が頭上を見上げれば、そこにはさっきからずっと、休むことなく黄色い鱗粉を辺りに振りまき続けるフララの姿があった。

 距離が離れれば離れるほど、《麻痺鱗粉》は拡散して効果が薄くなるけど、その分回避は難しくなるし、攻撃され続けてるのにも気づかれにくくなる。ましてや、こんな風に斬り結んでる時なら猶更ね。


「ご名答。私の狙いは最初っから、フララに麻痺状態にして貰うことだよ、今更気付いても遅いからね!」


「何を、このアマ……!? ぐぅ……!」


 そんなことを話してる間に、チンピラの人にも効果が表れ始めた。

 ビリッ! と電流でも走ったかのように体を強張らせ、そのまま金縛りにあったかのように動かなくなる。


「うっ……」


 けど、そんな範囲攻撃をしていれば、当然私にも効果は表れる。

 PK2人が動けなくなったのとほぼ時を同じくして、私もまた、《麻痺》状態になって動けなくなった。


「くうぅ……! まさか自分諸共麻痺させてくるとはな……だが、あの戦い方を見るに、蝶のモンスターの方はまだ大した攻撃手段を持ってないんだろ? だったら俺達が死ぬよりも復帰できる可能性の方が高い、まだ形勢は互角になっただけだぜ!」


「確かに、フララ1体だけだとダメかもしれないけど……この子もいるよ?」


 そう言うと同時、私の肩から、何の異常もなくぽよんっとライムが飛び降りる。それを見て、PK達は目を丸くする。


「な、なんでこいつまで動けるんだ!?」


「だってその子、《麻痺耐性》スキル持ってるから。《麻痺鱗粉》はあんまり効かないんだよ」


「な、なんだってー!?」


「くっ、だがそのスライムだって大した攻撃手段はないんだろ!? 同じことだ!」


「それはどうかな?」


 フララが舞い降りてきてライムを掴むと、ちょっと見ててハラハラするような危なっかしい飛行で、PK達の真上に移動する。

 そして……真っ直ぐに、ライムが投下した《大岩》が降って来た。


「うおぉぉぉ!?」


 大岩は、若干狙いが逸れてチンピラPKのすぐ傍に落ち、ズドォォン!! っと派手な音を響かせる。

 直撃はしなかったけど、あれを無防備なところに受けたらどうなるかは明らかだ。

 それを見たことで、ようやく状況が分かったのか、PK達は揃って青い顔をした。


「今ならまだ許してあげるよ? これに懲りたら、PKから足を洗ったりとかしない?」


 それを見て、私はふふんっと偉そうに鼻を鳴らしながら、そう言ってみる。

 実のところ、フララにライムを掴んで貰った状態で落とすの初めてだから、狙いが逸れたのは偶然なんだけど、せっかくだから脅しに活用してみる。

 そして、私の言葉を聞いたPK2人は揃って顔を見合わせ……


「「だが断る!」」


「あ、やっぱり?」


 2人仲良く却下された。

 まあ、1回返り討ちに遭った程度でPKをやめるなら、最初からPKになったりしないよね。しかも今回の件だけ見ても、かなりギリギリの戦闘だったし。

 そうなると、多分またこの人達、私を狙ってくるよね……はあ、またお兄に相談しようかなぁ……


 思った以上に目論見が上手くいって、なんとか生き延びれそうだと安堵していたために、呑気にそんなことを考えていた私だったけど、すぐに、予想外のことが起きた。


「……えっ?」


 ライムとフララの体に、矢が突き刺さる。

 幸い、死に戻るほどのダメージではなかったみたいだけど、私が投げナイフにやってるのと同じように、状態異常ポーションが合成してあったのか、2体とも睡眠状態に陥り、地面に落ちたまま動かなくなった。


「ライム、フララ!!」


「ヒヒヒッ、真っ先にやられたからって油断したか? お前を最初に狩ったのは誰だったか忘れて貰っちゃ困るねェ」


 気付けばそこには、最初に「一番厄介そう」と思って麻痺させた弓使いのPKが、万全の状態で矢をつがえて私に向け、笑みを浮かべていた。


 けどなんで? ボスとか相手ならともかく、プレイヤー相手でこんなに早く麻痺が解けるなんて。

 それこそ、グリーンスライムみたいに《麻痺耐性》でもない限り、まだ時間に余裕は……って、まさか。


「ヒヒヒ、ようやく気付いたか、僕は《麻痺耐性》スキルを習得してる。レジストするには足りなかったようだが、それでも復帰までの時間は短縮されるのさ! ヒヒヒッ、油断したなぁ!」


「おおコビトぉ! さすがやれば出来る男だぜ! やってる姿が見れないのが偶に傷だけどよ!」


「人にヘイトを押し付けといて、自分は安全なところから一撃必殺! そこに痺れる憧れるぅ!」


「2人ともそれ、僕のこと軽くディスってないスか!?」


 形勢が逆転して余裕が出来たから……ってわけでもなく、元からイマイチ緊張感のないPK達の空気感はこんな時でも健在だった。弓使いの人、私に向けて話す時とそれ以外とでキャラ違い過ぎない?


 そして、私が自分から仕掛けた麻痺状態で這い蹲ってる間に、弓使いの人は仲間に《解痺ポーション》か何かでも使ったのか、全員が戦闘に復帰して、動けない私を取り囲んだ。


「ヒヒヒッ、一応最後に聞いておく。大人しく今持ってる合金を全部差し出せば、見逃してやるぞ?」


 キリキリと音を立ててしなる弓矢の狙いが、倒れた私の頭に向けて固定される。

 ライムもフララも動けず、状態異常の回復にはまだまだ時間がかかる。それは私にしても同じことで、仮に今すぐ状態異常が解けたとして、《鞭》スキルは装備してないし、今のタイミングからじゃ、投げナイフを投げる動作に入るより、このPKが弓を射る方が絶対に早い。

 けど、私の答えは決まってる。


「やーだね。あなた達になんてあーげない!」


 べーっと舌を出して、めいっぱい挑発してやる。

 そもそも、PKによって盗られるアイテムはランダムで、インベントリの枠1つ分ごとにドロップ判定が入る。

 だから、私の手持ちアイテム……石ころやら食材アイテムやら、その他色々この森で採取した様々なアイテムの中から、ライム合金がピンポイントで持って行かれる可能性は物凄く低い。だからこそ、こうして回りくどくも脅迫なんてしてるんだし、絶対思い通りになんてなってやるもんか。

 持ち前の反骨精神でそう言ってやると、弓使いのPKも最初からそう返されるのが分かっていたのか、怒ることもなく、


「じゃあ、死ね」


 そう言って、私に向けて矢が放たれる――


「……えっ?」


 ――その、直前。弓使いの人の首から、真っ赤なダメージエフェクトが噴き出した。


「なっ、コビト!? 一体何が!?」


 驚きと共に、慌てて大剣を構えるリーゼント。

 その傍を、黒い影が横切ったのと同時に、同じように首からダメージエフェクトが迸る。

 そうして、ポリゴン片となって砕け散った2人のPKの後ろに、ちょうど月の光が差した。


 そこに居たのは、1人のプレイヤー。

 黒のローブに身を包んだ姿だけを見れば魔法使いと勘違いしたかもしれないけど、手に持った大きな漆黒の鎌がそれは違うと分かりやすく教えてくれている。

 けど、そんな大きな鎌を持つ手は、武器に比して随分と華奢で小さかった。

 それもそのはず、突然現れたそのプレイヤーは、小さな女の子だった。身長は私より一回り以上低く、攻撃をした拍子に取れたフードの中からは、月の光を受けて輝く白銀の髪が流れ落ちる。

 その姿を見て、最後に残された女PKが、驚愕に目を見開いた。


「あなた、まさか《死神》……!? PKKがどうしてここに!」


 女PKが剣を構えつつ、死神と呼ばれた女の子に問う。

 けれど、女の子からの返答はなく、代わりにただ真っ直ぐに距離を詰め、その大鎌を振るった。


「ぐっ……!」


 女PKが、それを防ごうと剣を構える。

 けれど、その2つの武器が交錯するよりも一瞬早く、女PKの首元に一本のナイフが突き立っていた。


「くっ、ふっ……!?」


 大鎌から片手を離し、一瞬のうちに投擲された投げナイフによる攻撃。

 予想外なダメージで女PKが怯み、そして、ほとんど力が乗っていない状態で剣と接触しかけたその鎌が、眩いライトエフェクトを伴いながら、急激にその勢いを増す。


「《デススライサー》」


 力が緩んだその瞬間、強引に防御ごと打ち破って放たれたアーツが、女PKを切り裂き、そのHPバーを吹き飛ばす。

 その体がポリゴン片となって砕け散り……辺りを、元の静寂が包み込む。


 あまりにも急な展開に、私は全くついて行けずに、その様子をただ呆然と眺めていた。

 そんな私を、その子は真紅の瞳で一瞥すると、すぐに踵を返して森の中へと消えていこうとする。


「ま、待って!!」


 そんな背中に、私は慌てて声をかけた。

 ぴたっと足を止めたその女の子は、「何?」とでも言いたげに私のほうをチラリと見るけど、私自身、特に目的があって話しかけたわけじゃないから、その眼に浮かぶ拒絶の色を見て言葉に詰まった。


「え、えーっと……ありがとう、助けてくれて」


「……別に、あなたを助けるために戦ったわけじゃない。PKは私の獲物、それだけ」


「う、うん、そうだよね」


 とりあえず、状況だけ見れば助けて貰ったのには違いないからお礼を言ってみたけど、予想通りというべきか、冷たくあしらわれた。

 「それ以外に用がないなら私は行く」とばかりに再び踵を返そうとする女の子を、私は慌ててもう一度引き留める。

 えーっと、何か用事用事……あっ、そうだ!


「あ、あのさ、さっき弓使いのPKを倒したなら、そのアイテム、今あなたが持ってるんだよね? その中に、《妖精の祝福》ってアクセサリーなかった?」


 もう取り返すことなんてないと思ってたから忘れかけてたけど、あの弓使いの人にキルされて奪われてたんだから、まだ持ったままだった可能性はある。

 既に売り払った後だったり、装備してたなら無理だろうけど、でも、もしかしたら……


「……あったよ」


「ほんと!?」


 そんな期待半分で聞いてみたら、本当に出てきたと聞いて思わず笑顔が零れる。

 けど、元が誰の物だろうとなんだろうと、PKに奪われればそのアイテムはPKの物だし、それをまたプレイヤーが奪い取ったならそれは奪ったプレイヤーの物だ。だから、返してくれなんてことは言えない。


「その、良かったらそれ、私とトレードしてくれないかな? 私に出せる物なら、モンスター以外ならなんでもあげるから、だからお願い!」


 それでも、出来れば返して貰いたいという想いから、私はトレードを申し込んでみた。

 パンッと手を合わせ、軽く頭を下げながらチラチラと様子を伺うも、特に女の子からの返事はない。

 やっぱりダメだったかなぁ……と諦めかけた時、目の前に突然メッセージウインドウが開いた。


『ユリアからトレード申請が届いています。受諾しますか? Yes/No』


「あ、ありがとう!!」


 送られてきたそれに喜びつつ、トレード画面を開く。

 向こうから乗せられてるアイテムは、言った通りの《妖精の祝福》1つ。後は、私が何をあげるかだけど……


「えっと、ユリアちゃん? は、いくら欲しいとかってある?」


「……じゃあ10万」


 どう考えても適当に考えられた値段に苦笑しつつ、私は取り合えず、助かったお礼も込めて、20万Gといくつかのポーションを入れ、そのままOKボタンをタップする。

 私から返されたトレード欄の確認画面を見て、ユリアちゃんはよく見なければ分からないくらいに少し、目を見開く。

 けど、すぐに元の無表情に戻ると、特にトレードを突っ返したりすることもなく、そのまま受理された。


 トレード成立を受けて、私のインベントリに入ったそれを取り出して確認してみれば、前に見た時と同じ、綺麗な妖精の羽を模ったネックレスが出て来て、ほっと息を吐く。


「それじゃあ」


 それを確認するなり、ユリアちゃんは今度こそ森の中へと姿を消していく。

 その背中に向けて、私は最後にもう一度だけ声をかけた。


「ユリアちゃん、本当にありがと!! またそのうち、改めてお礼するから!!」


 かけた声に、今度は返事はない。そのまま去っていく背中を見て、けれど私は、またユリアちゃんとは会えそうな気がしていた。

PKKって、実際のところMMORPG内での立場はどうなんでしょうね?

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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ、PKをキルしてくれるから、悪とは言えないけど、それを専業にしてると『でも、あいつもキルはしてるんだよな』的な感じになっちゃうけど、今、まさにPKされそうな人を助けるだけなら、正義の味方…
[一言] PKKの立ち位置ねー、PKと同じだよ(今更もう気にしてないかもだけど;  例を挙げるならほら、あれだよ ヤの付く自由職。 一般人的にヤクザと言えば内情とかお構いなしに一区切りしているだろ?…
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