第40話 合成スキルと攻撃手段
ウルに怒られた翌日。結局、お兄に聞いたり色々調べたりして、特に問題無さそうに思えたから、ウルの提案した条件……私が注文した武器防具の代金を引いた上で、ライム合金のレシピを100万Gで売る、より少しまけて、90万Gで売ることになった。
なんでまけたかって言ったら、元々武器の代金を少しまけて貰ってたから、っていうのもあるけど、親切に色々と教えて貰った勉強代っていう面が大きい。
その辺りを説明して、ウルにも納得して貰えたことでようやく商談(?)が纏まった私は、武器が出来るまでに新しい攻撃手段でも見つけられないかと、戦闘方面のことも考えてみることにした。
とは言え、都合良く高火力の攻撃手段が思いつくなら誰も苦労しない。ミニスライムを交えた戦闘なんて、攻略サイトにも載って無ければ知り合いの誰も分からないんだから、これに関しては本当に私自身が試行錯誤して編み出すしかない。
私はテイマーなんだし、それこそ新しいモンスターをテイムして補えば良い気もしないではないけど、私の《調教》スキルはまだ16レベル。次のテイムが可能になるのはまだ先のことだから、その手段は取れない。
となれば、私がやるべきことは、既存の手札の更なる強化だ。
「普通のRPGプレイヤーはそこで、レベリングとかするものだと思うんですけどね~」
「いや、私もレベリングの重要性くらい知ってるよ? ただ、ライムのレベルがどれだけ上がっても、今のままだとあんまり変わらないから……」
ウルの小屋を後にして、ホームであるコスタリカ村に戻ってきた私は、なぜか私の所有してる畑エリアに未だに居座っていたフウちゃんの見てる前で、新しく習得したスキルを試していた。
と言っても何か特別な物じゃなくて、元々取ろうと思ってたのを、少し前倒しで取得した形だ。
「《合成》!」
アイテムを2つ並べてスキルを使い、MPが消費されると、2つのアイテムを消費して新しいアイテムが出来上がる。
名称:麻痺投げナイフ
性能:ATK+10 麻痺属性Lv2
今はライム合金を使ったATK+12の投げナイフと、麻痺Lv3の効果を持った《麻痺ポーション》で作ったけど、ATK補正も麻痺の性能も微妙に下がってるなぁ。
まあ、ポーションと違って投げナイフは、その気になればそのまま持って振り回すこともできるんだし、当然と言えば当然かな。
けど、システム的にポーションよりも投げた時に早く飛んでくし、投げずに状態異常属性持ちのナイフとして使うこともできるんだから、かなり良い武器だと思う。
「この調子で、今ある状態異常の投げナイフも一通り作ろうかな」
「喜々として毒液に漬けたナイフを作る少女の図……うーん、ちょっとアブナイ光景ですね~」
「いや、そこまで大それたことしてないじゃん」
これが、ネスちゃんみたいな衣装で巨大な瓶を使って毒を調合してるとかだと、どこの魔女だって感じだけど、実際にやってるのは両手に1つずつアイテムを持って、それをスキルで1つに合成してるだけだから、そこまで不気味な絵面じゃない。
「いや~……製作過程がそうでも、実際に出来上がった、毒液でテカるナイフを見てにやけてるのは、同じことだと思うんですよ~」
「に、にやけてなんかないし!!」
確かに、目的だった威力のある物でないにしろ、新しい攻撃手段を手に入れてちょっと嬉しかったけども!
「それにしても、《合成》スキル、こんな感じなんですね~、出来上がったナイフに塗られた液体の量に対して、元になったポーションの量が随分多かった気がしますし、ポーションの瓶も消えてますけど、それはどこに行ったんでしょう~?」
「フウちゃん、それは考えたら負けだよ」
いや、本音を言うと私もそれはちょっと思ったけどね? でもゲームでそこは突っ込んだら負けなんだよ、きっと。
「まあ、それもそうですね~。ところで、さっきから先輩のライムちゃんが、そこで何やらぷるぷるしてますよ~?」
「へ?」
フウちゃんに言われて見てみれば、ライムが私の手元をじっと、切なげな目で見つめていた。
この目はうん……ネスちゃんに《ハニーポーション》をあげてる時と同じ、自分の好物が減っていくのを悲しんでる目だ。
「もうライム、そんなに心配そうな顔しなくても、ライムの分のインゴットはちゃんと残しておくから」
そう言って宥めてみるも、ライムは落ち着きなくぷるぷるするばかり。
うーん……まあ、ダメージを与えるのが目的の武器じゃないし、いいかな。
「分かった、それじゃあこの状態異常ナイフは、ライム合金に使ってない、銅で作ったナイフで作るね。それでいい?」
「――!」
ぷるん! と嬉しそうに揺れるライムの体をよしよしと撫でながら、私はまた《携帯炉》を取り出し、純銅のインゴットを作り、そのまま投げナイフにする。ATK+5って寂しい。
そして、同じ要領で今度は《毒ポーション》と合成すると……
名称:毒投げナイフ
性能:ATK+4 毒属性Lv3
「あれ?」
ATK補正が下がるのは予想出来てたことだけど、なぜか《毒ポーション》の毒Lv3の効果がそのまま毒属性Lv3になって現れてる。
《毒ポーション》だからなのかと思って、もう一本ライム合金製のナイフで合成してみたけど、その結果は《麻痺ポーション》と同じく、毒属性Lv2止まりだった。
「うーん、なんでだろう? ATKの値は全然違うけど……素材のせい?」
だとしたら、ライム合金が一番良いってウルは言ってたけど、もしかしたら状態異常ナイフにはこっちの方がいいのかもしれない。
まあ、これもサブ武器の投げナイフだから言えることで、メイン武器ならATKにここまで差があったら銅製なんて選ばないだろうし、だからライム合金のほうが良い金属って言ったのかもしれない。
「さて、投げナイフ作りはこれくらいにして、他に出来ることも試してみようかな」
《合成》スキルは、《調合》スキルと違って、手作業で混ぜたり熱したりじゃなくて、魔法的に2つの物を1つにするから、物理的に混ざりそうにない物を混ぜ合わせることが出来る。
だからこそ、《召喚術師》の職業に就いている人は、その力で《召喚石》にその元になる《核石》アイテムを合成して、性能を高めるんだけど、
「石ころ同士を合成したらどうなるのかな……っと、《合成》!」
今は試す《核石》もなければ《召喚術師》でもないから、似たものでどうなるか試してみようと、取り合えず石ころ同士を合成してみると……
「……石?」
単純にサイズが大きくなって、一抱えほどの石になった。いや、これもう石っていうより岩じゃない?
ていうかそもそも、掌サイズより小さい石ころ2つ合わせて、なんで一抱えの石になるの? 質量増えてるんだけど。これまで調合しても合成しても、質量が減るパターンしかなかったから、これは新しい。
まあ、だからなんだって話だけど。
「ね~、先輩~、検証もいいですけど、ご飯作ってくださいご飯~、私お腹空きました~」
私が投げナイフと関係ないことを始めたのを見て、ひと段落したと思ったのか、フウちゃんが突然そんなことを言い始めた。
全くもう……
「いや、フウちゃん昼前に食べたじゃない。それに、なんでさも当たり前のようにフウちゃんのご飯を私が作る流れに?」
「そりゃあもう、先輩だからですよ~」
「意味分からないから!?」
そうツッコミを入れるも、フウちゃんはどこ吹く風とばかりにはやくはやく~と地面を叩いてアピールし、それに便乗するように、ライムやフララまで私に擦り寄ってきた。
むぐぐ、なんだか納得いかないけど、ご飯はみんなで食べる方が美味しいって言うし、仕方ないか。
全く、うちの子もフウちゃんも、ご飯の話題が出ても微動だにしないそこのムーちゃんを見習って、ご飯の時間まで我慢して欲しいよ全く。
……あ、ダメだ、この子も微妙に鼻息荒くなってる。絶対ご飯欲しがってるよこれ。
「しょうがないなぁ、ちょっと待っててね」
「お~、流石先輩、太っ腹~、見た目はまな板なのに~」
「よし、フウちゃんだけご飯なしね」
「すみません、調子乗りました~、お礼はちゃんと出すのでご飯恵んでください~!」
手を合わせて、けれど必死さはまるで感じられないのんびりとした口調で平謝りをするフウちゃんに、やれやれと肩を竦めつつ。私は《携帯炉》を片付けて、料理の準備に取り掛かった。
ご飯を食べてひと段落した私達は、ひとまずフウちゃんと別れて、《西の森》でレベリングと、ついでに前回リッジ君達と行った時はクエスト優先で放置した、奥のほうにしかない素材の採取をしにやってきた。
手札を増やすのもいいけど、フウちゃんの言う通り、レベルが伴ってなきゃ限界はどうしてもあるしね。
何より、火力が必要な私達にとって、フララの《風属性魔法》はそれを補える可能性が一番高いから、使いまくってスキルレベルを上げないと。
「フララ、《ウインド》!」
「ピィ!」
フララの《風属性魔法》でLv1から使える魔法、《ウインド》。ぶっちゃけて言えばただ風を起こすだけのこの魔法に煽られて、巨大なカブトムシみたいなモンスター、ギガビートルはバランスを崩しひっくり返る。
ギガビートルは起き上がろうともがくけど、カサカサと足が空を切るばっかりで、中々起き上がれる気配はない。うん、何というか、見てて可愛い。起きるの手伝ってあげたい。
けど、今は敵同士。このチャンスを逃さずに、ちゃんと倒さないとね。
「《ストライクウィップ》!!」
鞭が唸り、転がったままのギガビートルを打ち据えてそのHPを削る。
いつもならここで終わりだけど、今回は《鞭》スキルLv15で覚えた新しいアーツを連続して放つ。
「《ダンシングウィップ》!!」
正面でクロスさせるように、右下、左上、右上、左下から順に鞭を叩きつけ、トドメに体を大きく回しながら横薙ぎの一撃を加える五連撃。
元々、虫系のモンスターはHPが少なめなのもあって、ATKが低い私のアーツでも、2つも食らわせればそれで倒すことが出来る。
ただ、それは1対1で戦ってればの話であって、複数体に囲まれれば、私のほうが死角からの攻撃であっさり倒されることになる。
「――!」
「っ、おっと!」
もっとも、それもあくまで1対1ならの話で、私にはライムとフララっていう使役モンスターがいる。
今も、完全に死角から突っ込んできたギガビートルの攻撃を、肩に乗っていたライムがぺちぺちと私のほっぺを叩いて知らせてくれたお陰で、ギリギリのところで回避に成功した。
「そいやっ!」
そしてすぐに、ライムが吐き出した麻痺投げナイフを掴み取り、ギガビートルへと投げつける。
これはライム合金製じゃなくて、純銅製のやつだから、ATK補正が低くて当たってもロクにダメージが通らないけど、少しでも通りさえすれば、その効果は如何なく発揮される。
「ビビッ!?」
浅く甲殻を裂いた投げナイフが突き刺さると同時に、ギガビートルが全身を痙攣させて地面に墜ちる。
純銅製の麻痺投げナイフは、麻痺属性攻撃Lv3。麻痺Lv3とどう違うのか、最初はよくわからなかったけど、どうやらこれは、ポーションと違ってダメージが入らなかったら麻痺の効果も表れないっていう意味みたい。一度、ギガビートルのツノに当たった時は、刃の部分にはちゃんと触れてたのに、全く状態異常にならなかったし。
そういう意味では、投げナイフは当てやすいけど当たり所によって効果が表れるかどうか不確定で、ポーションは当たりさえすれば効果が発揮される代わり、遅くて当てにくいってことなのかも。
リアルだったら、瓶だろうと投げナイフだろうと、投げる速度に大して差はないはずなんだけど……まあ、ゲームだしね、細かいことは気にしたら負けだ。
「よしっ。それじゃあライム、新しい攻撃も試してみようか」
麻痺して動けないギガビートルの上空目掛け、ライムをぽーいっと投げ上げる。
空でくるくると回るライムは、やがてギガビートルの真上に来ると、ポンッと、その体から1つのアイテムを投下する。
それは、さっき石ころ2つを合成して作った石……を、更に2つ合わせて作った《岩》、それをまた2つ合わせてようやく出来る、《大岩》っていう名前の、ただの巨大な岩だ。
ライムの体にはどう考えても物理的に収まり切らないはずのそれが、当たり前のように《収納》スキルの枠1つで入ったのには驚くやら呆れるやらだったけど、ともあれそんな岩が上空から降ってくれば、その重量もあって当然、《投擲》スキルで投げた石ころなんかより、ずっと大きなダメージになるわけで。
ズズーンッ!! と無駄に大きな音を立ててギガビートルの上に落下した大岩は、その1回で砕けて消えたけど、代わりにその下敷きになったギガビートルもまた、一撃でHPを全損させてただのポリゴン片になって霧散した。
「おおっ、すごい威力!」
今の感じからすれば、少なくとも私の鞭スキルのアーツ2発分よりも強力な一撃なわけだし、普通に強い。
問題は、アーツと違ってシステムの補正がない上、狙ってから攻撃までの時間差が大きくて、動いてる相手には当て辛そうってことかな? でも、そこは元々状態異常や拘束系のアーツで動きを止めてから動く私達にはあまり関係ないし、いいかも。
最初にこのアイテムが出来た時は、無駄に手間がかかる割にただ大きいだけの岩をどう使えと? って思ったけど、意外と使えそうで助かった。
「ライム、今のを練習しながら進んでこうか。フララも、風属性魔法を中心に援護して」
「――!」
「ピィ!」
まずは新しいアイテムと攻撃の実験のために、戦闘メインにしていたスキル構成を、《調教》《使役》《採取》《感知》《投擲》の5つにして、改めて採取と育成に力を注ぐ体勢になる。
これなら、投げナイフと索敵で2匹を援護できるし、《調教》スキルで成長補正も入るから、レベリングと採取を並行して出来るはず。
《鞭》スキルが外れるから、拘束系のアーツは使えなくなるけど……そこはまぁ、アイテムでなんとでもなると思うし。
「さて、サクサク行こー!」
拳を振り上げ、おーっと声を上げながら、森の奥へと進んでいく。
《感知》スキルで、あまり数が固まっていないモンスターを中心に狙って倒しながら、《採取》スキルに反応した場所を探り、アイテムを拾い集めていく。
「おっ、これ《HPポーション》の素材になりそう?」
《傷癒茸》っていう名前の、いかにもHP回復と関係ありそうな素材アイテムや、初めて見る食材アイテム。他にも、《ヒカリゴケ》っていう、マナを蓄えて光る性質を持つ不思議な苔(って説明文に書いてあった)やら、他にも色々と、まだ一度も手に入れてないアイテムを入手することが出来た。
レベルの方も、夜になるまでの戦闘で、私自身は19レベルに、フララも7レベルになり、《風属性魔法》が5レベルになったことで新しく《エアショット》っていう攻撃用の魔法も覚えた。
そして、
「おおっ!」
レベルアップのファンファーレと共に――ライムのレベルが、ミニスライムの上限である20レベルに達した。




